「タコ野郎!」と学園のダンジョンの底に突き落とされた僕のスキルが覚醒し、《クラーケン》の力が使える様に ~突き落としてきた奴は許さない~

土偶の友

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2章

59話 サナを狙う理由

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「ここは……」

 僕は目を覚まして周囲を見ると、そこは森の中のポカンと開いた広場だった。
 近くには真っ黒い格好の少女に、両手が黒い少女。
 そして、その近くには車いすに乗った可憐かれんな……サナがいた。

「サナ……」
「!?」

 僕が言葉を言葉を呟くと、彼女たちは驚きの表情で僕の事を見つめて来る。

「アンタ……一体どうやって? この子の呪いはあの方の力も入れて施したものなのに……」
「あの方って誰?」

 僕は人間の体に戻っていて、ゆっくりと立ち上がりながら彼女に話しかける。

「アンタにいう必要はない。そう言わなかったかい?」
「そっちが答えてくれないなら僕も答える必要がないよね」

 僕はそのまま彼女に近付いていく。

 彼女は僕をかなりきつく睨みつけるけれど、僕にとっては涼しいそよ風の様なもの。

「……いいだろう。なら、もう一度試してやらせようじゃないか。フェリス。行け」
「い……嫌です」
「人形が口答えするんじゃない。カスク達の様に殺して人形にしてやろうか?」
「……」

 フェリスはいつの間にか意識が戻ってきているのか、震えながら僕に近付いてくる。

 でも、僕はそんな彼女を責めることはない。
 誰だって死にたくないのだから。

「安心してフェリス。さあ、おいで」
「しかし……」
「大丈夫。僕に任せて」
「……」

 彼女はゆっくりした足取りで僕の方に近付いて来る。

 僕は、いつでもスキルを発動させられる様にして彼女を待ち受けた。

 彼女の手がゆっくりと僕に向かって伸びてくる。
 そこで、僕は両手を4本の触手にしてスキルを使う。

「【闇の牢獄ダークプリズン】」
「きゃあああ!!!」

 僕は彼女を真っ黒なひつぎのような場所に閉じ込める。
 このスキルはクラーケンから借り受けたものの一つ。

 フェリスが閉じ込められ、リャーチェは鼻をならした。

「ふん。その程度で遠くに送れたと思ったのかい? あたしの人形はそんな簡単に消せないよ!」

 彼女はそう言って杖を持ちあげるけれど、何かが起きる事は一切ない。
 不思議そうな顔をして、杖を振るっている。

「どうしたの? 早く見せてよ」
「くっ……アンタ……何を……」
「そんな物じゃないんでしょ? 早く」

 僕は何が起きたか知っているから問題ないのだ。
 【闇の牢獄ダークプリズン】このスキルは空間を別の次元に飛ばすため、こちらからの影響を一切受けない。
 だからリャーチェが何かしようとしても、一切影響を与える事が出来ないのだ。

「く……まぁいい! あんな雑魚、いてもいなくてもあたしには勝てないんだからね! 『黒炎ルヌイプラーマ』」

 僕の周囲全てを真っ黒い炎が囲む。

「あははははは! これでアンタはもうお終いだよ! 〈黒神の祝福ブラックブレス〉に盾突いて……あの方に盾突いて勝てると思わない事だね!」
「あの方……さっきから言っているけど、本当にそんな凄い人なの?」

 僕がそう聞くと、彼女は大きく目を見開き僕を睨みつけてくる。
 それこそ、殺気すら宿っていると言ってもいい。

「当たり前だろうが! お前の様な雑魚と一緒にするな! あの方は素晴らしく、高貴で、非の打ちどころのない圧倒的なカリスマ性を持つお方! あの方がいるからあたしはここまで続けて来れた! 長い時を生き抜いて来れたんだ!」
「長い時……? もしかして……500年前から生きていたり……?」

 流石にないだろう。
 そう思っていたけれど、もしかして……。
 思ったらつい口に出てしまっていた。

 彼女の目はスッと細まり、僕を見抜こうとしている。

「へぇ……学園にいるっていうことは……禁書庫に入れたのか。まぁ、それだけの実力があれば当然か」
「……おかげさまでね。でも、まさか本当に500年も生きている人だったなんて。もう引退して休んでもいいんじゃないの?」

 僕は周囲に気を配り、炎が近付いている事を確認する。
 でも、今はまだ彼女と話す時だ。
 少しでも情報を集めなければならないし、クラーケンの力をどうやって使うのか頭の中で整理させなければ。

「お年寄りはうやまうもの。さっさとここは引いてくれるとありがたいんだけどね?」
「若い者に道を譲ってくれてもいいんじゃないの? サナもまだまだ若いんだよ? 黒蛇病をばらまくぐらいなら、治す方法も知ってるんじゃない?」
「あはははは! あたしたちは確かに黒蛇病をばらまいている。でも、治し方なんて知らないよ。第一、何でばらまいているのか知らないだろう?」
「……そうだね。でも、それにサナが関係しているっていうのは分かるかな」
「……どうしてそう思うんだい?」
「考えたら簡単に分かると思わない? 貴方達はこれまで長年国と信頼関係を築いてきた。でも、今回それを崩すことになってまでサナを強引に連れ出したよね? それに、今ここにいるのはフェリスとサナだけ。でも、フェリスがほしいなら、もっと前、王城にいる時から何とかできただろうし、今もサナを少し離れた所に置いている。傷つけたくない。それは本当に大事だからでしょ?」

 僕がそう言って彼女を見つめると、彼女は声高らかに笑い始める。

「あっはははははは! なるほど、なるほどなるほど。よくわかったねぇ。そうだよ。その通りだよ。確かにあたし達の目的・・にはサナ。彼女が必要になってくる。だから彼女を人質に取る様な事は絶対にしない」
「無事に返してくれると嬉しいんだけど」
「それは出来ないねぇ。あたしたちの500年の悲願なんだから」

 彼女にそう言われて、僕は考える。
 彼女たちの目的、一体なんなんだろう。

 黒蛇病をばらまき、そして、長年待ち続けること。
 そして、サナだけがそれに該当がいとうすることとは一体……。

 サナは可愛い。
 本当に可愛い。
 世界で一番可愛い事は揺るぎない事実だと思う。

 けれど、だからと言ってそれを使うということは考えにくい。
 彼女で無ければならないもの。

 それを考えると、一つだけ心当たりがある。
 けれど、それは普通、彼女が決して言わないことだ。

 でも、もし……もしも、フェリスにそそのかされて言ったのだとしたら……。
 もしもの可能性があるかもしれない。

「スキルか」
「ほぅ……よくわかったねぇ。こんな短時間で直ぐに気付けるなんて」
「僕が一番サナの事には詳しいからね。【器】っていうスキルを何に使うのかな?」
「何を言っているんだい? 器は器だよ。器は満たされる為にある。違うかい?」
「何で満たすのか聞きたいんだけど? 【黒墨吐きブラックアウト】!」

 僕はそろそろ周囲に近付いて来た炎に、クラーケンの力を込めた墨を吐いて消す。
 両手の触手を4方向に向ければ完璧だ。

 それだけで炎は消え去ってしまう。

「やるじゃないか! 『赤黄砂嵐クラトゥイピソーク』!」

 彼女が何か呪術と唱えると、炎が再び巻きあがるように赤と黄色の砂嵐が巻き起こった。

 それらが体に当たると皮膚が焼け、裂傷れっしょうを生む。

 僕はこのままでは不味いと考えてリャーチェに向かって傷を受けながらも進んでいく。
 しかし、彼女に行く途中で、クラーケンの触手で叩いてもびくともしない壁にぶち当たった。

「あはははははは! それに捕まったが最後、じわじわと削られながら死んでいくしかない牢獄だよ! アンタの物とは違って、ゆっくり死んでいるのをこうやって見ることが出来るのさ!」
「そ、そんな! 【触手強化テンタクルフェイズ】」

 触手を強化して叩いてもダメ。

「くっ! これなら! 【墨吐きブラックアウト】!」

 壁に阻まれて意味はない。

「あははははは! 結局それだけしか出来ないのかい!?」

 リャーチェは僕が脱出できずに、体中傷だらけにしているのを見て笑っている。

「これなら……【水流切断アクアセーバー】!」

 シュパッ!

 僕の触手から勢いよく出るけれど、壁を切り裂くことは出来なかった。
 いや、正確には切り裂いているけれど、逃げる前に塞がってしまう。

「そんな……」
「あはははははははは!!! いいねぇ……その表情はそそるねぇ! 最高だよ! もう1分もしない間に動けなくなるだろうしねぇ! 何か聞きたいことでもあるかい!?」

 リャーチェは楽しそうに聞いてくる。

「それなら……どうしてサナを狙ったのか教えてくれ! せめて……せめて死ぬ前に!」

 僕は命乞いをする様に彼女に懇願こんがんする。

「あはははははははは!!! いいよ! その声は最高だよ! あたしたちはね。神を降臨させるのさ!」
「か……神? あの……世界に9柱いると言われている……あの?」
「その神以外にどの神がいるっていうんだい!? 当然その神さ!」
「その話……もうちょっと詳しく教えてもらえるかな。【次元の門ディメンジョンゲート】」

 僕は彼女の側に移動用のゲートを作り、そこに入る。
 僕一人分が入れる円形の大きさで、そこに入れば直ぐに彼女の側に出た。

「は……え……」
「もうちょっと詳しく。そう言ったよね?」

 僕は彼女の杖を持つ右手をクラーケンの触手で握りつぶした。

「え……ぎゃあああああああああ!!!」

 彼女の悲鳴が周囲に響き渡った。
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