幻想神統記ロータジア(江戸時代編)

静風

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元禄編

7.嵐の前の静けさ

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ヘティスと蓮也一行は小田切一雲に真里谷円四郎の所在地を聞いて飛び立った。



ヘティス
「タイムマシンのエネルギーは、帰りの分まで残しておかないとね。一応、太陽光をはじめ色々な発電システムはあるんだけどね」
「あと、この時代の人を驚かしちゃうから、まず海に着陸して、そこからステルス移動させるの」
蓮也
「面倒だな」



そして、ヘティス一行は海岸についた。
すると女性が尻もちをついて倒れており、側に使用人と思える若い女性が困った様子でしゃがんでいた。倒れている女性の年齢は40歳を超えているくらいであろうか。この時代、40歳はやや高齢者とも言える。

ヘティス
「あのー、どうしました?」
使用人の女性
「奥様が転んでしまい、足を痛めてしまいまして」
ヘティス
「あら、大変!」
「ねぇ、ヘパ」
「足を診てあげて」
ヘパイトス@汎用性AI
「了解」

ヘパイトスは様々な機能を搭載した汎用性AIロボットである。

ヘパイトス
「ボディスキャン完了」
「腓骨骨折、確認」
ヘティス
「えーと、腓骨って足の外側の骨ね」
「ねぇ、ヘパ、応急処置できる?」
ヘパイトス
「了解」

ヘパイトスは、背中に背負っているボックスを下ろした。3Dプリンターである。女性の下腿外側部をスキャンし、その形状の金属サポーターを3Dプリンターで作成する。そして、女性の足を包帯で固定した。また、近くにあった流木を削って杖を作った。

使用人の女性
「ありがとうございます!これで何とか帰れます・・・。本当にありがとうございます!」
ヘティス
「足の骨が折れているみたいだから、お医者さんに行ってくださいね」
「それじゃ、私たちは先を急ぎますので、これで」
倒れている女性
「ありがとうございます、何とお礼を申してよいやら・・・」
ヘティス
「あ、タイムマシンをステルスモードにするの忘れてた」
「ねぇ、ヘパ、タイムマシンをステルスモードにして」
ヘパイトス
「了解」

江戸時代には、虚船(うつろふね)伝説というものが存在する。UFOのような乗り物に乗ってやってきて、女性が手に箱を持っている絵が描かれている。その伝説は、こうした未来人の渡来が関係するのかもしれない。

ヘティスたちは海岸から真里谷円四郎の所在地へ行くことにした。

ヘティス
「蓮也、アンタ、髪の毛の色が南蛮人と間違われるから、染めなさいよ~」
蓮也
「面倒だ」
ヘティス
「あ、また面倒だって言った。その口癖、よくないわよ~」
蓮也
「面倒なものは面倒だ」
ヘティス
「じゃあ、またお留守番よ!」
蓮也
「ならば隠遁魔法で隠れておいてやる」
ヘティス
「そんなことできるの?」

隠遁魔法は空間の歪みを利用して光を屈折させ、消えたように見せかける魔法である。

ヘティス
「・・・あ、本当に消えちゃった」
蓮也
「袖の一部だけ見せておいてやる。それならお前たちには俺の位置がわかるはずだ」
ヘティス
「ふむふむ、これなら大丈夫かも」

という具合で、ヘティスたちは街へと入った。

ヘティス
「はぁ~、お腹すいちゃった~。そろそろお昼にしない~?」
モロー
「腹が減っては戦はできぬ、だぜ」



ヘティス
「そうよ、そうよ~」
蓮也
「金はあるのか?」
ヘティス
「ヘパの3Dプリンターの材料ストックに銀が少しあるの。それを江戸の町でお金に替えてきたわ」
「この時代は銀が価値があるみたい」
モロー
「お~、流石ヘティスさん」

ヘティスたちは昼食にすることにした。
店は外で食べる席と中の座敷があり、ヘティスたちは座敷で食べることにした。

ヘティス
「テーブルとか椅子ってないのね。時代劇で見るのとちょっと違うわ」
モロー
「どうやら、ここは殆ど町人が来てるみたいだから、大衆食堂って感じだぜ」
ヘティス
「けど、そこにお侍さんが座っているわ」

侍の一人はしっかりと背筋を正して座っている。もう一人は、壁にもたれかかながら酒を飲んでおり、随分と酔っ払っているようだ。

侍A
「武士ってのなぁ、刀の形がどうこう拘る輩がいるが、そんなこと気にしているくらいなら稽古に励めってんだぁ」
侍B
「先生、それ、さっきもお聴きしましたよ。もうお酒は控えください」
侍A
「うっせぇ!武士道、武士道、蘊蓄垂れる輩が多すぎなんだよぉ!畢竟、武士とは戦いで死の覚悟があるかどうかだけで、それ以上でもそれ以下でもなぁぁぁい!」
侍B
「それもさっきお聴きしましたって・・・、あ~、もう、飲み過ぎです」
侍A
「そんな武士道にしたのも、幕府が儒教だの朱子学だのそんな青白い書生がやるものを混ぜるからだぁ」
侍B
「先生、幕府への批判だけはおやめください。誰が聞いているかわからぬ故・・・」
侍A
「俺が幕府なんか恐れるものかぁ~!100人でも1000人でも相手になってやるぞぉぉぉ!」
「俺には矢も鉄砲もきかねーからなぁ!」
「もし俺が戦国の世に生まれてたら、俺が天下を取っていたぜぇぇぇ!」
侍B
「もう、先生、物騒なことを言わないでください・・・」

町で見かける武士は姿勢を正し、感情を表に出さず、黙々としているのをヘティスは見ていたが、この酔っ払っている侍は、服装が乱れており、髪は伸ばし放題、無精髭が生えている。
このようなタイプの武士もいるのだな、とヘティスは思った。

ヘティス
「蓮也、あのお侍さん、アンタと同じこと言っているよ。1000人相手できるって」
蓮也
「言葉は正確に聞け。俺は一人で1000人撃破できると言ったんだ。その倍の人数でももちろん撃破は可能だ」
ヘティス
「アンタね~、なんでそこでマウント取ろうとするわけ~?てゆーか、負けず嫌いな厄介なタイプでしょ」
蓮也
「俺は事実を述べているだけだ」
ヘティス
「ああ言えば、こう言うで、厄介なタイプよ~、ソレ」
「とりあえず、今は透明人間なんだから、私が食べさせてあげる。透明人間の状態で食べると、箸が空中で動いてみえちゃって怪しいから」
「はい、アーンして」
(あら、案外食べる時は大人しいのね)
(ウフ、こうしていると恋人みたい!)

すると、酔っ払いが話しかけてくる。

侍A
「よぉ、南蛮の人~、アンタ、どっから来たんだぃ?この国はなーんか退屈で窮屈だろぉぉぉ?保守的というかなぁ。戦争もねぇし、もう飲むしかねーんだよなぁ」
蓮也
「・・・ん?」

蓮也の表情が少し変わった。

蓮也
「・・・ロータジアだ」
侍A
「・・・ん?」
「・・・ろーたじあぁぁぁ?」
「どっかで聞いたことあるかぁ・・・?」
「・・・いや、しらねーなぁ」
侍B
「す、すまぬ、南蛮の方。この人は酔っていますので、お許し願いたい」
侍A
「うるせぇ、俺は酔っぱらっちゃいねーよぉ!しらふだ、しぃらぁふぅ!」
ヘティス
(こりゃ、相当、酔っ払っているわね・・・。こんな変なお侍さんもいるんだぁ)
侍B
「先生、席へ戻りますよ。もうすぐ帰る時間ですので」

そう言って、侍Bは侍Aを元の席に戻した。

蓮也
「・・・」
ヘティス
「なんだ、蓮也、あなたの姿、見えてるじゃない?」
蓮也
「いや、そんなはずはない。隠遁魔法はまだ効いているはずだ」
ヘティス
「お酒飲むと意識が変容して見えるようになっちゃうのかなぁ?とりあえず、今のところ問題ないみたいだし、案外、江戸時代の人って大らかなのでいいのかもね」

と、その時。

ガシャン!

外で器が落ちる音がした。
女性店員が料理を溢して、それが客の着物にかかってしまったようだ。

女性店員
「申し訳ございません!」
客A
「おぃ、何てことしてくれるんだぁ?これは俺の一張羅だぞぉ?」
客B
「どう落とし前つけてくれるんだぁ?なぁ、ねぇちゃん」

客は街のゴロツキのようで、酒も入っていた。
すると、先ほどの侍が、そこへふらつきながら寄っていく。

侍A
「おぃ、おめーら、うるせぇんだぁ!」
客A
「なんだとぉ、こらぁ!」

そう叫び合うと両者は表に出て言った。

ヘティス
「わぁ、喧嘩になっちゃった」
「どうみてもあのゴロツキの方が身体がデッカいから強そうね」
「蓮也、助けてあげなさいよ」
蓮也
「面倒だ、酔っ払い同士、やらせておけ」
ヘティス
「アンタ、冷たいわね~」

ゴロツキが侍を殴ろうと腕を振りかぶった。
背後からはもう一人が侍を掴みかかろうとしている。

ヘティス
「あ、あぶない!」

一瞬、何か閃光が走り、音がした。そして、振り向き様にもう一閃。
すると、二人のゴロツキの帯が解けており、二人とも脂汗をかいて、その場にへたり込だ。

ヘティス
「何が起こったの・・・?」
蓮也
「あの侍が抜刀し、相手の正面を斬り、身体をその場で転換させ、もう一回正面斬りをし、刀を鞘に収めた」
モロー
「しかも、それを一拍子でやり、相手の帯のみを狙って切り落としている」
蓮也
「モロー、お前とどっちが速い?」
モロー
「俺の速さとは、また違う質のような気がします・・・」
ヘティス
「そうだ、ねぇ、ヘパ。今の映像をスロー再生して」
ヘパイトス
「了解」

汎用性AIロボット・ヘパイトスの目にはARが内蔵れている。
そのARによって様々な画像や映像が解析できる。

ヘティス
「かなりスロー再生できるはずなのに、それでもなかなか見えないし、とんでもないスピードで動いているわ」

すると、用を足して出てきた付き人と思われる侍が駆け寄って来た。

侍B
「あ~、もう、先生!何やっているですか!」
侍A
「俺は何もやっちゃいねーよ。こいつらが勝手にやってきたんだぁ」
侍B
「わかりましたから、今日はもう帰りましょう」

と言って、侍は急いで金を支払い、帰って行った。

ヘティス
「あの酔っ払いのお侍さんが勝っちゃった」

ヘティスは蓮也に目をやると、表情がいつもよりも険しい。

蓮也
(それにしても、どうなっているのだ、この時代の人間は。先日の一雲という老人と夢幻という侍もそうだが、とんでもない奴がゴロゴロいるのか)
ヘティス
(いつも平然としている蓮也の表情が、何か今日は違うわ・・・。あんな酔っ払いでも相当強いみたいだから、円四郎って人はとんでもなく強いのかな?)

ヘティスは、今から出会う真里谷円四郎という剣士に少し警戒する気持ちが出てきた。

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