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友人とバイト

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 キーンコーンカーンコーン

 俺は時間ギリギリに教室に入ることが出来た。とはいえ、まだ授業の準備は始められたばかりの為、教室も暗くはない。俺は一番集中して授業を受けられるようにして一番前の席を陣取った。そうすることによって教師からの視線の圧力と、近くで見ることによる大きな音での眠りを阻害する構えだ。これで何とか寝ずに済ませて、今夜も素晴らしい睡眠を実現するのだ。


 それからの1時間はあっと言う間だった。先生は何をとち狂ったか一番後ろの席に陣取り、プロジェクターが新しくなったとかで音は後ろの方から出る為ほとんど俺の所には届かなかった。その結果どうなったかは火を見るより明らかだろう。

 俺は寝た。そう、完膚なきまでに寝た。この教室で起きていた時間は5分もないんじゃなかろうか。そのせいで感想に何を書いていいかが全く分からない。

 その授業を終わって教室へと変える。感想には最初のタイトルだけは見ておいたのでそれを参考にして、それっぽい適当なことを適当に書いておいた。なんとなくで書いたけど大体の内容は想像通りだと思うので問題ないと思う。

 教室に帰った俺は自分の席に着く。すると前の席に座っている友人が喋りかけてきた。

「お前さっきどこに行ってたんだよ。俺らは後ろで集まって寝ようとしてたら音は後ろから出煩いし、先生は近くにいるしで散々だったんだぜ?最悪だ」
「俺が知るか。俺は逆に寝ないように前に行ったら、音は小さいし先生は居ないしでばっちり寝ちまったよ。最悪だ」

 こいつは羨ましい。この時間に寝なくてすんで良かったなんて、きっと今夜の睡眠は最高のモノになるのだろう。羨ましい。といっている場合じゃない。俺としても是非そうなる様にしなければ。

「寝れたのならいいじゃねえか。俺は最近寝不足だからこんな時にでも寝ておきたかったんだよ」
「お前、頭の中身をどこかに置き忘れてきたのか?もしかして子宮の中にでも忘れて来た可能性があるぞ。今日帰ったらちょっと取り出させてもらうといいぞ」
「いきなりだなおい。どうしたらそんなことになるんだよ」
「そりゃそうだろ。睡眠時間を削るとか頭の残念な奴が、人生の損失を享受すると決めた人にしか出来ないことだろ」

 睡眠時間以上に大事な時間などない。最悪食事ですら無くてもいいくらいだ。本当に時間がないならおむつでも履いて布団に潜るといい。

「そりゃお前だけだよ。俺にとっては漫画を描くことの方が大事だからな。睡眠時間よりも漫画を書いてるのが最高に楽しい。それを読んでくれた人が喜んでるのが更に楽しいんだよ」
「そりゃ難儀な性格だな」
「お前ほどでもないさ。だって考えてみろよ。俺はこうやって漫画を描いて稼ぎまくれば、今のうちに多少睡眠時間を削ったとしても、将来は印税だけで食っていけるんだぜ?それ以降はずっと好きなタイミングで寝て起きてを繰り返せる。そう考えたら問題はないどころか余計いいんじゃないか?」
「・・・」

 俺は衝撃に震えていた。確かに、奴の言うことも一理ある。そうか、俺は今まで今日一日の睡眠の事についてしか考えていなかった。でもそうか、俺の将来はまだまだ続くんだ。となると将来十分に好きなように寝られるように、今のうちから稼げる方法について考える。確かに。それは必須だ。その可能性については今まで考えたことが無かった。こいつは天才かと思う。

「お前、天才か?」
「それほどだな。将来はワ〇ピースとか鬼滅〇刃を超えるような漫画を書いてやるぜ」
「なるほど、頑張れ」
「それじゃあお前はどうするんだ?コアラにでも就職するか?」
「コアラに転生出来る方法があるのなら幾らでもやってやるよ。でもそれは出来ないからな。どうしようか」
「まぁ、まだ高校生になったばっかりなんだからよ。多少考える時間はあるだろうぜ」
「そうだな、寝ながら考えるとしよう」
「ぶれねえな」

 そういう彼は笑っていた。

 その彼の笑顔と同時にチャイムが鳴り、教師がクラスに入ってくる。本日最後の授業の為、皆もやる気だ。帰る準備のためにアップをしている連中もいる。

 俺は当然家に帰る。俺のやりたいことは学校には大してないのだから。

 家に帰ってから俺は着替えてある場所へと向かう。それは書店でのアルバイトだ。なぜアルバイトをするのか。簡単だ。労働という行為によって体は疲労し、その結果、夜の睡眠の質が上がる。体を動かす事によって適度な疲労感も味わえる完璧な放課後だ。更にだ。この適度な疲労感にプラスして対価まで得られる。この対価によっていいベッドや枕、布団などの寝具のアップデートに使うことが出来る。完璧だ。一石二鳥とはこのことを指して作られた言葉に違いない。ならば新しい四字熟語でも作った方がいいかもしれない。一労二金とか。

 俺がそんなことを考えながら本の補充を行なう。今日の朝から販売していて、少し落ち着いたこの時間に本の補充をする。それが俺にとって丁度いい疲労だった。

 カウンターで接客をするのは正直苦手だ。あんな、人にしたくもない愛想笑いをして、なんでへこへこしなければならないのか。そんなことをするくらいならバックレて寝る。それくらいの気持ちだった。だから俺はバイトをする時にレジをやりたくないとハッキリいったし、それを受け入れてくれたのでここで働いている。

 ただ、その際に少しだけ条件を出された。その条件というのが。

「あの、ちょっといいですか?」
「はい」

 俺は振り向いて相手の顔を見る。相手は50代のそこら辺いるおばちゃんといった感じで、何か新聞の切り抜きを持っているようだった。

「この本を探しているんですけど、ありますかね?」
「ちょっと見せてもらいますね」
「はい」

 俺はおばちゃんから切り抜きを受け取るとその本のタイトルを確認する。そしてその本は俺がさっき出した本だと気付いた。

「こっちですね」

 俺は彼女を案内してその本を差し出す。一応後ろの方から取ったりして綺麗そうなのを渡すのがいいと思っている。

「あーこれこれ、これを探してたんですよ」
「いえ、それでは」
「はい、ありがとうございました」

 そういってそのおばちゃんはレジへと向かっていく。そう、俺が言われた条件というのは、本の品だしをしている最中でも、話しかけてきたお客さんにはしっかりと対応する。出来る限り笑顔を見せるというものだった。俺は何とか接客出来たことに満足をして、元の仕事へ戻る。その満足度にはあのおばちゃんが新聞の切り抜きを持ってきてくれたというのが大きい。それを持って来ないのに今日の〇〇新聞に載ってた、とか言われても分かる訳がない。書店屋の人間が全部の新聞に目を通していると思うな。俺に至っては一社ですら読んでいない。

 俺は渡した本をさっと見る、渡した本のタイトルに少し気になるものがあった。『睡眠の質を向上させる究極の方法』というタイトルの物だ。それは良くあるような人の目を引く様に赤とオレンジで色どりをされていて、文字だけは黒文字で書いてあるような薄い本。

 俺はなんとなしにそれを捲ってみる。さっききちんと接客をしたのだからいいのだろうというのと、中身が傷ついたりしていないかなという確認の為、というちょっとした言い訳を心に思い浮かべた。

 そして中を覗いてみると、なかなか斬新な事が書いてある。これは詳しく読んでみようとその本を帰りに買って行く為にカウンターに戻った。そしてお客さんの為の本を入れておくところに置いておく。

 それからはいつもと変わりなく仕事に専念した。そしてバイト上がりの時間になった。

「それではお疲れ様です」
「ああ、もうそんな時間か。はい。お疲れ」

 朝からずっと働き詰めの店長に挨拶をして俺は先にエプロンを脱いだ。彼はこれから閉店の12時までいるのかもしれない。

 俺は振り返ることなく家に返った。

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