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パドマリアの章
パドマリア征討将軍
しおりを挟むロータジア北部の山岳地帯にパドマリアという地があり、東西南北を繋ぐ交通の要所がある。特に商業国家ヴィナーヤカとロータジアを結ぶ陸路はロータジアにとって重要である。また、北部からの遊牧民の侵攻を防ぐのにも重要な拠点である。
このバドマリアの山の頂上にはパドマリア城があり、その麓には町があり、町の周りは壁が覆っている。パドマリアは生産力はないが、交通の要所であることから、それなりに栄えていた。ここは代々、此花家の血縁の者が統治していたが、ある時、何者かに城が乗っ取られてしまった。それを知ったロータジア王泰斗は狼狽し、第一王子で元帥である舞也に奪還作戦を命じていた。
しかし、この頃、宰相タリオンが王へ進言することが多かった。通常、こうした戦略に関しては軍師が進言するのであるが、王の信任が厚くなると、宰相タリオンが口を出すようになってきた※。
泰斗王
「なんだと、蓮也を征討将軍にせよと言うのか」
タリオン
「はい、左様でございます」
泰斗王
「しかし、まだ蓮也は若いし、他の将の方が戦争経験は豊富であろう」
タリオン
「今回の戦いは一族の領地が奪取されました。ですから王族による威信を示すべきです」
泰斗王
「それなら舞也でよいのではないか?」
タリオン
「今回の反乱は一族の威信が落ちているからです。ですから、そこを統治する者は、威信を示す征東将軍でなければなりませぬ。舞也様は本国に必要なお方なので、この場合、蓮也様の方が適任かと。もしご心配ならば、軍師にゼイソン殿をつければ問題ないと思われます」
泰斗王
「そうじゃのう・・・」
泰斗王は蓮也と血縁関係にないため、心のどこかでは疑いがあった。それを見抜いてか、タリオンは発言する。
タリオン
「万が一ですが、身内と言っても領地やそこの兵権を持てば裏切ることもあります。ですから、監視役として譜代の将軍をつければよいでしょう」
泰斗王
「なるほど、で、誰が適任か」
タリオン
「アルベルト将軍がよろしいかと。バラン家は代々、ロータジアに仕えてきた名門です」
泰斗王
「わかった、そうしよう」
この泰斗王はこのタリオンの人選で編成するように元帥舞也に命じた。
この時、舞也は、父が蓮也を征討将軍に任じることに違和感を覚えた。そして、蓮也に統治させるのも意外であった。
舞也の予想としては、元帥である舞也本人か、もしくはデネブ将軍かアルタイル将軍だと思ったからである。しかし、ゼイソンやアルベルトが補佐をするということで、この案で編成することを舞也は決めた。
軍の編成が告げられると征討将軍となった蓮也はすぐにアルベルトに簡単な軍事演習を命じた。
アルベルトのディフェンダー部隊であるプレアデス重装兵団と蓮也の蓮薔薇騎士団との連動をみるためである。というのは表向きであり、アルベルトへの蓮也流の挨拶が目的であった。
アルベルトのバラン家は名門貴族の出であり、孤児院上がりの蓮也を低くみていた。蓮也も何となくそれを感じ取っていたのかもしれない。
アルベルトもアルタイルのように無骨な漢であったが、アルタイルは舞踏会に一応は臣下の礼儀として出席していたが、アルベルトは出席すらしないという、ややアウトローなところもあった。そこは父のアインも手を焼いていたようである。だからこれまで蓮也と対面する機会は殆どなかった。
しかし、いざ近くで対面すると、アルベルトは蓮也のオーラの輝きに圧倒された。
アルベルト
(私は血統こそが全てだと思っていたが、この方から溢れ出るオーラの雄大さは何たるか・・・)
蓮也
「アルベルト将軍、この度はパドマリア地方制圧に貴殿の力が必要である。貴殿の力を私に貸せ」
アルベルト
「ははっ!」
アルベルトは自然と蓮也に服していた。偉大なるオーラの持ち主に出会うと、人間はかくもこうべを垂れ平伏するものかとも思った。
軍事演習は、ディフェンダーのディフェンスから攻撃のタイミングの確認であった。
蓮也がアタッカー部隊を密集隊形から突撃させる。この時、ディフェンダーが散開し、敵を包囲殲滅するというものであった。
アルベルトは蓮也の指揮を見て感服したが、色白で中性的な蓮也に対して、剣の実力はどうだろうかと疑問を持った。それを感じ取ったかのように、蓮也はアルベルトに声をかけた。
蓮也
「貴殿と一騎討ちがしたい。もちろん練習だ。ただし、手加減は無用」
アルベルト
「・・・そればかりはご勘弁を」
アルベルトは腕には自信があり、打ち負かしてしまってはいかけないと思ったが、かと言って手加減してわざと負けるのも自分のプライドが許さない。そのため、蓮也の申し出を遠慮したのである。
しかし、次の蓮也の言葉でアルベルトのプライドに火がついた。
蓮也
「遠慮することはない。それとも貴殿は腰抜けか?」
アルベルト
「・・・わかりました、お受けいたしましょう」
部下の前でここまで言われたらアルベルトも引くに引けない。
二人は演習用のバンブーソードを手に取った。これなら思い切り打ち込んでも怪我はしない。アルベルトはその太刀を両手で握り、上段に構える。2メートルを超える巨体が蓮也を覆い尽くす。蓮也は太刀を片手でとり、霞の変形で構える。
アルベルト
(片手剣・・・そして、何という構えだ)
蓮也
「さあ、遠慮するな。どこからでもかかってこい」
アルベルト
「ならばいきますぞ!」
アルベルトの強烈な正面斬りが繰り出される。蓮也はそれを横に躱す。爆音と凄まじい剣の風圧を感じる。
蓮也
(本職はディフェンダーだがアタッカーレベルのパワーだな。バンブーソードでも当たるとまずいな)
その後もアルベルトは袈裟、逆袈裟と連続で切ったが、それも蓮也は躱す。その様子を兵士たちも食い入るように見る。
アルベルト
「逃げてばかりでは何もできませぬぞ」
蓮也
「よかろう、次で決めてやる」
そう言うとアルベルトの正面斬りに対して、蓮也は側面に躱し強烈な小手を打ち込む。その威力は凄まじく、アルベルトは思わず太刀を手から落とした。
アルベルト
(あの身体からなぜあのような重い打ち込みができるのだ・・・)
すると蓮也も太刀を捨てた。
蓮也
「さあ、かかってくるがよい」
これにはアルベルトも頭に来て、掴みかかった。蓮也はそれを片手で弾く。アルベルトは、その蓮也の手を掴んだ。すると、不思議なことに地面に、地面が一回転し、気づいたら地面に倒れていた。
アルベルトは何をされたか、全くわからなかった。恐らく手首を返されたのだが、力が全く感じられなかった。
蓮也
「これが伊耶那岐流合気の術だ」
アルベルトは、力で来るなら負ける気はしないが、そうではない力でやられたので対抗する気が起こらなかった。むしろ、投げられ、心地よさすら感じるのであった。
蓮也
「さあ、立つがよい」
蓮也が手を差し伸べる姿は、後光が刺すかの如く眩しく見えた。アルベルトは、この方こそ、我が命を捧げるべき人だと思い、その威光にただ涙するのであった。それをみた全兵士は、その場にひれ伏した。
こうして蓮也は征討将軍としてパドマリアへと進軍を開始するのであった。
【解説】
※泰斗王が宰相タリオンを強く用いた理由は、自らの劣等コンプレックス・優越コンプレックスやエディプスコンプレックスにある。先王である父・円也は武勇が優れていたが、泰斗王はそうではなかった。その代わり、自分は経済・政略面で偉大な先王を超えようと思った。実際、その政策で国政は潤い、そこで登場したのがダニング・タリオンであった。つまり、宰相タリオンは、泰斗王の最高傑作であるのだ。
それに対し、先王が用いて来てたゼイソン、ナディ、アイン、マルマと言った宿将が活躍するのは、先王円也の亡霊をみるかのようであったため、彼らを疎んじた。こうした辺りから、宰相・軍師・元帥の三権システムは機能しなくなっていき、将来、深刻な問題を引き起こすのであった。
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