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6章 王都ファラミシア

116話 裏の顔役に会いに

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「本当か!?」

 クロノさんは驚き、院長に詰め寄る。

「……」
「お、おい?」
「私は彼女に話しています」

 しかし、院長はクロノさんに視線を向けず、わたしにだけ向けていた。

「あの……それは本当ですか?」
「ええ、私もついて行きますので、ご案内いたしましょう」
「その……危険ではないんですか?」

 こんな大きな街の裏の顔役。
 あらゆる悪事を行ってきた人を人とも思わないようなやばい人っぽそうに感じる。

 頭の中では生肉を咥えながら下卑げびた笑みを浮かべて、あらゆる人を見下しているようなイメージだ。

 しかし、院長さんは毅然とした様子で首を横に振る。

「いえ、問題はありません。彼のことは知っていますが、話は通じる相手ですので」
「そうですか……」

 わたしはチラリとクロノさんを見ると、彼は頷く。

「では案内をお願いしてもいいですか? でも、子供達は……」
「後は寝かせておくだけで問題ありません!」
「……よろしくお願いします」

 場所だけ聞いて行こうかと思ったけれど、流石にやめる。
 院長から絶対に付いて行くという熱い決意を感じて、頷くしかなかった。


 それから彼女の案内で、どうやって進んでいるんだ? と思うような裏道を進み続ける。
 道中はかなり汚れていたり、鋭い目を向けてくる人がいた。
 だけど、手を出して来るようなことはなかった。

 そんな道を進み、少し広い場所に出ると、武器を構えた男達が10人位待ち構えていた。
 彼らが出てくるのと同時に、後ろの道を大男が塞いだ。
 どこに隠れていたんだろうか。

「あなた方……ここがどこか分かって来ているのでしょうね?」

 わたし達を威圧するように、一人の知的な男性が前に出てくる。

 彼はメガネをしていて、商人がしているような服装をしており、インテリヤクザのような見た目だ。

 それには、院長が答えてくれた。

「私はあなた方のボスに会いに来ました。問題がありますか?」
「問題大ありですね。あなたのような修道女は知りません。ボスに気軽に会えると思わないことです」
「そんな……後悔しますよ?」
「ボスに知られなければいいだけです。今街が混乱してて忙しいのに……あなた方の相手をしている暇はないんですよ」
「……」

 彼らは武器を抜き、今にでも戦いが始まろうとしていた。

「おれ達が戦おう。サクヤ達は見ているといい」
「でも……」
「任せてくれ。ウィン様達の手を煩わせるまでもない」
「わかりました。よろしくお願いします」
「任せろ」
「僕達だって、遊んでた訳じゃないからね」

 クロノさんとリオンさんがここまで言ってくれたのであれば、任せるべきだろう。

 ウィンもそう思っているのか、周囲には興味ないのかわたしを見ている。
 ヴァイスはスヤスヤと寝ていて、ルビーはわたしの側で丸まっていた。
 青龍は当然動かない。

「舐めた真似をしてくれますね。我々12人に対して2人しか戦わないのですか?」
「僕達だけで問題ないよ。それに……」
「15人だろ?」
「!?」
「遅い!」

 クロノさんは相手が驚いている隙に近くにいた人に斬りかかる。

「〈氷の盤上〉〈土の礫〉」

 リオンさんは周囲の地面に氷を張り、何か見えているのか、土の小さな塊を放つ。
 氷はわたし達の周囲に広がり、敵が近づきにくくなる。

「〈氷の壁〉」

 しかも氷はわたし達を守るように高さ2メートルくらいまでそびえ立った。
 ただ、透明度は高く外で何が起きているのかはわかる。

「遅い! 遅いぞ!」
「くっ! なんでてめぇみてーなお坊ちゃんがこんな場所に来てんだ!」
「そうしなければならないからだ!」
「くそが! 後ろからさっさとやれ!」

 インテリヤクザがクロノさんの攻撃を短剣でなんとかしのぎつつ、他の人に声をかける。
 それに従ってクロノさんが狙われるけれど、彼はインテリヤクザの相手をしつつ、近付いてくる敵を切り伏せていく。

 でも、血が出ていないので、恐らく剣の腹で攻撃しているのだろう。
 うずくまった人達は剣が当たった部分を抑えて震えている。

「まずはこいつだ! 前衛が居なくなれば魔法使いなんて雑魚だ!」
「僕も放っておいていいの? 〈土の礫〉」

 リオンさんは再びどこかに土の塊を放つと、今度は近くの家の上から人が転がり落ちてきた。

「やっと当たった。後一人か」

 リオンさんは何をしているんだろうか。
 そんなことを思っていると、ウィンが念話で教えてくれる。

『さっきから隠れているやつを狙っていたようだな』
『そうなの?』
『ああ、隠れている弓使いをまずは仕留めたかったようだな。おれ達狙ったりしていたのだろう』
『そこまで考えてくれているんだね』
『ああ、サクヤを守るために色々と強くなろうとしているのだろうさ』
『そうなのかなぁ』

 2人の心配をしながら、そんなことを話している間に敵はインテリヤクザだけになる。

「クソが……なんでこんなに強いのですか……ボスがいれば……」

 後少しで倒せそうな感じがするんだけれど、クロノさんは剣を下ろす。

「おれ達は敵対しに来た訳じゃない。これで話くらいは聞いてくれるか?」
「くそ……おっと。その余裕も終わりになりますね」

 インテリヤクザがそう言うと、クロノさんは焦った表情でわたしの方を見る。

 わたし? と思うけれど、その視線は後ろに向いてる。

「お前達……これはどういうことだ?」

 そこにいたのは、全身の筋肉が膨れあがり、手にはわたしの身長よりも長いこん棒をもった大男がいた。
 氷ごしであるのに、その圧力は鳥肌が立つくらいに強いものだった。
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