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3章

69話 訓練、そして

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 僕は今練習場にいた。

「くらえ!」

 正面から剣を振りかざして来るレイラの護衛の女の子、僕はその一撃を横に移動して避ける。

「『火球よファイアボール!』」

 避けた所に火の玉が飛んでくるけれど、それはスキルで撃ち落とした。

「【タコ化】【触手強化テンタクルフェイズ】」
「そんな!?」
「驚いてる場合じゃないよ」
「ひゃっ!」
「逃がすか!」

 僕は魔法を放って来た少女に向かって突撃する。

 後ろからは先ほどの剣士の子が来ているけれど、僕とそこまで速度差はない。

「くっ! 『火の壁よファイアウォール!』」
「【墨吐きブラックアウト】」

 僕との間を炎の壁で防ごうとする彼女がいるけれど、僕の墨でその程度の炎は消せる。
 そのまま彼女に突っ込み、触手で絡めとって地面に横たえた。

「はい。大人しくしてて」
「はいぃ……」

 1人にそう言った後に、僕は振り返った。

「はぁ!」
「甘いよ」

 僕は振りかぶって来ている少女の懐に入り、彼女の剣を取りあげる。
 アルセラの時よりも遅いから簡単に出来た。

「あぁ!」
「はい。終わり」
「うぅ……負けました……」
「そこまで!」

 アルセラの声が響き、周囲はどっと疲れたような雰囲気が支配する。

 僕たちは、レイラの護衛の子達との戦闘訓練をやっていたのだ。
 1対4だけれど、結果は僕の圧勝。
 手加減はしたし、クラーケンの力は一切使っていない。

 リャーチェよりも強い敵と戦う為の訓練をしているのだけれど、正直、僕より強い人というのはこの学園にはいない。
 学園長はどうか分からないけれど、それで取り返しのつかないことになってしまったら恐ろしいので試していない。

「クトー様……強いですよ……」
「そうです……触手4本とかどうやって対処したらいいんですか……」

 護衛の子達はそう口々に漏らす。

「まぁ……皆もスキルあるんでしょ? うまく使えるようになったらきっと戦えるようになるよ」
「そんなぁ……」

 彼女たちにはちょっとやり過ぎたかも知れない。
 そんな事を思っていると、アルセラが近付いて来て彼女たちに活を入れる。

「貴様ら! その程度でへこたれるなど甘えるな! レイラ様が危機になった時にどうすると言うのだ!」
「アルセラ様……」
「貴様らの命はレイラ様の為にある。その事を決して忘れるなよ」
「はい!」
「よし。ではお前達は休め、その間に反省と……私とクトーが戦うのを見て勉強するように」
「はい!」

 護衛の少女たちは中央から退き、アルセラにその場所を譲る。

「僕に休憩はないの?」
「必要ないだろう?」
「まぁね」

 多少の戦闘では全然へこたれない位には体力はつけている。

「では……行くぞ!」
「【タコ化】」

 彼女が静かに開戦を宣言したけれど、今回は以前戦った様に突っ込んで来る事はない。
 以前と同じように行動すると思っていたので、少し拍子抜けしてしまった。

 でも、彼女はただ立っていただけではない。
 じりじりとこちらの出方を見ながら近付いて来るのだ。

 気を抜けばその一瞬を攻められる。
 気が抜けない状況が続く。

「……」
「……」

 彼女は僕の目をじっと見つめ、ゆっくり……ゆっくりと僕の方に向かって進んで来る。
 ただし、少し進んで分かったけれど、彼女は僕の左手に回り込むようにして近付いて来ていた。

 どうしたらいい?
 すぐに振り向いていいか、それともこのままで進むのか。

 彼女の思い通りにならないように行動しなければならない。

 そう思っていた時、

「はぁ!!!」
「!?」

 僕は一瞬の事で何があったか分からなくなる。

 彼女が僕に向かって突撃してきたのだ。

 僕が行動するターンだと思っていたら余計に反応に遅れる。

「くっ!」

 僕は触手を何とか前に出し、彼女の攻撃を受け止めようとする。
 頭さえ守っていれば何とかなるはずだ。

 しかし、完璧に虚をつかれていた。

 彼女は僕に向かって剣を振らずに、僕の左足を切り飛ばすようにして振って来たのだ。

 シュパっ!

「ぐぅ!?」

 彼女はそのまま僕の後ろに走り抜け、そして追撃を仕掛けてくる。

「まだ終わっていないぞ! クトー!」
「分かってるよ!」

 僕だってたかが足が切り飛ばされた位だ。
 まだ6本分もある。

「【墨吐きブラックアウト】」
「くっ」

 アルセラは目をつむり、真っすぐに僕の墨を受ける。
 ダメージがないことが分かっていれば食らっても問題ないという事か。

「まだまだだな」
「なに!?」

 アルセラは僕の墨を被っている間も目をつむりながら突っ込んで来る。
 最初から墨を吐かれることを前提にしていたのか正確に僕の方へ向かってきた。

「【触手強化テンタクルフェイズ】!」
「墨は出切った様だな!」

 アルセラが僕の言葉を聞いた瞬間に目を見開いた。
 そして、僕の腹に向かって剣を突き出して来る。

「はぁ!」
「くっ!」

 僕は腹を守るように触手で防ごうとした。

 しかし、アルセラはそれを読んでいたのだ。

 僕の腹に向けられた剣は途中で軌道を変え、僕の右肩を切り裂く。
 そのせいで半身が切り裂かれ、バランスを失ってしまう。

「【自己再生オートリペア】!」

 僕はなんとか足だけでも回復させようとスキルを発動させる。
 アルセラは後ろに駆け抜けて行ったため、少しの時間は存在している。

「させるか!」
「1本治ったよ!」

 クラーケンの力は使っていないけれど、その力に精通した事によって回復速度も上がっているのだ。
 アルセラが再び突撃してくる前に触手1本は完治した。

「ならばもう一度もらうまで!」
「させないよ。【保護色カラーコート】」

 僕は体を透明にし、しかし、その場に留まり続けた。

「くっ! どこに行った!?」

 アルセラは僕の姿を探して足を止めて警戒を始める。

 僕は彼女が色々な場所に目を向け、感覚も研ぎ澄ませているのが分かった。

 僕はゆっくり……息を殺して彼女に向かって触手を伸ばす。
 狙いは彼女の剣を対象にして、そのまま絡めとった。

「何!?」
「ここにいたんだよね」
「貴様!? 卑怯だぞ!?」
「スキルだから仕方ないでしょ?」
「くっ……。また今日も負け……か」

 アルセラはそう言ってうなだれる。
 彼女達と戦いの練習を始めて2週間は経っただろうか。
 昔と比べて遥かに強くなったので、最近は僕でも危ないかもしれない。
 現に、今回触手を4本も切り飛ばされた訳だし。

「でも、危なかったよ」
「むぅ……負けたのにそう言われるのは尺だが……」
「アルセラは強くなってるよ。でも、今日のはどうしたの? 今までとは違った戦いだったからびっくりしちゃった」
「ああ、それは……少し有名な剣士の話を聞いてな。それで自分も出来たら……と思って実験してみたのだ」
「有名な剣士?」
「クトーも知っているだろう。あのSランク冒険者、ロード・バルバロイの書いた物だ」
「どんな内容なの?」
「ああ、剣士は基本的には自分の得意な型がある。そして、それにハメて攻撃をし続けていれば、相手はずっとその中に居続けて後はその状況を維持し続けるだけでいい。という話だな」
「もしそうなったら、どうやって抜けるの?」

 僕は剣士ではないので対処法を知りたい。

「先ほどのクトーの様に何か相手が危機を覚えるような行動をするか、思い切って距離をとってみる。それらも手と書いてあったな」
「ありがとう。僕も勉強になったよ」
「何。次こそはクラーケンの力を使わせてやる」
「楽しみにしているよ」

 僕たちはそう話して笑い合っていると、レイラが近付いてくる。

「『癒やせヒール』」
「あ、レイラ。ありがとう」
「いいのよ。っていうか、ちゃんと戦いが終ったら回復はしておきなさいよ。手足切り飛ばされたまま談笑しているのはこっちの心臓に悪いわ」
「ごめんごめん」

 僕はそう言っている所に、またしても別の人が走り込んで来る。

「大変だ! どこかの軍勢が攻め込んできた!」
「何!?」
「どういうこと!?」

 僕は声のした方を見ると、そこには以前助けた1年生の子がいる。

 彼は今見て来た事を説明してくれた。

「それが、かなりの兵隊と、その近くにAランクの魔物、ファイアードラゴンと、Sランクの……ヴォルカニックウルフがここに向かって来ているらしいんだ!」
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