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黄金戦争の章
第一次黄金戦争・蓮也始動
しおりを挟む蓮也が治めるロータジア最北の地、パドマリア。
山々に囲まれ、水源が豊富であり、多くの小国と面している。
首都ロータジアよりも生産力は乏しいが、蓮也が領主となることで、少し生産性は向上していた。それには宰相の薫風の尽力も大きかった。
蓮也
「この内政書でよくわからぬところがある。兵器株がなぜ上がっている?今は平時であり、兵器株はむしろ下がるはずであろう。都は戦争でもはじめると言うのか?」
薫風
「今のところ、王都からの戦争の通達はございません。が、都の市場でも兵器株は上昇しているようです。これについては、各地で反乱が起きているので、それで兵器株が上がっているとの噂がございます。しかし、反乱くらいで兵器株暴騰とは妙ですな。別の要因があるかもしれませぬ」
蓮也
「宰相も妙と思うか。ならばモローに調査させることとする」
諜報官モローが調査した結果、あるクランが大量に兵器株を購入していたことがわかった。そして、その購入資金は隣国のアルトドール帝国から流れていることも突き止めた。
蓮也
「兵器株急騰はアルトドール帝国が関与しているらしい。宰相はどう思う?」
薫風
「彼の国は我が国の北西部・黄金の地を狙っており現在のところ敵対関係であり、無条約でございます。単純に考えますと、近々、こちらに戦争を仕掛けるために株価を吊り上げたのではないかと思われます」
蓮也
「ふむ」
薫風
「戦争が起これば我が国の兵器株は急騰します。その急騰した時に売却すれば利益を生むことができます。しかし、単に利益を生むことが彼の国の狙いなのでしょうか。そこはわかりませぬ。それに、まだ彼の国が侵攻する気配はございませんし、兵力はほぼ拮抗していますので、大丈夫かと思います」
蓮也
「そうだな」
(アルトドール帝は欲に目が眩み、マネーゲームを仕掛けてきている、それだけのことなのだろうか)
城攻めには二倍の兵力が必要となる。そのため、この時点では蓮也も薫風も、そこまで深刻には考えていなかった。
しかし、この時、蓮也は反乱鎮圧で三将星が不在ということが気になった。この予感は後々、意味を持つのである。
蓮也
「一応、いつでも動けるように軍を編成する。ただし、戦争ではない。軍の演習としておけ。そして、パドマリアとロータジアの境辺りで演習を行うこととする。もし、首都に何かあれば、いつでも駆け付けることができるようにしておく」
薫風
「敵の意図がまだ完全にはわからぬ故、備えあれば憂いなしですな」
城の守備は薫風とアーチャー部隊隊長のロビンに任せ、蓮也はゼイソン、モロー、アルベルトなどの名だたる将を引き連れ、国境付近で演習を行うこととした。
その頃、宰相薫風はパドマリア城領主が持つ兵器株の多くを売り払い、兵器株の上昇を食い止めた。そして、首都の大蔵省にも、意見書を提出した。
数日後、アルトドール帝国軍侵攻、敵軍の急襲により第一砦陥落の知らせが演習中の蓮也の下に入る。
知らせたのは、諜報部隊長キュリアス・モローである。
蓮也
「・・・何?第一砦が陥落しただと?」
モロー
「敵軍には傭兵のレジェンドと言われるスサノオがついているようです。少数精鋭なれど、士気は高い様子。そして、なぜか第二砦を素通りし王都ロータジアを目指して進軍中とのこと」
蓮也
「三将星不在とは言え、敵の進軍速度は速いな」
モロー
「敵は騎兵を中心に編成されているようです」
蓮也
「あのスサノオが帝国側に加勢したというのか。これは厄介なことになったな。さて、爺、どうする?」
蓮也が「爺(じい)」と呼ぶのは、幼少の頃から蓮也の教育係を務めて来た、老将ゼイソンである。ロータジアで元帥職も務めて来た知勇兼備の名将であり、白銀の鎧を纏っていたことから「白銀元帥」とも呼ばれていた。現在は蓮也の軍師となっている。
ゼイソン
「若君、我が軍は少数。もし相手が軍をこちらに返し、白兵戦を演じてしまえば各個撃破されましょう。そして恐らく、相手は第二砦へ陽動を仕掛けているのだと思われます」
蓮也
「素通りすれば王都と第二砦から挟撃される、そのような愚を敵が犯すわけがない、つまり、この通過は陽動と見るのだな」
ゼイソン
「そう思われます」
蓮也
「なら、どうすればよい?」
ゼイソン
「はい、そこでまず、第一砦の残存兵力を確認しつつ、それらを再編成し、第二砦へと向かいます。そこで膠着しているようでしたら挟撃し、既に砦が陥落していれば、更にこちらに再編成し、最終的には王都と対峙する相手の背後を突くのです」
蓮也
「王都には我が兄・舞也がいる。兄上が守備に徹するなら、そう簡単に王都は落ちないだろう」
「よし、ゼイソンの意見を是とする!すぐに準備せよ!」
蓮也は軍を第一砦に動かした。砦は半壊状態であり、多くの兵の亡骸が横たわっていた。
蓮也
「これは酷いな」
モロー
「急襲されたため、組織だった抵抗は全くできなかったようですぜ・・・」
「本来なら、砦には三将星の誰かが守備するはずなのですが、現在は反乱鎮圧のため不在。もし彼らなら、守備にさえ徹していればこのようなことにはならなかったはず・・・」
蓮也
「その反乱というのもアルトドールが関わっているのだとしたら、ということはあるだろうか」
モロー
「確かに、その可能性はありますぜ」
蓮也
「しかし、わかったところでどうしよもあるまい。今は、一刻も早く第二砦を目指すしかない」
砦は占領されていない。占領するには人員を割かなければならず、スサノオ率いるアルトドール軍は少数精鋭のため、その余裕がなかったのだ。
蓮也はポーションの補給とヒーラー部隊によるヒーリングを傷ついた兵たちに施し、回復した者は蓮也軍に組み入れた。
しばらくして蓮也軍は第二砦に着いた。
砦自体は耐久力を保っていたが、兵士たちは傷つき疲れ切っていた。アルトドール軍の陽動によって撃破され、砦へと逃げ帰るのがやっとの有り様であり、戦意を喪失している。
蓮也は、第二砦の残存兵を自軍に取り込み、兵数を増やし、そして、最強と言われる傭兵団・スサノオ軍の背後に迫ろうとするのであった。
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