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7章 スウォーティーの村

132話 養蜂園

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 わたし達は先生の案内で森に向かうことにした。

 先生はわたし達には案内の人をつけるから村で好きにしておいて欲しい。
 そう言ってくれたけれど、わたしだって放置はできないと思ったのでついていくことにしたのだ。

 森は村から徒歩30分くらいの所にあり、その近くには王都に納める用の小麦畑もあるようだった。

「それじゃあ入って行くよ。この辺りに魔物はいないはずだけど、油断だけはしないようにね」
「はい」

 わたしは先生に返事をして、一緒に森の中に入っていく。

 昨日食べ過ぎたこともあって、自分の足で森の中を歩く。
 時々根が出ていて転びそうになるけれど、ウィンが助けてくれる。

「俺に乗ればいいと言ったのに」
「昨日食べ過ぎたからね……流石に自分で運動しておかないと」

 そんなことを話しながら10分ほど歩くと、森の中にある農園のような場所に出る。
 農園の中には遠くからみても分かるくらいに大きな花々が咲き誇っていて、その間を従業員の人達が歩いていた。

「サクヤ君。ここがハニーキラービーを飼っている養蜂園だね」
「なるほど、それで具体的には……」
「それを今から聞こうと思っている。君、話は伝わっているかな?」
「……ええ、もちろんでございます」

 そう言ってくれたのは、つばが長い帽子を被り、ひげもじゃに少し小太りの男性だった。
 他にも仕事をしている人達と同じように、作業着を着ている。

 これがここの正式な服なのかもしれない。

 彼は先生の様子を伺うように待っているので、先生からこれからのことについて聞き始めた。

「それでは、魔物達の様子を教えてもらえるかな?」
「え、ええ。ですが、先生は必要ないかもしれません」
「ん? ぼくが必要ということで呼ばれてきたんだけど?」
「実は部下の者達が先走ってしまっただけでして、先生にお願いするようなことは……」

 そう言っていることを聞き、わたしは安心した。
 よかった、これで共生している魔物が倒される心配はなくなったからだ。
 それに、ミエーレさんの新しいお菓子にも影響は出ないようだし。

 でも、先生の目には違って見えたらしい。

「そうは言っても、どうして従業員の君達がこんなにここにいるのかな?」
「……こんなに……とは?」
「その通りの意味だよ。君達はハニーキラービーからはちみつを分けてもらい、それを集める仕事のはずだね? なのに誰もはちみつを集めている様子はない。それに、花や木の手入れもやっている様子がない。なんのための養蜂園かな? 異常がないとは言わせないよ」

 先生はよく見ていたようで、従業員の人相手にそう言い切る。

「花や木の手入れは大変なんですよ。だから今はそれで忙しくて、先生のご案内はできないんです。それにこれと同じようなことは去年もあって、時間が過ぎたら元に戻ります。だからお気に……」
「それを決めるのはぼくだよ。とりあえず、中に入らせてもらう」
「……分かりました」

 彼も納得してくれたのか、わたし達は先生について養蜂園の中に入っていく。

 養蜂園の中は花園かと思うくらい多くの花が咲き乱れていて、ここだけで観光をしたくなる。
 ただ、魔物向けのためか、真上を向いている花がほとんどだし、魅せるために植えられている様子はない。
 でも、

「きれいな場所ですね」
「ここは魔物達向けだから、人目線では考えられてないのがちょっと残念かな。本当はもうちょっと人間向けも考えたかったんだけど、魔物達は大きくて両立できなかったんだ」
「大きい?」

 わたしがそう言うと、奥の方から体長50㎝はあろうかというハチが飛んでくる。

「あれは!?」
「あれがハニーキラービーだよ。と、ここでストップ。どうやら何か怒っているように見えるけど、何か心当たりはあるかな?」

 先生は従業員に目をやって聞く。

 しかし、彼は目を泳がせて答えた。

 なんだかあんまり答えたくないようにも見える。

「わ、分かりません。本当にどうしてこうなってしまったのか……。我々が近付いても攻撃をしてくるので……」
「それが去年もあったと?」
「はい……ですが、その時は1週間ほどで収まったので……先生に連絡しようとしていた時にはもう……」
「まぁ、そうだね。ケンリスと王都を行き来しているぼくではそうなるだろう」
「はい……ですので、問題は特にないかと……」
「そう言われてはいそうですかと納得できたら、ぼくは魔物の研究者を名乗ってない。行くよ」
「ちょ、ちょっと!?」

 先生はズンズンと進んでいくし、従業員の人もなんだか変な感じ。

 わたしも一緒に行こうと思うけれど、ウィンが顔を別の方に向けていた。

「ウィン?」
『いや……なんでもない』
「気になる」

 ウィンがじっと見つめていたので、わたしはちょっとそっちの方に向かってみた。

『サクヤ?』
「ウィンが何を気にしてるのかと思って」

 その方向に歩いて木々を避けていく。

「あれは……」
「気配がした気がしたが……まさか本当にいるとはな。危険のない魔物だとは思うが、あまり近付きすぎるなよ」
「うん……ビーバー?」

 木の根本には1mちょっとの大きさをした紫色の体毛を持つほっそりしたビーバーがいた。
 彼? はじっとわたしの方をみてるけれど、ちょっと困ったような顔をしているのが可愛い。

 でも。ここって養蜂園の中……だよね?
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