13 / 17
13話 祖父の為に
しおりを挟む
地元の最寄り駅に到着した私は誰よりも先にホームに飛び出す。こういった人は何処にでもいるのか周りの人も私を気にした様子はない。
私はぶつからないようにしながらも出せる速度の限界を出して走る。改札もスカートの端がかすめるようでぶつかる寸前だったが私は走った。この考えなら祖父に記憶を失わせずに見せられる。そう思ったからだ。
そして再び『風景屋』のあった廃ビルに近づくとそこには依然と変わらぬボロボロの掘っ立て小屋が存在していた。私は直ぐに消えてしまう前にと急いで近づき扉を開けた。
中は依然と全く変わりがなかった。ボロボロの室内。極彩色の瓶の数々。それらは世界が変わろうとも変わることはないのかもしれない。
「来たかね」
奥の方か声が聞こえる。私はその声を目指して近づくとカウンターの奥にパイプを咥え紫煙を燻らせる一人の白い老人がいた。老人は髪が真っ白で目を瞑り、椅子でゆったりと船を漕いでいた。ヨーロッパで老婆が座っているような古風な椅子だ。しかし、なぜ以前は見えなかったの今日はなぜか見えたのか。記憶を掘り返すと確か暗くて見えないと思っていたが、記憶の老人は今と同じように椅子に深くもたれてパイプを咥えていた。なぜ見えないと思ってしまったのだろうか。
「それで、どんな御用かね?祖父の記憶をさし出す気になったかね?」
「いいえ?」
それを言うと老人は船を漕ぐのをやめ、目を開けて私の目を見つめる。
「それでは?」
「私の記憶で代わりに支払って祖父に風景を見せて。それで出来ないかしら?」
「・・・」
その老人はパイプから口を放し呆然とした顔で私を見つめている。
「どう?」
「は」
「は?」
「はははは、中々どうして、そんな面白い発想になるのかね?記憶を失うということを君は意味が分からないのかな。くはは」
彼はパイプを持っていない右手で目を覆い隠すと上を向いて一人笑う。何がそんなに面白いのか暫くそのままだった。
「私はそれでいいの。どう?」
「おやおや本気か?誰かに仕向けられて来たやつはいたが・・・まさか自分でその考え着くとは・・・献身か愚かかどっちだろうな?」
「私が見せてあげたいと思うからやるだけ。それ以上でもそれ以下でもない」
「くははは、なるほど。面白いお嬢さんだ」
「それでやってくれるのかしら?」
「対価は君の記憶。どの程度かは聞かなくて良いのかね?」
「家族に迷惑はかからないようにして欲しいわ」
「ふむ・・・では君が大事にしていた小学校4年生までの君と祖父との記憶でどうかな?君が祖父の為にそこまで出来るんだ大丈夫だろう?」
「いいわ。それでやって」
私は大丈夫。祖父が幸せになってくれれば私の記憶がどうなっても問題ない。私には心配してくれる人もいないし、心配する人も居ない。家族は・・・祖父との記憶がなくてもきっと大丈夫だ。皆なら受け入れてくれるはずだ。
「ほほう。即答とは。ただ一つ安心するといい。記憶は貰うが全て貰う訳ではない。この瓶には記憶を入れるが、全て入れる必要はないのでね」
そういって老人がいつの間にか出した空の瓶を目の前のカウンターに置いた。
「何かの拍子にその記憶が呼び起されるかもしれない。ただし、その記憶は欠けているかもしれないし、間違っているかもしれない。そんなこともあるから忘れることが一番だね。それでは準備はいいかい?」
「ええ、何時でもどうぞ」
「それではいくよ」
(今までありがとう。おじいちゃん)
私は気を失った。
「中々いい記憶じゃないか。やはり若い時の物ほどいいものが見えるな」
そう一人呟く老人の前で悠里は目を瞑っている。何が起きたのか理解出来ないが彼女の体は薄っすらと発光しておりしかも宙を漂っている。
老人はそんな娘の様子など微塵も気にした様子がなく手の中にある瓶を大事そうに見つめていた。彼の持つ瓶はいつの間にか液体で満たされていた。その液体はピンク色だったり水色だったり黄色だったり白色だったり見ているものを飽きさせないものだ。その虜にさせるものは老人にとっても同じだったようで、彼はうっとりとした表情でそれを見つめている。少しした所で彼は我に返り、少女の事を見つめた。
「お前もこいつのような気持ちだったのか・・・ダリア」
彼の言葉に答える者は居ない。
私はぶつからないようにしながらも出せる速度の限界を出して走る。改札もスカートの端がかすめるようでぶつかる寸前だったが私は走った。この考えなら祖父に記憶を失わせずに見せられる。そう思ったからだ。
そして再び『風景屋』のあった廃ビルに近づくとそこには依然と変わらぬボロボロの掘っ立て小屋が存在していた。私は直ぐに消えてしまう前にと急いで近づき扉を開けた。
中は依然と全く変わりがなかった。ボロボロの室内。極彩色の瓶の数々。それらは世界が変わろうとも変わることはないのかもしれない。
「来たかね」
奥の方か声が聞こえる。私はその声を目指して近づくとカウンターの奥にパイプを咥え紫煙を燻らせる一人の白い老人がいた。老人は髪が真っ白で目を瞑り、椅子でゆったりと船を漕いでいた。ヨーロッパで老婆が座っているような古風な椅子だ。しかし、なぜ以前は見えなかったの今日はなぜか見えたのか。記憶を掘り返すと確か暗くて見えないと思っていたが、記憶の老人は今と同じように椅子に深くもたれてパイプを咥えていた。なぜ見えないと思ってしまったのだろうか。
「それで、どんな御用かね?祖父の記憶をさし出す気になったかね?」
「いいえ?」
それを言うと老人は船を漕ぐのをやめ、目を開けて私の目を見つめる。
「それでは?」
「私の記憶で代わりに支払って祖父に風景を見せて。それで出来ないかしら?」
「・・・」
その老人はパイプから口を放し呆然とした顔で私を見つめている。
「どう?」
「は」
「は?」
「はははは、中々どうして、そんな面白い発想になるのかね?記憶を失うということを君は意味が分からないのかな。くはは」
彼はパイプを持っていない右手で目を覆い隠すと上を向いて一人笑う。何がそんなに面白いのか暫くそのままだった。
「私はそれでいいの。どう?」
「おやおや本気か?誰かに仕向けられて来たやつはいたが・・・まさか自分でその考え着くとは・・・献身か愚かかどっちだろうな?」
「私が見せてあげたいと思うからやるだけ。それ以上でもそれ以下でもない」
「くははは、なるほど。面白いお嬢さんだ」
「それでやってくれるのかしら?」
「対価は君の記憶。どの程度かは聞かなくて良いのかね?」
「家族に迷惑はかからないようにして欲しいわ」
「ふむ・・・では君が大事にしていた小学校4年生までの君と祖父との記憶でどうかな?君が祖父の為にそこまで出来るんだ大丈夫だろう?」
「いいわ。それでやって」
私は大丈夫。祖父が幸せになってくれれば私の記憶がどうなっても問題ない。私には心配してくれる人もいないし、心配する人も居ない。家族は・・・祖父との記憶がなくてもきっと大丈夫だ。皆なら受け入れてくれるはずだ。
「ほほう。即答とは。ただ一つ安心するといい。記憶は貰うが全て貰う訳ではない。この瓶には記憶を入れるが、全て入れる必要はないのでね」
そういって老人がいつの間にか出した空の瓶を目の前のカウンターに置いた。
「何かの拍子にその記憶が呼び起されるかもしれない。ただし、その記憶は欠けているかもしれないし、間違っているかもしれない。そんなこともあるから忘れることが一番だね。それでは準備はいいかい?」
「ええ、何時でもどうぞ」
「それではいくよ」
(今までありがとう。おじいちゃん)
私は気を失った。
「中々いい記憶じゃないか。やはり若い時の物ほどいいものが見えるな」
そう一人呟く老人の前で悠里は目を瞑っている。何が起きたのか理解出来ないが彼女の体は薄っすらと発光しておりしかも宙を漂っている。
老人はそんな娘の様子など微塵も気にした様子がなく手の中にある瓶を大事そうに見つめていた。彼の持つ瓶はいつの間にか液体で満たされていた。その液体はピンク色だったり水色だったり黄色だったり白色だったり見ているものを飽きさせないものだ。その虜にさせるものは老人にとっても同じだったようで、彼はうっとりとした表情でそれを見つめている。少しした所で彼は我に返り、少女の事を見つめた。
「お前もこいつのような気持ちだったのか・・・ダリア」
彼の言葉に答える者は居ない。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる