幻想神統記ロータジア(パラレルストーリーズ)

静風

文字の大きさ
上 下
31 / 38
黄金戦争の章

アルタイルの海賊討伐

しおりを挟む

ロータジア三将星の独り、迅雷の神弓騎士アルタイル。
彼に射抜けぬ的(まと)はなしと言われる弓の天才騎士であり、人々から「神弓」と言われる。また、その騎馬軍団の機動力の速さは迅雷の如くとされた。

黄金戦争の前、アルタイルは海賊の反乱の鎮圧のため、王命を受け出陣していた。
そこへ、ロータジア王国にアルトドール軍とスサノオが侵攻するという急報を部下のリベルタスから知らされる。

アルタイル
「何?王都が攻撃を受けているだと?デネブ将軍が第一砦を守っているはずだが、あの神槍デネブが敵に敗れたというのか?」
リベルタス
「そのデネブ様も反乱の鎮圧のため遠征しておられ不在とのこと!」
アルタイル
「なんだと?舞也様もいらっしゃる、そして遠くの地だが蓮也様も駆けつけられるはずだが」
「取り敢えず、ここの反乱をすぐに平定する」
(それにしても最強の傭兵・スサノオがアルトドールに味方するとは。これはマズいことになった。とにかく、すぐにここを平定せねば・・・)



海賊たちは街を荒らそうとしていたが、街も自衛団によってかろうじて防衛していた。そのため、海賊集団は街の外に陣を置いていた。そして、アルタイル軍が到着すると、すぐ様襲いかかって来た。
最初の戦闘は両軍、入り乱れ、やや混乱気味に開始されたが、アルタイルの指揮によってアルタイル軍は適正距離と陣形が整い、アルタイル軍が優勢となった。
そのアルタイル軍の強さに海賊軍は陣を数里引いて防御陣を張った。

アルタイル
「全体的な力はこちらの方が上だが、防御陣を張られては、流石に時間が取られる。こうしている間にも、アルトドール軍の侵攻は早まる。どうれば・・・」

アルタイルは少し焦っていたが、気持ちを落ち着け、目を閉じた。
すると師の声が思い出される。

アルタイル
(我が師・研鸞はこうおっしゃった。敵を射るのではない、敵の心を射よ、と)
(・・・師よ、今、その教えの通り、敵の心を射抜いてみせます)

しばらくして、目を開けると、アルタイルは明鏡止水の心境となっていた。
そして、部下のリベルタスを呼び寄せる。

アルタイル
「リベルタス、海賊のリーダーを特定せよ」
リベルタス
「かしこまりました」

海賊集団のリーダーの名が特定された。
名はバンドリー、その位置と容姿が特定された。

アルタイル
「敵に文書を送れ。これは正規の戦いではない故、使者を送る必要はない。矢文で十分だ」
リベルタス
「かしこまりました」
アルタイル
「そして、今から全軍待機」
リベルタス
「待機ですと?相手を急いで壊滅させなくてよいのですか?」
アルタイル
「まあ、見ておれ」

リベルタスは怪訝な顔をしつつ、アルタイルの文書を矢文で送った。
海賊軍に手紙が届く。

バンドリー
「何?矢文だと?読み上げよ!」

その文書に書いてある内容を見てバンドリーは怒る。

バンドリー
「そのような脅しで、この海賊・バンドリー様が恐れるとでも思っているのか」
「陣は退かぬ!」

一方、アルタイル軍では待機が続いていたが、総大将・アルタイルのみが動き出す。
一瞬、兵士から響めきが起こるが、兵士たちは待機を続ける。海賊軍も防御態勢を決め込んでいるため、一切動こうとしない。アルトドール帝国による海賊軍への依頼は、ロータジア軍の数日の足止めでよかったからである。
総大将・アルタイルがアルタイル軍の右翼先頭に立つ。そして、その右翼側か左翼側へと駆け抜ける。
手に持つ弓は、師から受け継いだ雷属性の弓『迅雷鸞(じんらいらん)』である。
アルタイルは胸の中央のエネルギーポイント・中丹田に集中し、弓を強く引く。
鉄の矢には、弓から電気が充電される※。
その電気の迸りは、はたからでも見える程である。

アルタイル
「師を我に力を与えたまえ!」
「一射目、参る!」
「聖中心迅雷射!」

蓄電された雷の矢が一気に放たれる。
そして、電光を散らしながら、敵陣中央へと一直線で突き抜ける。
すると、海賊軍から呻き声が上がる。
海賊軍の大将・バンドリーの声である。
バンドリーの左肩の鎧が粉砕され、肩に矢が突き刺さる。そして、バンドリーは、その矢の雷に感電し、動くことができない。

アルタイル
「手応えあり」
「次、二射目、参る!」

今度は、アルタイルは左翼側から右翼側へと横断し、同じように雷の射撃を行う。すると、今度はバンドリーの右肩の鎧を破壊し、突き刺さる。
アルタイルがバンドリーに送った手紙には、このように書いてあった。

“敵将に次ぐ、速やかに撤退されたし。さもなければ、まず貴軍大将の左肩を射抜く。次に右肩を射抜く。其の後は数刻程、待つ。しかし、それでも撤退せぬようであるならば、最後は心臓を寸分違わず射抜くであろう。もし、撤退するのであれば、我が軍はこれ以上貴軍に手を出すことはないことをここに約束する
ロータジア軍射撃部隊長・アルタイル”

その内容をバンドリーは思い出し、恐れ慄いた。そして、自身の心臓が射抜かれることを理解した。
以前、彼は神弓・アルタイルの神業の噂は聞いていたが、それが噂ではなく現実であることを身を以て知ったのである。

バンドリー
(噂には聞いていたが、これほどまでに正確に矢を射る者がいるとは・・・)
(俺は神というものは信じぬ性分だが、これは神業としか言いようがない・・・)

バンドリーは全身、痺れて動けないため、その痺れが解けるまで、少し時間がかかったが、しばらくすると撤退することにした。そして、アルタイルは、約束通り、追撃はせず、その撤退を見届けた。
部下のリベルタスを街の防衛隊として残し、アルタイル自身はロータジア城へと向かうのであった。
師の教えを思い出し、敵の心を射たアルタイルは、大幅に時間を短縮し、アルトドール軍の戦略の一部を崩すのである。
このように、第一次黄金戦争の裏舞台には、迅雷の神弓・アルタイルの活躍があった。

※コストの関係で、矢は通常、シャフトは木製であり、矢尻のみ鉄である。アルタイルの迅雷射は迅雷をエンチャントするが、鉄は熱に強く伝導率が高い。








しおりを挟む
お読みいただきありがとうございました。お気に入り登録して応援いただけると嬉しいです☆

あなたにおすすめの小説

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...