20 / 38
パドマリアの章
清廉の弓
しおりを挟む 今日は涼香が大輝の部屋で料理を作っている。
「あ、おたまが無い? おたまーおたまーおたまー」
「あー、だめだ。じゃがいもが……」
「ん? 醤油、これ濃口だけか? しまったなー……へへ」
大輝は気になってチラチラと横目で見る。台所に見に行きたいし、手伝いたいがさっき涼香から「もう! 座っててよ、大輝くん立ち入り禁止」と言われてしまった。
「あ、しまった……塩忘れてたな、まぁいいやどうにかなるさ──今入れよ」
その後も涼香と料理の戦いは続いている。一生懸命な背中を見ていて嬉しくなる。
涼香ちゃんは料理に遊ばれてるみたいだな……。
大輝は希のことを思い出していた。希みたいに涼香になって欲しいと思っていない。代わりを求めてもないし、二人を比べてどうこういう気もない。二人は別の人間なのだから……。二人とも大切な人だ。
「出来た!」
どうやら完成らしい。
嬉しそうにテーブルに並べていく涼香を見て大輝の心も温かくなる。
「いただきます」
鳥の唐揚げにイカとじゃがいもの煮物にサラダが並ぶ。涼香の大好物ばかりだ。箸を持ち一口食べる。
おぉ!?
「美味しい……美味しいな、コレ」
大輝は目を見開く。かなり美味い……悪戦苦闘していたのが嘘のようだ。大輝は大きな口でそれらを平らげていく。涼香はその様子を微笑みながら見ていた。
視線に気づき大輝が箸を止める。
「うん、どうした?」
「うん? 希さんは料理が上手だったから作るの緊張したけど、良かったなぁって思って」
大輝は涼香にその話をしていたことを思い出した。
どんな気持ちで料理をしていたんだろう。比べられる、そう思っていたんじゃないか……。
大輝は席を立つと涼香を抱きしめる。
「バカ、比べるわけないだろうが……。希は希だし、涼香ちゃんは涼香ちゃんだろう? どちらが良いとか悪いとか……そんなんじゃない……」
「ありがとう。でも比べられるのがイヤだとかじゃないの。私ね希さんが好きなの……大輝くんが話してくれる希さんが……。だから、心配しないで」
涼香は大輝をさらに強く抱きしめた。
「大輝くん、嘘だと思ってんじゃない? 無理させてるとか……」
涼香が胸の中でクスっと笑った。
「じゃあ、私がこうして抱きしめてもらってる時に武人と比べてるとでも思ってる?」
「え? いや、それは──思ってなかったけど……」
まさかの質問に大輝は焦る。そんな事思ってもみなかった。涼香は大輝の頰に触れる。
「比べようがない、でしょ? 私の気持ち、分かった? 大輝くんは大輝くんだから、私は私……それでいいんだよ」
「涼香ちゃん……」
「希さんの分も私が作って大輝くんを太らせてあげる、ふふふ」
涼香は鳥の唐揚げを箸でつまむと大輝の口の中へと放り込んだ。
「……美味しい?」
「……うん、最高」
大輝は涼香の願い通り白飯もお代わりした。美味しいご飯だった。
「やっぱりイカはじゃがいもと食べるのが合うと思うのよね」
「んー、俺は里芋も捨てがたい……」
「なんですと!?……これは私が全部食べるからね! 里芋派め──」
「いや、待て……里芋はイカの旨味を吸ってなかなかいい味が──」
大輝は慌てて大皿を掴む。二人の食卓は賑やかなものになった。
「あ、おたまが無い? おたまーおたまーおたまー」
「あー、だめだ。じゃがいもが……」
「ん? 醤油、これ濃口だけか? しまったなー……へへ」
大輝は気になってチラチラと横目で見る。台所に見に行きたいし、手伝いたいがさっき涼香から「もう! 座っててよ、大輝くん立ち入り禁止」と言われてしまった。
「あ、しまった……塩忘れてたな、まぁいいやどうにかなるさ──今入れよ」
その後も涼香と料理の戦いは続いている。一生懸命な背中を見ていて嬉しくなる。
涼香ちゃんは料理に遊ばれてるみたいだな……。
大輝は希のことを思い出していた。希みたいに涼香になって欲しいと思っていない。代わりを求めてもないし、二人を比べてどうこういう気もない。二人は別の人間なのだから……。二人とも大切な人だ。
「出来た!」
どうやら完成らしい。
嬉しそうにテーブルに並べていく涼香を見て大輝の心も温かくなる。
「いただきます」
鳥の唐揚げにイカとじゃがいもの煮物にサラダが並ぶ。涼香の大好物ばかりだ。箸を持ち一口食べる。
おぉ!?
「美味しい……美味しいな、コレ」
大輝は目を見開く。かなり美味い……悪戦苦闘していたのが嘘のようだ。大輝は大きな口でそれらを平らげていく。涼香はその様子を微笑みながら見ていた。
視線に気づき大輝が箸を止める。
「うん、どうした?」
「うん? 希さんは料理が上手だったから作るの緊張したけど、良かったなぁって思って」
大輝は涼香にその話をしていたことを思い出した。
どんな気持ちで料理をしていたんだろう。比べられる、そう思っていたんじゃないか……。
大輝は席を立つと涼香を抱きしめる。
「バカ、比べるわけないだろうが……。希は希だし、涼香ちゃんは涼香ちゃんだろう? どちらが良いとか悪いとか……そんなんじゃない……」
「ありがとう。でも比べられるのがイヤだとかじゃないの。私ね希さんが好きなの……大輝くんが話してくれる希さんが……。だから、心配しないで」
涼香は大輝をさらに強く抱きしめた。
「大輝くん、嘘だと思ってんじゃない? 無理させてるとか……」
涼香が胸の中でクスっと笑った。
「じゃあ、私がこうして抱きしめてもらってる時に武人と比べてるとでも思ってる?」
「え? いや、それは──思ってなかったけど……」
まさかの質問に大輝は焦る。そんな事思ってもみなかった。涼香は大輝の頰に触れる。
「比べようがない、でしょ? 私の気持ち、分かった? 大輝くんは大輝くんだから、私は私……それでいいんだよ」
「涼香ちゃん……」
「希さんの分も私が作って大輝くんを太らせてあげる、ふふふ」
涼香は鳥の唐揚げを箸でつまむと大輝の口の中へと放り込んだ。
「……美味しい?」
「……うん、最高」
大輝は涼香の願い通り白飯もお代わりした。美味しいご飯だった。
「やっぱりイカはじゃがいもと食べるのが合うと思うのよね」
「んー、俺は里芋も捨てがたい……」
「なんですと!?……これは私が全部食べるからね! 里芋派め──」
「いや、待て……里芋はイカの旨味を吸ってなかなかいい味が──」
大輝は慌てて大皿を掴む。二人の食卓は賑やかなものになった。
0
お読みいただきありがとうございました。お気に入り登録して応援いただけると嬉しいです☆
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる