幻想神統記ロータジア(パラレルストーリーズ)

静風

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列伝

ベガ伝『蒼の魔導書の解読』

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神代と言われる太古、ロータジアという王国があった。その国には三人の優秀な将軍『三将星』がおり、その一人ベガは魔術の天才と言われていた。彼は、アルトドール侵攻時、防衛将軍として活躍することで、その名を馳せるようになったが、それまでは地道な魔法研究の毎日であった。

宿将ナディが病に倒れた後、新元帥は蓮也の兄・舞也が就任した。彼は人格優れ、人を公明正大に評価した。ロータジアの世代交代がスムーズに行われ、ロータジア三将星や四天王が生まれたのも、舞也の貢献と言っていい。その背景には、常に舞也は国の人財発掘に専念していたことにある。

ベガは王立図書館で魔法研究を毎日のように行なっていた。
ある日、ベガは『五行英雄史』という書物を手に取っていた。



ベガ
(第二次暗黒戦争時に彗星の如く現れ、去って行った蒼き魔術師。彼がいなければサトゥルヌスの封印は困難であった。彼はロータジア王国にて滞在し『蒼の魔導書』を書き残した、か・・・)



気がつくと近くに舞也が立っていた。



ベガ
「元帥閣下・・・」
舞也
「邪魔をして申し訳ない。私も用兵学の少し調べ物をしていただけだが、いつか貴殿と話ができればと思い。先日見たロータジスタでは見事な戦いぶりであった」

ロータジスタとは、ロータジアに伝わる個人戦・団体戦の模擬戦競技であり、ベガの魔法攻撃は多くの観客を驚かせた。この競技によって王国への士官や階級などが決まることがある。

ベガ
「ありがたきお言葉・・・大変光栄にございます」

ベガは言葉少なげに立ち上がり、席を去った。ベガは研究熱心で寡黙な男で人との交流は親友のアルタイル以外はほとんどなかった。中性的な顔立ちでミステリアスな雰囲気もあり、舞踏会では、一部の層から人気があり、アルタイルとのボーイズラブ説も出ていたが、本人は気にもとめていなかった。



ベガ
「蒼き魔術師著“蒼の魔導書”はこちらにないでしょうか。調べてほしいのですが」
司書官
「少々、おまちください」
「その書物は書庫に保管されておりますが貸し出し禁止となっております」
ベガ
「それを見たいのだが」
司書官
「書庫内の書物は大将軍・大魔道士以上の階級でないと閲覧できません」
ベガ
「そうか・・・わかった」

ベガはこの時、まだ大魔道士の階級ではなかった。
立ち去ろうとした時、舞也が声をかけた。

舞也
「“蒼の魔導書”を私が借りよう。階級は元帥だ。証明証はここにある。」
司書官
「・・・元帥閣下!」

司書官は書庫へ向かった。

ベガ
「・・・あの」
舞也
「私はしばらくここにいる、その間に貴殿が読めばよい」
ベガ
「ありがとうございます。それでは、1時間ほど私に時間をください。すぐに読み終えますので・・・」

ベガは舞也のはからいで『蒼の魔導書』を読むことができた。
1時間と言ったが結局、昼食もせず3時間程、ベガは本に目を通していた。しかし、舞也はそれを許した。そうしたことから、舞也は書庫の閲覧を中魔道士までにするよう、国王に進言し、すぐに図書館法は改定された。もちろん、書庫には重要な書物が眠っているため、階級を低くしすぎると情報漏洩となり国益を損ねる。が、制限が高すぎると、宝の持ち腐れになってしまう。
『蒼の魔導書』は全10巻あり、その膨大な量の情報をベガは毎日、読み解いた。内容は魔法理論から特殊魔法までが前半、後半は魔法戦争の方法であった。この蒼き魔術師の魔法戦争の方法は、蒼き魔術師が実戦では使っていない、思考実験上のものも存在した。その机上の理論を実戦レベルで応用したのがベガの功績である。
それは、ベガが最初の防衛将軍になった時、敵が川に入り、その川に向かって雷属性魔法を放ち、相手を感電・麻痺させ、そこへ、川の水を氷結させるという魔法戦術を使ったが、それはこの蒼き魔術師の魔導書に書かれている方法である。その後もベガは、この魔導書の戦闘理論を使い、多くの敵を撃破した。また、三将星の一人、デネブが遊牧民を討伐した時に、氷結魔法でダムを作り、そのダムを決壊させ、水攻めをするというのも、ベガがデネブに教授していた戦術であり、それも『蒼の魔導書』に記されているものであった。

ベガ
(この魔導書は暗黒戦争直後に書かれている。とすると、彼はまだ生きている可能性がある。伝説の五行英雄の一人・蒼き魔術師ソーマ。まだ存命であるならば、いつかお会いし、その教えを乞いたい)



若い頃のベガは、常にそう思っており、蒼き魔術師を心の中で師として尊敬していた。

ベガは親友のアルタイル以外は滅多に話しかけることがない寡黙な男であったが、稀に話しかける対象があった。ロータジアの生き字引とも言える老将ゼイソンである。ゼイソンはウィザードナイトのベルーフを有しており、魔法にも詳しいからでもあるが、城の魔導教授よりも彼の方が数段レベルが上なのではないか、という考えをベガは持っていた。ただ、ゼイソンは王国で最上位の階級であったので、なかなか声をかけることはできないため、元帥の舞也を経由して面会に漕ぎ着けた。



ゼイソン
「はて、私に何のようじゃな」
ベガ
「実は、この魔導書にある雷霆閃(らいていせん)というのがわからないのですがご助言賜りたく・・・」

通常、雷系魔法は空気の振動・摩擦や体内の生体電流や心的エネルギーを組み合わせ、手から発する「迅雷波」がメジャーな技術なのだが、この「雷霆閃」は、天から雷霆を一閃させ、敵の大将を打つ大技である。

ゼイソン
「最近は魔法のスペルも忘れ、剣も肩が痛くてのぅ、眉間にまでしか上がらぬのじゃが」

とゼイソンが言ってもベガは構わず聞き続ける。ゼイソンとしては、城には魔法教授は何名かいるため、騎士である自分がその者たちの顔を潰してはいけないと思い遠慮しているのであろう。

ベガ
「魔導書には、最初、火炎魔法を使い、次に冷属性魔法を使い、最後に風魔法を使い、それぞれ一刻を待ち充填す。そこから意を用い感ずるところへ落とすべし、と記されているのですが・・・。なぜ、火炎魔法や冷気魔法、風魔法を使うのでしょうか?」

研究熱心なベガに観念し、ゼイソンは自分の意見を述べる。

ゼイソン
「ベガ殿、年寄りの一意見として聞いてくだされ。これは恐らく、近くに水源や海などがある場所を意味しておる。その水を熱魔法で蒸発させ、冷属性魔法で大気を冷やすことで雨雲をつくり、更に雨雲に対し旋風魔法で空気を摩擦し、蓄電させる。これが魔法充填のプロセスだと思われる。後は意識で下へ導けば自ずと高い場所に落ちるであろう。敵の大将は、馬に乗り兜が大きかったり、旗を立てたりと、自らを目標物にするのでのぅ」
ベガ
「なるほど、ありがとうございます・・・!もしかしたら、できるかもしれません!」
ゼイソン
「貴殿は魔法系の者とお見受けいたすが、ご存知の通り、火炎魔法と冷気魔法は対立関係にあり、上級魔術師であったも同時習得は非常に困難じゃが」

と言うと、ベガはその場で右手から炎の球を出し、左手から冷気の球を出し、それを両手で合わせ、一瞬でその両方を消した。

ゼイソン
(まだ若いのに属性対立を克服しておる。何と言う才能じゃ・・・)

その他にも不明な箇所がいくつかあったので、ベガは質問し、ゼイソンはそれに答えた。その答えはいずれもベガを満足させるものであった。

それから何年か経ち、海賊集団とアルトドール軍が共闘で海路から攻めて来た。海軍兵力は共闘軍の方が圧倒的に大きかった。これまでのロータジア海軍はナディが指揮してきたが、そのナディが病に伏しており、事態を深刻にさせた。もし、制海権が奪われた場合、軍事的にも経済的にも不利となってしまうからである。この時に海軍を率い防衛したのは新元帥舞也であったが、防衛将軍として働いたベガの存在も大きかったとされる。

この海戦で、ベガは『蒼の魔導書』に書かれていた「雷霆閃」を使用し、兵力差の不利を見事打開したのである。
ベガはまず風を巻き起こし、相手の船の動きを撹乱した。そして、その混乱時を狙い、魔法充填していた「雷霆閃」を放った。
この時は、敵の大将の船が大きかったため、ピンポイントで船のマストなどに雷霆閃が命中し、船は一気に炎上し、大将が瀕死の状態となったため、相手は撤退を余儀なくされたのである。
舞也の艦隊運動にベガの魔法戦術が連動し、ロータジア海軍は勝利したのであった。

このように、ベガは新魔法を蒼き魔術師が著した『蒼の魔導書』から多くを学び、それを実戦レベルで用い、勝利を積み重ね、証明して行ったのである。彼が起こした魔法戦革命は、蒼き魔術師の魔法戦闘理論、舞也の後押し、ゼイソンの助言に彼の才能と実践力が合わさって可能となったのである。










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