1 / 38
列伝
蓮也伝『エウリディーチェとの出会い』
しおりを挟むこれは神代と言われる太古の時代の話である。
ロータジアという王国での王宮で舞踏会。
王宮では豪華な食事が振る舞われ、人々は煌びやかに着飾り、美しい音楽に合わせて踊りを楽しんだ。
そこにロータジア国第二王子である蓮也(れんや)も出席していた。
蓮也の髪はプラチナのように輝き、容姿は華のように美しかった。
それ故、世の女性は、彼の美しさや第二王子夫人の地位目当てで近寄ってくることも多々あった。それに対して蓮也はウンザリしていた。そのため、舞踏会場から少し離れたテラスで外の空気に触れていた。
蓮也
(王族故、ここに出席せねばいけないのだが、何と窮屈なことか。それに、人間は煌びやかに着飾っていても、やがては朽ちていく。それに比べて、この夜空の星々は永遠の輝きを放ち続ける。それらを眺めていた方が性に合っている)
そこに兄の舞也(まいや)が話しかける。
舞也
「蓮也、相変わらずだな」
蓮也
「兄さん、私は兄さんのように愛想を振りまくことは苦手で」
舞也
「わかっている。無理にとは言わない。だが、この人たちもこの国の大切な民だ。民と交流することも王族の仕事であり、国を良くすることの一つだ。それにお前は、その相から古代の蓮也王の生まれ変わりだともされている。本来、次期王はお前がなるべきかと私は考えている」
蓮也
「私は国王には向きません。それに、その話は伝説でしょう」
「もし私が王になるとわかったら出家(しゅっけ)しますよ」
「まあ、第一王子が国王を継承すると国法で決まっているので安心ですが」
ロータジア国では、ある時期に跡目争いが起こったことから、第一王子が国王を継承するようになったらしい。
舞也
「お前に出家されたら困る。この国は、まだ人材が不足している」
「だから、この国のために働いてほしい」
蓮也
「大丈夫です。必ずこの国のために働き、兄さんをお守りしますよ」
蓮也の兄・舞也は人望厚く、智勇に優れていたため、次期国王への呼び声が高かった。蓮也はこの兄の事を心から尊敬していた。
舞也がその場から立ち去り、再び蓮也は一人夜風に吹かれる。
蓮也に話しかけようとする者はいない。なぜなら、話しかけても蓮也は心ここに在らずの返事しかしないためである。それは前述したように、蓮也はこの舞踏会自体にウンザリしているからである。
と、そこに一人の美しい女性が蓮也に話しかける。
名前をエウリディーチェと言い、富豪の娘である。父親が貴族株を買うことで貴族の地位となったばかりなので、基本的な貴族の知識はない。
エウリディーチェ
「お一人ですか?具合が悪いのですか?」
蓮也
「具合が悪そうに見えるか?」
エウリディーチェ
「何か思い悩んだようにもされていますし、どうされたのかなと思いまして」
蓮也
「あなたには関係のないことだ」
エウリディーチェ
「私はですね、この宇宙は全て繋がっていると思うんです。この美しい星々を見ていると、それぞれの瞬きが共鳴しあっていて、私たちの心もその共鳴に同調し合っているのかなと感じますの。そして、皆さんが楽しんでいるのに貴方様が悲しい表情をされていると、つい心配でお声をかけたくなってしまい」
蓮也
「私に話しかけるのに宇宙の遠い星々を持ち出すとは、変わったお方だ」
「しかし、ここの者たちは一見美しく着飾っているが、中身はそうではない。貴方が言うような、その星々と共鳴するようなものではないであろう」
エウリディーチェ
「私はどのような人にも、一人一人、美しい魂の輝きがあるのを信じていますの」
蓮也
「ならば、悪人にも罪人にも、その魂の輝きがあると言うのか?」
エウリディーチェ
「はい、ありますとも。ですから、どのような人にも幸せを願うことにしていますの」
蓮也
「悪人や罪人にも幸せを願うというのか?」
エウリディーチェ
「はい。悪人も罪人も、もし幸せであるならば、悪事や罪は犯さないはずです。ですから悪人や罪人が幸せになることが、よい世の中をつくることだと思っていますの」
「そして、生きとし生ける全てのものが幸せでありますように、と祈るの」
「始祖女神・木花咲耶姫様の心の灯火やまつらいの精神にも通じると思います」
「私は、始祖女神様をとても尊敬しています」
【楽曲『小さな光-Mentalightness-』】
https://youtu.be/6yZW0qMabO0
蓮也
「木花咲耶姫か・・・」
「なるほど、あなたが言うことは頭では理解はできる」
これが蓮也とエウリディーチェの言葉を交わした最初であった。
このことを蓮也は後年、聖典『ロータスートラ』に書き残している。
エウリディーチェ
「ですから、そんなふうに見ていただけたらと思いますわ」
蓮也
「心に留めておこう」
エウリディーチェ
「お話ができてよかったですわ。それでは、私はこれで」
蓮也
「名前は何と言う?」
エウリディーチェ
「名前も名乗らずに失礼しました。私はエウリディーチェ と申します。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
蓮也
「私は蓮也だ」
エウリディーチェ
「えっと・・・、確か第二王子の・・・蓮也様・・・!これは大変失礼致しました!ご無礼をお許しください・・・」
蓮也
「いや、気にしなくていい。貴方の言われることももっともだ。私も学びとなったところがある。感謝する」
蓮也は今まで舞踏会で殆ど話すことはなかったが、この時は違った。
そして、なぜなのかは、このときはわからなかった。
舞踏会へは貴族の娘たちが出席するが、大抵は政略的なことが関係し、娘たちは王族・貴族の顔と名前を覚えるのが仕事みたいなものであるが、エウリディーチェはそうしたところがなかった。そうしたところが好感が持てたのかもしれない。
これが蓮也とエウリディーチェの最初の出会いであった。
0
お読みいただきありがとうございました。お気に入り登録して応援いただけると嬉しいです☆
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

竜王の花嫁は番じゃない。
豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」
シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。
──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる