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2章
54話 ネクロウルフ
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「アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!」
僕が駆け出すと直ぐにネクロウルフがスキルを使って新たな兵士を生み出す。
けれど、そいつらが動き出すよりも先に、僕は正面からネクロウルフに突撃する。
「はぁ!」
「ッ!」
ネクロウルフは思いのほか動きが速く、僕の触手の叩きつけは回避される。
しかも僕を常に警戒し、距離もつかず離れずの距離を保っていた。
「【水流切断】」
「ッ!」
奴は僕の触手の向きを把握し、綺麗に避けていく。
ただ、奴も僕には反撃する事が出来ないらしく、というか、近付いて来ない。
奴からの攻撃は何をするのかと思っていたら、配下を使ってピュリー先生達の方に向かわせていた。
何て嫌な手を使うのだろうか。
僕が今一番されたくない事をして来るとは。
奴は自分をエサに僕をここに釘付けにしたいらしい。
「そうはさせないよ!」
僕は奴に向かって走り出すけれど、奴は背中に目でもついているのか、僕との距離を保ち続ける。
「速すぎる……なら」
僕は奴を無視して、他の奴の配下と戦おうとすると、今度は遠距離から毒を放って来た。
「っく……徹底的に無視させないつもりか……」
中に人間が入ってるのではないかと言うくらいにいやらしい動きをして来る。
そもそも、どうやって奴は僕の事の行動を把握しているのだろうか。
何か特別なスキルでもあるのだろうか?
もしもスキルだとしたら……。
正直お手上げだ。
でも、もしもそれ以外の可能性があったら。
その事を考えるとしたら……。
一つ……というか、普通に考え着く可能性。
それは、奴が嗅覚で把握していた場合だ。
僕が先ほど倒したネクロウルフは僕の風上にいた。
そして、今僕と対峙している奴は風向きが変わり、僕の風下にいるのだ。
つまり、僕の臭いで……奴は判断しているのではないかと思う。
そうであるとするなら、僕はこのスキルを……真上に、周囲一体に拡がる様にして使う。
「【墨吐き】!!!」
「アオ!?」
奴は驚いて飛び退っているけれど、それよりも広範囲に降り注ぐ。
その範囲はピュリー先生の近くにまで及び、100mは飛んだだろうか。
それだけの距離を飛ばしたので、ネクロウルフも体に墨を被っていた。
「グルルルルルルルルル」
奴は唸っているけれど、実際に効いたのかどうか分からない。
だから、一度試してみる。
「【保護色】」
「ワフッ!?」
奴は僕の姿を見つける事が出来ないのかあちこちに視線を飛ばしていると思ったら、今度は鼻をスンスンと分かりやすく動かしている。
やはり、臭いで分かっていたのか。
僕は足音を立てないように少しゆっくりと奴に近付いていく。
このまま近づいて握るだけだ。
そう思っていたら、奴はまた違った事をして来た。
「アオオオオオオオオオオオン!!!!」
奴は僕が墨を吐いたのと同じように、自身の毒を周囲にばらまき始めた。
毒が当たった地面は蒸気をあげながら溶け始める。
これに当たってしまえばまずい。
でも、それをしてその場に立ち止まっているということは。
「【水流切断】」
シュパッ!!!
水流で奴を綺麗に切り裂いた。
毒を広範囲に放つ等、僕の前では愚かな行為だ。
僕は奴が地面に崩れ落ちるのを見て、残る1匹の所に急ぐ。
残る場所に辿り着くと、全身真っ黒の目元だけを覗かせた人達が戦っていた。
「僕が行きます。奥に誰かいますか?」
「なんだ君は!」
「危険だ! 下がっていなさい!」
「ここは我々だけで持たせられる! 他の場所の援護に行ってくれ!」
「後2か所のネクロウルフは倒して来ました! だから僕に任せて下さい!」
「冗談を言っている場合じゃない! 学生に出来る訳ないだろ! 相手はAランクの魔物だぞ!」
「今は精鋭がネクロウルフと戦っている! そちらに任せろ!」
信じてもらえない。
でも、確かにそれは仕方ない事かもしれない。
なら、僕が1人で行ってさっさと倒すしかない。
「じゃあ1人で行きますね」
「あ! こら!」
僕は駆け出し、ついて来られて被害が出ても嬉しくない。
なのですれ違う時に少し遠くても、触手を伸ばして後ろに被害が出ないように潰していく。
「ひ、ひぇ……あれだけ苦労した敵をこんな一瞬で……」
「危ないので下がってください! 僕が倒しますから!」
「わ、分かった! 頼んだ!」
「はい!」
僕は返事をして、更に奥まで走っていく。
「【保護色」
後ろにいた人が下がったのを見届けてから姿を消す。
僕は最短距離でネクロウルフを目指した。
すれ違う敵は倒さない。
そんな事をしなくても、後ろの学園長の私兵が持たせてくれる。
今は真っ先に追加の兵士を生み出せる頭を潰さなければならない。
それに、ネクロウルフと戦っている人がいるのであれば、【水流切断】で薙ぎ払うこともできないのだ。
ネクロウルフに近付くと、そこにはさっきの真っ黒な服を着た人達がネクロウルフと戦っていた。
しかし、形勢が悪いのか、ネクロウルフの近くで数人が倒れており、立っている人も体中傷だらけだ。
ただ、サナの護衛についていたという女性の姿はどこにも無かった。
ネクロウルフは残っている人に向かって大口を開けて突っ込んでいく。
確実に噛み千切って殺すつもりなのかもしれない。
僕は奴の頭に向かって飛び、スキルを使った。
「【タコ化】」
姿を消したまま最大のサイズに変身する。
その時の姿はクラーケンになった時、ローバーを倒した時のサイズをイメージするのだ。
姿は消えたままだけれど、大きさは触手だけで3mはある。
そんな姿のまま、ネクロウルフの頭を抱え込むようにしてくっつく。
「ワフ!?」
「【タコ化:クラーケン】」
グシャ
僕はクラーケンの力を使い、4本の触手でネクロウルフの体、前半分を潰した。
「え……」
「な……なんだ……あれは……」
僕の後ろで驚く2人に人間の姿を見せつけるよう姿を見せる。
「無事ですか?」
「人……?」
「君は……クトー君か」
「はい。危険そうだったので助けに来ました」
「ありがとう。と言いたいところだが、他の場所が……」
「あ、そっちはもう倒して来ました」
「大変……今なんと言った?」
「ですから、他の2か所のネクロウルフは既に倒しました」
「うそ……だろう? Aランクの魔物だぞ? Aランク冒険者パーティでも確実に討伐が出来るとは決まっていない。そんな魔物をだぞ?」
「だが……他の場所での戦闘音も大分止んでいないか?」
「ああ、すいません。残っている奴らの配下はまだ倒して居ないんです。やって来ますね」
僕は急いで残敵を倒そうとしたけれど、黒伏の彼らに止められる。
「ま、待ってくれ! 頭が追いつかない! 本当に……本当にもう倒したのか?」
「そうですってば」
「信じられん……Sランク冒険者でもそんなに出来るかどうか……」
「ま、まぁ、こんな状況で嘘は言わないだろう。一度皆の所に来てくれるか?」
「あ、はい……と言いたいんですが、サナは、サナはどこに居ますか?」
僕としてはそれが大事なのだ。
もしもここにいないのであれば、今すぐにでも森に向かっていかなければ……。
しかし、彼らはそれを知らないのか首を横に振る。
「済まない。生徒の誰が残っているかは分かっていないんだ。それを確認する為にも一緒に来てくれ」
「……分かりました」
僕は少し駆け足で戻る。
戻る道中も、触手をクラーケン化させて、残っている連中を狩り取っていく。
「凄いな……」
「それほどでも」
元の場所に戻ると、そこにはパリス先生がいた。
しかも、彼の後ろには多くの生徒もいる。
「クトー。よくやってくれた」
「ありがとうクトー様」
「本当に……本当に助かりました……」
中には涙も流している人達もいる。
命が助かったのだから、安心感からそうなってしまうのだろう。
そう思うと、僕は助ける事が出来て良かったと感じる。
でも、今大事なのはサナだ。
「サナは……サナは無事ですか!? どこにいるのでしょうか!?」
僕がそう聞くと、パリス先生は地面に視線を落として言う。
「済まない……サナ嬢とフェリス嬢は……〈守護獣の兜〉の連中に連れていかれた」
僕が駆け出すと直ぐにネクロウルフがスキルを使って新たな兵士を生み出す。
けれど、そいつらが動き出すよりも先に、僕は正面からネクロウルフに突撃する。
「はぁ!」
「ッ!」
ネクロウルフは思いのほか動きが速く、僕の触手の叩きつけは回避される。
しかも僕を常に警戒し、距離もつかず離れずの距離を保っていた。
「【水流切断】」
「ッ!」
奴は僕の触手の向きを把握し、綺麗に避けていく。
ただ、奴も僕には反撃する事が出来ないらしく、というか、近付いて来ない。
奴からの攻撃は何をするのかと思っていたら、配下を使ってピュリー先生達の方に向かわせていた。
何て嫌な手を使うのだろうか。
僕が今一番されたくない事をして来るとは。
奴は自分をエサに僕をここに釘付けにしたいらしい。
「そうはさせないよ!」
僕は奴に向かって走り出すけれど、奴は背中に目でもついているのか、僕との距離を保ち続ける。
「速すぎる……なら」
僕は奴を無視して、他の奴の配下と戦おうとすると、今度は遠距離から毒を放って来た。
「っく……徹底的に無視させないつもりか……」
中に人間が入ってるのではないかと言うくらいにいやらしい動きをして来る。
そもそも、どうやって奴は僕の事の行動を把握しているのだろうか。
何か特別なスキルでもあるのだろうか?
もしもスキルだとしたら……。
正直お手上げだ。
でも、もしもそれ以外の可能性があったら。
その事を考えるとしたら……。
一つ……というか、普通に考え着く可能性。
それは、奴が嗅覚で把握していた場合だ。
僕が先ほど倒したネクロウルフは僕の風上にいた。
そして、今僕と対峙している奴は風向きが変わり、僕の風下にいるのだ。
つまり、僕の臭いで……奴は判断しているのではないかと思う。
そうであるとするなら、僕はこのスキルを……真上に、周囲一体に拡がる様にして使う。
「【墨吐き】!!!」
「アオ!?」
奴は驚いて飛び退っているけれど、それよりも広範囲に降り注ぐ。
その範囲はピュリー先生の近くにまで及び、100mは飛んだだろうか。
それだけの距離を飛ばしたので、ネクロウルフも体に墨を被っていた。
「グルルルルルルルルル」
奴は唸っているけれど、実際に効いたのかどうか分からない。
だから、一度試してみる。
「【保護色】」
「ワフッ!?」
奴は僕の姿を見つける事が出来ないのかあちこちに視線を飛ばしていると思ったら、今度は鼻をスンスンと分かりやすく動かしている。
やはり、臭いで分かっていたのか。
僕は足音を立てないように少しゆっくりと奴に近付いていく。
このまま近づいて握るだけだ。
そう思っていたら、奴はまた違った事をして来た。
「アオオオオオオオオオオオン!!!!」
奴は僕が墨を吐いたのと同じように、自身の毒を周囲にばらまき始めた。
毒が当たった地面は蒸気をあげながら溶け始める。
これに当たってしまえばまずい。
でも、それをしてその場に立ち止まっているということは。
「【水流切断】」
シュパッ!!!
水流で奴を綺麗に切り裂いた。
毒を広範囲に放つ等、僕の前では愚かな行為だ。
僕は奴が地面に崩れ落ちるのを見て、残る1匹の所に急ぐ。
残る場所に辿り着くと、全身真っ黒の目元だけを覗かせた人達が戦っていた。
「僕が行きます。奥に誰かいますか?」
「なんだ君は!」
「危険だ! 下がっていなさい!」
「ここは我々だけで持たせられる! 他の場所の援護に行ってくれ!」
「後2か所のネクロウルフは倒して来ました! だから僕に任せて下さい!」
「冗談を言っている場合じゃない! 学生に出来る訳ないだろ! 相手はAランクの魔物だぞ!」
「今は精鋭がネクロウルフと戦っている! そちらに任せろ!」
信じてもらえない。
でも、確かにそれは仕方ない事かもしれない。
なら、僕が1人で行ってさっさと倒すしかない。
「じゃあ1人で行きますね」
「あ! こら!」
僕は駆け出し、ついて来られて被害が出ても嬉しくない。
なのですれ違う時に少し遠くても、触手を伸ばして後ろに被害が出ないように潰していく。
「ひ、ひぇ……あれだけ苦労した敵をこんな一瞬で……」
「危ないので下がってください! 僕が倒しますから!」
「わ、分かった! 頼んだ!」
「はい!」
僕は返事をして、更に奥まで走っていく。
「【保護色」
後ろにいた人が下がったのを見届けてから姿を消す。
僕は最短距離でネクロウルフを目指した。
すれ違う敵は倒さない。
そんな事をしなくても、後ろの学園長の私兵が持たせてくれる。
今は真っ先に追加の兵士を生み出せる頭を潰さなければならない。
それに、ネクロウルフと戦っている人がいるのであれば、【水流切断】で薙ぎ払うこともできないのだ。
ネクロウルフに近付くと、そこにはさっきの真っ黒な服を着た人達がネクロウルフと戦っていた。
しかし、形勢が悪いのか、ネクロウルフの近くで数人が倒れており、立っている人も体中傷だらけだ。
ただ、サナの護衛についていたという女性の姿はどこにも無かった。
ネクロウルフは残っている人に向かって大口を開けて突っ込んでいく。
確実に噛み千切って殺すつもりなのかもしれない。
僕は奴の頭に向かって飛び、スキルを使った。
「【タコ化】」
姿を消したまま最大のサイズに変身する。
その時の姿はクラーケンになった時、ローバーを倒した時のサイズをイメージするのだ。
姿は消えたままだけれど、大きさは触手だけで3mはある。
そんな姿のまま、ネクロウルフの頭を抱え込むようにしてくっつく。
「ワフ!?」
「【タコ化:クラーケン】」
グシャ
僕はクラーケンの力を使い、4本の触手でネクロウルフの体、前半分を潰した。
「え……」
「な……なんだ……あれは……」
僕の後ろで驚く2人に人間の姿を見せつけるよう姿を見せる。
「無事ですか?」
「人……?」
「君は……クトー君か」
「はい。危険そうだったので助けに来ました」
「ありがとう。と言いたいところだが、他の場所が……」
「あ、そっちはもう倒して来ました」
「大変……今なんと言った?」
「ですから、他の2か所のネクロウルフは既に倒しました」
「うそ……だろう? Aランクの魔物だぞ? Aランク冒険者パーティでも確実に討伐が出来るとは決まっていない。そんな魔物をだぞ?」
「だが……他の場所での戦闘音も大分止んでいないか?」
「ああ、すいません。残っている奴らの配下はまだ倒して居ないんです。やって来ますね」
僕は急いで残敵を倒そうとしたけれど、黒伏の彼らに止められる。
「ま、待ってくれ! 頭が追いつかない! 本当に……本当にもう倒したのか?」
「そうですってば」
「信じられん……Sランク冒険者でもそんなに出来るかどうか……」
「ま、まぁ、こんな状況で嘘は言わないだろう。一度皆の所に来てくれるか?」
「あ、はい……と言いたいんですが、サナは、サナはどこに居ますか?」
僕としてはそれが大事なのだ。
もしもここにいないのであれば、今すぐにでも森に向かっていかなければ……。
しかし、彼らはそれを知らないのか首を横に振る。
「済まない。生徒の誰が残っているかは分かっていないんだ。それを確認する為にも一緒に来てくれ」
「……分かりました」
僕は少し駆け足で戻る。
戻る道中も、触手をクラーケン化させて、残っている連中を狩り取っていく。
「凄いな……」
「それほどでも」
元の場所に戻ると、そこにはパリス先生がいた。
しかも、彼の後ろには多くの生徒もいる。
「クトー。よくやってくれた」
「ありがとうクトー様」
「本当に……本当に助かりました……」
中には涙も流している人達もいる。
命が助かったのだから、安心感からそうなってしまうのだろう。
そう思うと、僕は助ける事が出来て良かったと感じる。
でも、今大事なのはサナだ。
「サナは……サナは無事ですか!? どこにいるのでしょうか!?」
僕がそう聞くと、パリス先生は地面に視線を落として言う。
「済まない……サナ嬢とフェリス嬢は……〈守護獣の兜〉の連中に連れていかれた」
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