幻想神統記ロータジア(江戸時代編)

静風

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元禄編

4.伝説、再び

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その無住心剣術流二代目・小田切一雲の下に『梅花集』を収めに来た法心流・金子夢幻。この法心流も、心法が殆どであり、無住心剣術に近かったのではないかと想像される。
その金子夢幻と蓮也が、今、相対す。
伝説の剣士VS神技の継承者の幕開けである。

夢幻
「伊耶那岐神伝流?初めて聞く流派ですね」
蓮也
「何流であろうと俺は流派に興味はない」
夢幻
「言葉よりも剣で話した方がよさそうですね」
蓮也
「そういうことだ」



ヘティス
「蓮也って誰にでもあんな感じなのよね~。金子さんは紳士的でいい人なのに~。金子さん、よく相手してくれるわよね~」
モロー
「おぃ、ヘティスさん、一体どっちの味方なんだぃ?」
ヘティス
「どっちもファイト~!」
一雲
「ほっほっほ、久しぶりに楽しくなって来たのぅ」

蓮也が腰を低くし、片手剣で中段で構える。
剣を捻って構え、切っ先は相手に向けられている。



夢幻
「片手にて中段にて引き霞の構え?」
(そして介者剣法・・・?)
蓮也
「さあ、お前も構えろ」
夢幻
「構えにも興味なしということですね」
蓮也
「そうだ」
夢幻
「当流も無極無形を旨とします」
「型あって無形の如く」



金子夢幻は両手を眉間まで挙げ、上段に構える。

一雲
(なるほどのぅ、金子さんは、当流の片手剣の構えを両手剣に活かしておるわけじゃ)
(片手であることで自由度が増すが、それを両手剣でも発揮されておる)
(それにしても、両者、何と言う神気じゃ)



蓮也と夢幻が相対すことで、辺り一面に凄まじいオーラが立ち込める。

夢幻
「法心流奥義・位相幻影」

金子夢幻は、上半身と下半身と剣を微細に揺動させ、各部位に位相を作り出す。

蓮也
(なるほど、相手が何重にも見える。これでモローはやられたわけだな)

神速将軍・モローの神速剣が金子夢幻に通じなかった様子の一部始終は、ポコーからライトへと送られたテレパシー通信によって蓮也は知っている。

夢幻
「来ないなら、こちらから行きますよ」
「前後位相幻影剣!」

金子夢幻は胸を軽く含み、剣は前に飛ばすようにして正面打ちをする。
すると、身体は後退しているように見えるため、太刀の距離感が掴めなくなる。
これが前後位相幻影剣である。
の剣が蓮也に迫る。
剣気を感じ、蓮也は辛うじて躱す。

夢幻
「左右位相幻影剣!」

金子夢幻は、今度は身体は左右にずれ合うように微細に揺らす。
すると、太刀が分裂したかのように見える。
そして、その分裂した複数の幻影剣が蓮也に迫る。
これも躱すが、今度は蓮也の衣服に太刀が掠る。

夢幻
「さあ、どうしました?」
蓮也
(どうしたものか、この全ての幻影に打ち込むか・・・?)
(いや、それをやってモローは負けている)
(モローのように閉眼するとしても、閉眼した分、こちらが不利になるだけだ)
(・・・ならば)
夢幻
「何?」

蓮也も微細に動き出し、相手の動きに同期する。
ミラーリングすることで、何重にも分裂している金子夢幻の幻影が消えていく。

夢幻
「なるほど、あなたには小細工は通用しないというわけですね」
「・・・よろしい」
「法心流・無極の構え」

金子夢幻は、剣の柄を握る手と手の間をなくし、足の開きも殆どない、突っ立った様な構えとなる。そして、先ほどまで立ち込めていたオーラが消えた。それは、宇宙の陰陽が分かれる以前の静寂な状態の様であった。

蓮也
(一見すると、弱々しそうな構えだが、確かに寸分の隙もない)
(そして、俺が会ったこれまでの剣士の中で、根本的に強さの質が違う)
(よし、今度は俺から行く!)

蓮也が太刀を正面に放つ。
遅れて金子夢幻の剣が上から降りて来て、蓮也の剣を弾きながら斬り込まれる。
それを察知した蓮也は体を翻す。

夢幻
「なかなかよい勘をされていますね」
(完全に気配を消した無極の構えだが、太刀に触れた時に我が気を一瞬で読むとは)
蓮也
(斬撃と防御が一体となって迫ってくる・・・)
(あれ以上踏み込んでいたらやられていた・・・)
夢幻
「あなたは尋常ではない強さをお持ちだ。これを躱したのはあなたが初めてです。しかし、次は躱せませんよ」
「法心流奥義・幽玄無極の構え」

金子夢幻は身をすらりと立ち上げ、下段に構えた。
立ち姿は柔らかく、そして美しかった。

ヘティス
「金子さん、何か女性のように美しいわね」
一雲
「女性のようにしなやかで柔和、しかし、内には凄まじい神気を秘めておる」
「神気を見せずに、神気を発揮するには、かくあるべきか」
「・・・まさに、秘すれば花じゃ」
夢幻
「無極自性に連立し、我が身正しくあるならば、幽玄美ぞ顕現す」
蓮也
「オーラを内に内包させることで、こちらに手がかりを与えないということか」
「いいだろう、それなら実力を以て、それを引き出してやろう」

蓮也は正面に太刀を放とうとした。しかし、放つことができない。更に、横面、胴などを狙おうとしが、これも打てない。

ヘティス
「蓮也はなぜ動こうとしないの?」
一雲
「動けないのじゃ」
ヘティス
「え・・・なんで?」
一雲
「全て見切られておるのじゃろう」
蓮也
(俺が打とうとすると、それを察知して、オーラを放ってくる。なぜ、俺の動きが全て読まれているのだ)
夢幻
「三界唯心・・・。この世に存在するのはただ、心のみ。その心の本体を鏡とし、あなたを映し出しているのです」
蓮也
(なんだと・・・!)
一雲
(唯識思想では、この世の事象を阿頼耶識縁起に求める。それを相手を映し出す鏡とするとは・・・これは金子殿の勝ちかのぅ)
(おや・・・?)

蓮也
(人間に対して、これを使うとは思わなかったが)
「潜在運動系・・・解放!」
「クンダリニー覚醒」



蓮也は中腰霞の構えから、直立し、剣の構えを解いた。
その瞬間、蓮也の身体から青白く光り輝く螺旋状のエネルギーが解放される。

夢幻
「これは・・・」
蓮也
「お前が無極というなら、こちらは宇宙開闢し更に極点を超えた状態、“超極”とでも言うべきか」
(こちらの動きを読めたとしても、相手を太刀ごと貫けばよい!)
夢幻
「ふむ、私はとんでもない何かを相手してしまったようですね・・・」
「わかりました、次の一撃で私の全てを出し尽くしましょう」
蓮也
「望むところだ」

暗雲が立ち込め、辺りは風が巻き起こり、大地は揺れた。

ヘティス
「地震・・・?」
モロー
「蓮也様は自身の限界を超えるまでのオーラを放っている」
「金子殿はオーラを放っていないが、自身の中では激しく動いている」
「その二つの力が大気を揺るがしている・・・」
一雲
「金子殿が極陰なれば、蓮也殿は極陽じゃのぅ」


両者は同時に動き出す。
蓮也は渾身のオーラを放ち前に進む。
金子夢幻は、神気を秘して、前に進む。

蓮也
(いくら潜在運動系の開放状態でも早く打ち過ぎれば載られ、打たれる。ならば、オーラを放ち、圧力を最大にかけ、引き出したところを打つ)
夢幻
(相手の強い神気に反応すれば打たれる。ならば、本体が動くギリギリまで待つのみ)
蓮也
(圧力を最大にし、相手を引き出してやる・・・!)
「潜在運動系・・・全開放!!」
夢幻
(何という神気・・・何という圧力!)
(まだ我が心の鏡には映らぬか・・・!)

一瞬の時間が、とてつもなく長く感じる時がある。
心理学的にはフローと言うが、時間感覚がなくなる。
蓮也と金子夢幻は、そうした超時空の中で永遠に戦っている感じがした。
そして、永遠という一瞬は流れた。
二人は静かに立ち尽くしている。

ヘティス
「・・・どうなったの?」
モロー
「やったか?」

お互いに太刀は振っておらず、そのまますり抜けた。
先ほどまで揺れていた大地は止まり、風は止んだ。
そして、雲の隙間からは光が差込み、両者を照らした。
それは、天が二人の偉大な剣士を祝福するようであった。

蓮也
「・・・これは一体?」
夢幻
「これが・・・」
「・・・相抜け」

その様子を見た一雲は涙を浮かべていた。

一雲
「聖と聖が相対する時、即ち相抜けとなる」
「ワシが生きているうちに再びこのようなことが見れるとは・・・感無量じゃ」

そう言って一雲は懐から念珠を取り出し、二人を拝した。
一雲は、一つの疑問を抱えていた。
自分と師・針ヶ谷夕雲が相抜けとなった時に、自分は師を尊敬する故に打ち込めなかったのではないか、というものであった。その疑問をこれまで抱えて生きてきたのである。その疑問の原因は、ある事が関係するのであるが・・・。
しかし、疑問は氷解し、一雲の心は晴れやかになった。








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