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6章 王都ファラミシア

112話 リオンと本

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「……」
「……」

 それから、わたし達は夕方の人通りの多い街を歩く。
 わたしはさっきの話を思いだしていて黙り、リオンさんもクロノさんが行ってしまったことを気にしているのか、ちょっとそわそわしている。
 ウィンは街だからかしゃべらずに歩いていて、ヴァイスとルビーは広場で疲れたのか寝ていた。
 青龍は相変わらず動かない。

「あ」

 そんな微妙な空気の中歩いていると、リオンさんの目がある店に釘付けになっていた。

 わたしもその店を見ると、本のマークが書かれていた。

「リオンさん。わたし、あのお店に行きたいです」
「え……でも……」
「リオンさん! 行きましょう!」
「いいの?」
「はい。あのお店って本屋ですよね? わたしも読み書きができるようになりたいので、その本がほしいんです」

 ちょっと強引かもしれないけれど、読み書きを覚えたいのは本当だ。
 だからリオンさんを店に誘う。

 なぜならクロノさんが任せろと言ってくれた。
 なら、少しでもその気持ちを無駄にしないようにしないと。

「うん……そうだね。それなら行こうか。いい本を僕が見つけてみせるよ」
「はい! ありがとうございます!」

 それからわたし達は店に入る。
 ウィン達に関しても、魔法で毛は絶対に落さないし、本を汚したら買い取りするという事を説明したら入れてくれた。


 店の中は少し古本屋独特のカビたような臭いがする。
 でも、汚いといったことはなく、床も綺麗に掃除されているし、本棚に入っている本はどれをとっても丁寧に扱われていた。

「それで……まずはサクヤちゃんは、文字の形とかは分かる?」
「店にかかっているのとか……書類とかはチラッと見たことはありますけど、詳しいのは分からないです」
「なるほど、それなら……やっぱり簡単な本……でも、まずは文字の形から……でも意味も合わせて覚えた方が……」

 リオンさんはぶつぶつ言いながら本を手に取ってパラパラと見て戻すことを繰り返す。
 彼が手に取るのは薄めの本ばかりで、わたしでも読めるように絵本等の簡単なものにしようとしているのかもしれない。

「サクヤちゃん。物語って好き?」
「大好きです!」
「ならやっぱり基本的には物語の本と……文字の本も1冊はあるといいかな……それなら……」

 という感じでやりつつ、リオンさんは物語のあらましを聞いてくる。

「サクヤちゃんこの本はこういう感じのストーリーなんだけど、そういう感じの話って好き?」
「えっと……それは……まぁ、嫌いではないです」
「そっか、じゃあこっちの本はこういう感じの話で……」

 と、リオンさんはその本屋にあるは全て読んだことがあって覚えているのか、ストーリーを教えてくれる。
 一瞬で全部読んでいたような気配はないし、昔に読んでいて覚えているとかだろうか。

「リオンさん、話を全部覚えているんですか?」
「ん? そうだね。大体は頭の中に入っているかな? っていっても詳細な部分はあやふやだったりするけど」
「そうなんですね……」
「それよりも、こっちの本は……」

 という感じで、それから1時間くらいリオンさんと色々な本について聞かされた。
 ちゃんとネタバレ防止で序盤の辺りまでしか教えてくれないので、どの本も魅力的に聞こえて迷ってしまう。

「リオンさん。こっちの本は……」

 そうやって話し合っていると、わたしは小さいころ、まだネットで内容を読んだり、本の評価を見れなかった時の事を思いだしていた。
 少ない手持ちのお金で、いかに当たりの本を選ぶか。
 裏表紙のあらすじからいかに面白そうな物を選ぶのか。

 そんな昔にやった事をここでもやることになった。

「こっちの話は主人公が特徴でね? 結構最初は悲惨な目に遭うんだけど途中から……」
「なるほど、こっちならあっちよりも重たい感じの話なんですね?」
「そうだね。でも作家さんの腕がいいからそう重たいと思っている間に、話が次々と進んでいくから、気にせず読めるよ」
「それでは、こっちの本は……」
「それは楽しい話だね。ストーリーはそんなに進まないけれど、ドタバタコメディしていて、特定の国では禁止されている本だね」

 わたしは予想外の言葉に驚く。

「え? そんな危ない本なんですか?」
「ううん。面白過ぎて、図書館で笑い転げる人がいっぱい出て、それで禁書指定を食らったって話だよ」
「そんなアホな……」

 マジかよと思ってしまう。
 図書館で笑い転げるのだけど、それで禁書指定しまうとか。

「厳格な国だと図書館は神聖な場所。本も神聖で貴重な物。っていう意識が抜けない所はあるからね。この国はそこまで固くはないから大丈夫」
「よかった……でもそこまで面白いなら気になります」
「じゃあこれと……」

 という感じで、リオンさんとこの書店の本を全て吟味するつもりで話していく。

 すると、ウィンから念話が飛んでくる。

『サクヤ……腹は空かないか?』
『え……まだ大丈夫だけど……ウィンはお腹空いた?』
『俺もだが……ヴァイスとルビーの視線に気付かないか?』
「……」

 わたしは言われて初めてヴァイスとルビーから切なそうな視線を感じる。
 そして、お腹がキュルキュルとなっている音が聞こえた。

「ごめん!」
「サクヤちゃん?」

 突然謝ったわたしに、リオンさんが驚きの目を向ける。

「あ、すいません。リオンさん。そろそろご飯に行きませんか?」
「え? もうそんな……うそ。3時間も選んでたんだ……」
「はい。なので、本を買って行きたいと思います」
「そうだね。熱が入り過ぎちゃったよ。ちょっと待ってて」

 リオンさんはそう言って本を会計してくれた。
 どこかでわたしからもお支払いしなければ……と思う。

「リオンさん。ありがとうございます」
「気にしないで。今までしてもらったことをちょっとでも返せたらうれしいな」
「?」

 そんな何かやったっけ? とも思ったけれど、それよりもヴァイス達の早くご飯を食べたい目線が辛い。
 わたし達は急いで宿に帰り、食事にする。
 場所は1階の食堂部分で、時間も少し遅いからかお酒が入っている人も結構いた。
 だけど、品のいい人しかいないので、からまれるようなことはないだろう。

 本屋にいた時は忘れられていたみたいだけれど、考える時間ができたのかリオンさんがそわそわとしていた。
 なので、わたしは彼に提案をする。

「リオンさん。その……ここまでしてもらって言うのはあれかもしれませんが、クロノさんを追いかけた方がいいんじゃないのでしょうか?」
「ありがとうサクヤちゃん。でも、兄さんからも君達を案内するようにって言われてるから大丈夫だよ。それに、僕が行ってもできることはないと思うし」
「リオンさん。でも、行きたいんじゃないですか?」

 リオンさんはクロノさんと別れることはあったけれど、大体はクロノさんと行動を共にしていた。
 端から見ていても、とてもお似合いの2人で信頼し合っているのが分かる。

 それをわたしのために別れさせるのは忍びない気がするのだ。

 リオンさんは首を横に振る。

「確かに行きたいと思う気持ちはあるよ。でも、僕はサクヤちゃんとも一緒に居たい。楽しんでほしい。そう思う気持ちもあるんだよ」
「え……」
「君は僕達の命を助けてくれた。ずっと手伝ってくれていた。だから、君のことも兄さん同様に大切なんだよ」
「あ……その……ありがとうございます」

 なんだか恥ずかしい。
 そんな風に言われるとは思っていなかった。

「ううん。でも、心配させちゃったかな。ごめんね」
「いえ……でも、わたしはこれから本を読むので、やっぱり行ってください。安全面に関しては、ウィン達がいるので問題ないでしょうし。後は寝るだけなので、案内はもういりません」

 いきなり面と向かって言われて焦ったけれど、リオンさんのお世辞の部分のあるのだろう。
 わたしとしても、夜は本を読むだけだから……まぁ、覚えることから……ではあるんだろうけれど、特に外に出る用事はない。
 だから、リオンさんにはクロノさんの所に行ってもらうのを勧める。

「そうか……それもそうだよね。なら、ちょっとだけ失礼しようかな。明日の朝には帰ってくるから、一人で外にはいかないようにね?」
「はい。ありがとうございます」
「うん。それじゃあ。また明日」
「はい」

 ということで、リオンさんは店から出て、クロノさんのところに向かった。

 わたしは、食事を終えてから、のんびりと部屋で過ごした。
 本は……文字の事が全く分からなくて今度リオンさんに聞こうと思ったからだ。
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