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何でここで?

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 それから更に歩いていくとなぜか父が街灯から離れた暗い所で待っていた。

「何してるの?」
「何、お前が何処に行くのか不安でな。こんな暗い日だ。俺が一緒に行ってやろうと思って」
「暗い日も何も今は夜だからそりゃ暗いでしょ。何を言ってるのさ」

 暗くない夜は夜じゃない。

「それもそうか。それで何処に行くんだ?もしかして警察に行くなんてことはないよな?」
「な訳ないでしょ。本を買いに行くだけだよ。面倒だからついてこないで。バイト先においてきただけだから」
「そうかそうか、そんな理由だったのか。大丈夫。俺が買ってやろう。だから一緒に行くぞ」
「話聞いてた?それが嫌だから一人で行くって」
「細かいことは気にするな。一緒に行ってやるだけだから」
「それが嫌って言ってるのに、どうしちゃったのさ」

 こんな言っていることの分からない父は初めてだ。いつもは真面目だが話すことは分かりやすくてとっても参考になるのにどうしてそんなことをいうようになったんだろうか。

「それは言えん。だけどお前をちゃんと無事に連れ帰ってこいと言われてな」
「誰に?」
「それが言えんから困っている」
「なんなのさ」

 何なんだこの人は。いや、待てよ?もしかして何か起きていて、俺にそのメッセージを伝えようとしている?母か姉が人質に取られている?いやいや、もしそうだとしたらこんなハッキリと言えないとか言わないだろ。ということは・・・。母さんか?母さんが父さんに何か指示を出していて、それでこんなことになっているのではないだろうか?

 流石にそんなことはない。と思えるほど頭は楽観的ではない。だってさっきの母の様子を見ていたらそれくらいのことをやっていてもおかしくないと思えるんだもの。使えるからって父を顎で使うのはどうなのかと思うが。

「それじゃあ言えないにしても何でついてくるの?別にその必要はないでしょ?」
「そんなことはない。俺がお前についていく理由なんて親子で心配だからって理由以上に必要な物があると思うか?」
「ああそう、分かった。一緒に来てもいいからちょっと離れて歩いて」
「仕方ないな」

 こうしてなんだかグダグダになりつつも俺はバイト先に来た。すると予想通りに店長は未だに残って仕事をしていた。カウンターで自分の仕事をしながらお客さんがきたら対応をする感じだ。

 近づくと店長は俺に気が付いて声をかけてくる。

「あれ?どうしたの?忘れ物?」
「そんな感じです」

 俺はカウンターの中に入り、お客さんに注文とかで取り寄せた本を貯めて置く場所に向かって自分が買う予定だった本を持って店長の所へ行く。

「これを買うのかい?」
「はい、会計をお願いします」
「はい、それじゃあ割引してっと」

 この店では本を自店舗で買うと10パーセント値引きをしてくれる。それがここでバイトをしている事のメリットだ。寝具屋というか家具店でも同様のサービスをやっているんだかったらそっちに行ったかもしれない。ただそちらに行ったとするとバイトをサボって毎日高級寝具で寝る可能性があるから悩ましいものだ。

 俺はそれから買い物をして店長に別れを告げる。

「それではこれで、お仕事頑張ってください」
「ねえ、あそこにいる人って知り合い?」
「?」

 店長に指された方を見ると、そこには父が物凄い顔をして俺のことを見つめていた。怖い。

「いえ、知らない人です」
「そうかい、もしあのままな用だったら通報した方が良さそうだよね?」
「そうですね。その方がいいと思います」
「ありがとう。またよろしくね」
「はい。失礼します」

 俺は店長と別れてサッサと自分の家に戻る。店から出たタイミングで父に話しかけられた。

「おい、なんだあの男は」
「あの男って?」
「さっきお前が話してた男の事だ」
「なんだって、この店の店長だけど」
「俺を不審者みたいな目で見やがって大丈夫なのか?」
「そりゃ不審者みたいな視線でこっちを見てたら変に思われるよ。俺だって不審者だと思ったもん」
「そんなにか」
「そんなに」

 あんな人が前から歩いてきたら例えどれだけ遠回りになろうともそいつとすれ違う事さえしたくない。そんな風に思わせてくれる顔だった。父と知らなかったら俺が即座に警察に通報していたところだ。

「別に普通の顔をしているつもりだったんだがな。仕事場でも特に言われた事はないし」

 怖すぎで話しかけられないだけでは?と思わずにはいられなかった。

 しかし、それをいう勇気は俺には無かった。

 家に向かって歩き始めて5分程経った頃、家まで残り10分となった時になぜか母が待っていた。

「母さん。何してるの?」
「何って、貴方と父さんが出て行ったから心配でね」
「心配って俺が出てった時に風呂に入ってなかった?」
「風呂から上がったら貴方達の靴がないことに気が付いたのよ。心配して追いかけてきたんだから」
「そ、そうなんだ」

 普通靴とかって見るかな?俺の想像が間違ってなければ母は・・・。

「そうだったのか。心配かけたな母さん。もう用事は終わったらしいから帰るぞ」
「あら?そうだったの?心配して損しちゃったわ。それじゃあ帰りましょうか」

 父がそれだけ言うと母も納得したようで直ぐに足を家に向ける。ていうか俺が夜に家を出ただけで追いかけてくるほどなのか?これでも高校生だぞ?流石に心配のし過ぎじゃないか。

 てか家には姉が一人だけか。・・・その方がいいのかもしれない。誰の視線も感じずにゆっくり出来るだろうから。

 それから歩いて帰っていると前方から誰か走って来る。家までは残り5分くらいの所だ。ジャージを着てこんな時間に熱心だなと思っているとその姿には見覚えがある。その人が近づいてきてよくよく見てみると姉ではないか。

「姉ちゃん!?」

 驚いて大きな声が出てしまった。その声に父と母も姉を見つめている。

「皆!何処に行ってたの!?」

 姉が走る速度を上げて俺達に駆け寄ってくる。

「どうしたの?何かあった?」
「何かあった?じゃないわよ!なんか、家の外でカメラを持って私の部屋を覗いてる奴がいたのよ!」

 俺は思わず父を睨みつける。こんなのは父のせいに違いない。こんなに怖がらせるなんて最低だ。

 しかし父は俺じゃないとでもいうように首を振っている。そして弁明する為か姉に事情を聞く。

「それは何分くらい前の事だ?たった今か?」
「そうに決まってるでしょ!じゃなきゃこんな急いで逃げてこないわよ!」
「ていうことは今は家に誰かいるかもしれないってことか?」
「俺達が誰もいないのに?」
「「「「・・・・・・」」」」

 沈黙がその場を支配した。

「「「「戻らなきゃ!」」」」
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