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パドマリアの章
義賊ロビン
しおりを挟むロータジアの北部、パドマリアの地で反乱が起こった。その征討将軍として蓮也は任命され、反乱の鎮圧に向かうのであった。
蓮也は親衛隊を自身の周囲に置かない。それは、何かあっても自分で対応する自信があるのと、蓮也直属の諜報官、キュリアス・モローの報告をスムーズに行うためでもある。そのモローがパドマリアの情報を伝えにやってきた。
蓮也
「モローよ、俺が領主になったら、お前を正式にパドマリア領の将軍として取り立てることも可能だ」
モロー
「それはありがたいのですが、その前に・・・」
「パドマリアで反乱を起こした者の正体がわかりました」
蓮也
「誰だ?」
モロー
「ピーター・ロビンソン、通称“ロビン”という義賊です」
蓮也
「義賊というからには、単なる山賊とは違い、何か彼らなりの言い分はあるのだろな。でないと義賊とは名ばかりであろう」
モロー
「はい、民衆に支持されいるというところが厄介なところで。民衆もどちらかというと、ロビン側についているのです」
蓮也
「なんだと?」
「ならば、やはり何か反乱を起こすような理由があるのだな」
モロー
「はい、これは噂なのですが」
「あるファンドが株式投資で娯楽株を釣り上げ、民衆がその株を買い始めたら、今度は一気にファンドが売り始めたものですから民衆も売り始め、更にファンドはそこへ空売りをしかけたのです」
蓮也
「つまり、そのファンド・機関投資家はぼろ儲けし、民衆・個人投資家は大損をしたわけだな」
モロー
「はい」
「そこで民衆が怒ってロビンに訴えたところ、ロビンは義賊の先祖から受け継いで来た私財の殆どをはたいて、その娯楽株を買い上げ、民衆も、その心意気に押され、それに乗っかったのです。すると、株価は踏みあがり、ファンドは買い戻しをしなければいけなくなり大損をしてしまったのです」
蓮也
「ふむ、なるほど。何も問題ないと思うが」
モロー
「ここからが問題です。そのロビンと民衆が連動した一斉買い上げを不正であると、パドマリア領主に訴えたのです」
蓮也
「不正ではないだろう。それはルール通りにやっているため、ファンドの自業自得ということだ」
モロー
「はい、そうなのですが、ここで領主はファンドの味方をし警告したのですが、ロビンと民衆がその後も一斉買い上げをやめなかったものですから、株価が踏み上がってしまい、祭り状態となり・・・。領主は強制的に止めさせるため、ロビンの住む森の領地に兵を向けたのですが、逆にロビンと民衆の連合軍が勝ってしまい、領主は逃げ出してしまったのです」
蓮也
「なんだと?それでは、我々は不正を働いていない無実の罪の者たちに対して兵を向けていることになるではないか?」
モロー
「そのような解釈になるやもしれませぬ」
蓮也
(しかし、領主どもも情けない。そのような烏合の集に負けるようでは、どっちにしろあの地は維持できまい)
「おい、爺。今のを聞いたか?」
と、蓮也は軍師のゼイソンに意見を求める。
ゼイソン
「はい、これはまともに戦ってはいけませぬ。相手を武力で屈服させるのは下策であり、心を攻めるのが上策と言えましょう。まず、民衆には傷付けないことを宣言し、そのロビンという義賊とも、できれば話し合いで解決できればと」
蓮也
「そうだな、どうやって、その話し合いにまで持ち込むかだ」
ゼイソン
「まず使者を出し、話し合いの提案を形だけでもよいので、することです。もし、武力を用いるにしても、牽制や捕らえるのみとし、殺してはなりませぬ。そうすることで、こちらの威光をまず見せるのです」
蓮也
「そうだな、基本的にはその方向でいく。しかし、相手が問答無用でかかってくるようなら、こちらも相応の形をとらねばなるまい」
数日の行軍でようやくパドマリア城が遠くに見えだした。山々に囲まれ、道は城下に続いている。反乱が起きたとは思えないような穏やかで美しい山々の景色が広がっていた。
しかし、何となく蓮也は気を引き締めなくては、と思った。武人の勘というものであろう。
すると、ゼイソンが蓮也に声をかける。
蓮也
「どうした、爺」
ゼイソン
「若、鳥の動きが」
蓮也
「伏兵か」
空を飛ぶ鳥の隊列の乱れを見て、蓮也とゼイソンは両サイドの森に伏兵がいることを見抜いた。
ディフェンダーを先頭に立たせ自らも囮りとし、ヒーラーはディフェンダーにプロテクションの準備をし、アタッカー・アーチャー・メイジ部隊を二隊に分け、両サイドの伏兵の背後を狙うように指示した。
しばらく進むと、予想通り伏兵が襲いかかってくるが、既に蓮也軍のアタッカーも背後を突き、相手の一部は混乱している。
敵の奇襲はまず大量の矢が雨霰のように降ってきた。これをヒーラーでプロテクションされたプレアデス重装兵団とアルベルトが蓮也を囲うように守る。そして、相手は剣などの武器で襲いかかってくるが、これもアルベルト隊が防ぐ。
蓮也
「ぬぅ・・・木の上からか!」
プロテクションの薄いところを上方から狙われ、精度の高い連続射撃が蓮也を襲う。これを蓮也はかろうじて剣で受ける。
「もらったぁぁぁ!!」
蓮也の背後から、人並外れたスピードと跳躍力でブレードを両手で持った赤いいでたちのアタッカーが切り込んでくる。蓮也は正面上方の攻撃を受けたため対応が遅れる。
蓮也
(・・・しまった!)
そこをゼイソンが即座に割って入り、敵のアタッカーと剣で切り結ぶ。
「ちっ、しくじったか・・・」
アタッカーは攻撃の失敗を悟ると、すぐに逃げる。
ゼイソン
「氷結波!」
ゼイソンが冷属性魔法を放つと、アタッカーの足が凍結し、つまずく。
ゼイソン
「重力波!」
今度は地属性魔法で相手に何十倍もの重力をかける。
「くっそー!魔法とは卑怯だぞ!」
地面に突っ伏したアタッカーは叫んだ。そこをアルベルトが押さえ込む。
アルベルト
「おや、まだガキではないか」
アタッカー
「うるせー!はなしやがれー!」
蓮也
「アルベルト、殺すなよ」
アルベルト
「ははっ!」
しばらくして敵の攻撃が限界点に達すると、敵は蓮也軍のディフェンダーとアタッカーに挟み撃ちされた形となるため、劣勢となった。本来ならすぐに蓮也軍なら撃破できるはずであるが、相手を傷付けずに捕獲することを指示していたため、それなりの時間を必要とした。ほぼ、制圧できると判断すると、蓮也は一部の部隊を城下に入れることを決めた。モローの報告によると、町はほぼガラ空きで、敵の全軍が出撃しているようであった。
数時間後には敵の半数ほどを捕獲し、その半数は城へと逃げていった。
蓮也は楽に制圧できるかと思っていたが、数回程、矢に当たりそうになり、蓮也自身もヒヤリとする場面もあった。というのは、通常の場合、矢を躱すことは蓮也にとって容易なことであったが、連続で蓮也自身を狙い、しかもかなりの精度と威力を以って行われていたからである。
一度、蓮也は部隊を収集した。そして、城下に入り、民衆には危害を加えないことを代表者に告げた。民衆側もそれを聞き安堵した。
その後、意外な報告が来る。敵の大将であるピーター・ロビンソンを捕らえたというのである。その顔を見ると、まだあどけなく、子供のようであった。緑の軽装に緑の帽子、手にはボーガンを持ち、肩には矢を背負っている。この時のロビンの年齢は14歳であった。
蓮也
(大将と言ってもまだ子供ではないか)
「私がこの軍の総大将である蓮也だ」
「ロビンよ、なぜ反乱を起こした」
ロビン
「・・・大人が株価を釣り上げて、そこから株価を落として空売りしたりして、きたねえことするからだい!」
蓮也
「だから、その空売りの時に、お前も民衆を煽って操作したのか」
ロビン
「機関が釣り上げたらオーケーで、オイラたちがやったら操作しているって言い方はおかしいだろ!」
蓮也は少し考えた。言葉を選んでいるようである。
蓮也
「お前が言うことは筋が通っていてもっともだ」
ロビン
「・・・話が少しはわかるじゃねーか」
蓮也の意外な反応にロビンは少し驚いた。
蓮也
「だからと言って領主を追い出し城を奪うのでは、それは民主的と言えず盗人同然であろう」
ロビン
「だって、あっちから先に暴力を使ってきたんだぜ?やり返して何が悪い」
蓮也
「確かにそうだ、お前は自衛のために戦った。しかし、自衛の範囲を超えていると言っているのだ」
ロビン
「・・・」
蓮也
「お前は領主を懲らしめたいのか?それとも城や町を占拠したいのか?」
ロビン
「そりゃ、悪い領主をこらしめるためにやってるに決まってるだろ!」
蓮也
「ならば十分懲らしめただろう。すぐに城を明け渡し兵を退け」
ロビン
「・・・」
蓮也の言葉に反論できなくなるとロビンは黙り出し、話題を変える。
ロビン
「それにしても、お前、なかなかやるなぁ。俺の連続射撃をかわすとはな。あと、スカーレッドの攻撃をかわした爺さんもなかなかやるぜ!俺たちの連携攻撃をかわしたのはお前たちが始めてだ。褒めてやるぜ!」
蓮也
(あの精密な連続射撃はこのロビンがやったのか。そして、あの赤いアタッカーとの連動・・・)
アルベルト
「おぃ、ガキ!口の利き方と立場をわきまえろ!」
「こちらのお方はロータジア国王子の蓮也様だ!そして軍師のゼイソン様だ!」
と言ってアルベルトがロビンの頭を小突く。
ロビン
「いっていーな、でっけーおっさん!」
アルベルト
「なんだとー!このチビガキがぁ!」
更にアルベルトが小突く。
蓮也
「アルベルト、その辺にしておけ」
アルベルト
「ははっ!」
ロビンの後方では不貞腐れた赤い衣を纏ったアタッカーが座っている。この男がスカーレッドである。
蓮也
「私がこの土地を統治した暁には、機関の空売りを禁止させる。だからお前たちは兵を退け」
ロビン
「そう言っておきながら大人はいつも嘘をつく。信じられるかよ!」
蓮也
「嘘ではない、約束しよう」
そう言うと、蓮也の頭頂部のチャクラ、サハスーラチャクラが輝きだす。それは王冠のような形であり、そこから後光がさしていた。そのオーラにロビンは呆気に取られ、背後で側耳を立てて聴いていたスカーレッドも目を疑った。
ゼイソン
(若のサハスーラチャクラが輝きを放っている・・・。これが王者の兆し・・・)
蓮也は剣でロビンを一閃する。すると縄が一瞬で解ける。
蓮也
「どこへでも好きな所へいけ」
ロビン
「な、なんだ・・・!?」
蓮也はロビンたちの縄を全員解いた。
ロビン
「礼は言わねーからな!」
「それと、俺たちを解放したことを後で後悔させてやるぜ!」
と言うと、再びアルベルトに小突かれてロビンたちはパドマリア城の方へと帰って行った。
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