幻想神統記ロータジア(パラレルストーリーズ)

静風

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パドマリアの章

王者の風格

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プリンス蓮也はパドマリア征討将軍となり、ロビンを捕らえたが、縄をほどき解放した。
パドマリア地方に入り、蓮也の頭頂部に輝くサハスーラチャクラは、更にその輝きを増していた。



アルベルト
「よいのですか?ロビンを解放してしまって」
蓮也
「ああ、よい」



アルベルト
(しかし、我がプリンスは最近、ますます神々しく輝いておられる。眩しいほどに・・・)
ゼイソン
(若のサハスーラチャクラが強くなっておられる。これは王者としての才がさせているのか、それともこれから統治者になろうとすることがそうさせているのか・・・)

眉間上のアジューなーチャクラや頭頂部のサハスーラチャクラが開くと、人間は覚醒する。その覚醒こそが王者の風格を作る、ということを子供の頃、蓮也は教育係のゼイソンから教わっていた。そのチャクラから発する後光、オーラが王者の風格をつくるのである。人は、武力や経済に屈するのではなく、最終的にその者の徳の光にこうべを垂れるのである。



蓮也は子供の頃に聴いた話なので、殆ど覚えていないかもしれない。しかし、その言葉は潜在意識のどこかにあるのであろう。そして、ロビンに対し自分の器量を見せることが、王者の風格が開花しようとしているのかもしれない。これが王者のプロセスとして無意識に行われているのである。

蓮也は城下町へと入場し、代表者と面会し、市民に安全の確保を約束した。先に入場した軍は略奪や暴行を働くことはなかった。これは蓮也が略奪・暴行は厳罰に処すことを明言しており、それが王族・貴族であっても厳格に行うことを知っていたからである。
そうしたこともあり、市民は蓮也と蓮也軍を徐々に信頼することになる。

その背後には、蓮也の諜報官であるキュリアス・モローのロビー活躍があった。



ロビンの軍に圧勝し、ロビンを捕獲したが、プリンス蓮也は、すぐにロビンとその部下たちを解放した、と言う噂を城下に流したのである。もちろん、これは事実である。そして、そうすることでプリンス蓮也の人気は高まった。

この頃くらいからゼイソンはモローに話しかけるようになっていた。ある時、蓮也から去って行くモローに対し目配せし、その意図に気付いたモローがゼイソンに近寄る。

モロー
「何か?」
ゼイソン
「其方に頼みたいことがあるんじゃ」



このような会話から始まった。
実は、このロビー活動を依頼したのはゼイソンであった。蓮也が現状では考えることができないこと、手が届かないことを、ゼイソンはよく補佐した。そして、ゼイソンの考えをよく理解し、モローは蓮也のために動いた。こうした臣下として補佐したいと思わせる何かも、王者としての才なのかもしれない。

このことにより、市民兵は蓮也軍と戦う意義をなくしたため、ロビン軍は総兵数3000から2000まで減って行った。対する蓮也軍は5000の兵が健在であった。

一方、ロビンは悔しそうにパドマリア城へ帰って行った。



ロビン
「くっそー!あのアルベルトって巨漢、俺の頭をゲンコツで何回も殴りやがって~!ぜってー、ゆるさねーからなぁ!」
スカーレッド
「あのディフェンダー部隊、やたら硬かっなぁ、兄貴~!あんな硬い奴らははじめてだぜ~!」



ロビン
「それと、あの蓮也っていう王子だけど、次は負けねーぜ!あの高飛車な鼻をへし折ってやる!」
スカーレッド
「けど、俺たちを傷つけずに逃してくれたぜ。本当にアイツら悪い奴らなのかなぁ・・・」
ロビン
「大人と王族・貴族ってのは悪い奴に決まっている。ああやって俺たちを油断させ、騙そうとしているんだ」
スカーレッド
「確かに、その可能性は否定できないな」
(けど悪い奴らだって証拠もないんだよな・・・)

パドマリア領主は様々な不正を行ってきたという噂があり、市民から嫌われていた。そうした経緯から彼らは、王族・貴族を信頼していない。しかし、この二人が見た蓮也のオーラは、他の大人と何か違う、と言った印象があった。しかし、その心の奥底で感じた何かを頭で言語化できないでいた。
ちなみに、このスカーレッドと言う赤い衣を纏った長髪の少年であるが、五行英雄の一人「赤き剣士」に憧れている。そのため、その伝承通りの格好をしている。そうした意味では、厳密に全ての王族を嫌っているわけでもないのかもしれない。

パドマリア城に帰還したロビンは兵士の傷の手当をし、城の守備を固めた。

ロビン
「いててて・・・、はやくポーションとヒーリングを頼む!」
ウェンディ
「はいはい、動かないの!今、やってあげるから」

ウェンディ・マリアンはロビンの恋人であり、ヒーラーであり、補佐的な役割をしている。ウェンディはロビンの話を聞きながら、彼のヒーリングを行なっていた。そして、ウェンディたち、城内の者の多くは、城下での蓮也軍の噂を耳にしていた。

ウェンディ
「そりゃ、完全にロビン、アナタの負けよ!相手の王子様は、誰も傷つけずにアナタ達を捉えて、解放までしてくれて。なかなかできることではないわ」
ロビン
「おぃおぃ、ウェンディ、キミはどっちの味方なんだい?」
ウェンディ
「私は正しい方の味方よ!で、これからどうするの?」
ロビン
「とりあえずこの城に立て篭もる。どうせ今にアイツら、街で狼藉を働いてバケの皮が剥がれるぜ。食糧の蓄えはあるから、篭城ならしばらく持つし、負ける気はしねーw」
ウェンディ
「わかったわ!様子を見るってことね。けど、悪い人たちじゃなかったら、またシャーウッドの森に大人しく帰るのよ」
ロビン
「本当にキミはどっちの味方なんだよぉ」
ウェンディ
「何度も言ってるでしょ!私は正しい方の味方なの」

一方、蓮也の方は、軍を休息させた後、パドマリア城を包囲しつつあった。城攻めには二倍の兵力が必要であり、蓮也軍はロビン軍の二倍以上の兵力であったが、力攻めをすることはなかった。そのため、先鋒のアルベルト率いるディフェンダー部隊は、城からの弓矢の射程の外を計算して布陣しつつあった。

先に動いたのはロビン軍であった。完全に布陣・包囲される前に、山岳地帯特有の狭い場所を利用して急襲しようとしたのである。

城から出てきたのはリチャード・デイル率いる騎馬隊であった。このリチャードは、少し変わり者で、馬上で竪琴をかなでながら指揮をしている。その後にロビンの弓隊が援護射撃のために控えている。

リチャード
「我こそはシベリウスナイトのベルーフを有する者なり」
「貴軍は神妙に我が軍の軍門に下れり」

このリチャードと言う吟遊詩人騎士、言っていることはまともではない。倍以上の相手に対して軍門に下れと言う。しかも、交渉するのではなく、急襲しているのである。しかし、非論理的であるところが詩人の詩人たる所以なのかもしれない。竪琴を奏でながら、そうした鼓舞をすることで、兵は非論理的な力を得るのかもしれない。現状、市民が蓮也軍をある程度受け入れたため、ロビン軍は戦う名目がなくなりつつある。こうした場合、このような非論理的な力による鼓舞が必要なのかもしれない。
ロビン軍に非論理的な力が働いたためなのか、その攻撃はやや変則的であったため、アルベルトのディフェンダー部隊は一瞬崩れかかった。そこでアルベルト自身が陣頭指揮を行い、やや力技で立て直す。更にそこへ、ロビンの弓隊の攻撃が入る。この辺りでアルベルト隊のプロテクションが、ヒーラー部隊の後方支援によって完成する。

「パーン!」

何かが弾けた音が山々に響き渡る。
城から魔弾攻撃が行われたのである。
魔弾とは、魔力の込められた弾丸を魔力で弾くというものであり、低レベルの魔法が使える者であるならば使用可能である。魔力を消費するが、弓矢よりも射程が長く、威力も強い。この魔弾隊を率いるのがジョン・ブランドである。

アルベルトとプレアデス重装兵団は、プライドをかけて突き進むため、自分たちでは退くことはない。それを見た蓮也はすぐに魔弾の射程外へと退くように命令した。ロビン軍も無理に追っては来ない。そこへ蓮也が陣頭に立った。

蓮也
「私はロータジアの王子・蓮也だ。この軍を率いる者である。我々は貴殿たちに危害を加えるつもりはない。貴殿たちの大将と正式に交渉がしたい。三日間、待つこととする。尚、城を明け渡すのであれば、貴殿たちの安全は必ず保障する」

二倍以上の兵力を持つ大将が安全を保障すると言っており、実際、城下の安全は確保されている。これを聴いたロビン軍は一瞬戦意が削がれた。
また、陣頭に立つ蓮也の姿は神々しく輝いているように見えた。それを見てすぐに反応したのが変わり者のシベリウスナイト(詩人騎士)のリチャードであった。

リチャード
「おお、あの白銀の騎士の放つ神々しきオーラの美しさはなんたるか。あれこそ王者の気風と言えるものよ」

と感嘆の声を上げた。敵対する敵の大将に見惚れるリチャードという騎士もまた、稀有な存在と言えよう。

敵を押し返したのを満足したのか、一旦ロビンは兵を城内に退いた。

ロビン
「まあ、オイラたちが本気を出せばこんなもんよ!」
ブランド
「上からみてたが、こちらを攻撃する気はなさそうだったが」
ロビン
「守ってばかりだっただろ?俺たちの攻撃が凄すぎたのさ!」
リチャード
「一応、こちらに負傷者はいますが、今のところ死者は出ておりません」
「それにしても、あのロータジアのプリンスの放つオーラは、汚(けが)れなき白蓮の如き美しさであった」
「かの者の言葉に嘘偽りはございません」

変わり者の詩人騎士リチャードも思ったことを言う。

ロビン
「おい、リチャードまで、どっちの味方なんだよぉ!」
ウェンディ
「だからあの人たち、悪い人じゃないって!」
ロビン
「ウェンディ、さっきもそうだけど、キミは俺たちの味方なんだろ?」
ウェンディ
「だから何度も言ってるでしょ?私は正しい者の味方よ!」

日頃からロビンは、思ったことを包み隠さずに言ってくれと仲間に言っていた。そして、皆は思ったことを言う、それを判断材料としてロビンが意思決定していく、という民主的な組織がロビン軍の強みでもあった。そして、自由な発言を許可することがロビンの将としての器でもあった。



【解説】

<チャクラと王者の風格>
頭頂部のチャクラをサハスーラチャクラと言う。古代、「王」と呼ばれる存在は王冠をつけているが、これはサハスーラチャクラを象徴しているのではないかと著者は思う。つまり、古代の王とは、サハスーラチャクラが開き、クンダリニーが覚醒している者が王となるのではないかと思うのである。王冠はその覚醒の証として存在すると考えるのである。
ここでは、蓮也が統治者になっていく過程を描いている。アルベルトやロビンたちに王者の風格を見せていくが、その背後には、そうしたエネルギーレベルの働きがある、という設定とした。
<ロビン軍の年齢>

ロビンやスカーレッドたちは14歳くらいの少年として設定した。ロビンたちは「いい奴、悪い奴」で考えるが、このくらいの年齢は大脳辺縁系が優位なので、そのような思考になりがちである。そうした、やや単純な思考を彼らを通して描いてみた。そして、ここから彼らがどのように成長し、成熟していくのかも、機会があれば今後、書きたいと思う。
ちなみに、人間の脳は個人差もあるが25歳くらいが完成とされる。最終的に前頭前野が発達し、大脳辺縁系に代表される単なる好き嫌いの感情を抑制し、熟考できるようになるのである。
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