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ここでまさかの?

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「ってほんとに寝るやつが居るか!」
「うわ!」

 俺はベッドから転がり落ちる。そこには姉が俺の布団を掴んで強制的に捲っていた。なんてことをするんだ。これで布団が破れたりしたらどうする。

「何でこんなことがあってアンタは普通に寝られるの。おかしいでしょ」
「だって眠いんだもん。それに寝ないと明日起きられないよ。学校もいけなくなるし、寝ないのは良くないよ?肌にも悪いよ?」
「知ってるわよ!それでも時と場合ってものがあるでしょうが!アンタは線路の上でも寝るの!?」
「線路の上で寝る訳ないだろ。あんな硬くてて寝にくい場所で誰が眠るのさ」
「アンタならやりそうって話よ」
「そう。それで話は終わり?これでもう寝てもいい?布団返して」

 もう頭の半分は眠っているのだ。それを邪魔されて俺としても気分が悪い。人の睡眠を邪魔する事は死刑を求刑出来るようにして欲しい。それほどに重い罪だと思う。

「だから話を聞きに行くって言ったでしょうが!」
「姉ちゃんだけで聞いて来ればいいじゃんか。俺まで巻き込まないで」
「怖いじゃない。それに何で私だけ知ってアンタは知らんぷりが出来るのよ」
「俺は怖くない。以上」
「はぁ、そう言うんなら考えがあるわ。かあさーん!ここで話を聞かせて!」
「何でここで!?」

 この馬鹿姉め、何でこんなところでそんなことを言い出すんだ。他に出来る場所なんて何処でだってあるだろうが。いや、あくまでも俺に聞かせるつもりか。しかし、それなら俺にだって考えがある。

 俺は渋々と起き上がると、姉が満足そうに頷く。

「わかればいいのよ。さ、リビングに行くわよ」

 俺は姉を無視して机の中から高級耳栓とアイマスクを取り出して次はクローゼットに。中からタオルケットを出してベッドに戻る。そして布団はないがタオルケットで何とか寒さを凌ぎ、母と姉の会話は耳栓で、電気もつけっぱなしにするだろうからアイマスクでカバー。これでこの部屋で話し合いをされても問題はない。

「ほんとに寝る気なのね」
「・・・」

 俺は特に返事も返さずにベッドに横たわる。流石にこの季節だとちょっと寒いがこのままで居れば何とかなるだろう。俺は気にせずに寝る体勢になった。

 耳栓をしようとしたところで母が入ってくる。そして俺を見るなりそのタオルケットを剥ぎ取った。どうしよう。もう予備は屋根裏に仕舞ってしまった。それを取りに行くのは面倒くさすぎる。

「いいから聞きなさい。少し聞くだけでいいから」
「ほんとにすぐ?」
「1分だけよ。それが終わったら寝てもいいわ」
「・・・分かった」

 1分でいいなら簡単だ。1分だけ聞いてそれ以降はまた今度聞き直せばいい。

「それじゃあリビングに行くわよ」
「分かった」
「母さん。いいの?」
「ええ、いいわよ」

 それから3人で移動して食事の時のようなそれぞれの席に座る。

 俺の正面に母、右隣に姉という感じだ。

 そして母は注目を集めるように咳を一つして話始めた。

「貴方達に私と父さんは言っていなかったことがあるわ。それは私たちがとある組織に所属していること。そしてその組織の活動がさっきの彼の状態ととても関係が深いということよ。そして貴方ともね」
「俺?」

 母の視線はばっちりと俺に向かっている。だが俺にそんな心当たりのあることなんて何もない。

「気付かなくてもしょうがないものよ。貴方がとても特別な体質だから。そしてそれは普通には分からない」
「普通には分からない?」

 何か特別な能力でもあるって言うのか?そんなのは要らないからゆっくり寝られる時間が欲しい。

「その能力とは」
「「能力とは?」」
「あ、そろそろ一分ね。さ、帰っていいわよ」
「え、このタイミングでそれは酷くない?」
「でもこれから話そうとするとそれなりに長くなるわ。だからここで止めて寝ておく方が賢明よ。あ、でももし寝ちゃったら体質が・・・」
「そこで止めないでってば!」

 クソ、どうしようか。本当はもう寝たい。今すぐにでも寝たいが母の話しの巧みさが俺の心を掴んで離さない。俺の体質って一体どうなってるんだ。

「分かったよ。聞いてく、聞いてくよ」
「そう、それじゃあその後の話しだけど、貴方は睡眠時に特殊なフェロモンを出すの。そしてそれが人に影響を与えることがある。いい影響だったり、悪い影響だったりそれは人によって様々だけど。大抵の人には影響を与えるわ」

 フェロモンを出すのって俺が原因だったの?マジかよ。

「それってどんな影響を与えるの?」
「それはその匂いを嗅いだものの欲望を解放させるものなのよ」
「それって悪い方向に行くもんじゃないの?大丈夫なの?」
「欲望は何も悪いことばかりじゃないわ。現に貴方の友人等でも夢などに向かって頑張っていた人達がいるでしょ?その夢なども欲望といって違わないのと一緒よ」
「そう言われたらそうだけど」
「それでさっきの彼は貴方と友人と言ったわね。その影響を色濃く受けてしまったんだと思う。授業中に寝たりしてなかった?」

 やばい。なんか違う事で纏めて怒られそうだ。

「してないって。ちょっとうたた寝をしたくらいで、それくらいなら誰にでもあるでしょ?」
「まあいいでしょう。兎に角、そういう理由で彼はおかしくなってしまったのよ。そして貴方の体質も分かったわね」
「え、ちょっと待って」

 そこに姉が割って入ってくる。今は俺の大事な話をしている時だから後にして欲しい。

「どうしましたの?」
「っていうことはだよ。私があの変態に襲われそうになったのはこいつのせいだっていうの!?」

 こいつなんて言うなよ、実の弟に酷いじゃないか。

「そんなこと俺だって知らなかったし。どうしようもなくない?それにどうやって父さんと母さんが分かるんだよ。体質なんて簡単に分かるものじゃないって」
「それがさっきの話しに繋がるのよ。私と父さんは元々特別な組織で働いていた。その組織の名前は超常現象観測協会略してゾウよ」
「そこだけとって略したの?なんか意味変わってこない?」
「これはその組織で正式に決められた略称。この略称を決めるために12の国が滅んだとされるわ」
「その名前を決める為だけにそんなことに!?その組織って実は暇なの!?」

 名前決める為に国が滅びるとか有り得んだろ。どうしてそんなことになるんだよ。

「そのことはおいておきなさい。私の口からはとても言えないわ」

 母は目を瞑って口を押さえている。それだけ辛い事だったのかとなる所だが、その議題が略称をつけるという話しならば同情は出来ない。

「それで、そのゾウってのは何をしてるの?」
「良く聞いてくれたわね。私たちは貴方のような超常現象を引き起こす存在を保護、隔離しているわ。そしてそれを平和的に利用しようともしているの」
「凄い組織なんだね」
「そうね、とはいっても私たちはそれなりの年だったし、もう引退して辞めたつもりだった。貴方達もいて危険な任務で命を落とす可能性もないしね。それでもそれを許してくれない物達もいた。それが私たちが捕まえた過去の超常現象発生者よ。そいつは人に呪いを与える。その呪いを受けると超常現象を発生させる存在になってしまう。奴は捕まる間際にその呪いを全力でかけた。その時は一命を取り留めて問題はないと診断されていたけど、貴方達が生まれてから呪いがかかっていることが分かった」
「その呪いってのが」
「ええ、貴方の超常現象である睡眠時フェロモン症候群よ」
「その安直な名前は何とかならないの?真面目な話をしてるんだよね?」
「当然よ。その名前を決めるために33の国が滅んだわ」
「それは呪われてるわ!この名前決めるだけでそれだけ国が滅んだんでしょ?怖いよ!」

 この名前を決めるだけで国が滅ぶとか一体どんな組織なんだろうか。近づきたくないんだけど。

「その呪いってさ。私にもあるの?」

 姉が真剣な顔で母を見つめている。今はもう滅んだ国よりも今の自分の方が大事なんだろう。俺だってそうだし自然な思いだ。

「勿論あるわ。でも、貴方のは何なのか分かっていない。組織にいる対象の発生させる超常現象を理解する人がいるんだけど、その人でも分からないと言われたのよ」
「そんな、それじゃあ私はどうしたら」
「一つはこのまま何も起きないと祈って一般生活を続ける。だけどその時に何かあったら・・・悲しいけど拘束されてしまう。それは相手がどんな人でも同じ処置をされるわ。もう一つが組織に加入して、その仕事をやりながら貴方の超常現象を勉強していく道。それか・・・これはあんまりおススメしないけど、組織の手の届かない何処かを目指して旅に行くかってことね。もし何かあった時に組織は助けてくれないし、拘束されればいい方で処分されるかもしれないし、変な奴に捕まって実験材料にされるかもしれない」
「その選択肢しかないの?」
「ええ、今のままの生活を続けて超常現象から逃れる術はない。超常現象が失われるときは死ぬときだけよ」
「そんな・・・」
「その超常現象だけを消す超常現象の持ち主とかって居ないのか?」
「居たらとっくに頼んでいるわ」
「そうだよな・・・」
「それにちゃんと使い方を分かっていれば問題ないものも結構あるのよ?」
「そうなの?」
「ええ、私たちはそう言った物は持っていないけど、仲間は持っていたわ。例えば火を見ると水を生み出して消そうとするとかね」
「何なのその超常現象・・・ってこの言い方略し方ないの?長すぎるんだけど」
「そうね。超常現象、英語で言うとparanormal phenomenaというわ。それからとってP.Pと呼ばれている」
「P.P・・・」
「そうよ、そしてそれを使って人々の平和と幸せを守っているの」

 姉は少し悩んでいたようだが取りあえずの結論を出したのか母に向き直っている。

「それってさ、もう少し考えてもいいの?」
「ええ、まだ正確には分かっていないから大丈夫よ。でももしもP.Pが発生してそれが人に被害を与えた時、最初は拘束されるかもしれないから気をつけなさい」
「どうやって気を付ければいいのよ」
「何か身に覚えのない現象が起きたら自分のせいかもと思いなさい。そして私たちに助けを求めてくれれば何か手伝えるかもしれない。いい?」
「分かった」
「話はそれで終わり?」
「ええ、長くなっちゃったけどそれだけよ。おやすみなさい」
「お休み」
「お休みなさい・・・」

 俺と姉はそれぞれ自分の部屋に入って行く。姉の表情は暗く足取りは重い。

 俺はと言えば話しの途中から眠たくなったのもあってかなり曖昧に聞いていたような気がする。そんな眠たさだったから俺は今日の復習をすることなく眠りに落ちた。


 その眠りは深く、起きたのは母が起こしてくれるまで続いた。

「起きなさい、ご飯できてるわよ。ちゃんと学校はいかないといけないでしょ」
「後3時間・・・」
「何時まで寝てるつもりなのよ!」
「ううーん」
「それじゃあ次はこうよ」

 シャッと音がして俺の顔に光が当たる。母はきっとカーテンを開けて光を入れたのだと分かった。これが正直一番効く。これを浴びせられたら起きるしかない。

「はぁ~ぁ。おはよう」
「はい、おはよう。それじゃあ準備しなさい」

 母は霞む姿のまま俺の部屋から出て行こうとする。俺は昨日のことが一つ疑問に思って母に問いかける。

「母さん」
「何?」

 母が足を止めて振り返る。

「P.Pってさ、母さんたちは効かないの?俺が寝てる時側にいたよね?」

 もしかしてそれに対抗する手段んがあるのなら聞いておけばいいかもしれない。というかそれで俺のP.Pについては問題が無くなるといってもいい。

「ねぇ」
「何?」
「P.Pって何?」
「え・・・?」

Fin
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