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5章 王都へ
89話 クロノの戦い
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***クロノ視点***
おれはクロノ。
宮殿の部屋でリオンと一緒にサクヤの素晴らしい料理を食べていると、レイヴァールが部屋に入ってきた。
彼と一緒に仕事を始めて、有能であることは嫌というほど知れたけれど、ここまでまた仕事を振られるとは……。
リオンと一緒にやってもギリギリ転移前に終わるかという量。
そこに緊急の依頼など……。
「一体なんの仕事だ?」
少し苛立たしさがこぼれて、とげのある口調で聞いてしまう。
「ギルドマスターが来ていてな。その説得を頼みたい」
「それはお前達の仕事ではないのか?」
「そうだが、自分では説得できん。この後のことも考えたら貴殿が説得するべきだろう」
「……」
おれ達が王都に行って、今回のことについてどこまで明かすのかについて関わってくるからだろう。
父や兄と話すにしても、その後はギルドマスターと交渉するのはおれの役割になるかもしれない。
なら、今の内に交渉を引き受けておけということだ。
やりたくはないが、おれがやった方が今後のためにもなると分かる仕事。
「分かった。それでは行ってくる」
「気を付けてね。兄さん」
「クロノさん……お手伝いすることはありませんか?」
「心配ない。サクヤはのんびりとしていてくれ」
おれはきょとんとしてかわいいサクヤの頭を撫で、部屋を出て行く。
そして、レイヴァールと一緒に近くの応接間に行く。
部屋は貴族が来ても歓迎できるような豪華な調度品が置かれ、部屋自体もとても広い。
だけど、おれの視線は中央のソファに座ったギルドマスターに釘付けになる。
気力を振り絞って彼に近づくけれど、怒りのせいか彼の周囲が夏のように暑い。
まだ春先なのに……だ。
彼の後ろにはギルドの秘書と最近回復したAランク冒険者がいた。
でも、大事なのはギルドマスターだ。
「お待たせしました。ギルドマスター」
「ほう。やっと来たか。筆頭書記官殿。詳しいはな……クロノ? 貴様がなぜそちら側にいる?」
ギルドマスターは射貫くような視線をおれに向けてきた。
ただ、おれだと分かると驚きで目を見開く。
「事情がありまして、今回こちら側に立たせて頂きます」
「……なるほど、それは重畳、話の分かる相手で助かった。だがクロノ。舐めた説明をしたら本気で許さんぞ?」
「っ……はい」
背筋がゾクリとするほどの圧力。
長年Aランク冒険者として戦い続け、今だ剣を振う凄腕のギルドマスター。
国のために、なんとか説得をしなくてはならない。
その目的は……。
「ギルドマスター。単刀直入にお願いがあります。魔法使いや……魔力の多い者を転移陣発動の魔力に当てるために貸してください」
「それはすでに聞いている。だが、なぜ今さらそのような事を言われねばならんのだ。こちらはすでに土魔法使いを貸し出た。そこから更に魔法使い等と……。この街を守る気がないのか? 今出ている冒険者達に死ね……そう言っているのではあるまいな?」
一言一言がとても重たい。
でも、おれは屈していられない。
これも……国のために、おれ達自身のために必要なことだから。
そして、サクヤにもらった食事が体に漲る様な気がするから向き合える。
「そんなつもりはありません」
「ではどうして? せめて理由を教えてもらわねば許容すらしかねる」
「理由については……明かせません」
「なぜ?」
「国が滅ぶかもしれないことだからです」
「……国が?」
圧力を放っていたギルドマスターは、話が大きくなり過ぎたのについていけず言葉を失う。
しかし、長年こういった交渉もこなしてきた彼は、すぐに平静さを取り戻す。
「国が滅ぶとは……どのような?」
「それを言ったら……滅ぶ可能性があるので言えません」
「なるほど、そんな大事な事があり、それは言えないが、国を守るために魔法使いを差し出せ。ということか?」
「そうです」
「ふざけるのもいい加減にしろ!」
バガッ!!!
ギルドマスターが拳を机に叩きつける。
机は真っ二つに割れ、破片が周囲に飛び散る。
それでも、おれは避けずにギルドマスターと向かい合う。
「ふざけていません」
「クロノ……お前のことは信頼している。お前も俺のことを信頼してくれていると思っていたが、勘違いだったのか?」
「いえ、おれはあなたを信頼しています」
「では後ろの2人か? 2人を下げれば話してくれるのか?」
「……いえ、それも難しいでしょう。それほどに重大な事柄なのです」
おれは忸怩たる思いで彼に伝える。
本当は彼にも話してしまった方がいいのではないか。
そう思わないでもないが、聖獣に関する話をし出すとサクヤの話までしなければならなくなるだろう。
彼女を巻き込むことはなんとしても止めなければならない。
「では言えることはなんなのだ。理由は言えないが魔法使いを出せ等という要望、いくら領主と言えど聞けんぞ」
「その領主が罪を犯していました。転移陣の魔力供給に関して、擁護のしようがないほどのことです。おれ達はそれを暴き、止めました。ですが、そのせい……という訳ではないですが、魔力が足りなくなってしまったのです。なので、転移陣の魔力を確保するために、魔法使いを貸していただけないかと」
「領主が……? 確かに何かやっていると思ったが……お前達だけで本当に罪を追及できるのか? 領主は王都にも仲間が多いのだろう?」
ギルドマスターだけでなく、彼の後ろの2人も信じられないというような顔をしている。
おれは淡々と説明する。
「ですから、国が滅ぶかもしれない罪を犯していたのです。そして、それを国に告発するため、次の転移陣でおれも王都に向かいます。そして、なんとか1か月後の転移で追加の戦力等を送れるようにします。なので、なんとか……今回と次回……お願いできませんか」
おれはそう言って頭を下げる。
でも、ギルドマスターはすぐに口を開く。
「クロノ。頭を上げろ」
「はい」
おれが頭を上げると、ギルドマスターが難しい顔を浮かべながらも、迷っていた。
「今の話……嘘偽りは決してないな?」
「ありません」
「ふぅ……そうか……。分かった。お前がそこまで言うのだ。信じよう」
「ありがとうございます!」
「今まで……お前がこの街のために尽くしてくれた。そのことを俺達は知っている。だから……その今までのお前の積み重ねを信じているのだ。分かったか?」
「はい」
そう言ってもらえる方がおれにとっては嬉しい。
ただの王子ではない。
ただのクロノとして、今までの行動を見てくれているということだから。
「文句はなんとかこっちで抑えるが……1月だったな? それだけは何とかしてやる。行くぞ」
そう言ってギルドマスターは2人を連れて部屋を出て行った。
「貴殿はよくやったな。自分が説明しようとした時は領主を出さないと殺すくらいの圧力を叩きつけられた」
「彼はとても素晴らしい人だからな」
おれはそう言ってサクヤ達が部屋に戻ろうとすると、レイヴァールがさらに話を続けてきた。
「しかし、ウィン様達に頼ることはしなかったのか? 聖獣であれば、魔力は潤沢にあるのではないか?」
「それはダメだ」
「どうしてだ?」
「これはおれ達人間の問題で、聖獣達に頼り続けてはいけないからだ。サクヤにも……」
「サクヤ?」
そう。
彼女達がここに来てから、ずっと頼りっぱなしだった。
領主の悪行を暴いて、青龍様を救い出してくれたのもサクヤ達だ。
サクヤは優しい。
魔力が足りないから少し分けてくれないか。
そんなことを聞いた日には笑顔で持って行ってくださいと言ってくれるだろう。
でも、それではダメなんだ。
彼女に頼るだけでは……ダメなんだ。
おれ達が頼られるようにならなければいけない。
「そうやって聖獣様達に必要な事を押し付けた結果が今のこの街の惨状だろう。人間ができることをしなければならん。理解しろ」
「……言われるまでもない。では自分は自分の仕事に戻る。ではな」
「ああ」
おれはレイヴァールと別れて、部屋に戻った。
おれはクロノ。
宮殿の部屋でリオンと一緒にサクヤの素晴らしい料理を食べていると、レイヴァールが部屋に入ってきた。
彼と一緒に仕事を始めて、有能であることは嫌というほど知れたけれど、ここまでまた仕事を振られるとは……。
リオンと一緒にやってもギリギリ転移前に終わるかという量。
そこに緊急の依頼など……。
「一体なんの仕事だ?」
少し苛立たしさがこぼれて、とげのある口調で聞いてしまう。
「ギルドマスターが来ていてな。その説得を頼みたい」
「それはお前達の仕事ではないのか?」
「そうだが、自分では説得できん。この後のことも考えたら貴殿が説得するべきだろう」
「……」
おれ達が王都に行って、今回のことについてどこまで明かすのかについて関わってくるからだろう。
父や兄と話すにしても、その後はギルドマスターと交渉するのはおれの役割になるかもしれない。
なら、今の内に交渉を引き受けておけということだ。
やりたくはないが、おれがやった方が今後のためにもなると分かる仕事。
「分かった。それでは行ってくる」
「気を付けてね。兄さん」
「クロノさん……お手伝いすることはありませんか?」
「心配ない。サクヤはのんびりとしていてくれ」
おれはきょとんとしてかわいいサクヤの頭を撫で、部屋を出て行く。
そして、レイヴァールと一緒に近くの応接間に行く。
部屋は貴族が来ても歓迎できるような豪華な調度品が置かれ、部屋自体もとても広い。
だけど、おれの視線は中央のソファに座ったギルドマスターに釘付けになる。
気力を振り絞って彼に近づくけれど、怒りのせいか彼の周囲が夏のように暑い。
まだ春先なのに……だ。
彼の後ろにはギルドの秘書と最近回復したAランク冒険者がいた。
でも、大事なのはギルドマスターだ。
「お待たせしました。ギルドマスター」
「ほう。やっと来たか。筆頭書記官殿。詳しいはな……クロノ? 貴様がなぜそちら側にいる?」
ギルドマスターは射貫くような視線をおれに向けてきた。
ただ、おれだと分かると驚きで目を見開く。
「事情がありまして、今回こちら側に立たせて頂きます」
「……なるほど、それは重畳、話の分かる相手で助かった。だがクロノ。舐めた説明をしたら本気で許さんぞ?」
「っ……はい」
背筋がゾクリとするほどの圧力。
長年Aランク冒険者として戦い続け、今だ剣を振う凄腕のギルドマスター。
国のために、なんとか説得をしなくてはならない。
その目的は……。
「ギルドマスター。単刀直入にお願いがあります。魔法使いや……魔力の多い者を転移陣発動の魔力に当てるために貸してください」
「それはすでに聞いている。だが、なぜ今さらそのような事を言われねばならんのだ。こちらはすでに土魔法使いを貸し出た。そこから更に魔法使い等と……。この街を守る気がないのか? 今出ている冒険者達に死ね……そう言っているのではあるまいな?」
一言一言がとても重たい。
でも、おれは屈していられない。
これも……国のために、おれ達自身のために必要なことだから。
そして、サクヤにもらった食事が体に漲る様な気がするから向き合える。
「そんなつもりはありません」
「ではどうして? せめて理由を教えてもらわねば許容すらしかねる」
「理由については……明かせません」
「なぜ?」
「国が滅ぶかもしれないことだからです」
「……国が?」
圧力を放っていたギルドマスターは、話が大きくなり過ぎたのについていけず言葉を失う。
しかし、長年こういった交渉もこなしてきた彼は、すぐに平静さを取り戻す。
「国が滅ぶとは……どのような?」
「それを言ったら……滅ぶ可能性があるので言えません」
「なるほど、そんな大事な事があり、それは言えないが、国を守るために魔法使いを差し出せ。ということか?」
「そうです」
「ふざけるのもいい加減にしろ!」
バガッ!!!
ギルドマスターが拳を机に叩きつける。
机は真っ二つに割れ、破片が周囲に飛び散る。
それでも、おれは避けずにギルドマスターと向かい合う。
「ふざけていません」
「クロノ……お前のことは信頼している。お前も俺のことを信頼してくれていると思っていたが、勘違いだったのか?」
「いえ、おれはあなたを信頼しています」
「では後ろの2人か? 2人を下げれば話してくれるのか?」
「……いえ、それも難しいでしょう。それほどに重大な事柄なのです」
おれは忸怩たる思いで彼に伝える。
本当は彼にも話してしまった方がいいのではないか。
そう思わないでもないが、聖獣に関する話をし出すとサクヤの話までしなければならなくなるだろう。
彼女を巻き込むことはなんとしても止めなければならない。
「では言えることはなんなのだ。理由は言えないが魔法使いを出せ等という要望、いくら領主と言えど聞けんぞ」
「その領主が罪を犯していました。転移陣の魔力供給に関して、擁護のしようがないほどのことです。おれ達はそれを暴き、止めました。ですが、そのせい……という訳ではないですが、魔力が足りなくなってしまったのです。なので、転移陣の魔力を確保するために、魔法使いを貸していただけないかと」
「領主が……? 確かに何かやっていると思ったが……お前達だけで本当に罪を追及できるのか? 領主は王都にも仲間が多いのだろう?」
ギルドマスターだけでなく、彼の後ろの2人も信じられないというような顔をしている。
おれは淡々と説明する。
「ですから、国が滅ぶかもしれない罪を犯していたのです。そして、それを国に告発するため、次の転移陣でおれも王都に向かいます。そして、なんとか1か月後の転移で追加の戦力等を送れるようにします。なので、なんとか……今回と次回……お願いできませんか」
おれはそう言って頭を下げる。
でも、ギルドマスターはすぐに口を開く。
「クロノ。頭を上げろ」
「はい」
おれが頭を上げると、ギルドマスターが難しい顔を浮かべながらも、迷っていた。
「今の話……嘘偽りは決してないな?」
「ありません」
「ふぅ……そうか……。分かった。お前がそこまで言うのだ。信じよう」
「ありがとうございます!」
「今まで……お前がこの街のために尽くしてくれた。そのことを俺達は知っている。だから……その今までのお前の積み重ねを信じているのだ。分かったか?」
「はい」
そう言ってもらえる方がおれにとっては嬉しい。
ただの王子ではない。
ただのクロノとして、今までの行動を見てくれているということだから。
「文句はなんとかこっちで抑えるが……1月だったな? それだけは何とかしてやる。行くぞ」
そう言ってギルドマスターは2人を連れて部屋を出て行った。
「貴殿はよくやったな。自分が説明しようとした時は領主を出さないと殺すくらいの圧力を叩きつけられた」
「彼はとても素晴らしい人だからな」
おれはそう言ってサクヤ達が部屋に戻ろうとすると、レイヴァールがさらに話を続けてきた。
「しかし、ウィン様達に頼ることはしなかったのか? 聖獣であれば、魔力は潤沢にあるのではないか?」
「それはダメだ」
「どうしてだ?」
「これはおれ達人間の問題で、聖獣達に頼り続けてはいけないからだ。サクヤにも……」
「サクヤ?」
そう。
彼女達がここに来てから、ずっと頼りっぱなしだった。
領主の悪行を暴いて、青龍様を救い出してくれたのもサクヤ達だ。
サクヤは優しい。
魔力が足りないから少し分けてくれないか。
そんなことを聞いた日には笑顔で持って行ってくださいと言ってくれるだろう。
でも、それではダメなんだ。
彼女に頼るだけでは……ダメなんだ。
おれ達が頼られるようにならなければいけない。
「そうやって聖獣様達に必要な事を押し付けた結果が今のこの街の惨状だろう。人間ができることをしなければならん。理解しろ」
「……言われるまでもない。では自分は自分の仕事に戻る。ではな」
「ああ」
おれはレイヴァールと別れて、部屋に戻った。
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