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6章 王都ファラミシア

123話 平和な日常

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「さて……ということがあった訳なんだけど……聞いてる?」
「え? あ、は、はい。大丈夫ですよ。リオンさん」

 ケルベロスと戦ってから1週間、わたしは宿でのんびりとしたり、広場で子供達と遊んでいたりした。

 その代わり……と言っていいのか分からないけれど、クロノさんとリオンさんは忙しく王城とわたし達の元を行ったり来たりしていた。

 彼らが言うにはわたし達が早めに悪い人たちの拠点を抑えたことで、あれ以上広がることが抑えられた。
 しかも、治療にはわたしが作った魔力水が使われて、被害にあった人ももう完治しているとか。

「だから、ちち……陛下がサクヤを王宮に招待したいと言っているんだ」
「いえ……行きません……けど?」

 クロノさんの言葉をわたしは丁寧に止める。

 だって目立たないように……っていうことをやってきていたのに、一回だけって話だったから行ったのだ。
 それをまた行ったら絶対に何かあったと疑われる。

「だよな……おれもそうだと言ったんだが……どうしても……とな」
「いえいえ、それなら……あ、院長さんのお陰ということにしてください。それで、孤児院の子達の支援とか増やせるんじゃないですか? それで行きましょう!」

 わたし自身は特に必要な物はない。
 それよりも、あの時……デル君が衛兵に助けを求めるた時のことがなければいいと、わたしは思ったのだ。
 わざわざ衛兵に頼まずとも、孤児院の近くにそういう施設があればなんとかなるかもしれない。

「それは……いや、そうだな。サクヤがそういう……人のことを考えてくれる優しい子だということを父上に力説してくる」
「いえ、別にそのことは言わなくても」
「いや、この国に絶対に必要だから、こっちの都合で何かをさせようとするな、としばいてでも言ってくる!」
「そんな乱暴な!?」

 クロノさんはそう言って走り去っていく。

「いや……ほんとに……?」
「流石にそんなことはさせないよ」
「リオンさん。流石にそうですよね」
「うん。小一時間問い詰めておくね。どうしてもって言ってたけど、やっぱり間違ってるよね。すごくお願いするっていうか、土下座してきそうな勢いだったから聞いてくるって言ったけど、ちゃんといい聞かせておくから!」

 そう言って今度はリオンさんまで走り去ってしまう。

「えぇ……どうしよう。王様の話を受けておいた方がよかったかな?」

 わたしはわたしと従魔+青龍だけになった部屋でそう呟く。

「別にいいのではないか? 代わりの者の事も出し、その者にとってもメリットしかないしな」
「そっか、あ、でもそれなら、話にいかないといけないよね」
「では乗るがいい」
「うん。よろしく」

 ということで、わたし達は院長がいる孤児院に向かうことになった。

「ヴァイス、ルビー。いこ」
「ウヴャゥ!」
「キュキュイ!」

 2人はわたしの胸に飛び込んできて、そのモフモフでのしかかってくる。
 わたしは優しく抱きとめて、ウィンの上に乗った。

 それからはのんびりと街の様子を見ながら進んでいると、以前の……この街に来た時のように戻っていた。
 街が人で溢れ、我先に逃げ出そうとしていた時とは違い賑わっている。

 そして、わたし達は孤児院に到着する。

「あ! サクヤ!」
「デル君。元気だった?」
「たく……俺は14才だって言ってんだろ? お前よりも大人なんだよ」
「……うん。そうだね」

 正直孤児院にいて、そこまで食べていないから小さく感じたのか……それとも、わたしの日本での年齢で勝負するか? ん? と思ってしまった。

 でも、わたしは大人なのでそんなことは流す。

「院長先生はいる?」
「おう、いるぜ。案内するぞ」
「よろしく」

 それから、わたしが案内された部屋は古びているけれど、手入れが行き届いている。

「せんせー! サクヤが来たぜー!」
「デル。来客中は入って来てはいけないと言っているでしょう……まぁ、今回はいいですが」
「し、失礼します」

 わたしはズンズンと進んでいくウィンに乗ったまま部屋に入る。
 降りようとしたけれど、ウィンがさっさと進んでしまって降りるに降りれなかった。

 部屋の中には院長がいて、向かいのソファにボルツさんが座っていた。
 彼らは何か話していた様だったけれど、特に重要な話ではなかったのかのほほんとしている。

「ようこそおいでくださいました。何かした方がいいことでもありましたか? 丁度ボルツもいます。なんなりと好きな物をねだってください」
「おいおい、院長……そりゃないぜ」
「それくらいはできるのでしょう? 裏の顔役をやっているですから」
「まぁ……別にいいけどよ。嬢ちゃん。何が欲しい?」

 ボルツさんは本気で買ってくれるらしく、優しげな目でわたしを見てくる。
 天使と言っていた時のような顔はしていないのは素直に嬉しい。
 いきなり天使と言われてもちょっと……。

 でも、別に欲しい物とかは特にない。

「そういう訳で来たのではないんです。その……デル君は外に行っててもらえませんか?」
「え!? 俺がダメなの!?」
「すいません……」
「ちぇー仕方ない。またなんかあったら呼んでくれよ」

 デル君は聞き訳がよく、素直に出ていってくれた。

 なので、院長に先ほどの事を話す。

「まぁ……そこまでしてくださるのですか……?」
「はい。わたしは特に欲しい物とかありませんし、やっぱり……困っている人達のためになったらいいなって」
「天使様……ありがとうございます。そうさせていただけるのであれば、より多くの子達を救うことができるでしょう」
「……はい。そうして貰えると助かります。わたしも……ちょっと人ごみに疲れたので、静かな村とかに行こうと思っていたので」

 先生の牧場にまた行ってもいいな……そう思っての発言だったけれど、院長にはそう取られなかった。

「天使様……それなら、ちょうどいい村があります。そこでのんびりされるのはどうですか?」
「え? でも悪いですよ」
「天使様が行って頂ければ、きっと村の者達も喜びます。それに、そこは美味しい食事がかなりありますよ。最近だと、甘い物もかなり盛んに研究されているのだとか」

 天使様という呼び名をやめて欲しいとか、色々とあったけれどそんなことよりも気になる言葉があった。

「甘いもの……行きます!」

 わたしが勢いよく言うと、ウィンが念話で話しかけてくる。

『転移魔法を覚えたり、文字を覚えるのはいいのか……?』
『ウィン、時に人は優先しなければならないことがあるんだよ』

 次のわたしの目的地が決まった。

******************
これに6章は終了です!
ここまで読んでくださってありがとうございます!
と、リアルの事情とか色々とありまして、次のやつの執筆が少し遅れています。
なので、次の投稿は4月初めあたりからになると思いますので、少々お待ちください!
よろしくお願いします!
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