生きる事、華の如く

静風

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人生の章

1.人生の意味

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時は2040年、AIの能力は既に人間を超えており、技術的特異点は人類が想定していたよりも早く訪れた。
先進国では、人口減少により高齢化社会が加速したため、AIイノベーションによって打開しようとしたからである。
人間の仕事が汎用性AIに奪われるという懸念もあったが、徐々にベーシックインカムに移行することで、そうした問題を克服しつつあった。
段階的ベーシックインカムによって、人々は時間の余裕ができ、音楽が好きな者は音楽の道へ、スポーツが得意な者はスポーツの道へと、誰もが自己実現へ一歩を踏み出しやすくなった。
そして、社会貢献活動する者も多くなった。
一方、時間的な余裕は人間に創造性を与えるため、ビジネスも加速した。ベーシックインカムになると、人は働かなくなると思われていたが、結果は逆であった。

一方で、汎用性AIにできないことは何かと考えるようになり、

「人間とは何か?」
「人生とは何か?」

と言う抽象的なことを考える者も増えた。
そうしたことから、教育の分野では人生学が導入され、大学では、人生学に特化したライフイノベーション学科が創設された。

この物語の主人公・理夢華も、そうした大学に通う一人であった。

理夢華のテーマ曲:『ドリームジャーニー~人は誰でも夢の旅人~』
https://youtu.be/VWYK_JOfg-4

LIM大学ライフイノベーション学部2年、理夢華20歳の夏の帰り道。

理夢華
「あー、もう暑いわね」
「ねぇ、奈美~。何で私、こんな大学選んじゃったのかな」
奈美
「理夢華は頭良すぎるのよ。学校で習ったことじゃ満足しないのね」
「それに、容姿もいいから学校の男子からモテモテで羨ましいわ」
理夢華
「ピンと来る人いないのよね」
「そういうのあまり興味ないし」
奈美
「そろそろ、私たちも就職を考えないといけないじゃない?段階的ベーシックインカムにあぐらをかいてはおれないわ」
「理夢華は将来何になるの?理夢華なら頭いいから、学者でもSEでも何でもなれそうね」
「綺麗だからモデルもいけると思うし、ホント羨ましいわ」
理夢華
「そうねぇ、まだわかんないわ」
「何となく、まだ決めたくないの」
「そういう奈美は何を目指しているの?」
奈美
「んー、まだわかんないけど、一応、教員になりたいかなと」
理夢華
「なるほど、合ってると思うわ。奈美ならいい教師にきっとなれると思う」
奈美
「そう?ありがとう」
「・・・あれ?」

その時、急に雲行きが変わり、激しく雨が降って来た。

奈美
「やだ、今日雨降るの~?傘持って来てないわ」
理夢華
「私もよ。取り敢えず、あそこで雨宿りしましょう」

二人は急いで雨宿りをすることにした。

理夢華
「あれ、こんなところあったかしら?」
奈美
「私も気づかなかったわ」
理夢華
「何、この古びた看板」
「人生道場・・・?臥麟庵・・・?」

すると中から不思議な雰囲気のする老人が現れた。
理夢華は、この老人が只者ではないと直感した。

臥麟
「おゃおゃ、雨に降られましたな」
奈美
「すみません、雨宿りさせてもらってます」
臥麟
「よいよい」
「急に降って来たからのう」
「まぁ、そこではなんじゃて、雨が止むまで、よかったらお上がりなされ」

二人は顔を見合わせた。
しばらくして二人は入ることにした。
理夢華も奈美も武術の心得があったので、何かあっても大丈夫だろうと思ったのと、二人とも好奇心旺盛なところがあるため、であったのかもしれない。

中は古びた日本家屋であり、畳に茶托があり、座布団が敷かれていた。
二人は博物館を見るように部屋を見ていた。

理夢華
「昔、昭和って時代があったらしいけど、おじいさん、昭和生まれですか?」
臥麟
「そうじゃ、あの頃はいい時代じゃったのぅ。で、なかなか生活様式を変える気にもならんもんでな」
奈美
「素敵だと思うわ、こういうのも」
臥麟
「そうなのじゃ、人生とは!」
「変わることと、変わらないことを考えることなり!」

突然、老人の何かのスイッチが入ってしまったかも、と思い二人は顔を見合わせた。

奈美
「おじいさんは人生相談をされているのですか?」
臥麟
「よーくぞ聞いてくれた!人生相談もしとるが、本職は人生哲学じゃ!」
理夢華
「人生哲学?」
臥麟
「そうじゃ。人間がなぜ存在するか、人間が何のために生きるか、そして、それだけではなく、宇宙の真理までをも追求しておる!」
理夢華
「へぇー、おじいさん、何かよくわかんないけど、スゴイわね」
「けど、それを聴くとお金、すっごく取られるんでしょ?」
臥麟
「若い娘さんにそんなことはせん。ワシのクライエントは大企業の経営者や各国の要人クラスばかりじゃ。そこからたんまりと報酬は受け取っておる!」
奈美
「そうなんですかー」

再び、二人は顔を見合わせた。
どこまで、この老人の言っていることが本当なのだろうか、と思っていたかもしれない。そんな表情である。

臥麟
「ワシも若い頃は苦労してのぅ。だから学生からはお金はとらんのじゃ。まあ、年々減ったとは言え、わずかな年金も入ってくるし、ベーシックインカムの世の中でもあるし、余生は、若い者の役に立ちたいと思うてのぅ」
理夢華
「それを聞いて安心したわ。じゃあ、聞いてもいいの?」
臥麟
「何でも聴くが良い」

臥麟は自信満々に答える。

理夢華
「じゃあ、さっきおじいさんが言ってたことなんだけど、人間はなぜ生きるの?何のために生きるの?」
奈美
「それ、私も小さい頃、考えたことあるんだけど、お母さんに聞いてもわからないって言われたし、考えてもわからないから、考えるのをやめて蓋しちゃったわ」
臥麟
「よかろう」
「人間が生きるということは・・・」
理夢華
「生きるということは・・・?」

理夢華は両手に力を入れて、少し身を乗り出す。
奈美は興味津々に見つめる。
臥麟は間をおいてから勢いよく口を開く。

臥麟
「事を為すためじゃ!」
理夢華
「それって・・・」
奈美
「・・・・・・・」
臥麟
「どうじゃ?驚いたか?娘さん」
理夢華
「あのねー、それって昭和の有名な小説で『竜○がゆく』の一節でしょ?」
臥麟
「おや、娘さん、しっかり勉強しとるのぅ」
「ほっほっほ」
「しっとったか!」
「それはよいぞ、よいぞ」
理夢華
「おじいさん、よいぞ、よいぞ、じゃなくって」

理夢華は、先ほどは老人は只者ではないと思っていたが、ただの昭和好きな老人かも、と思えてきた。

臥麟
「まあ、人間には機能・役割・使命というものがあり、それを解放することが人生の一つ目的じゃわい」
理夢華
「なるほど、人間の機能が発揮された時、人間は快を得る、心理学者・カール・ビューラーが言う「機能快」ってのね」
臥麟
「娘さん、よーしっとるのぅ」
「まあ、事に当たりつつ人間は自己を錬磨させる、それを・・・」
奈美
「王陽明の「事上磨錬」ね!」
臥麟
「そ、それじゃて・・・」
理夢華
「なるほど、人生は成長するためにある、ってのもしっくりくるわ」
臥麟
「全ての動物を見よ。進化という道を辿っておる」
理夢華
「けど、進化って環境への適合なんじゃないの?」
臥麟
「それも正しい答えじゃ。しかし、単細胞生命から多細胞生命へと変化する流れを見よ。明らかに生命情報は複雑化しておる」
理夢華
「確かにそうね」
臥麟
「そして、その複雑な情報を秩序化しようとしておる」
奈美
「なるほど」
臥麟
「そりゃ、生命の情報が複雑化すれば、秩序化するのも困難じゃて。悩みや苦しみも増える。生命情報が単純であれば、秩序化するのも単純じゃ。だけど、選択肢は少ないだろうのぅ」
理夢華
「その複雑化した生命情報が無秩序化したり、そこに矛盾が生じるのが「感情複合」つまり「コンプレックス」ってわけね」
臥麟
「最近の娘さんは何でもよーしっとるのぅ」
奈美
「つまり人生ってのは、自己情報の複雑化と秩序化にあるわけね」
「ちょっと表現が難しいわね」
臥麟
「簡単に言うと、人生とは学習なり、じゃ」
「我々人間は、学ぶために、この世に生を受けるのじゃ」
理夢華
「専門的には強化学習ってのね」
「確かに、進化とは強化学習することだものね」
臥麟
「小難しいことを知っとるのぅ、まあ、そういうことじゃ」
理夢華
「確かに、全ての生命が強化学習するってのはわかるわ。生物の生きる一つの方向性として。けど、「人生」って言うからには、人間特有の生きる意味があるわけでしょ?」
奈美
「さっきおじいさんが言っていた機能・役割・使命を果たすこと、ってのが人間特有の生きる意味なのかしら?」
臥麟
「そういうことじゃ」
「そして、この機能・役割・使命とは何かという話になーる!」
奈美
「それは何なんですか?」
臥麟
「おっ、雨が止んだぞぃ」
「話はながーくなるので、また今度じゃ。興味があれば、また来るがよいぞ」
理夢華
「わかったわ、また来ます」
奈美
「雨宿りとご教授、ありがとうございました」

そう言って、二人は帰ることにした。

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