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3章
83話 出発
しおりを挟む僕はジェレを連れて歩く。
「まずは旅支度を始めないと。昼過ぎにはここを出たいけどいいかな?」
「構わない」
「ありがとう。それじゃあその時間に校門で」
「分かった。2人はどうする?」
「……今回は……僕たちだけで行く」
今回の旅は危険だ。
ギーシュ。
それはあのロード・バルバロイよりも、リャーチェよりも強いと言われている人。
そんな人と戦うのに、あの2人を巻き込んでしまったら死なせてしまうかもしれない。
僕にはそんなことは出来ない。
したくない。
だから、今回は話さずにおこうと思う。
「いいの?」
「……うん。相手が悪すぎる。巻き込む訳にはいかないよ」
「そう」
こうして僕たちは別れ、時間になるまで準備をする。
教会本部までは1週間程の旅。
それなりの旅支度をしなければならない。
それらが終わり、校門へと向かうと、そこには、レイラ、アルセラ、彼女の護衛達、フェリスにオリヴィアさんがいた。
「み、皆……。どうしたの? こんな所に集まって」
動揺から声がうわずってしまう。
どうしてバレてしまったんだろうか?
もしかしてジェレが?
そう思って彼女の方を見ると、彼女は首を横に振る。
「何もしていない」
その答えはレイラが答えてくれる。
「クトーの考えていることくらいわかるわよ。あたし達を巻き込みたくない。そんなところなんでしょ?」
続けてフェリスが話す。
「わたくし達に隠し通せるとお思いですか? クトー様の先ほどの様子でサナが居なくなった事は分かって居ました。行くんですよね?」
どうやら完璧にバレてしまっている様だった。
というか、さっきあった時に、サナの事を聞いただけなのに直ぐに分かってくれるなんて……。
アルセラが更に説明をしてくれる。
「私達を置いて行くなんて許さん。レイラ様がいればベネディラには簡単に入れるし、フェリス様が馬車の手配等はしてくださった」
続いて近衛騎士団長のオリヴィアまで。
「強い奴と戦いに行くのだろう? わたしも混ぜろ」
この人はちょっと違うかもしれない。
「でも、本当にいいの?」
「何がだ?」
「その……死ぬかもしれない。それくらいに強い相手と戦いに行くんだよ?」
「大丈夫よ。あたしが回復するから」
「私も守って見せよう」
「わたくしもオリヴィアの弟子です。多少は戦えます」
「強い奴との戦いがもっとも生きている気がするな」
「皆……。よろしくお願いします。僕も皆の為に力になれる時があったら出来る限り力になるよ」
僕はそう言うことしか出来なかった。
今持っているものなんてほとんどない。
だけれど、彼女たちは僕の為に来てくれる。
僕がそう嬉しさを滲ませながら話すと、レイラは当然と言ったように胸を張って口を開いた。
「当たり前でしょ。お昼はちゃんと一緒に食べないといけないんだから」
「レイラ様は毎日の食事を楽しみにしておられる。忘れるなよ」
「勿論だよ。僕も一緒に食べたいと思っているよ」
僕たちはお互いに微笑みあう。
そこに、フェリスも入ってきた。
「クトー様。わたくしは夕飯を共にしたいと思っていますわ。いかがでしょうか?」
「夜? 特にないからいいけど……」
「ダメよ」
レイラが断ってくる。
「クトーが夜もあたしと食べるようになるから。その大きなものと一緒にでしゃばるのは止めておきなさい」
「あら? クトー様は嫌とはおっしゃっておられませんわ? それに、わたくしサナとも一緒に食べているのですよ? どう思います? クトー様」
「それは……」
正直魅力的だ。
というか、フェリスと一緒に食べるというよりも、サナと一緒に食べる。
ということが本当に、心の底から魅力的に思えるのだ。
1人でサナと一緒に何を食べようか考えていると、フェリスが勝ち誇ったような顔をレイラに向ける。
「レイラ様。クトー様はわたくしと食べたい様ですわ」
「違うでしょ。サナと一緒っていう言葉に惹かれているだけに決まっているのよ」
「おっとと、ごめんごめん」
彼女たちの声を聞いて我に返る。
そこに、アルセラが口を開いた。
「いいからいかないか? サナを助けに行くのにいつまでものんびりしている訳にはいかないだろう?」
「それもそうだね。皆、よろしく頼む」
「いいのよ」
「それでは行きましょう」
それから、僕たちは馬車に乗り、教会の本部、ベネディラに向けて進む。
******
僕たちは馬車に乗り込み、順調に進む。
見渡す限りの草原で、所々に岩が転がっていたり、木が生えている程度。
そして、最初の宿泊地に辿りついた時、僕は皆から1人離れた。
「スキルの練習をしないと……。今のままだけだと勝てない気がする」
ロードとの戦いでかなりギリギリだった。
そんなロードに勝ったギーシュと戦うのであれば、少しでも強くなれる時になっておかなければならない。
そして、今の手持ちのスキルだけでは出来る事に限界があることも理解出来た。
なので、これから他にも使って居なかったスキルを使えるようにして行こうと考えたのだ。
「色々と使っていないスキルがあるからな……。でも、今使えるのと、同じ様なスキルばっかり練習するのはやりたくない。だから……」
人気のない所に来て、周囲は真っ暗。
ただし、クラーケンの目を持っている僕には昼間のように明るい。
そこで、周囲に人がいない事を確認して僕は目の前の大きな岩にスキルを使う。
「【タコ化:クラーケン】【闇の拘束】」
目の前の岩の足ことから真っ黒な茨が現れ、岩を縛りあげていく。
合計で6本の茨が巻きつき、人であったら決して逃れられないだろう。
「うん。中々いい感じだな。速度もいいし」
そう。僕は前回の戦いから少し自身の弱点にも思いを巡らせていた。
僕の問題点は速度がないことだ。
スキルを色々と調べみたのだけれど、【次元の門】以外の移動系統はなかったのだ。
どうしてかと思ったけれど、無いものは仕方ない。
だから、僕は発想を変えた。
自分が速くなれないのなら、他を遅くすればいいのだと。
その為の今回のスキルなのだ。
これに捕まれてしまえば相手は動けなくなる。
完璧ではないだろうか。
ただ、発動にはそれなりに時間がかかるので、要練習だろう。
しっかりと練習して、ものしておかなくては。
そして、他にもスキルの練習を始める。
「【氷の装甲】」
両手を触手にして、スキルを使う。
パキパキパキパキ
4本の触手が氷をまとっていく。
ただし、動きが遅くなるような事はないし、冷たさもない。
スキルで作っている鎧の様なものだ。
ロードとの戦いの時に触手など関係ないという様に切り飛ばされてしまっていた。
そこで、防御力の上昇を図ろうと思う。
目の前には僕のサイズほどの岩。
「せい!」
ドゴォン!
叩きつけた触手はもの前の岩を叩き壊す。
破片が周囲に飛び散るけれど、僕の触手は何ともない。
「うん。これはいいかもしれない」
ただ、今叩き壊した岩はクラーケンの触手でも同様の事が出来る。
なので、これは実戦でというか、多少出来たらいいな。
という程度でしかない。
「まぁ、こんなものかな」
僕は皆の元に戻ろうとした時、1人の人が立っていることに気付いた。
「クトーわたしと模擬戦をしろ」
「オリヴィアさん……」
そこにはフェリスが連れて来てくれたオリヴィアがいた。
彼女は既に腰の双剣を抜き放っており、いつでも戦闘出来る体勢だ。
「どうして?」
「スキルの練習をしたいのだろう? 丁度いい。行くぞ」
彼女は僕の返事を聞く前に僕に向かって突撃して来た。
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