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6章 王都ファラミシア

119話 フリッツ

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「父が……相応しくない……?」
「そうだ。お前達王族が不甲斐ないせいで、この国は弱ってしまった!」
「弱った……と言うが、いつの話をしているんだ?」
「昔はもっと……この国の領土は広かった。ベルーナ公国やペルゴラム魔法国。それ以外にも多くの国をまとめた大帝国だった」
「いつの話をしている? それはもう300年も前の話だろう?」

 クロノさんはフリッツさんに問うように聞くが、彼はただ一人で舞い上がっているのか話し続ける。

「それでも! 我らが祖先は他の国々も含めて支配するべきなのだ! それを今の王家は周囲のことを考えて融和等と……さっさと支配してしまえば良いものを!」
「終わった帝国の話をしてどうする。それよりも今この国で暮している者達のことを考えることの方が大切に決まっているだろうが」
「暮している者達……? その俺がこう言っているだぞ? ならそれを大切にするべきではないか!」
「この国に住んでいる平民達はそんなこと望んでいない」
「そんな虫共は民等ではない」

 フリッツさんは、あざける様にクロノさんを見た。

「……」
「いいか? この国の民とは、俺のような高貴な生まれの者のことを指す。平民等所詮俺達の言うことを聞けばいいだけの虫にすぎん。王族に生まれながらにそんなことも分らんのか?」
「お前は……本気でそんなことを言っているのか?」
「当然だ。むしろ貴様がそう思わないのが信じられんな。それでもこの国の王族か? いや、だからこそ引きずり降ろされるべきなのだろう」
「王族だからこそ、民達を守るべきだと確信している」

 クロノさんは、絶対に相容れないとばかりに言い切って、フリッツさんをにらみつける。

「は……これだから愚かな王族は……」

 そう言ってフリッツさんは落胆するけれど、そこに待ったをかける人がいた。
 リオンさんだ。

「フリッツさん。少し聞いてもいいでしょうか?」
「金魚のフンが俺に何を聞きたいと?」
「我が国では現在9割もの平民がいます。その方々なしではこの国は立ち行かないと思いますが、どう思っているんですか?」
「それだけ増えたのも俺達貴族が導いたからだ」
「そうでしょうか?」
「何が言いたい?」

 リオンさんの言葉に、フリッツさんは不機嫌そうにリオンさんを見返す。

「その言葉の通りですよ。あなたが虫呼ばわりする国民がいて、我々貴族や王族が居られるのです。もし、僕達王族貴族だけで無人島に送られた場合、ほとんどの者が何もできずに死んでしまうでしょう」
「それがなんだというのだ」
「生き残るには、多くの人が必要だということですよ。人々が生きていくには、色々なことを役割で分けてやるしかない。民達を導くのが僕達の役割というだけで、本来はどちらが偉いなんて関係ないんです」
「そんなはずはない! 俺が虫共と同列等と!」

 フリッツさんはリオンさんの言葉に激昂するけれど、今度はボルツさんが話をさえぎる。

「おい。お前の家の親父は平民のメイドを囲っているよな? それについてはどう思ってんだ? 虫と仲がいい……父をどう思ってんだ?」

 チラリとわたしを見て言葉を選んでくれたらしい。

 ボルツさんはいい人かもしれない。

「……貴様。なぜそのことを」
「俺はこれでも裏でやってんだ。貴族様達の情報だって知ってんだよ」
「父は……愚かなだけだ」
「その愚かな息子であるお前が特別な理由は? つーか。お前、ほとんど貴族としての教育も受けていないはずだよな? 長男が優秀で、次男であるお前は期待されてない……だったろ?」
「そんなことはない!」

 という感じで、最初はどうなるかと思っていたけれど、フリッツさんの思考がやばいだけで他の人はそうでもないのかも。

 4人は散々言い合いをしていて、いつになったら終わるんだろう。
 フリッツさんの後ろにいる2人も微動だにせず、ただじっとこちらの様子を伺っているだけだ。

「ウビャゥ!」
「ヴァイス?」

 そんなことをやっていると、ヴァイスが飽きたのかわたしにとびかかってくる。

「ウビャ―」
「え……ちょっと、今は大事な話をしているから……」
「ウビャビャ―」

 関係ないとばかりにヴァイスはわたしにじゃれついてきて、わたしはヴァイスを引き離そうと抱っこする。
 ヴァイスはそれでも暴れているのは、この話が退屈だからだろうか。

 まぁ……フリッツさんとかいきなり出てきて変なこと言っている人っていうだけだし、興味もないけど……。

「ウビャゥ―!」
「いや……ちょっと今は……」
「キュキュイ!」
「ルビー!?」

 と、何とかヴァイスをなだめていると、今度はルビーがほっぺに顔を擦り付けてくる。

 さっき遊べなかったから今度は……っていうか、見つけたんだから遊んで、という感じかもしれない。

 ああ、どうしよう。
 今すごく大事な話をしているのに、このモフモフが離してくれない。

 そして、フリッツさんのことを考えるくらいなら、このモフモフに包まれている方がいいな。
 ということを考えている自分もいる。

「今夜……今夜ちゃんといっぱい構うから、今はちょっと……」

 わたしが2体にそう言うと、フリッツさんの叫びが聞こえる。

「もういい! もう……お前達と話していても無駄だ! 貴様らは虫の毒にやられた愚かものだ!」
「何も言い返せなくなったからってそう思い込むのはよくないと思うよ」
「き、金魚のフンが俺によくもそんな口を……」
「行動で何もできないからってそんなことしか言えないんだね。かわいそう」

 リオンさんがすごく憐れみを込めた目を彼に向けた。

 そのことにフリッツさんは流石にぶちぎれたのか、おかしくなったのか、ニィと笑みを深めた。

「ふ……そう言っていられるのも今の内だ。こうやってぺらぺらと話しているだけと思ったか? やれ!」
「!?」

 彼がそう言うと、何かがわたし達にとびかかってきた。
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