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黄金戦争の章
第一次黄金戦争・金剛杵の陣
しおりを挟むアルトドール帝国は黄金を求めてロータジアに侵攻した。この黄金を巡る戦いは文字通り「黄金を巡る戦争」「黄金戦争」と言われた。
この黄金戦争ではスサノオ率いる真紅の軍団と蓮也率いる白銀の軍団が激突した。
ナムチ
「さて、囲まれましたな」
スサノオ
「我が軍を鶴翼の陣で包囲したつもりか?それを今から後悔させてやろう」
「中央に兵力を集中し鋒矢の陣をとる」
ナムチ
「お待ちください。ここで正面の白銀の軍団に突撃すると、後方の城から敵本体が打って出てくるでしょう。そうすると我ら挟撃されます」
そこで、アタッカーを先頭と背後につけ、エンチャンチャーとプロテクターは中央に配置します」
スサノオ
「相手が城から出てきたところを、もう一つの剣で打つというのだな」
ナムチ
「御意」
「数ではこちらが不利ですが、個々の戦闘能力ではこちらが上です。それを活かした陣形」
「名付けて、金剛杵の陣です」
鋒矢の陣は戦力を先頭に集中させ、中央突破にはよいが、背後からの攻撃に弱い。中央突破が失敗した場合に挟撃となる。そのリスク回避をしつつ、相手の挟撃に対抗する陣形がナムチの進言する金剛杵の陣である。
スサノオ
「これより、全軍、敵軍を中央突破する!」
中央に向かいスサノオ軍の一つ目の剣が突撃を開始する。
蓮也
「敵の中央突破を許すな!」
「ディフェンダーは中央の防御を厚くし、プリーストはプロテクションに集中せよ」
「アーチャー部隊は牽制のための攻撃、アタッカーは待機!」
スサノオ軍の猛攻によって蓮也軍の防御陣が崩れ出す。防御陣が崩れると、その後陣は支援系部隊となるため、一気に崩れ、蓮也の本陣まですぐに攻撃されてしまう。本陣が崩れると、司令系統が機能しなくなるため、ほぼ軍団の壊滅に繋がる。そのため、この防御陣が戦争では重要になる。
この崩れかけた防御陣を星の旗を掲げた、重装歩兵の集団が見事に立て直す。
守護将軍・アルベルト率いるロータジア最強の守護兵団・プレアデス兵団である。
ナムチ
「あの白銀の軍団のディフェンダー部隊は思ったよりも硬いですね」
スサノオ
「蓮国には代々続く守護兵団があると聞く。それがあの星の旗を掲げた兵団なのかもな」
「アタッカーを二方向に分けているとは言え、我が軍の攻撃を受けて立て直すとはな」
ナムチ
「本城からの攻撃を潰した後に、戦力を集中させれば問題ありません」
アルベルトが防御陣を立て直すと同時に、その後陣を蓮也が立て直す。防御陣を最大限機能させるには、支援魔法のプロテクションや、アーチャーやメイジによる遠隔攻撃支援が必要だからである。蓮也は持って生まれた用兵と統率の才があり、この才能は教育係のゼイソンによって更に磨かれたものである。
蓮也
「さすがアルベルトだ。普通のディフェンダーなら今ので突破されていたかもしれない」
ゼイソン
「若君、前に出過ぎですぞ。少しお引きになさいませ」
蓮也
「そうだな、熱くなり過ぎた。少し引くとする」
ゼイソン
「それと、くれぐれも、あのスサノオという者と戦ってはなりませぬぞ。とても危険な男です」
蓮也
「わかっている」
「よし、敵の戦線が少し伸びた。モローの遊撃隊に側面をつくように伝えよ」
蓮也からの伝令が遊撃部隊のキュアリス・モローに届く。
モロー
「よし、我が部隊は、敵の側面を突く!」
「ただし、敵の大将は避けよ!そして、敵の弱い部分をつけ!」
(敵のスサノオという男は危険だが、奴に拘る必要はない)
モローは伝令役の時に、一度、スサノオと対峙している。そして、その恐ろしさを痛感している。そのため、慎重に指示を出した。
モローの遊撃隊は疾風の如き神速の部隊であり、敵の弱い部分にピンポイント攻撃を仕掛けることを得意とする。一時的に相手もモロー隊の攻撃に揺らいだが、すぐに押し返した。
蓮也は、兄・舞也ならここで動くと判断し、足止めのための防御陣を敷きつつ積極的にスサノオ軍と対峙する。その膠着状態を確認した舞也は城から打って出ることを決意する。
舞也
「よし、今だ!我らも打って出るぞ!敵の背後を撃ち味方と挟撃する」
ナムチ
「今だ、後方部隊よ、反転して背後より迫りくる敵中央に戦力を集中せよ」
舞也軍が城からスサノオ軍目掛けて突撃した瞬間、スサノオ軍の後方部隊が反転し、襲いかかる。
舞也
「何!これは我が軍に挟撃させようとする罠か!」
「恐るべきはスサノオだけではなく、軍師ナムチ・・・」
通常の場合、単純に兵数の多い方が勝つ。しかし、スサノオ軍の強さは、その数をもろともせず、野戦では無類の強さを発揮する。軍師ナムチはそれを計算して指揮をする。
しかし、ナムチの計算していなかったことは舞也という優秀な指揮官の存在であった。
舞也
「中央にディフェンダーを集中させ、プリーストはプロテクションせよ」
「決して積極的に戦うな。まずは防御陣を敷き膠着状態を作り出す。数ではこちらが上であり、挟撃の状態にある」
舞也がすぐに相手の意図を読み取ったため、相手の最初の一撃はダメージを受けたものの、しばらくして膠着状態に持ち込むことに成功した。膠着状態に持ち込めたのは、舞也自ら陣頭指揮を取り、彼自身も将として獅子奮迅の戦いを見せたからである。しかし、その代償として舞也自身も多くの傷を負うこととなった。
スサノオ
「敵にも骨のある奴がいたか」
ナムチ
「強いですね。ロータジアには二人の有能な王子がおり、特に兄の方は指揮官としても武将としても優秀であると聞き及んでおります。弟の方の噂は聞きませぬが、弟の方もかなりの実力の持ち主です。そこを計算に入れていませんでした」
スサノオ
「ふむ」
ナムチ
「そして、膠着した今、後ろを守りつつ前を攻撃するには、我が軍の兵力では不可能となります」
スサノオ
「では、どうする?」
ナムチ
「恐らく、相手はこちらへ包囲殲滅を狙って来ると思われます。そこで、魚鱗の陣に切り替え、敵右翼方向に旋回し、回り込むことで、再び反転し、敵と対峙しましょう。今はこの挟撃状態を避けることが先決です。」
先ほどの戦いで左翼方向にモロー隊がいることをナムチは確認しているため、弱い右翼方向への旋回を選択しようというのである。
ナムチ
「こちらの旋回・反転が終了した後、相手は戦力の集結を計るはずです。そこから再び対峙し正面対決にて雌雄を決するか、もしくは相手が籠城するなら、我が軍は北西部へ向かい、その領地を奪い目的を達成しましょう」
スサノオ
「今はそれしかなさそうだな」
ナムチ
「はい」
スサノオ
「それにしても、なかなかやるではないか。久しぶりに血が騒ぐ」
スサノオ軍の旋回運動を確認したゼイソンは敵側面に攻撃を蓮也に進言する。
ゼイソン
「相手は陣形変更をしました。我が軍の背後に回り込むと思われます。足止めしつつ、敵の側面を突くとよいと思われます」
蓮也
「私もそう思う、こちらの挟撃を避ける動きをとるわけだな」
「魔法部隊、氷結魔法にて敵足下を足止めせよ!」
「アーチャー部隊は一斉攻撃を仕掛けよ」
「ディフェンダーは敵の旋回運動に合わせて移動せよ」
「アタッカーは牽制攻撃のみとせよ」
蓮也軍はスサノオ軍を魔法攻撃にて足止めしつつ、遠隔物理攻撃にて敵側面を攻撃し、敵戦力を削る。
ナムチ
「いやぁ、敵軍にも優れた軍師がきっといらっしゃいますね。私たちの動きに対して、的確に攻撃してきます。指揮官も優秀ですね」
スサノオ
「ナムチよ、お前も血が騒ぐのか?」
ナムチ
「私の関心は、いかに兵力の損失を抑え、相手を制することができるかにあります」
そう言うと、ナムチは表情を引き締め、伝令に指示を出す。
ナムチ
「スクナ部隊は常にプロテクションをかけ、味方のダメージを最小に抑えよ、そのように伝えよ」
スサノオ軍にはディフェンダーがいない。ディフェンダーは装甲の厚い鎧や盾を身に着けるため、機動力が低下するためである。防御は、スクナ率いる神官騎士部隊のプロテクションのみである。そのため、守勢に回ると弱い部分がある。かと言って蓮也軍がアタッカーを動員すると、スサノオ軍は異常なまでの攻撃力を誇るため、反撃に合う可能性がある。そのため、ゼイソンは慎重に遠隔攻撃のみを進言し、蓮也はその進言を的確に再現するような指揮をする。
城から出た舞也部隊は、舞也が負傷したため十分な追撃はできない。
そして時間は過ぎ、スサノオ軍の旋回移動は終わり、ロータジア軍に対して反転した。
しかし、スサノオ軍も連戦のため少し引き、すぐには攻撃をして来ない。
蓮也は自軍を本体と合流させた。戦力の集結を計ることで、兵数的にはロータジア軍の方が上となる。
蓮也
「兄上、お身体の方は大丈夫ですか?」
舞也
「不覚にもかなりやられてしまった。これでは足手まといになるだけで指揮もままならん。統帥権を蓮也、お前に預ける。ロータジア国元帥として全軍を率いるのだ。私は城に帰還し、万が一の時に備える」
蓮也
「了解しました」
ここに一時的ではあるが、ロータジア王国新元帥・此花蓮也が誕生した。
舞也
「スサノオの目的はわからぬが、アルトドール帝国の目的は我が国の金脈であろう。だから西北部に再び狙いを定め移動するはずだ。敵が西北へ移動する場合は後方から追撃し、正面対決なら数敵に我が軍有利だ。少なくとも膠着状態に持ち込める。そうすれば、敵の兵糧も尽き、撤退するであろう」
蓮也
「兄上、わかりました。後はお任せください。相当の量の出血なので兄上は城へ帰還し、一刻も早く傷の手当てを。お命に関わります」
舞也
「城に帰還すればハイポーションと回復魔法で、城内の指揮をするくらいは回復できる。城の備えは気にせず蓮也は全軍を指揮してくれ。ただし、あのスサノオという男は危険過ぎる。決して関わるな」
蓮也
「わかりました」
ロータジア軍全軍で籠城するという考えもあるが、その場合、北部の領土を手放すこととなる。そうした場合、敵国に金脈が渡るため、今後、長期的に見ると戦略的に不利となる可能性がある。舞也は、用兵家としての蓮也を評価し、軍師にゼイソンもついている、数的・地理的にも有利であり、守備に徹すればよいことから、白兵戦を進言したのである。
舞也
「これはロータジア国に伝わる始祖王蓮也が使用したとするロータジアの剣だ。これを持ってゆけ」
舞也から剣を受け取った。
蓮也
(見た目よりも重い・・・。何だ、この剣は)
舞也
「この剣はダークマテリアルという超密度・超重量の物質からできている。初代蓮也王は、この剣を片手で振っていたと聞く。これを私は先王から渡されたが、残念ながら、未だに使いこなせていない。それをお前に託そう。初代蓮也王の加護あらんことを」
蓮也は両手で握り一振りしたが、両手で振るのが精一杯であった。
しかし、この剣の偉大な重厚さを感じ、蓮也は少し心が高揚した。これならスサノオに対抗できるかもしれない、と思ったからだ。
そして、舞也は足を引きずりながら、部下の助けを借り、城内へと入っていった。
ナムチ
「敵も強いですね。攻撃しても、まあまあの戦いはできそうです。ただ、こちらの兵も少し削られましたし、疲れも出ています。まあ、それは相手も同じですが」
スサノオ
「彼我の戦力差はどのようになっている?」
ナムチ
「数的には相手が有利、戦闘能力はこちらの方が上です」
「総合戦力は恐らく、ほぼ同じくらいかと」
スサノオ
「なるほど」
ナムチ
「北西部を奪取するには、あの白銀の部隊の半数は削りたいところです」
「あの軍を叩くか城内へと追い返さないと、我が軍が北西部へ向かった時に、背後を突かれますので」
スサノオ
「ならば、考えは決まった。正面の白銀の軍団を攻めるのみだ」
ナムチ
「お待ちください。戦闘を有利に進めるために、途中から、少し緩やかに、そして少し引き気味に戦うのです」
ナムチの提案で、スサノオ軍の攻撃が開始された。
騎馬突撃による波状攻撃が繰り返される。
蓮也
「ん?」
ゼイソン
「どうされましたか?若君」
蓮也
「敵の攻撃が妙だ」
ゼイソン
「確かに、以前よりも攻撃が緩いですな。はて、疲れが出たのでしょうか」
蓮也
「こちらを誘引しようとしているか?」
「前陣に伝えよ、守備を徹底せよと。そして、敵の誘いには乗るなと」
しばらく、この膠着状態は続き、両軍、積極的な攻めは行わなかった。
また、スサノオ軍の強さ故に蓮也もゼイソンも慎重になっていた。
数時間の攻防の後、両軍は一旦退いた。
その時、スサノオ軍に援軍が到着する。ヒーリング兼補給部隊のクシナダとエンチャント部隊のスセリの到着である。そして帝国側の残存兵力も追加される。これらの部隊は機動力が弱いため、遅れて到着した。
ゼイソン
「敵の狙いは、こちらを警戒させ時間稼ぎによる援軍待ちでしたな」
蓮也
「そのようだ。慎重になり過ぎ、いたずらに時間を与えてしまったか。
そして、これが知略家・ナムチの仕掛ける心理戦というわけか。
しかし、次の敵の攻撃は熾烈を極めるであろう。こちらも鉄壁の陣で臨むこととしよう」
ナムチ
「これで役者は揃いました」
「敵本体、あの白銀の部隊を半壊させましょう。そうすれば北西部の地は我らのものとなりましょう」
スサノオ
「いや、半壊ではない、完全破壊だ」
ナムチ
「御意」
これまで連戦のスサノオ軍に多少の疲れが見えていたが、補給路が確保できたことにより、士気と疲れが幾分か回復した。
そして、ここからが疾風烈火の軍団・スサノオ軍の真の姿が現れるのである。
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