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5章 王都へ
102話 お出迎え
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それから数日。
わたし達は魔力水を作ったりモフモフしたりしてのんびりと過ごした。
先生達も初日は忙しかったらしいけれど、わたしが寝た後に大体のことは済ませてしまったようで、ウィンが用意した食材もほとんど手をつけなかった。
何でもバルマン辺境伯の土地で取れた小麦が余っていたらしく、それを大量に買うことができたそうだ。
運のいいこともあるのか、それとも流石先生と思わされるほどの手際か。
ウィンも少し感心していたくらい。
「はぁ~たまにはウィンの長毛バージョンもいいね」
「サクヤが喜んでくれるなら何よりだ」
「うん。これもいい。でも、この見た目を見てるとクー・シーを思いだすね」
「なら行くか?」
「うーん。行ってもいいのかな?」
あそこはとても厳重に警戒されていた。
ウィンに言ったら簡単に連れて行ってくれそうだけど、許可を取らずに行くのはしたく無い。
他にもモフモフの子達がいたから控えていたのだけど……。
「当然行ってもいいですよ」
「アベルさん」
わたしが悩んでいると、後ろからアベルさんが近付いてくる。
服装はいつもの通りだけれど、その表情は出会った時とくらべものにならないくらい柔らかい。
「クー・シーも喜んでくれるでしょう。俺が付き添いをしましょうか?」
「ありがとうございます」
魔力水の時から彼はこんな調子で常に気にかけてくれるようになった。
ありがたいけれど、特に彼に何かした記憶がないのでどうしてか分からない。
そんなことを思いながらわたしは彼と一緒にクー・シーに会いに行く。
「バゥ!」
「ウビャゥ!」
クー・シーが吠えると、それに反応するようにヴァイスが返事をする。
そして、ヴァイスはウィンの上から降りて、クー・シーの腹に飛び込む。
「バゥバゥ!」
「ウビャゥウビャゥ!」
2体はじゃれ合うように体を擦り付け合う。
ヴァイスの楽しそうな姿をみるだけで、わたしは正直満足かもしれない。
ウィンもそう思ったのか、見にくそうな長毛を元の長さに戻していた。
「バゥバゥ!」
「ウビャゥ!」
「わ!」
そんな風にのんびりと見ていると、2体ともが突然わたしにとびかかってくる。
ただ、重さを調整してくれているのか、わたしでも受け止められる勢いだった。
「アハハ、可愛い」
わたしはクー・シーとヴァイスを両手で抱えるように抱き、頭や背中を撫でる。
「ちょ……くすぐったい」
すると、そのお礼とでも言うのか2体揃ってわたしのほほを舐める。
ヴァイスのはいつものザラザラした感じで、クー・シーのはベトベトにされた。
「楽しんでいるようだね」
そんな風にしていると、入り口の方から先生の声が聞こえる。
「先生……とそこにいるのは……」
「待たせたな。サクヤ」
「お待たせ、サクヤちゃん」
「クロノさん。リオンさん」
そう、そこにいたのは、数日ぶりに会うクロノさんとリオンさんだった。
服装はいつもの冒険者のものでは無く、貴族の青年がきていますというような立派なものだ。
クロノさんは白を基調とした服で、リオンさんは黒を基調としているようだった。
「やっと城での話がついてな。サクヤを王城に招待できることになった」
「あ、はい……」
天国で楽しくモフモフしていたら、地獄行きの列車に乗せられるような気持ちだ。
「そう嫌そうな顔をしないでくれ。ちゃんと出来る限りに秘密にしているし、父も最小限の人数で話してくれると約束してくれた」
「サクヤちゃん。信じて、ちゃんと問題ないようにしてくるから。ただ、少し……その……ウィン様とお話をしてほしいだけ……っていうのはあるんだけど……」
ということは……やっぱり聖獣であることは……まぁ、青龍が捕まっていて、それを抑えた……という事が伝わった時点でしょうがないと思っていたんだけど……。
でもそんな面倒なことに巻き込まれるのは正直もうやめたい。
ここで一生モフモフしていてもいいかもしれない。
「ねぇ……サクヤちゃんって……何者?」
「あ、アベルさん。いやだなぁ、わたしはただの通りすがりの子供ですよ」
「あんな高貴な見た目の人と知り合いの時点でそれは通用しないよ? 他の国の王族だったりする?」
「しません!」
そこは断固として否定させてもらう。
わたしはちゃんとただの平民でありたいのだ。
貴族とかやらないといけないことがいっぱいありそうで大変だろうから嫌。
「そう……じゃあ、君が望むなら、ここで働いたりしても問題ないね」
「アベルさん? どうしたんですか?」
「君がここにいる間、とっても楽しそうにしていたのは知っているよ。だから、来たくなったらいつでもきて、俺がここにいる間はいつでも……ずっと歓迎するから」
「アベルさん……」
「さ、今はいかないといけないんでしょ? それに、来たくなったらいつでも来たらいい。面倒なことはさっさと終えて、時間ができたらまた来て」
「はい!」
アベルさんはとても変わった。
こんな風に言ってくれるとは思っていなかったし、とても……いい笑顔をするようになった。
人間嫌いと聞いていたけれど、本当はそうではなかったのかもしれない。
「それでは、サクヤは預かっていきます。先生」
「……は、うん。そうだね。うん。分かっているよ」
先生の目がじっと青龍に向いていた。
青龍は先生が何を言おうとも決して答えることはなかったけれど、それでも先生にとって青龍と何とか話したい相手であったらしい。
わたし達は牧場の出口に向かい、最後にあいさつをする。
「先生、アベルさん。この数日間はとっても楽しかったです。本当にありがとうございました」
「サクヤ君こそ、本当に助かったよ。君がいなかったらどうなっていたか」
「きっと先生だったら何とかしていますよ」
「ふふ、そうだったらいいんだけどね」
先生はそう言って、アベルさんに場所を譲る。
「俺が……言うことは特にない。さっき言ったから。ただ……無事でいてくれよ。皆……待っているから」
「……はい!」
皆……ここで一緒に遊んだ子達のことだろう。
クー・シーやロックバイソン、他にも色んな魔物と仲良くすることができた。
わたしは……ここがとっても好きだ。
そんなわたしの気持ちが伝わったのか、同時に恥ずかしくなったのか、アベルさんは帽子を深くかぶって背を向けた。
「それでは、またどこかで来ますね!」
「うん。待っているよ」
「またね」
そう言って、わたし達は牧場を後にする。
わたし達は魔力水を作ったりモフモフしたりしてのんびりと過ごした。
先生達も初日は忙しかったらしいけれど、わたしが寝た後に大体のことは済ませてしまったようで、ウィンが用意した食材もほとんど手をつけなかった。
何でもバルマン辺境伯の土地で取れた小麦が余っていたらしく、それを大量に買うことができたそうだ。
運のいいこともあるのか、それとも流石先生と思わされるほどの手際か。
ウィンも少し感心していたくらい。
「はぁ~たまにはウィンの長毛バージョンもいいね」
「サクヤが喜んでくれるなら何よりだ」
「うん。これもいい。でも、この見た目を見てるとクー・シーを思いだすね」
「なら行くか?」
「うーん。行ってもいいのかな?」
あそこはとても厳重に警戒されていた。
ウィンに言ったら簡単に連れて行ってくれそうだけど、許可を取らずに行くのはしたく無い。
他にもモフモフの子達がいたから控えていたのだけど……。
「当然行ってもいいですよ」
「アベルさん」
わたしが悩んでいると、後ろからアベルさんが近付いてくる。
服装はいつもの通りだけれど、その表情は出会った時とくらべものにならないくらい柔らかい。
「クー・シーも喜んでくれるでしょう。俺が付き添いをしましょうか?」
「ありがとうございます」
魔力水の時から彼はこんな調子で常に気にかけてくれるようになった。
ありがたいけれど、特に彼に何かした記憶がないのでどうしてか分からない。
そんなことを思いながらわたしは彼と一緒にクー・シーに会いに行く。
「バゥ!」
「ウビャゥ!」
クー・シーが吠えると、それに反応するようにヴァイスが返事をする。
そして、ヴァイスはウィンの上から降りて、クー・シーの腹に飛び込む。
「バゥバゥ!」
「ウビャゥウビャゥ!」
2体はじゃれ合うように体を擦り付け合う。
ヴァイスの楽しそうな姿をみるだけで、わたしは正直満足かもしれない。
ウィンもそう思ったのか、見にくそうな長毛を元の長さに戻していた。
「バゥバゥ!」
「ウビャゥ!」
「わ!」
そんな風にのんびりと見ていると、2体ともが突然わたしにとびかかってくる。
ただ、重さを調整してくれているのか、わたしでも受け止められる勢いだった。
「アハハ、可愛い」
わたしはクー・シーとヴァイスを両手で抱えるように抱き、頭や背中を撫でる。
「ちょ……くすぐったい」
すると、そのお礼とでも言うのか2体揃ってわたしのほほを舐める。
ヴァイスのはいつものザラザラした感じで、クー・シーのはベトベトにされた。
「楽しんでいるようだね」
そんな風にしていると、入り口の方から先生の声が聞こえる。
「先生……とそこにいるのは……」
「待たせたな。サクヤ」
「お待たせ、サクヤちゃん」
「クロノさん。リオンさん」
そう、そこにいたのは、数日ぶりに会うクロノさんとリオンさんだった。
服装はいつもの冒険者のものでは無く、貴族の青年がきていますというような立派なものだ。
クロノさんは白を基調とした服で、リオンさんは黒を基調としているようだった。
「やっと城での話がついてな。サクヤを王城に招待できることになった」
「あ、はい……」
天国で楽しくモフモフしていたら、地獄行きの列車に乗せられるような気持ちだ。
「そう嫌そうな顔をしないでくれ。ちゃんと出来る限りに秘密にしているし、父も最小限の人数で話してくれると約束してくれた」
「サクヤちゃん。信じて、ちゃんと問題ないようにしてくるから。ただ、少し……その……ウィン様とお話をしてほしいだけ……っていうのはあるんだけど……」
ということは……やっぱり聖獣であることは……まぁ、青龍が捕まっていて、それを抑えた……という事が伝わった時点でしょうがないと思っていたんだけど……。
でもそんな面倒なことに巻き込まれるのは正直もうやめたい。
ここで一生モフモフしていてもいいかもしれない。
「ねぇ……サクヤちゃんって……何者?」
「あ、アベルさん。いやだなぁ、わたしはただの通りすがりの子供ですよ」
「あんな高貴な見た目の人と知り合いの時点でそれは通用しないよ? 他の国の王族だったりする?」
「しません!」
そこは断固として否定させてもらう。
わたしはちゃんとただの平民でありたいのだ。
貴族とかやらないといけないことがいっぱいありそうで大変だろうから嫌。
「そう……じゃあ、君が望むなら、ここで働いたりしても問題ないね」
「アベルさん? どうしたんですか?」
「君がここにいる間、とっても楽しそうにしていたのは知っているよ。だから、来たくなったらいつでもきて、俺がここにいる間はいつでも……ずっと歓迎するから」
「アベルさん……」
「さ、今はいかないといけないんでしょ? それに、来たくなったらいつでも来たらいい。面倒なことはさっさと終えて、時間ができたらまた来て」
「はい!」
アベルさんはとても変わった。
こんな風に言ってくれるとは思っていなかったし、とても……いい笑顔をするようになった。
人間嫌いと聞いていたけれど、本当はそうではなかったのかもしれない。
「それでは、サクヤは預かっていきます。先生」
「……は、うん。そうだね。うん。分かっているよ」
先生の目がじっと青龍に向いていた。
青龍は先生が何を言おうとも決して答えることはなかったけれど、それでも先生にとって青龍と何とか話したい相手であったらしい。
わたし達は牧場の出口に向かい、最後にあいさつをする。
「先生、アベルさん。この数日間はとっても楽しかったです。本当にありがとうございました」
「サクヤ君こそ、本当に助かったよ。君がいなかったらどうなっていたか」
「きっと先生だったら何とかしていますよ」
「ふふ、そうだったらいいんだけどね」
先生はそう言って、アベルさんに場所を譲る。
「俺が……言うことは特にない。さっき言ったから。ただ……無事でいてくれよ。皆……待っているから」
「……はい!」
皆……ここで一緒に遊んだ子達のことだろう。
クー・シーやロックバイソン、他にも色んな魔物と仲良くすることができた。
わたしは……ここがとっても好きだ。
そんなわたしの気持ちが伝わったのか、同時に恥ずかしくなったのか、アベルさんは帽子を深くかぶって背を向けた。
「それでは、またどこかで来ますね!」
「うん。待っているよ」
「またね」
そう言って、わたし達は牧場を後にする。
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