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列伝
ナディ伝『実直な航海元帥』
しおりを挟む神代と言われた太古にロータジアと言う国があった。この物語の主人公は此花蓮也と言う亡国の王子なのだが、今回は彼の活躍する以前のお話である。
蓮也は5歳の頃、円也王のはからいで孤児院から王国に入ったのだが、すぐに円也王は亡くなってしまう。この円也王は大変偉大な王だったので、肖像画や像が建てられた。そこでいつも泣いている老将がいた。
「ああ・・・大王様、なぜ私を置いて逝ってしまわれたのでしょうか・・・。大王様のいない世の中で私はもう生きる気力がございません・・・。しかし、あなたは私に殉死の禁止を命ぜられた。私はどう生きていけばよいのでしょうか・・・、うっうっうっ・・・」
それを見た蓮也は教育係のゼイソンに尋ねる。
蓮也
「爺、叔父上の肖像画の前でいつも泣いているあの老人は誰だ?」
ゼイソン
「あのお方はこの王国の功臣でナディ殿です。現在、元帥職についておられる方です」
蓮也
「元帥ってのは偉いのか?」
ゼイソン
「はい、軍事では最高職でございます」
蓮也
「いつも泣いてて、毎日同じことを言ってるから、強そうに見えないし、ぼけてるんじゃないのか?」
ゼイソン
「コレコレ、若。口が過ぎますぞ。彼がいないければ軍事面でも経済面でもこの国は発展しなかったのです」
このいつも円也王の肖像画で泣いている老将が、今回のお話の中心人物であるフローレンス・ナディである。
ロータジア南部は海に面しており、港がいくつかあった。その一つを統治していたのがナディ家である。ナディ家は代々、航海術に長けており、フローレンス・ナディも幼少時から、その技術を受け継いでいた。
ナディは剣聖王円也の時代、王の親衛隊として自ら志願し、王もそれを認めたが、やがて王は彼の航海術の才能を見い出し、海軍大将に任命した。これは昇進なのであるが、このナディという男は少し変わり者で、常に王の親衛隊でありたいと思い、涙ながらに再志願したが、却下された。どうも、このナディと言う男は剣聖王円也に相当惚れ込んでいたらしい。円也王自身も、男が惚れるようなカリスマを持っていたが、それを考えてもナディの円也王愛は忠誠という言葉を超えるほどの異常さであった。臣下と君主の恋愛のような感じであるが、この場合、臣下の一方的な片思いのようにも見える。
円也王は自由奔放な性格であったが、ナディはそれとは正反対で、質実剛健・清廉潔白で実直な男であった。円也王はたまに無茶な命令もしたが、実直なナディはそれを真面目に受け入れることが多々あった。
ある時、不老長寿の霊酒があるという噂が国内に広がった。誰かが酒株を釣り上げるために流したデマらしい。ほとんどの家臣は、多忙故、王の霊酒調査を保留のままにしたが、ナディは自分の業務が終わった後で、夜に調査をするという真面目ぶりであった。当然、そのような霊酒は見つからなかった。数週間経つと、霊酒への興味を王はなくしているか覚えていないかという気紛れである。
ナディ
「あの、円也王様・・・」
円也王
「ナディ、どうした?」
ナディ
「まだ霊酒が見つかっておらぬのですが、いかが致しましょうか・・・」
円也王
「あ、そうか。それはもういのだ。それよりも魔法航海術の完成を急げ」
ナディ
「・・・はは!」
このような具合である。
これには後日談があり、このナディの調査によって偽の噂を流した者が見つかり、法で厳しく裁かれたため、これ以降、嘘の噂は殆どなくなった。そうした意味で、このナディの行動は無駄ではなかった。
円也王は大変に酒好きであり、毎日、大酒を飲んでいた。それを心配したナディは、涙ながらに酒を減らすように進言したが、それは国政のためというのもあったのであろうが、王個人が健康を害すからだと言う。それでも円也王の酒の量は減らなかったものであるから、王の前で本気で首を切って死のうとし、剣を首に当てた瞬間、流石の円也王も血相を変えて、その場で瞬時にナディの手を抑え、間一髪で大事を免れた。それからというもの、王の酒の量は程々になったと言う。それでも、円也王が心臓の病で亡くなった時の医師の見立ては、肝が虚しており、それが心に及んでいるため、酒が命を縮めたのかもしれない、と言った。それを聞いたナディは、なぜ王の酒をやめさせることができなかったのかを悔いた。王は既に何年か前にナディに殉死を禁止すると命令を出していたため、実直なナディはそれを守った。しかし、円也王が死んだあたりから普段、全く飲まなかった酒を飲みだし、それが原因であろうか、その辺りから徐々に病に伏すようになったのである。ちなみに、この時にナディは元帥職についていが、病のため、元帥は第一王子の舞也(蓮也の兄)が引き継ぐこととなった。
ナディの最も大きな功績は、魔法船団を形成したことにある。風魔法によって、大気中の風をコントロールし、その風の動力を100%使用しすることを可能にしたのである。つまり、航海術と魔法の統合であり、魔法航海術の基礎を彼が作った。そのため、彼を「航海将軍」「航海元帥」と言うものもいた。
しかし、ナディには魔法の知識がなかったものであるから、これをゼイソンに相談したらしい。風魔法の強さや角度、魔法航海士の人数、魔力消費量のマネジメント(交代・休憩などのタイムライン)などである。二人は同年代であり、地位的にも同じくらいであったため、通常なら出世争いをすることもあるかもしれないが、ゼイソンはナディに惜しみなく助言した。その助言と、自らの航海術とを統合し、改良を重ね、魔法航海術が完成した。
この魔法航海術は、まず海運貿易に使用された。航海が天候に影響されにくく、安全性も増したため、ロータジアの貿易は盛んになり、経済が潤った。そして、次に軍事への応用である。常に風上に立って戦え、こちらの遠距離攻撃は届き、相手の遠距離攻撃は届かない状態を作り出したり、方向転換による側面攻撃もかなりの精度で成功した。
ナディ軍は水中でも強かった。ナディ流泳法をナディが編み出し、それによってナディ軍全体で訓練されていた。基本的に軽歩兵を率いていたが、アルトドール帝国との間にあるプロフィルート川の攻防戦では、敵を川の半分まで渡らせて戦い、多くの戦果をあげた。
魔法船団は川の流れに逆らって推進することも可能であったので、このプロフィルード川の攻防でも使用されたが、敵が火属性魔法や、火器で対抗されたため、軽歩兵での戦いが多かったとされる。
このナディの魔法船団を引き継ぎ、更に発展させたのがベガである。
ベガとナディは意見が分かれたが、ナディは実直で頑固な性格であったので、周囲は対立を遅れたが、とても謙虚な男でもあったので、自分よりもベガの方が数段才能は上であると認め、徐々に彼の意見に同意していくのであった。
蓮也
「なるほどな~、馬鹿も極めれば凄くなるってことか」
ゼイソン
「コレコレ、若!口が過ぎますぞ!」
蓮也
「俺は褒めているつもりなんだけどなぁ」
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