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3章
95話 複合属性
しおりを挟む僕は祭壇の上で漂う闇の女神に向かっていく。
『攻撃するのは少し待て。我が最初に話してみよう』
『最初に話す? っていうか、闇の女神を知っている様な感じの話をしていたけど……』
『当然知っている。だから少し任せろ』
『よろしく』
闇の女神と顔見知りとは……流石神獣。
フェンリルがレイラの中にある時の神を呼び起こしたのも、そういった事が出来たからかもしれない。
ザバッ!
僕は水中から飛び上がり、闇の女神の前に降り立つ。
その際に彼女に水がかかってしまう。
「貴様……何者……いや。クラーケンか?」
『久しいな闇の女神よ』
「そんな肩書で話すのは寄せ。わらわにはダークネスという名があることは知っておろう」
『その名は……思い出すから使いたくない』
クラーケンがそう言うと、闇の女神の気配が強くなった。
「わらわの名も呼びたくない……? 大きく出たな。クラーケンよ。誰に作られたか忘れたと申すか!」
『……やはりこうなったか』
「もう一度言ってみよ。クラーケン。主は一体誰に作られた存在じゃ!?」
『水の神、次元の神そして闇の神の貴方だ』
「そうじゃろう。そうじゃろう。それがなぜそんな他人行儀な言い方をするのか。ああ、イライラする。一度仕置きをしてから考えるとするか」
『本当に貴方という方は……』
「口答えをするな。【闇の痛み】」
「!?」
僕は急いで横に飛び、僕がいた場所を黒い風が通り抜ける。
「なぜ避けるのじゃ。許さぬ。許さぬぞ。わらわの至福を壊した貴様には、決して癒えぬ傷を残してやる」
『待て! 落ち着け! 話せば分かる!』
「くどい! 【闇の痛み】【闇の痛み】【闇の痛み】!!!」
「うわああああ!!!」
僕は今度は横に移動するだけではなく、ジャンプしたり横に飛んだり下がりながら彼女のスキルを躱す。
しかし、その密度は圧倒的で、全てを避け切れるものでは無かった。
彼女のスキルが、触手の1本の中ほどまでに当たってしまったのだ。
次の瞬間、タコの状態であればほとんど感じない痛みにのたうち回ることになった。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!」
「ふはははははははは!!! いい。いいぞ。わらわの邪魔をしたつけを払うがいい! 【闇の痛み】」
彼女は僕が痛がっているのを見ても関係ないとばかりにこれでもかとスキルを放って来る。
その姿は容赦がない所か楽しんでいる様にすら見えた。
「一回下がるよ!」
『そうしろ』
僕は水の中に飛び込み、彼女から姿を隠す。
逃げている間も、彼女はスキルを放ち続けていて正直肝が冷える。
一体どれだけ力を使って来るのだろうか。
「ねぇ……本当に知り合い?」
それほどに関係ないとばかりに攻撃をして来たように思う。
というか、あんなちょっとでかなりの激痛が走るのに、あれをもろに受けたらどうなるのだろうか……。
恐ろしいことに考えがいってしまう。
『知っているはずだが……。それもかなり昔の事。あやつが忘れている可能性がない訳ではない』
「それなら……どうしたらいいのさ」
『どうするか……』
どうするか、と考えても、サナを取り返すように攻撃をするしかない。
でも……サナを攻撃する。
ということにどうしても抵抗感があるのだ。
大事な……大事なサナ。
僕の事を慕ってくれる可愛いサナ。
彼女のことを考えたら、僕は迷っている暇なんてない。
サナを傷つけて、辛い思いをするのは僕だけだ。
サナが帰ってくるのであれば、それくらいは乗り越えてみせる。
「やるよ。サナ……いや、ダークネスをサナから追い出すために攻撃をする」
『覚悟は出来たのか?』
「うん。僕が……僕がサナを助けるんだ。だから、協力して欲しい」
『ふ。元よりそのつもりだ』
「ありがとう。行くよ」
『ああ』
僕は泳ぎ、ダークネスを目掛けて近寄っていく。
彼女は僕の事を把握していたようで、じろりと睨みつけてくる。
「そのまま大人しくしていればよかったものを。【闇の痛み】」
「サナを返して!」
僕は彼女の攻撃を避けながら近付いて行く。
「サナ……なんじゃそれは。煩わしい。【闇の痛み】【闇の痛み】【闇の痛み】」
「【水流切断】!」
僕は攻撃を避けるために下がり、そしてスキルを放つ。
シュパッ!!!
狙いは当然ダークネス。
だけれど、もしもの事を考えて足を狙う。
しかし、
「その程度の攻撃が効くわけなかろう。わらわのことをバカにしておるのか?」
彼女の周囲に存在する黒い靄に消されてしまった。
「近付いて触手での攻撃なら効くかな?」
『恐らく……としか言えぬ。我からは強い衝撃を与えれば何とかなるかもしれん。としか言えぬ』
「強い衝撃……」
あれだけの密度の攻撃を掻い潜って強力な攻撃を当てなければならないということか。
であれば、体を小さくして近付く……?
『よそ見をするな!』
「!?」
僕は急いで回避行動をとり、彼女の攻撃を躱す。
危ない。
少しでも気を抜いたら攻撃を食らってしまうのだ。
『考えるのであれば我が体を操作するか?』
「それは後で頼むよ。まずは近付いてちょっと攻撃を試してみる」
『数秒防いでやるから恐れずに進め』
「分かった」
僕はもう一度ダークネスに向かって進む。
「【闇の痛み】」
彼女が放ってくる攻撃を見切って躱し続ける。
先ほどから連打されまくっているので、どれくらいの効果範囲か分かりやすいのだ。
「うっとおしい……【闇の拘束】」
「!?」
僕は急いでその場から横に進路を変える。
すると、僕の進行方向に茨の壁が出来上がっていた。
「【水流切断】!」
僕は自分が通れるだけの穴を穿つ。
茨は拘束用でこうやった攻撃には弱いからだ。
僕はそのまま中を通り抜けてダークネスまで後数mと言う距離にまで到達する。
「【触手強化】!」
僕はダークネスの腹に思い切り触手を叩きつけた。
「その程度の攻撃か……」
「硬すぎでしょ……」
僕の攻撃は彼女の黒い靄すら突破する事は出来ていなかった。
「でも、【氷の装甲】!」
ダァン!!!
「っ!」
僕の触手がダークネスの靄を突破し、彼女の腹を叩く。
「つっ!」
彼女はそのまま後ろの壁に背中をぶつけた。
「やった!」
これで強い衝撃を与えるという事は達成出来たのではないだろうか。
サナが帰って……
『下がれ!』
「!」
僕が驚いて飛び下がると、僕のいた位置に【闇の牢獄】の様な棺が発生していた。
「貴様ら……許さぬ。決して許さぬ。楽に死ねると思うなよ……」
壁からは美しいサナの顔を憤怒の表情で染めたダークネスが出て来た。
「結構強い衝撃だったと思うんだけど!?」
『お前達人と神を同列に語るな。あの程度では虫が止まった程度に過ぎん』
「あれで……」
『ともかく一度下がれ』
「分かった」
僕は再び水の中に戻ろうとして飛び込む。
しかし、ダークネスはそれを許してはくれなかった。
「させるわけなかろう。【闇の領域】」
「何これ!?」
『ここまでするか!?』
彼女を中心に、漆黒の領域が拡がっていく。
それは一瞬の出来事で何かをする暇さえ無かった。
「ここは……」
僕も当然それに飲まれ、水も何もない。
真っ暗な空間に彼女と2人きりになる。
「これ……戻れる?」
『不可能だ……目覚めたばかりとはいえ、ここは彼女の領域。彼女をなんとかするしか逃れる術はない』
「それは……」
不味い。
という言葉は飲み込んだ。
どこからどこまで移動して良いのかも、何をしてはいけないのかも全く分からない。
僕の不安に気付いたのか、クラーケンがこのフィールドの効果を教えてくれる。
『安心しろ。この空間は闇属性の効果が上がることと、出られなくなるだけだ』
「そっか……まぁ、それも安心は出来ないんだけれど……」
なにせ相手は闇の神だ。
ただでさえ勝てるか分からない相手の有利なフィールド。
どう考えたって不利になるだろう。
そんな事を思っていると、この空間に満足したのかダークネスが攻撃を仕掛けて来た。
「うむ。やはりこの空間こそわらわの領域よな。【闇の痛み】」
「え?」
僕は彼女から放たれた桁違いに大きな攻撃に気付くのが遅れて当たるかと思った。
『【闇の盾】』
しかし、クラーケンが何とか防いでくれた。
「ありがとう」
『気にするな。それよりも彼女に集中しろ。一瞬でも隙を見せたら地獄だぞ』
「うん」
僕は油断していた。
だけどしっかりと意識する。
ここが闇の領域であることを。
彼女の攻撃力が上がっているということを本能のレベルにまで刻み込むのだ。
「【水流切断】」
「効かぬと言っておろう」
「く……」
僕のスキルは確かに彼女に全く効いていない。
遠距離攻撃はこれくらいしかないのに、全くの無傷ではどうしたらいいのだろうか。
『貴様、複合属性を使え』
「複合属性?」
『先ほど犬ころが使っていただろう。【炎と土の爪】等の技だ』
「使えないよ」
『今使えるようになれ。でなければ彼女には届かない』
「そんな、いきなり?」
『仮にも神を相手にするのだ。それくらいやれ』
「……分かった」
言われてみればそうだ。
というか、ダークネスに効く可能性があるというだけで十分。
『それに多少は我の感覚を共有している。1からやるよりは難しくないはずだ』
「なるほど」
『ではやってみろ』
「何をしたらいいいの?」
僕は暇つぶしのよに放たれている【闇の痛み】を避けながらクラーケンに聞く。
『2つのスキルを同時に発動しろ。感覚が掴めるはずだ』
「そんな急に」
『いいから』
「それじゃあ……【水流切断】【水流防盾】」
何といきなり出来てしまった。
僕から彼女に水流が飛び、目の前には水の盾がつくられている。
「悪くない。だが、違う属性だ」
「あ……そうだよね。【水流切断】【次元の門】!」
その時に、何か奇妙な感覚を体が襲う。
口で説明しにくい、でも確かにこれか。
と思うような感触があったのだ。
『いいぞ。筋がいい。後は、メインとなるスキルにもう1つの属性の感覚を注ぎ込みながら使えば放てる』
「やってみる」
メインとなるスキルは【水流切断】。
これに、次元属性を加えて……。
心の奥で、何かがカチリとハマった感触を得た。
それと同時に、スキルが口からこぼれていた。
「【水次元切断】」
シパッ
今までの音よりも圧倒的に軽い。
いきなり聞いたら聞き間違いだ。
そう言われても信じてしまいそうな程に軽い音。
その線がダークネスを切り裂いた。
「くっ!!! 貴様!? 何をした!?」
彼女の綺麗な肌は薄くだが切り裂かれ、驚きで攻撃を止めていた。
「出来た……」
『いいぞ。その調子でやりまくれ』
「【水次元切断】!」
シパッ!
「【闇の盾】」
今度の攻撃は彼女が力を使って防ぐ。
その目は僕をいらだたし気に見つめていた。
「いつまでもいつまでもいつまでも! 【闇の拘束】!!!」
彼女はドンドン目覚めていっているのか、力のキレが鋭くなって行く。下手をしたらもう簡単に追いつかれてしまいそうな程だ。
クラーケンが体の使い方を分かっているので何とか逃げられるけれど、これ以上は厳しい。
そうやって、終わる前に……僕が自ら前に進むしかない。
「行くよ」
『分かっている』
僕はダークネスに近付いて行く。
遠距離からでは肌を少し傷つけるだけだし、本当に一撃入れるには複合属性を使うしかないのだ。
彼女は怒った顔……サナの顔だから可愛いが。
その状態で力を使い続ける。
「【闇の痛み】【闇の痛み】【闇の拘束】【闇の拘束】」
クラーケンが操る体は右に左に時には飛び、また今度は潜り抜けて行く。
まるで彼女の心を読んでいるというか、未来を見通しているかのようだ。
僕も回避の事は彼に任せて、彼女に打ち込むスキルの事だけを考える。
使うスキルは近接系、それも出来るだけ威力の高い物がいい。
集中して、彼女を真っすぐに見据える。
彼女まで、あと少し。
『今だ!』
「【氷次元の装甲】!」
僕は、近距離用のスキルに2つの属性を乗せて彼女に叩きつけた。
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