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8章 王都ファラミシア2

147話 目覚めるとそこは

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「うぅ……ん。ここは……」

 わたしは目が覚めると、とても狭い部屋にいた。
 石作りの5畳程度しかない部屋で、高い所からは格子の隙間を抜けて日差しが部屋を照らしてくれている。

 小ぶりな机が一つにちょうどいいサイズのイスが1脚。
 あとは、わらの上に敷かれた薄汚いシーツが置いてあるベッド? だけしかない。

 格子のついた窓とは逆側には、金属製の扉が設置されている。
 隙間はほとんどないけれど、下の隙間からは炎の揺らめきがあった。

「ここは……」

 他になにかないかと思って視線を巡らせてもそれ以外の物はなにもない。
 一応、天井には文字で何か書かれているようだけれど、こちらの文字を読めないわたしには意味はなかった。

「どうしよう……」

 わたしが周囲を見ていると、扉が開け放たれ、3人の男が現れる。

「おお、目を覚ましたか」
「あなたは……」

 一番前にいる人はどこかで見たことがある。
 このにこやかな笑顔に、禿頭、そして、パリッとした紫色の服はたしか……。

「バルマン辺境伯?」

 わたしがそう言うと、彼の目がすっと細くなり、恐ろしい声を出す。

「貴様ごときが吾輩を呼び捨てにするなど許されんことだぞ。小娘よ」
「すみません……」
「よい。子供であれば最初はそうなっても仕方のないもの。寛大な吾輩はそれを許そう」
「はい。流石主様です」

 そう言って辺境伯に同意するのは、辺境伯の左隣にいる官僚のような服装をした男だった。
 背は辺境伯よりも小さいけれど、その目はわたしを警戒しているようだ。

「うむ。吾輩は寛大で、それに優秀だ。さて、サクヤだったか。吾輩の元で働け」
「あの……どうして……ですか?」
「どうしたもこうしたもない。貴様が魔力水を作り、それを王都中にばらまいたことは分かっている。その力量、吾輩の元で振るえば富や名声は思うがままだ!」

 彼はそう言って自信満々に振り上げる。
 しかし、わたしがじっと見つめてなにも言わないので、彼は少し眉を寄せてわたしを見た。

「どうした。吾輩が提案をしたのだぞ? すぐにでも感謝して頷くべきではないか?」
「あの……わたし、知らないでここに来てしまったんです。元の居場所に返していただけないでしょうか……」

 まずはそこからだ。
 彼らがわたしを助けてくれた、もしくは、ちょっと話をしたかっただけでここに連れてきたのであれば、解放してくれるかもしれない。
 まぁ……ないと思うけど、確認は大事だ。

「それはできん。貴様は吾輩に招待されたのだ。嬉しくないわけなかろう?」

 そんな訳ないだろうがこのハゲ! ……いや、倫理的に引っかかるから変えておこう、〇ゲ!
 と言いたくなる気持ちを抑えて、わたしは考える。

 誘拐同然のように連れてきておいて、喜んで部下になると思っているこのハ〇にまともな話は通じないと思う。
 それに、この人の部下になるなんて言うのは絶対に嫌だ。

 第一、成り上がりたいとか考えているなら、最初からクロノさん達に自分を売り込んでいるだろう。
 ということではあるから、わたしは情報を集めて何ができるか考えるために時間稼ぎをする。

「あの……わたし……会いたい人がいて……それで……そういうのは……分かりません」
「分からない? 吾輩のすごさが伝わないか?」
「……分かりません」

 伝わらないよって言おうと思ったけれど、やめておいた。
 そんなことを言って怒りを買ったわたしの身がどうなるか分からない。
 こんな距離だったらすぐに魔法は使えないだろうし……。

 わたしがそう答えると、辺境伯は一瞬すごい形相を浮かべたあと、笑う。

「はは、まぁ……小娘には分からんだろう。仕方ない。しばらくここで考えろ、モルド」
「は」
「この小娘の世話を任せる。この部屋の中にいることであれば、力になってやれ。そして、決して出すな」
「かしこまりました」

 そう言って一歩進み出て来たのは、褐色肌の燕尾服を着たスッとしたイケメン執事だった。
 白銀の髪に、黒い瞳、ただ、その目は何もない虚空を見つめているようで、言われたことをこなす人形のようだった。

 そして、彼は辺境伯の隣に並んだ瞬間、殴り飛ばされる。

 ドゴッ!

 殴り飛ばされた彼は石の壁に背を打ち付け、頭を下げた。

「貴様、奴隷の分際で吾輩と並ぶとはどういう了見だ?」
「申し訳ございません。仕事を行おうと進み出てしまいました」
「それは吾輩が帰ってからやればよい。理解したか?」
「主様のご指導、感謝いたします」
「分かればよい。それでは任せる」
「はい」

 そう言って辺境伯と官僚の人は部屋から出て行くけれど、わたしはそちらのことはどうでも良かった。

「だ、大丈夫ですか?」
「ええ、いつものことですので、お気になさらず。そしてサクヤ様。何かご用がありましたらすぐにお申し付けください」

 彼は殴られた頬を手袋の背で拭い、立ち上がる。

 わたしはそんな彼に駆け寄るけれど、彼は気にした風もない。

「そんな……」

 何かあった時には回復させてあげたいと思う。
 でも、この人はさっきの辺境伯の仲間だ。
 殴ったりはしていたけれど、なにかあるのかもしれないし。

 わたしは彼に訪ねる。

「ここから出して頂けませんか?」
「それは出来かねます」
「どうしてですか?」
「それが主様の命令だからです」
「そうですか……」

 なら、自分で脱出をする方向で考えるべきだろう。

 まぁ、ここに連れて来られた時点で、そうしないといけないとは思っていたけれど。

「因みに、ここってどこか教えて頂けますか?」
「はい。ここは王都にあるバルマン辺境伯様のお屋敷の一角になります」
「なるほど、ありがとうございます。何かあったら呼びますね」
「はい」

 彼はそう頷いてから部屋を出て行く。
 パタンと閉じられた所で、わたしはできるだけ小声で魔法を唱える。
 人に見せるのはよくないと思うけれど、今は緊急事態だ。
 話の通じない相手と時間を使っている場合ではない。

「『〈結界の創生〉』」

 わたしはいつものように魔法を使うけれど、魔法が発動することはなかった。

「なんで……?」

 それから何度も試したけれど、一切魔法が発動することはなかった。
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