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黄金戦争の章
第一次黄金戦争・誘(いざな)いの始まり
しおりを挟むゼイソンの時間稼ぎによってロータジア軍の守備部隊が復活し、戦線は再び膠着状態となった。
蓮也
「爺、ご苦労であった。モローは再び遊撃隊に戻って待機してくれ」
モロー
「かしこまりました」
ゼイソン
「これで戦いは五分五分と言ったところでしょうかの」
蓮也
「補給ではこちらが有利、傷ついても城内との兵の交代もできる。場内にはヒーラーも待機しているし、ポーションも豊富だ。こちらが有利であろう」
スサノオと対峙したディフェンダー部隊長アルベルトは、今度は慎重に手堅く守備を固めた。
魔法部隊はゼイソンの指示で引き続き、騎馬への足下の氷結を継続。その機動力を奪っていく。そこへロータジア軍のアタッカー部隊、アーチャー部隊も戦力を集中するため、スサノオ軍も徐々に被害を受けることとなる。
ロータジア軍魔法部隊の氷結魔法に対し、スセリの魔法部隊が温熱魔法で対抗し、機動力を回復させる。すると今度は騎馬突撃によってロータジア軍が被害を受ける。そうした両軍の攻防が幾度となく繰り返された。
ナムチ
「これは消耗戦ですね」
「今回の戦いは他国同士の戦い。そこに我が同胞をこれ以上死なすわけにはいかないでしょう」
スサノオ
「そうだな、しかし、まだ潮時ではない。この舞台のクライマックスを用意する」
スサノオ軍は攻撃を止め、軍を退いた。
ゼイソン
「敵が退きましたな」
蓮也
「敵は消耗戦の愚かさに気づいたのであろう」
しばらくすると、スサノオ本人は本陣から凄まじい勢いで前線へと繰り出す。
スサノオ
「道を開けよ!」
雷鳴のような声が轟き、兵士は左右へと分かれる。
そして、軍の前に立ち、ロータジア軍に対して叫ぶ。
スサノオ
「我はこの軍の総大将・素戔嗚炎風斎である。貴軍大将と一騎討ちを所望する。もし勇気あるならば、我と戦え!」
スサノオという名を聞くと、それだけで恐れ慄き、敵は当然ながら一騎討ちを断る。そうすることで、相手の兵士の士気を削ぎ、総攻撃によって戦況を変えるということをスサノオは行おうとしている。
そして、伝令を使う間もなく、スサノオの雷鳴のような声は直接、蓮也の耳にも入った。
ゼイソン
「若、挑発に乗ってはいけませぬぞ!」
蓮也
「爺、スサノオは強かったか?」
ゼイソン
「強いという表現を通り越している存在でございまする。相手にしてはなりませぬ。敵は消耗戦の不利を悟ってしかけてきておりまする。無視すればよろしいかと」
蓮也
「それは俺もわかっている。しかし、行かねばロータジアの王子は腰抜けであると、末代まで笑われるであろう」
「そして、これは士気にも関わる」
ゼイソン
「もしそのような者がいるのであるならば、そのような者は兵法を理解しないものです。戦場で大将が一騎討ちなどするものではございません」
すると蓮也は表情を変え、少し沈黙した。
そして、再び口を開く。
蓮也
「ゼイソン、これは元帥命令である。ロータジア軍総大将である蓮也は敵軍総大将のスサノオと一騎討ちをすることとする。一騎討ちであるから、ここに誰人も手を出すことはならん。そのように全軍に伝えよ」
蓮也は普段、ゼイソンのことを「爺」と呼ぶ。しかし、この時は「ゼイソン」と呼んだ。それによって元帥と臣下、元帥命令の絶対性を伝えたのである。それを悟り、ゼイソンは命令を受け入れることとした。
蓮也
「ゼイソン、もし私が敗れるようなことがあれば、指揮は軍師に譲渡されることとなる。その時は、私に代わって全軍を指揮してくれ」
ゼイソン
「御意にございまする・・・」
蓮也
「爺、安心しろ。私はそう簡単に敗れはしない」
「相手が伝説の傭兵なら、その伝説を破り、伝説は破られるためにあることを知らしめようではないか」
ゼイソンは蓮也の声を聴き、そして表情を見て少し違和感を覚えた。
いつも感情を表に出さない蓮也が高揚しているように感じられるからだ。
蓮也は、平和主義者というわけではないが、合理主義者と言った方がいいだろう。無駄な争いはしないタイプである。その蓮也が戦いに高揚し、積極的に戦おうとしているのではないか、とゼイソンは感じるのである。
ゼイソン
(先代と同じじゃの。これも因縁かのぅ)
(平和を愛し、戦いに高揚せし矛盾した存在・・・)
(しかし、今回はマズい。若は確かに強いが、あのスサノオは「強い」という言葉を超えた存在。どうすれば・・・)
(しかし、こうなってしまっては、後は祈るしか仕方がない。先代よ、若に何卒ご加護を・・・!)
一騎討ちの指令を聞いてモローとアルベルトが本陣に駆けつける。
モロー
「スサノオという男は危険過ぎます。もう一度、全員で蓮也様を止めましょう」
ゼイソン
「モロー殿よ、わしも止めたのじゃが、もう既に軍命は出てしまった。一度出された軍命は絶対ですぞ」
アルベルト
「では、どうすれば」
ゼイソン
「蓮也様は強い。しかし、あのスサノオはそれ以上だ。それはお主たちも戦って分かったことであろう。蓮也様が勝つことを願いたい。しかし、我々が願うことと、現実として備えることは違う。両名とも、撤退の準備をしておくことじゃ。元帥が命を落とした場合、軍師のわしが元帥となり統帥権を一時的に預かることとなる。そうすれば城内に撤退し、舞也様に元帥職をお渡しするので、その後に再び采配を仰ごうと思う」
モローとアルベルトは複雑な思いで陣営を立ち去った。
一方、スサノオはロータジア軍を睨みつけ仁王立ちしている。
スサノオ
「貴国の大将は腰抜けか!我と戦う者はこの国におらぬのか!」
蓮也
「待たせたな」
スサノオ
「何?」
スサノオは意外だった。彼の最強の名声は各国に轟いているため、自分と一騎討ちをする者などいないと思っていた。しかし、それを受けると言う者が、物怖じせずに堂々と目の前に立っているからである。
蓮也
「私がロータジア国元帥、此花蓮也だ。貴殿との一騎討ち、お引き受けいたそう」
スサノオ
「我が名は素戔嗚炎風斎。神代スサノオの末裔である」
「その前に貴殿に一つ聞きたい」
蓮也
「なんだ?」
スサノオ
「貴国には二人の王子がいると聞く。貴殿はどちらの方であるか」
蓮也
「第二王子だ。不服か?」
スサノオ
(兄は名将として名を轟かせているが、弟はどうであろうか。まあ、どちらでもよい。結果は同じこと)
「いや、相手にとって不足はない。さあ、後代にまで語られるような戦いにしようぞ」
蓮也
「よいだろう、望むところだ」
両者からは凄まじい闘気が立ち上り、それがぶつかり合う。
その闘気により、旋風が巻き起こり、木々は揺れ、大地は震える。
白銀のプリンス・蓮也と、朱炎の騎士スサノオとの一騎討ちが始まろうとしている。
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