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いまはペット。

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「何考えてるのよあなた⁉ あなた王国の光の御子でしょ!」

 さすがに声を荒げて叱りつけるリエラ。
 アネットは冷静に返した。

「いまはペット」
「そうだけど!」

 なんでこんなにさっくり、現実を受け入れているのだ。
 というか、なんだ、「あーん」ってのは、「あーん」って!

 ……という具合に錯乱するリエラに向かって、アネットは「さじ」と言った。

「匙⁉ これがどうしたっていうのよ! 自分でこれ使ってたべればいいでしょ⁉」
「ペットだから、道具は使えない」
「なんで自分からそういうこというのよ⁉」

 実のところをいうと、見るからに可憐で美しいアネットに道具を使わずに皿から食べさせる、というのは当初からリエラが予定していたことだった。

 彼女の予想というか、今となっては願望でしかなかったが、アネットは服をはがされて裸で皿の中身に顔を突っ込んで食べるという、禽獣のような食べ方を強制させられることによって、ペットの身に堕ちたことを解らせられて、嘆き苦しむ――
 だいたいそういう感じにするつもりだった。

 そういう背徳的な光景を眺めながら悦に入って飲む酒は、さぞや美味かろう、とわざわざ城の酒蔵から最高級のものをだして抜栓しておいたのだ。そろそろ空気も入っていい感じになっている。

 アネットは言った。

「だけどご主人さまはとても聡明なかた。使わない匙を用意されたりしない」
「え――――――」

 まったくもって、なんの怯えも疑いも感じさせない、澄み切ったまなざしを向けられ、リエラは言葉を失った。

「きっと、それで手ずから哀れなわたしに、あーんして食べさせてくださるのだろうと」
「どうしてそうなるのよ⁉」
「あと、ご主人さま、餌をあげるのお好きですし」
「なんの話よ!」
「図書館に住んでた野良ちゃん、」
「なんであなたそのことを……」
「納屋に巣を作ってた小鳥ちゃんにも、」
「ねえ! どうして⁉」
「あ、わたしもあの子たちみたいに、裸にならないと。服を着た動物なんていないし」
「私の質問に答えてよ⁉ っていうか、なんでそんな進んで隷属しようするのよ!」

 ドレスの背に手を伸ばしかけていたアネットは、リエラのその言葉に指を止め、首を傾げた。

「ご主人さまのペットにさせていただいたのに、逆らうだなんて」
「あなたに人としての尊厳とかないの⁉ 光の御子としての矜持は⁉」

 つい先刻まで、みっちりじっくり踏みにじるつもりだったものを持ち出すリエラ。
 アネットはそれを聞き。

「えー…………」
「なんでそんな嫌そうに言うわけ⁉」
「ご主人さま、いじわるなこというもの」
「私、いじわるなこと言った⁉」
「ペットにそんげんやきょうじをとうなんて」
「~~~~~~ッッッッ」

 とっさに返す言葉のなくなったリエラの前で、アネットは再び背中に手を伸ばす。このままほっといたら、ここで全裸になるつもりなのは明白だった。

「ああ――――ッ もう!」

 頭をかきむしったリエラは、「脱がなくていいわよ!」と叫んだ。
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