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5章 王都へ

86話 二人だけのご飯

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「さて、どんな料理を作るかなんだけれど……」

 さっきから鑑定をしていて、それで食材を大体は選んだ。
 そして、決めた料理は……。

「食材の味を活かしてシンプルな料理を作る! それに限る!」

 わたしはそう決めた。

 だって、プロフェッサーの時に料理を作った時も難しかった。
 というか、鑑定結果の似ている……という言葉は本当に地球にある食材と比べたらどれ……という程度で、実際に食べてみると結構違う。
 だから、シンプルイズベスト。
 ウィンがとってくれた高級な魔物の肉やいい魚を使ったシンプルな味付けにするのだ。

「ということで……」

 わたしは準備されていたマッチで火をつけたり、食材を切ったりしていく。

 あんまり料理が得意という訳ではなかったけれど、なんとかできたと思う。

 野菜を切り、肉を焼く。
 調味料自体もそこまで種類がある訳ではない。
 なので、よりシンプルな味付けが一番ちょうどいいだろう。

 そうやって調理をすること2時間。
 できた料理からバレないようにアイテムボックスへ入れていく。

 ウィンがいた入り口の方を見たけれど、ウィンはいつの間にかいなくなっていた。

「良かった。見られなくて」

 それから、わたしは自分が使った場所の後片付けをして、残った食材等はアイテムボックスに入れる。
 最後に丁寧に掃除をして、汚れの残りがないかを確認した。

 最後に女将さんにお礼を言って部屋に戻る。

「女将さん。ありがとうございました!」
「あら、もういいのかい? 丁寧に使ってくれてありがとうね」
「いえ、当然のことです!」
「そんなことはないよ。それじゃあまたいつでも来てね」
「はい!」

 そう言ってわたしは別れ、一度部屋に戻る。
 一人で外に出るのはウィンが怒るだろうし、青龍の事が心配だったのもあるからだ。

 部屋に戻ると、そこにウィンはおらず、ベッドの上では相変わらず青龍が丸まっていた。

「……」

 わたしはそっと青龍に近付き、隣に腰を下ろす。

「……回復魔法をかけた方がいいのかな」

 じっと動かないということは、やっぱりまだ体が辛いんじゃないのだろうか。
 そんな事を思っていると、声をかけられた。

「その必要はない」
「ウィン?」

 わたしが振り向くと、そこにはいつの間にかウィンがいた。

 彼はわたしに黙って近付くと鼻でつんつんしてくる。

「ウィン?」
「なんでもない。それで、青龍に回復魔法をかける必要はないぞ」
「そうなの?」
「昨日近くで寝ていたであろう? 青龍はサクヤの桁外れた魔力の近くにいたのだ。気付かぬうちに回復をしている」
「なら良かった」

 そんなことも分かるんだ……。
 流石聖獣だ。

 でも、それならちょうどいい。

「ウィン。ご飯にしよ?」
「そうだな。まだ食べていなかったか」
「うん!」

 それからわたし達は敷物を準備して、料理を並べていく。
 アイテムボックスに入っていたものの時間は止まる。
 ということを利用して、出来立てほやほやの料理を準備していくのだ。

「……サクヤ。これらの料理は……宿の者が作ったのか?」
「え……やっぱり違う?」

 実は、ここに並べた料理はわたしが作った料理だ。
 宿で作られたような立派な料理ではないので、少し心配になる。

 プロフェッサーの所では問題なかったけど、ウィンが用意してくれたいい食材をうまく使えているのかな。

 ウィンは鼻が利くからそのことに気付いてしまったのかもしれない。

 わたしがちょっと不安になっていると、ウィンは答える。

「違うが……匂いはこちらの方が好きだな」
「そう……なの?」
「ああ、食べてもいいのか?」
「うん」

 わたしは自分の料理をそっと持ちながら、チラチラとウィンの食べる姿を見る。

 ウィンはいつもとちょっと違った様子で味わう様に食べている気がする。

 わたしは自分で作ったもので、味見もしているから大体の味は分かる。
 でも、ウィンがどんな風に思うのか気になって味があんまり分からない。

「美味いな」
「! 本当!?」
「ああ、俺はこっちの味の方が好きだ」
「そっかぁ……」

 そう言ってもらえてとても嬉しい。
 いつも彼に乗せてもらってばかりで、何かできないかと思っていたからだ。

「サクヤ」
「何?」

 ちょっと明るい気分でウィンの方を見ると、ずずいっとウィンが近付いてきていた。

「俺はこちらの方が好きだが、別に毎回食べたい……という訳ではないからな? いや、別にそんな美味しくない。という訳ではないのだがな? その……なんと言うか……」

 ウィンが珍しく歯切れが悪い。
 というか、なんだか色々と考えてくれているみたいけれど、きっとわたしのことを考えていてくれているのは分かる。
 彼は多分……。

「ウィン。これ……わたしが作ったって知ってた?」
「……まぁ、魔法で見ていたからな」
「もう……好きにしてって言ったのに……」
「すまん……」

 しょぼんと濡れた子犬のように耳を垂れ下げているのはとてもかわいい。
 普段はキリリとしていて、強そうな所しか見せてくれないからたまにはこういうのも嬉しい。
 普段はヴァイスやエアホーンラビットがいるから気高くあろうとしているのかな。

 わたしはウィンの頭を撫でながら答える。

「そんなことないよ。でも、たしかに毎回は大変だからできないかもしれないけど、食べたくなったらまた言って、いつでも作るから」

 ウィンがいつもわたしのために思ってくれるように、わたしだってウィンのためを思って行動したい。

「そうか……わかった。でも、本当に時々にしよう」
「えーどうして?」
「こればかり食べていたら他のが食べられなくなってしまうかもしれないからな」
「そんなこと言って……」

 ウィンはお世辞が上手い。

「冗談ではないぞ」
「はいはい。冷めちゃうから食べよう?」
「むぅ……本当なのに……だが今は食べるとしよう」

 ウィンはそう言ってガツガツと食べ始める。

 それからご飯を食べ終わったころ、ベッドの方でもぞりと音がした。

 わたしはなんだろうと思って振り返ると、ベッドの上でとぐろを巻いていた青龍がのそりと起き上がっていた。
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