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3章

80話 ロードの最期

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 ロードは両手を切り飛ばされた姿勢のまま動かない。

 僕は彼の様子を注意深く見ると、彼はゆっくりと顔をあげて自身の両手がないことを知る。

「くそ……もはや……限界か……」
「ロード・バルバロイ。大人しく投降してください。勝敗はつきました」

 僕は彼に向かって投降を勧める。

 しかし、彼は薄く笑うばかりで決して同意しない。

「くはは。貴様……甘いな……。ここまでしでかした俺が生き残れると? 本当にそう思っているのか?」
「それは……」

 魔物を引き連れて学園を攻撃した。
 そんな事が国にバレれば処刑以外の選択肢はどう考えてもあり得ない。
 でも、彼はSランク冒険者冒険者でもある。

 何か特別な魔道具等を付けられて生き残れる可能性もないこともない。

「俺の命の心配をするとはな。甘い奴だ……。だが、俺はそんな甘いやつに負けたのか……」
「ロード……」

 そう話す彼の顔は少し清々しそうだ。

「全力を出し切り、俺は貴様に負けた。まぁよい。既に1度負けたのだ。それが増えようが多少の誤差でしかない」
「貴方が……負けた?」

 アルセラに無敗だと聞いたと思ったけれど。

「あぁ……。つい2週間ほど前に……な」
「どんな奴に……?」
「神官だ」
「神官?」
「ああ、俺の最強の技も……奴の前では……いや。これは話したくない。貴様、名は?」
「クトー」
「クトーか。そうか。俺は……どこで間違えてしまったのだろうな……。これまで俺は負ける事がなかった。俺は俺の信じる道を進んできた。そう思っていたはずなのにな……」
「……」

 彼は独り言の様に話す。
 その目はかすんでいて、周囲の何も見ていない様だった。

「死ぬ間際になって思うとは……まぁよい。クトー」
「なんですか」
「俺は……虜囚りょしゅうになる事は辛抱しんぼうならん。さらばだ。クトー。貴様が正しい道を示してくれること、期待している。【破壊者デストロイヤー】」

 彼は自身に対してスキルを発動した。
 体が指先から徐々に崩壊していき、その体はチリとなって風に飛ばされていく。
 そして、彼の剣だけを残して消え去ってしまう。

「ロード・バルバロイ……」

 彼は死んだ。

 僕は彼の最期を見届けるしかなかった。
 でも、いつまでもそうしている訳にはいかない。

「まだ戦闘は続いているんだ」

 そうだ。そこかしこで戦闘音は聞こえる。
 まずは一番近くにいるフェリスを助けに行くべきだろう。

「フェリス!」

 僕は彼女を探すために周囲を見回すと、少し近くにいた。

 彼女と近衛騎士団長は既に勝利していたのか、僕の事をじっと見ていた。

「クトー様! よくぞ勝ってくださいました!」

 フェリスがそう言って僕に向かって走ってくる。

「クトー様! お怪我はありませんか? 大丈夫ですか? わたくしが癒やして差し上げましょうか?」
「ありがとうフェリス。僕は大丈夫。騎士団長の人も大丈夫だったの?」
「わたしがあの程度の奴らに負ける訳ないだろう。あそこで全員伸びている」

 いつの間にか近くに来ていた騎士団長が指した方を見ると、縄でぐるぐる巻きにされた5人が横たわっていた。

「それじゃあ大丈夫なんだね。僕はロードが死んだっていうことを伝えて回ってくるよ。これ以上犠牲者を出したくないから」
「はい。わたくしは反対方向に行きますわ」
「頼んだ」

 僕はそれから出来るだけ走り周り、ロード・バルバロイの死を伝えて回った。
 その証拠の剣だけを見せて回る。

 最初は信じられなかった人もいたみたいだけれど、そういう奴らは触手で黙らせた。

 それをするだけで特に問題は無く、1時間もしない内に戦闘は全て集結した。



 戦闘が集結して直ぐに、僕はレイラを探す。
 学園長を見てもらうためだ。

「レイラ!」
「クトー! 勝ってくれると思っていたわ!」

 所々汚れまくっていて、綺麗好きのレイラからしたら嫌なはずなのに、全く気にせずに嬉しそうだ。
 アルセラはおらず、彼女の他の護衛が守っていた。

 僕はそんな彼女に頼みごとをする。

「レイラ! 助けて欲しい!」
「!? 誰を!?」
「学園長が重傷を負ってるんだ!」
「どこ!? 早く案内して!」

 レイラは僕の言葉を聞くと真剣な顔に変わってそう言ってくれる。

「回復出来るなら今すぐに出せる!」
「出す? 出すって何?」
「あ、学園長は今僕のスキルにしまってるんだ」
「はぁ!? スキルにしまう? 一体何を言って……いえ、いいわ。その事は後で聞きましょう。出して、直ぐにやるわ」
「分かった。【闇の牢獄ダークプリズン】解除」

 僕は周囲に何もいない事を確認して、学園長をそっとスキルから出す。

 レイラはそんな学園長に近寄り、体中を調べていく。

「これは酷い……」

 学園長の傷口には、まがまがしい色の文様が描かれていた。
 それは、恐らく呪い等の類で、解除するにもかなりのリスクをともなうはず。

「レイラ。今できないならまた入れておいても……」
「ダメよ。そのスキル。時間が完全に止められるの?」
「それは……」

 違う。
 多少他の世界と違ったことわりの中に送る事は出来るので、時間の進行等は確か遅いはず。
 でも、確実に時間は進むはずだ。

「違うと思う」
「ならここで治すしかない。使うからちょっと周囲を見ていて」
「いいの?」

 彼女の使うの意味を僕は知っている。
 周囲にアルセラはいない。

 だから、彼女の寿命を使って学園長を回復することになるのだ。

「お止めください! アルセラが来るのを待って頂ければ!」
「そんな時間はないわ。こんな話をしている時間もないの。分かる?」
「ッ!」

 レイラが今までみたこともないくらい鋭い視線を護衛の子達に向ける。

 護衛の子達もその剣幕に後ずさる程だ。

「クトー。邪魔が入らないように見ててね」
「……お願い」
「ありがと。貴方ならそう言ってくれると思っていたわ。花の宴、木の演奏。際限なく続くこの世に果てはない。海は踊り空は泣く世界は全てが時の上に……」

 レイラが彼女のスキルの詠唱を始める。

 僕は集中している彼女を守るように、周囲を警戒するしかない。
 彼女の詠唱を聞き、僕はじっと待つ。

 暫くして、彼女の詠唱は完成する。

「流浪の月は荒野を歌う。全ては戻りて秩序を為せ。【時空因果の遡行クロノス・クロック】」

 学園長の姿が青い幕に包まれ、彼の傷口が塞がっていく。
 呪いがあったはずの傷口は関係ないという様に塞がり、気が付いた頃には穏やかな寝息を立てていた。

「う……」
「レイラ!」

 僕は崩れるように倒れるレイラを支える。

「レイラ。ありがとう。君のお陰で学園長は助かったよ」
「何言ってるのよ……。アンタのお陰であたしも助かったんだから、これくらいお安い御用……よ。ああ、でも、ちょっと……眠るわね……」
「うん……ありがとう。お休み、レイラ」

 そうして、レイラも学園長と同じように穏やかな寝息を立て始めた。

 僕は、彼女と学園長を守り続けた。
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