幻想神統記ロータジア(パラレルストーリーズ)

静風

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成長の章

ポコーとの出会い

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孤児から王子になった蓮也であったが、王国での生活は少し寂しげなところもあった。最初は、教育係のゼイソンの魔法指導で目を輝かせたが、孤児院時代のように同年代の子供がいなかったからである。その時は、蓮也はまったく同年代の子供と話していないのだが、周囲に全くそうした存在がいないと寂しさをやや感じた。そこには、彼を可愛がってくれた義理の母の死もあった。それと、既にこの時、彼を孤児院から連れてきた義理の祖父・円也王は亡くなっていた。

この寂しさの裏側には、彼の先天的な才能も関係しているかもしれない。誰かが自分を構ってくれるのは、自分に才能があるからであり、もしそれがなければ誰も相手にされないのではないか、とも少し思っていた。そう思うと、彼の心の中に孤児院時代の母的な役割であったセシルの無条件の愛を思い出すのである。ただし、別に独りでもいいではないか、というニヒルな面もあっし、才能を認めてもらえるのはいいのではないか、という合理的な面もあった。彼の寡黙さは、こうした内省的思考を育てたのかもしれない。

蓮也は休憩時間、そうしたことを考えながら、薔薇を見ていた。薔薇園は二つあり、一つは先王円也が作った赤の薔薇園であり、もう一つは義理の母が作ったピンクの薔薇園である。更に奥の人工池には蓮が咲いている。これは初代蓮也王が植えたものとされる。これらの花は魔法・神聖法によって通常の花よりも咲いている時間が長く、季節外でも咲くことがある。

ある日、蓮也は朝稽古を終えるといつもの薔薇園に来ていた。その薔薇を見ていると、育てられている花が、城にいる自分と重なってみてきた。そのため、蓮也は外の世界に出てみたくなった。既に風魔法を身につけた蓮也は高速移動魔法「疾風足(しっぷうそく)」を使って、城外へと出た。

城の近くの鬱蒼とした森の中を歩いてみた。森の中は薄暗く、方向感覚もわからなくなってくる。遠くに光が差し込む場所があったので、そこへいくと、池があり、そこには蓮が咲いていた。この池の蓮は、始祖王蓮也が育てたという言い伝えがあったようだが、それを知る者は少ない。

蓮也が蓮を見ていると、ある蓮が動いたような気がした。その動いた蓮の近くに寄って覗いてみると、変な生き物がいた。

「ポコ!」

あまり感情を表に出さない蓮也であったが、この時は少し驚いた。

蓮也
「動いた!」
変な生き物
「そりゃ動くポコ」
「てか、俺のことが見えるのか?」
蓮也
「見えるよ」

この奇妙な生物はフラワードラゴンという古(いにしえ)の妖精であり、ある一定の条件を満たすと復活し、一定の条件を持つ者が見ることができるとされる。



蓮也
「誰?キミ」
変な生き物
「俺の名はポコーだポコ」
蓮也
「変わった名前だね」
ポコー
「俺たちにとってはふつーポコ」
蓮也
「ボクは蓮也」
ポコー
「ポコ!昔、お前とよく似た名前の奴に会ったことあるポコ。けど、長く寝過ぎていたから忘れたポコよ」
蓮也
「ボクも寝たらすぐに忘れるよ」
ポコー
「ところで蓮也は元気なさそうポコ」
蓮也
「ボクはこれが普通だよ」
ポコー
「じゃ、もっとニッコリとするポコ」
蓮也
「そんなことしても意味ないだろ?」
ポコー
「ブスっとしていると友達に嫌われるポコ」
蓮也
「友達、いないんだ」
ポコー
「ポコ~、それで寂しそうなんだポコよ」
「俺が友達になってやるポコ」
蓮也
「友達とか、よくわかんないからいいや」
ポコー
「じゃ、マブダチになってやるポコ」
蓮也
「それもわかんないからいい」
ポコー
「遠慮するなポコー」
蓮也
「遠慮なんかしてない」

そう言って蓮也は満足したのか、城へと帰ることとした。その後をフワフワと飛んでポコーがついてくる。



蓮也
「ここがボクのウチだよ」
ポコー
「ポコ!でっかい家だポコ!」

蓮也は再び疾風足を使って城内に戻る。

ポコー
「ポコー、ポコー、ポコー、息が切れるポコ」
「蓮也はトンデモない速さポコ」
蓮也
「キミも速いね」
ポコー
「ここにもお花があるポコ」
「たまに遊びに来てやるポコ」
蓮也
「うん」
ポコー
「あと、蓮也の才能を開花させてやるポコ」
「俺を復活させてくれたお礼ポコよ」

と言って、ポコーは蓮也にキラキラと輝く不思議なエネルギーを振りかけた。
このエネルギーによって、何らかの潜在能力が解放される。

ポコー
「キミのハート、少し締め付けられていたから、解放しておいたよ」
蓮也
「ふーん、よくわかんないや」
ポコー
「蓮也のハートはグリーンでとても綺麗だし、真っ赤に燃えてるし、きっといい友達ができるポコ」

と言って、ポコーはフワフワと花の中に消えて行った。
そこへ教育係のゼイソンがやってくる。



ゼイソン
「若、どちらへ行っていたのです?探しましたぞ」
蓮也
「爺、妖精にあったぞ」
ゼイソン
「さぼろうとして嘘をついても、この爺は誤魔化されませぬ」
蓮也
「ホントだってば~」
ゼイソン
「ささ、剣術の稽古の次は、魔法の稽古ですぞ」
蓮也
「わかってるよ~」

と言って、魔法の稽古が今日もはじまる。

ゼイソン
「今日も瞑想からはじめまする」
蓮也
「瞑想はつまらんからもういい」
ゼイソン
「魔力を高め魔法のリリースや威力・距離・範囲を向上させるのに瞑想は重要です」
蓮也
「もう魔法は使える」

と言って、蓮也は風魔法・疾風波で近くの木の枝を切り、火魔法・火炎波で切った枝を燃やした。それを見たゼイソンは目を丸くして驚く。

ゼイソン
「あれま」
(大人でもメイン・サブの魔法のリリースは困難だというのに、威力はまだ弱いが習得しておる・・・)

ゼイソンが蓮也のチャクラを霊視すると、閉じていた胸のチャクラが開きつつあるのが確認できた。
最近、蓮也は変わった行動を取っていたのをゼイソンが気付く。休憩の時に薔薇園に行って何やら独り言を言っている。ゼイソンが霊視すると、妖精と会話していることが判明した。

蓮也
「爺がさー、大人になったらとか、大人、大人って言うんだけどさ、子供と大人の違いってなんだよ」
ポコー
「俺は知ってるポコ」
蓮也
「教えてよ」
ポコー
「アソコに毛が生えているか生えてないかの違いポコ」
蓮也
「大人ってのはアソコに毛が生えるのか!」
ポコー
「俺は人間の大人と子供を何人も見てきたから間違いないポコ」

人間の無意識の中に、能力への切望と寂しさからの脱却がある場合、妖精という存在に出会うのかもしれない。
ポコーという妖精は蓮也にとって最初の友人であった。



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