幻想神統記ロータジア(江戸時代編)

静風

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元禄編

2.幻影vs神速、そして無極へ

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神代の時代から江戸元禄期にタイムスリップしたヘティスと蓮也一行。そこで無住心剣術流・小田切一雲(空鈍)と言う老剣士と出会い、神速将軍モローは、その不思議な妙技に手も足も出ずに敗北する。ちょうど一雲の下へ法心流・金子夢幻が訪れており、今度は金子夢幻と試合をすることとなった。



一雲
「おや・・・?」
ポコー
「ポコ!」
一雲
「ところで、さて、はて?この妖怪はなんじゃ?そろそろわしもボケて来たんかのぅ?」
夢幻
「私もさっきから気になっているのですが、今度は脳病か眼病を患ったかと思いまして・・・」
ポコー
「お、俺は妖怪じゃないぽこ!妖精ぽこぉぉぉぉ!」
一雲
「これはおったまげた。しゃべりおったぞぃ」
ポコー
「・・・俺のことが見えるのかポコ。お前たち、普通の人間じゃないポコよ」



フェアリードラゴンのポコーは普通の人間は見えない。
その様子を見ていたヘティスは、やはりこの二人は只者ではないと思った。

ヘティス
(思い出したわ・・・!小田切一雲に金子夢幻・・・AIアバターを作った時に!)
(確か、前のデータが残っていたはず。あの時は戦闘レーティングじゃなく運動レーティングだったわね)

ヘティスはスマートポシェットからスマートグラスを取り出した。



ヘティス
(小田切一雲と金子夢幻の運動レーティングはどちらも9000ポイント以上・・・普通の人の平均が70前後、プロスポーツ選手が200~300、スーパースタークラスでも1000ポイントをやっと超えるくらいなのにスゴいわ・・・。江戸時代の人って相当なバケモノね・・・。)

夢幻
「おっと、これはすみません。試合でしたね」
モロー
「そうそう、そうこなくっちゃ」

金子夢幻は、建物の中に再び入り、竹刀を手に取って出て来た。
一礼すると、剣をゆっくりと上段に構える。



モロー
(先ほどの老人とは違い、凄まじいオーラだ。やはりコイツも只者ではないぜ)

モローは腕を垂らし、変則的な下段の構えである。



夢幻
「変わった構えですね。何流なのでしょう?」
モロー
「俺に流派などはないぜ」
「俺は俺流さ」
夢幻
「なるほど、我流ということですか」
モロー
「我流を舐めると痛い目みるぜ」

金子夢幻は全身を微細に揺らしている。
その波動が竹刀の切っ先にも伝わり、竹刀も畝ったように見える。

夢幻
「法心流奥義・位相幻影剣・・・※1」

モローは目を疑った。目の前にいる金子夢幻の姿が何重にも見えるのである。

一雲
「ほぉ・・・これは」

何重にも見えるため、目標が定まらず、モローは打ち込むことがなかなかできない。
無住心剣術流は、夜は剣ではなく、組討ちをせよと言う教えがある。恐らく、この流派は何らかの錯覚を使っていたと思われる。一雲と交流のある法心流・金子夢幻も、そうした無住心剣術流の身体技法を採用しているのかもしれない※2。

夢幻
「どうされた?打ち込むことができないでしょう?」
ヘティス
「モローさん、また、どうしちゃったの?」
モロー
「いや、相手が何重にも見えて目標が定まんねーんだ」
ヘティス
「こっちから見ると、ぜんぜんそんなことないのに」
「ねぇ、ヘパ、どうなってるの?」
へパイトス
「画像解析によると、見る角度によって錯覚を起こすような動きをしている可能性があります」
「剣・上半身・下半身、それぞれが位相を作り出しています」
ヘティス
「錯覚・・・そんなことできるのね」
夢幻
「打ちに来ないのであれば、こちらから行きますよ」

金子夢幻の太刀がモローに迫る。

モロー
(今度はあの老人の動きのように遅くなく、普通の速度だ。まずは躱してから、隙を見て攻撃に反転する!)

モローが金子夢幻の太刀を躱そうとした瞬間。

バシ!

モローは躱し切れずに、太刀は肩に軽くヒットした。

モロー
「紙一重で躱したはずだが・・・なぜだ」
(もし、これが実際の剣なら肩にダメージを受けている・・・)
ヘティス
「私には、ほぼ当たってからモローさんは動き出しているように見えたけど・・・」
夢幻
「流石に速いですね。位相幻影剣で捉え切れないとは。正直、驚きました。薄皮一枚触れた瞬間に、そこまで動けるとは・・・」

金子夢幻は身体の上下に位相を作り出し、相手の空間認識を歪める。
胸を含むように使うと、上半身が後退したように見える。そして、下半身と太刀は前進させる。すると、モローが夢幻の太刀を認識した時には、もう殆ど迫って来ているため、ヘティスが言ったように、当たってから動いたように見えるのである。しかし、モローの反射神経は常人を遥かに超えており、皮膚に太刀が当たった瞬間、体性感覚野と運動野が連合したかのように即座に反応し、太刀の触れた刹那に反射運動している。

ヘティス
「モローさん、多分、あの人、身体の各部位を別々に動かして錯覚を作り出していると思うの」
モロー
「錯覚だと・・・?」
「よし、わかった。幻影vs神速、おもしれーじゃねーか。今度は更にブーストしてやるぜ。ようするに、幻影のうちのどれかは実体だから、その全ての幻影を一刀両断すればいいわけだ」

モローの足に神速走行のオーラが発動する。今度はもう一段階上の神速走行の発動である。

モロー
「神速剣・水平斬り!」

目にも留まらぬ神速の入り身でモローは神速剣を水平に繰り出す。

バシっ!

上段から小手が決まり、モローの竹刀は地面に落ちた。

モロー
「なんだと・・・?」
(今度の動きも普通の動きに見える。そして、俺の動きの方が速いはずだ。しかし、なぜ先に相手の太刀がくるのだ・・・?)
夢幻
「これが先の技法です」
モロー
「先の技法だと?」
夢幻
「あなたは私の動きを捉えようとし、無意識に大きく振りかぶってしまう、それをこちらは最初からわかっているので、その空間に先回りしただけです」
ヘティス
「どう、わかる?ヘパ」
ヘパイトス
「人間の目は無意識に対象物を追ってしまいます。そして、残像を見た場合、その全ての像を狙ってしまうことになるので、普段よりも無駄な動きが出てしまいます。そこを利用されている可能性が高い、と分析します」
一雲
「当流に言う、よく当たるものはよく外れ」
「つまり、よく当てようとする者はよく外れる、じゃて」
ヘティス
「当てよう、当てようとするから、動きが大きくなってしまったり、気配が出てしまったりするのね。そうなるとモローさんのスピードがいくら速くっても、勝負は先についてしまっているわけかぁ」
モロー
「なるほど、それだけわかれば十分だ」
「金子殿、もう一本!」
夢幻
「わかりました」

モローは再び変則下段に構える。
しかし、今度は目を閉じている。そして、構えは、先ほどよりもやや小さい。

夢幻
「ほぅ、閉眼」
モロー
「要するに見なければ問題はない。オーラを感じ、大まかな位置方向がわかれば、後は考えずに切り込むだけだ」
一雲
「当流で言う、目に色を視ると雖(いえど)も、盲(めしい)の如く、じゃな」
「しかし、閉眼してしまってはどうじゃろな?」

すると金子夢幻は揺動を止め、静止状態に入る。

モロー
(オーラが消えた・・・)

モローが目を開けると、今度は金子夢幻が奇妙な構えをしている。
通常、両手剣の場合、柄を両手で握るが、その手と手の間隔は空けるのだが、金子夢幻の剣の握り方は、その間隔が全くないのである。両手を合わせた形で剣の柄を握っている。握り方も奇妙で、指はしっかりと握らずに、少し浮いているようだ。
そして、足は通常前後に開くのだが、殆ど、その開きがない。
つまり、身体は突っ立ったようになっており、剣は奇妙に握られている。

夢幻
「法心流奥義・無極の構え」
一雲
「陰陽の分かれる以前、無極無為の状態」
「金子さん、流石ですなぁ」
ヘティス
「なんか子供が突っ立っているみたい。どこがスゴいんだろう?けど、あのおじいちゃんが関心しているから、やっぱスゴいのね」
一雲
「まさに“嬰児、戯れの如し” 」
モロー
「今度は神速走行全開でいくぜ!」

モローの足から凄まじいオーラが立ち昇る。
モローが前進しようとした瞬間である。

ズン!

モローは後方へと吹っ飛んでいた。

モロー
「何をした?今度は見えなかったが、気付いたら太刀先が鳩尾にあってだ・・・」
夢幻
「何もしてはいませんよ、無極無為です」
モロー
「何もしていないとはどういうことだ。そちらは突きを入れ、その突きで吹っ飛んだのではないか?」
夢幻
「私が吹っ飛ばしたのではありせん。あなたが私の太刀に向かって突っ込んで来て、あなたがあなた自身の力で飛んだのです」
モロー
「なんだと・・・?」
夢幻
「我が無極を破ろうとすれば、それは宇宙と対立したこととなり、即ち逆に破れるのです」
モロー
「俺が、俺自身の力で飛んだ、だと・・・」
夢幻
「本来、無極の構えは正眼。私は上段から正眼の構えに戻しただけです」
「病を患ってからは、剣が思うよに振れなくなり、構えのみの工夫になり、その構えも無くして、如何に振らず・構えず、無極無為であるかを考え、ここに至りました」
一雲
「おぉ、先師・針ヶ谷夕雲が、馬で片腕を怪我し、その怪我から無住心剣流を生み出したことを彷彿とさせるわぃ!」

一雲は、師である針ヶ谷夕雲を思い出し、そして金子夢幻の開悟を見て、目に涙を浮かべていた。

夢幻
「老師、あなたにこれをお見せできて今日はよかったです」
モロー
「金子殿、くやしいけど俺の完敗だ」
夢幻
「あなたはお若い。まだ、これから十分修行ができる。気を落とさずに励みなさい」
モロー
「待ってくれ、俺はどうやったら成長できる?教えてくれ」
夢幻
「いや、正直、基本的な身体能力ではあなたの方が数段上です。ただ、今の私があなたに言えるのは一つだけ・・・」

そう言って、夢幻は目を閉じた。

※1:本書のオリジナルの架空の技
※2:金子夢幻が実際に、どのような技を使っていたかは不明。『梅花集』には心法が述べられているので、シンプルな剣術であったと思われる。

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