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12話 埋め合わせ
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キーンコーンカーンコーン
放課後、最近の私は直ぐに帰る準備をしていたが、今日は何も出来なかった。クラスの人間が一人また一人と教室を出ていく。私の視界は目の前の自分の机だけ、遠くに彼らは映るが記憶には入ってこない。
それから30分か1時間か経った時だろうか。もう一度祖父に聞こうと病院を目指す。時間を確認しようと思うがスマホの電池が切れたままだ。暗い画面には暗い顔の私が映るだけだった。
玄関で靴を履き替え、部活動に励んでいる人達やサボっている人達を尻目に私は歩く。そこへ今はあまり会いたくない人の声が聞こえた。
「日下部!ちょっと待てよ!」
私は無視しようかと数歩歩いたが、己のした行いを恥じて振り返った。そこには既に練習をし始めてそれなりの時間が経っているのか、額だけではなく顔や手に汗を掻いた真島が立っていた。
「何でしょうか・・・」
決まりの悪さというか申し訳なさからそんな声が出てしまう。もう強くなったあの二人組と会った後なのか、それとも前なのか少し気になる所ではあるが藪蛇をしたい訳ではない。しかし、私は私の中にある感情を隠して話せるほど上手ではなかった。
「何で敬語なんだよ・・・普通に話せよ」
「ん・・・んん。分かった。それで何?」
「何じゃねえよ。昨日の二人は一体何なんだ。紹介するって言うから聞き終わった時にはもうお前居ねえし、そのままなぜか野球部が休みだって事がバレて遊びに行くことになるし、俺に何をさせたかったんだ?」
「いや別に・・・何かしたというよりも真島をさし出しただけって言うか・・・」
「はぁ?ふざけんなそれ。どういうことだよ」
何だろう。怒っているように聞こえるけどなんか楽しそうな?感じがする。気のせいだろうか。真島は口調こそ怒っているが語調は強くなく、ただ話を引き延ばしているようにしか聞こえない。
それでも罪悪感から答えずにはいられない。
「ちょっとあの二人の会話で知りたいことがあって、それで二人から話を聞くのにちょっと頼みごとを・・・ね」
「それが俺を紹介しろってか?」
「うん」
「因みに聞きたいんだけど・・・あいつらお前が親友だーみたいに言ってたけど本当か?」
真島はすごい胡散臭げにしている。そしてその想像は合っている。
「な訳ないでしょ。私あのお団子とボブカットの名前すら知らないのに」
「マジかよ。知り合いですらねえじゃねえか」
「そう・・・だね。うん。そう」
あの二人には悪いかと思ったが勝手に私の親友とか勝手にでっち上げたのだ。紹介自体はしたんだしそれ以上をする気にはならない。
「くっそめんどくせえ事をさせんなよな。お前の親友って言うからわざわざ遊びに行ったのに。こんなことなら行くんじゃなかった」
「楽しくなかったの?二人とも今朝は楽しそうだったよって明るく言ってたけど」
「はぁ?あいつらの目は腐ってんじゃねえのか?・・・いや、でもまあ不愉快にはさせないように気を付けたけどさ・・・」
「そうだったんだ。ごめんね」
流石にあの二人を押し付けてしまったことを反省して謝罪する。完全に自分のやったことだから当然だ。
「そうか・・・じゃあ今度遊びに行こうぜ」
「へ?何で?」
「謝るくらいには悪いと思ってるんだろう?ならそれを行動で見せてくれよ」
ちょっと誇ったような顔つきが昔を思い出させる。彼はこうやって優位に立つとちょっとイラっとする口調になる。といってもちょっと子供が背伸びしているような可愛さも感じるので嫌いとか腹が立つとかではない。
「はぁ。分かった。いいよ。今度何処か行こうか。何時なら予定が空いてるの?」
「お?まじ?今日はやけに素直だな。言ってみるもんだ」
「そんな言い方するならいかないよ。あ、でもごめん。少し、待ってて欲しい・・・かも・・・。おじいちゃんが今ちょっと危ないから・・・それで私も直ぐに行かなきゃ行かないかもしれないから・・・」
「おじいちゃん危ないってそれって・・・」
「うん。今入院してるの。それで病気は治せないからって・・・」
「そうだったのか・・・」
「うん・・・」
お互いに黙り込んでしまう。一応説明のつもりで・・・と思って彼に話したが自分で口に出して驚くほど凹んでしまった。その空気の重さが彼にも伝わったのか彼も表情を暗くする。
「俺はまだそういうことになったことないからわかんねぇけどよ。辛いことがあったり、話したいことがあったら俺を頼ってくれよ。幼馴染だろ?ゆう・・・日下部の代わりに悲しみを背負ったりは出来ないけど、少しくらいなら持てるからな。あ、紙持ってないか?俺の電話ば・・・」
「今なんて言った?」
途中で話を遮られた真島は驚いている。そして何のことか分からずに聞き返す。
「何てって・・・?」
「今貴方何て言った?」
「紙を持ってない・・・」
「その前」
「幼馴染?」
「その後!」
「日下部の代わりに・・・」
「代わりに・・・」
「日下部?」
私は考える。『風景屋』は祖父の記憶と言っていたけれど、もしかしたらこっちでもいけるかもしれない。善は急げだ。
「真島、ちょっと用事が出来たから帰るね」
「え?唐突だろ。いきなりどうした」
「また今度ね。埋め合わせはするから」
私はそれだけ言って踵を返して駅へと向かった。
「ホントにマイペースな奴だな。でもそれが飾らなくて一緒にいていい所なんだよな・・・」
「おーい!真島!そろそろ次の練習始まるぞ!」
「あ、今行くー!」
彼は部活に戻っていった。
放課後、最近の私は直ぐに帰る準備をしていたが、今日は何も出来なかった。クラスの人間が一人また一人と教室を出ていく。私の視界は目の前の自分の机だけ、遠くに彼らは映るが記憶には入ってこない。
それから30分か1時間か経った時だろうか。もう一度祖父に聞こうと病院を目指す。時間を確認しようと思うがスマホの電池が切れたままだ。暗い画面には暗い顔の私が映るだけだった。
玄関で靴を履き替え、部活動に励んでいる人達やサボっている人達を尻目に私は歩く。そこへ今はあまり会いたくない人の声が聞こえた。
「日下部!ちょっと待てよ!」
私は無視しようかと数歩歩いたが、己のした行いを恥じて振り返った。そこには既に練習をし始めてそれなりの時間が経っているのか、額だけではなく顔や手に汗を掻いた真島が立っていた。
「何でしょうか・・・」
決まりの悪さというか申し訳なさからそんな声が出てしまう。もう強くなったあの二人組と会った後なのか、それとも前なのか少し気になる所ではあるが藪蛇をしたい訳ではない。しかし、私は私の中にある感情を隠して話せるほど上手ではなかった。
「何で敬語なんだよ・・・普通に話せよ」
「ん・・・んん。分かった。それで何?」
「何じゃねえよ。昨日の二人は一体何なんだ。紹介するって言うから聞き終わった時にはもうお前居ねえし、そのままなぜか野球部が休みだって事がバレて遊びに行くことになるし、俺に何をさせたかったんだ?」
「いや別に・・・何かしたというよりも真島をさし出しただけって言うか・・・」
「はぁ?ふざけんなそれ。どういうことだよ」
何だろう。怒っているように聞こえるけどなんか楽しそうな?感じがする。気のせいだろうか。真島は口調こそ怒っているが語調は強くなく、ただ話を引き延ばしているようにしか聞こえない。
それでも罪悪感から答えずにはいられない。
「ちょっとあの二人の会話で知りたいことがあって、それで二人から話を聞くのにちょっと頼みごとを・・・ね」
「それが俺を紹介しろってか?」
「うん」
「因みに聞きたいんだけど・・・あいつらお前が親友だーみたいに言ってたけど本当か?」
真島はすごい胡散臭げにしている。そしてその想像は合っている。
「な訳ないでしょ。私あのお団子とボブカットの名前すら知らないのに」
「マジかよ。知り合いですらねえじゃねえか」
「そう・・・だね。うん。そう」
あの二人には悪いかと思ったが勝手に私の親友とか勝手にでっち上げたのだ。紹介自体はしたんだしそれ以上をする気にはならない。
「くっそめんどくせえ事をさせんなよな。お前の親友って言うからわざわざ遊びに行ったのに。こんなことなら行くんじゃなかった」
「楽しくなかったの?二人とも今朝は楽しそうだったよって明るく言ってたけど」
「はぁ?あいつらの目は腐ってんじゃねえのか?・・・いや、でもまあ不愉快にはさせないように気を付けたけどさ・・・」
「そうだったんだ。ごめんね」
流石にあの二人を押し付けてしまったことを反省して謝罪する。完全に自分のやったことだから当然だ。
「そうか・・・じゃあ今度遊びに行こうぜ」
「へ?何で?」
「謝るくらいには悪いと思ってるんだろう?ならそれを行動で見せてくれよ」
ちょっと誇ったような顔つきが昔を思い出させる。彼はこうやって優位に立つとちょっとイラっとする口調になる。といってもちょっと子供が背伸びしているような可愛さも感じるので嫌いとか腹が立つとかではない。
「はぁ。分かった。いいよ。今度何処か行こうか。何時なら予定が空いてるの?」
「お?まじ?今日はやけに素直だな。言ってみるもんだ」
「そんな言い方するならいかないよ。あ、でもごめん。少し、待ってて欲しい・・・かも・・・。おじいちゃんが今ちょっと危ないから・・・それで私も直ぐに行かなきゃ行かないかもしれないから・・・」
「おじいちゃん危ないってそれって・・・」
「うん。今入院してるの。それで病気は治せないからって・・・」
「そうだったのか・・・」
「うん・・・」
お互いに黙り込んでしまう。一応説明のつもりで・・・と思って彼に話したが自分で口に出して驚くほど凹んでしまった。その空気の重さが彼にも伝わったのか彼も表情を暗くする。
「俺はまだそういうことになったことないからわかんねぇけどよ。辛いことがあったり、話したいことがあったら俺を頼ってくれよ。幼馴染だろ?ゆう・・・日下部の代わりに悲しみを背負ったりは出来ないけど、少しくらいなら持てるからな。あ、紙持ってないか?俺の電話ば・・・」
「今なんて言った?」
途中で話を遮られた真島は驚いている。そして何のことか分からずに聞き返す。
「何てって・・・?」
「今貴方何て言った?」
「紙を持ってない・・・」
「その前」
「幼馴染?」
「その後!」
「日下部の代わりに・・・」
「代わりに・・・」
「日下部?」
私は考える。『風景屋』は祖父の記憶と言っていたけれど、もしかしたらこっちでもいけるかもしれない。善は急げだ。
「真島、ちょっと用事が出来たから帰るね」
「え?唐突だろ。いきなりどうした」
「また今度ね。埋め合わせはするから」
私はそれだけ言って踵を返して駅へと向かった。
「ホントにマイペースな奴だな。でもそれが飾らなくて一緒にいていい所なんだよな・・・」
「おーい!真島!そろそろ次の練習始まるぞ!」
「あ、今行くー!」
彼は部活に戻っていった。
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