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5章 王都へ
85話 キッチンをお借りします
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「このとってもいい匂いは……」
『何かの肉だな』
「お肉……」
買いたい……という訳ではない。
というか、結局まだお金を持ってない。
そっちはそっちでまずいんだけれど、でも、今の問題ではない。
『何かあるのか?』
「うん。クロノさんとリオンさん。とっても疲れているみたいだったから、何か……ご飯を作ってあげられないかなって」
2人が政務をしてくれているのは自分達の役目を果たすため。
そのことは分かっているけれど、頑張っている2人に何かしたいと思ったのだ。
ウィンは嬉しそうにチラリとこちらを見て、念話で語りかけてくる。
『優しいのだな。食材は何がいい?』
『食材って?』
『サクヤのために上空に隠してあると言っただろう? 食材も一通りある。いる分だけ下ろすぞ』
「『わたしが使っていいの?』
『サクヤに使ってほしくて集めているのだ。好きにしてくれ』
『ありがとうウィン』
わたし達は宿に戻る道すがら話す。
『しかし、2人きりというのは初めてだな』
『そうだね。いつもヴァイスとエアホーンラビットがいたから……って言っても寝ていることは多かったし、あんまり新鮮な感じはしないけど』
『出会ってまだ1月経っていないのに不思議なものだ』
『あはは、確かにそうだね』
わたしは思わず笑ってしまう。
なんだか長い間一緒にいるような気持ちもしていたけれど、言われてみるとそうだ。
『それで、料理を作るといっても、どこで作るんだ?』
『宿の調理場を少しだけ借りられないかなって』
『なるほど。ダメだったら魔法で眠らせてちょちょいだ』
『それはダメだよ……』
宿のお仕事に影響が出ちゃう。
わたし達は宿に戻って女将さんに聞いてみる。
「いいよ」
「本当ですか!」
「ああ、でも食材はあるように見えないけど……宿のを使うかい?」
「そこまでしていただくわけにはいきません。ちゃんとあるので大丈夫です」
「そうかい。それならいいけど……従魔は入れないでね?」
「!?」
「!?」
わたしとウィンは絶句する。
でも、考えたら当たり前だ。
キッチンに動物が入るのは、食事を提供する店ではいい訳がない。
『サクヤ。また今度にしよう』
『いや、流石にそれは……』
今やると決めたのだから、やってしまいたい。
それに……ウィンがいないのはある意味好都合かも。
『ウィン。ちょっと待ってて。というか、ウィンもたまには羽を伸ばしていて』
『しかし、それではサクヤが……』
『心配はいらないよ。自分の周りには結界魔法を張るから。それなら大丈夫でしょ?』
『むぅ……しかし……』
『ウィン。たまには羽を伸ばして好きにしていて』
『サクヤの側にいるのが好きにしていることなんだが……』
『それなら、次にしたいことをしてみて、あ、食材は適当に置いていってくれると助かる』
『分かった……』
わたしはウィンを説得して、女将さんに向き直る。
「では使わせていただいていいですか?」
「ああ、いいよ」
わたしはウィンから降りて、女将さんに案内してもらう。
ウィンはとても名残惜しそうにわたしの後ろをついてきて、キッチンのギリギリの所にまできてくれた。
女将さんはキッチンの小さめの場所を貸してくれる。
「ここは朝に仕込みをする場所だからね。この時間以降はそこまで使わないのさ」
「ありがとうございます。それであの……少し頂きたいものがあるんですが……」
「なんだい?」
「調味料を頂けないでしょうか?」
「もちろんいいよ」
「ありがとうございます!」
わたしはそう言ってせめてものお礼のためにウィンに食材をもらう。
窓が開いていたので、そこから入れてもらったのだ。
その中から、かなり良さそうなお肉を持って女将さんに渡す。
大きさはわたしが持てるくらいなので、5キロくらいだけど。
「サクヤちゃん。これはどうしたんだい?」
「キッチンを貸していただくのと調味料をいただくので、そのお礼にと……」
キッチンを貸してもらって調味料までもらうのだ。
これくらいはしなければならないだろう。
「え……そのためにこんないいお肉を……? 王都とかで食べられているような高級な魔物の肉なんじゃ……」
「でも、お礼ですので、ぜひとも受けとってください!」
ウィンにはちゃんと許可をもらっているから問題はない。
いっぱい……というか、聞いたら200キロくらいあるとか言ってたし……。
渡し過ぎて邪魔と言われたらまずいからこれくらいにしておく。
「そんな……いや、でもありがとう。大事に食べるよ。それと、調味料本当に好きなだけ使っておくれ」
「ありがとうございます!」
女将さんはそう言って店の調味料をドカッとおいていってくれた。
置かれた物は大きな壺で、30キロは余裕でありそう。
ありがたいけどこんなには使えない……。
でも必要な分は使わせてもらおう。
女将さんが出してくれた足場を使ってキッチンを使う。
キッチンは目の前にまな板があり、その左には火鉢で右には洗い場。
後ろの台にはウィンが準備してくれた食材が……。
「ってどこまで準備してくれたの!?」
適当にと言っていたけれど、目の前にはわたし一人では使いきれないほどの食材が山と置かれていた。
魚は10種類はいるし、肉も色々な肉が部位等もあって10種類以上ある。
野菜にいたってはどうやって採ったのか30種類以上も置かれているのだ。
他にも卵とか果物も当然のようにあった。
『必要ないものは上に戻す……いや、アイテムボックスにでもしまってくれればいい。入れたくないなら上に戻す』
『ありがとう、ウィン。でも、本当に好きにしててね?』
『……分かった』
ちょっと間があったけれど、分かってくれたようで何よりだ。
とりあえず鑑定をしていって、使えそうな料理を考える。
『ウィン。食材を元に戻して』
『わかった』
ウィンがそう言って食材を空に戻していく。
わたしは近くの人が見ていない隙をついたので、多分誰にも見られてはいないはず。
「〈結界の創生〉」
わたしはウィンとの約束通りちゃんと結界を張り、調理に取り掛かった。
『何かの肉だな』
「お肉……」
買いたい……という訳ではない。
というか、結局まだお金を持ってない。
そっちはそっちでまずいんだけれど、でも、今の問題ではない。
『何かあるのか?』
「うん。クロノさんとリオンさん。とっても疲れているみたいだったから、何か……ご飯を作ってあげられないかなって」
2人が政務をしてくれているのは自分達の役目を果たすため。
そのことは分かっているけれど、頑張っている2人に何かしたいと思ったのだ。
ウィンは嬉しそうにチラリとこちらを見て、念話で語りかけてくる。
『優しいのだな。食材は何がいい?』
『食材って?』
『サクヤのために上空に隠してあると言っただろう? 食材も一通りある。いる分だけ下ろすぞ』
「『わたしが使っていいの?』
『サクヤに使ってほしくて集めているのだ。好きにしてくれ』
『ありがとうウィン』
わたし達は宿に戻る道すがら話す。
『しかし、2人きりというのは初めてだな』
『そうだね。いつもヴァイスとエアホーンラビットがいたから……って言っても寝ていることは多かったし、あんまり新鮮な感じはしないけど』
『出会ってまだ1月経っていないのに不思議なものだ』
『あはは、確かにそうだね』
わたしは思わず笑ってしまう。
なんだか長い間一緒にいるような気持ちもしていたけれど、言われてみるとそうだ。
『それで、料理を作るといっても、どこで作るんだ?』
『宿の調理場を少しだけ借りられないかなって』
『なるほど。ダメだったら魔法で眠らせてちょちょいだ』
『それはダメだよ……』
宿のお仕事に影響が出ちゃう。
わたし達は宿に戻って女将さんに聞いてみる。
「いいよ」
「本当ですか!」
「ああ、でも食材はあるように見えないけど……宿のを使うかい?」
「そこまでしていただくわけにはいきません。ちゃんとあるので大丈夫です」
「そうかい。それならいいけど……従魔は入れないでね?」
「!?」
「!?」
わたしとウィンは絶句する。
でも、考えたら当たり前だ。
キッチンに動物が入るのは、食事を提供する店ではいい訳がない。
『サクヤ。また今度にしよう』
『いや、流石にそれは……』
今やると決めたのだから、やってしまいたい。
それに……ウィンがいないのはある意味好都合かも。
『ウィン。ちょっと待ってて。というか、ウィンもたまには羽を伸ばしていて』
『しかし、それではサクヤが……』
『心配はいらないよ。自分の周りには結界魔法を張るから。それなら大丈夫でしょ?』
『むぅ……しかし……』
『ウィン。たまには羽を伸ばして好きにしていて』
『サクヤの側にいるのが好きにしていることなんだが……』
『それなら、次にしたいことをしてみて、あ、食材は適当に置いていってくれると助かる』
『分かった……』
わたしはウィンを説得して、女将さんに向き直る。
「では使わせていただいていいですか?」
「ああ、いいよ」
わたしはウィンから降りて、女将さんに案内してもらう。
ウィンはとても名残惜しそうにわたしの後ろをついてきて、キッチンのギリギリの所にまできてくれた。
女将さんはキッチンの小さめの場所を貸してくれる。
「ここは朝に仕込みをする場所だからね。この時間以降はそこまで使わないのさ」
「ありがとうございます。それであの……少し頂きたいものがあるんですが……」
「なんだい?」
「調味料を頂けないでしょうか?」
「もちろんいいよ」
「ありがとうございます!」
わたしはそう言ってせめてものお礼のためにウィンに食材をもらう。
窓が開いていたので、そこから入れてもらったのだ。
その中から、かなり良さそうなお肉を持って女将さんに渡す。
大きさはわたしが持てるくらいなので、5キロくらいだけど。
「サクヤちゃん。これはどうしたんだい?」
「キッチンを貸していただくのと調味料をいただくので、そのお礼にと……」
キッチンを貸してもらって調味料までもらうのだ。
これくらいはしなければならないだろう。
「え……そのためにこんないいお肉を……? 王都とかで食べられているような高級な魔物の肉なんじゃ……」
「でも、お礼ですので、ぜひとも受けとってください!」
ウィンにはちゃんと許可をもらっているから問題はない。
いっぱい……というか、聞いたら200キロくらいあるとか言ってたし……。
渡し過ぎて邪魔と言われたらまずいからこれくらいにしておく。
「そんな……いや、でもありがとう。大事に食べるよ。それと、調味料本当に好きなだけ使っておくれ」
「ありがとうございます!」
女将さんはそう言って店の調味料をドカッとおいていってくれた。
置かれた物は大きな壺で、30キロは余裕でありそう。
ありがたいけどこんなには使えない……。
でも必要な分は使わせてもらおう。
女将さんが出してくれた足場を使ってキッチンを使う。
キッチンは目の前にまな板があり、その左には火鉢で右には洗い場。
後ろの台にはウィンが準備してくれた食材が……。
「ってどこまで準備してくれたの!?」
適当にと言っていたけれど、目の前にはわたし一人では使いきれないほどの食材が山と置かれていた。
魚は10種類はいるし、肉も色々な肉が部位等もあって10種類以上ある。
野菜にいたってはどうやって採ったのか30種類以上も置かれているのだ。
他にも卵とか果物も当然のようにあった。
『必要ないものは上に戻す……いや、アイテムボックスにでもしまってくれればいい。入れたくないなら上に戻す』
『ありがとう、ウィン。でも、本当に好きにしててね?』
『……分かった』
ちょっと間があったけれど、分かってくれたようで何よりだ。
とりあえず鑑定をしていって、使えそうな料理を考える。
『ウィン。食材を元に戻して』
『わかった』
ウィンがそう言って食材を空に戻していく。
わたしは近くの人が見ていない隙をついたので、多分誰にも見られてはいないはず。
「〈結界の創生〉」
わたしはウィンとの約束通りちゃんと結界を張り、調理に取り掛かった。
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