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2章

47話 学園長は……?

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 レイラと一緒に街で遊んだ次の日。
 僕は放課後に学園長の部屋に向かっていた。

 道中、学園長の事を考える。
 僕がサナの治療の為に黒蛇病の事について調べているのは知っているはず。
 けれど、彼はそのことについて教えてくれたことは無かったし、禁書庫の存在を教えてくれたことも無かった。

 学園長について少し不信感を持つが、こちらから聞くことは出来ない。
 一応、この事は他の人に話さない、ということでやっているから。

 本当にこのまま彼を信じていいのか、不安になりながら学園長の部屋に到着した。

 いつものように扉をノックする。

「少し待ってくれ!」
「分かりました」

 部屋から学園長の声が聞こえてきた。
 丁度いい。
 今の僕は、どんな顔をして彼に会えばいいか分からなかったから。

 暫く待っていると、扉が開き、冒険者の格好をした3人組が出てくる。

「お? 何だガキ? ここは学園長の部屋だぞ?」

 そういって来るの先頭に立つ大柄な獅子の獣人。
 彼は頑丈そうな鎧を着け、大剣を背に持ち口悪く言って来る。

「カスク様。いいではありませんか。学園長はスキル研究狂いの人。もしかしたらスキル関係でのことかもしれません。違いますか?」

 カスクと呼ばれた人の後ろから声をかけるのはレイラに似た神官の服を着た女性。
 恋仲なのかカスクの腕に寄り添う形で一緒にいる。

「……」

 もう一人の人は……真っ黒なローブで全身を隠している……少女だろうか?
 こちらに気を向ける事もなく、ただじっと彼らの後ろにいる。

 僕は神官の女性に答えるように話す。

「はい。そうです。学園長にスキルを見てもらっている最中でして」
「なんだよそう言うことかよ。フルスタやるな。ま、頑張れよ」
「頑張って下さいね。大変かと思いますが」
「……」
「ありがとうございます」

 3人はそう言って僕の側を通り抜け、どこかへと去って行って行く。

「!?」

 彼らが僕とすれ違う瞬間、何かおぞましい感覚が背筋をよぎった。

「なんだったんだ……?」

 僕は訳が分からないまま彼らの背中を見送り、逃げるように学園長の部屋に入る。

 中では学園長が僕の事を待ってくれていた。

「よく来たの」
「いえ……今の方々は?」
「なんじゃ知らんのか? Aランク冒険者パーティ〈守護獣の兜ガーディアンヘルム〉の3人じゃよ」
「あの方達が……」
「そうじゃ。グレーデンをもう逃がさないようにという事で王都から呼んだ。強いぞ?」
「実際、どれくらい強いんですか?」

 冒険者に関しての知識はあまりないので、せっかくなので聞いておく。

「そうじゃな……。お主が落とされた《魔狼の谷底》があったじゃろう?」
「はい。ありました」
「あれと同じランクのダンジョンを彼らは踏破しておる。そう言えば実力が高い事は分かるのではないか?」
「それは……確かに分かります」

 《魔狼の谷底》、それはAランクダンジョン。
 ただの僕では、確実に死んでいたはずの場所。

 ネクロウルフといったAランクの魔物がいて、簡単に死んでしまう場所だ。

 そこを踏破した。
 ダンジョンの奥にまで行き、戻ってきた。

 それがどれほどの事か分からない僕ではない。

「そういう訳で、グレーデンの移送は安心してくれ。ああ、しかし、その前に少し彼らにも授業を見てもらうか……少し森に向かってもらうかもしれない」
「森に……?」

 なんの話だろうか?

 僕が不思議そうな顔をしていると、学園長は額を叩いて頭を振った。

「すまんの。さっきまで説得をしておったんじゃが……中々に上手く行かなくての、さっきの3人に、授業に出てもらうように頼んでいたんじゃが、中々最後の1人が首を縦に振ってくれなくてな」
「どうしても嫌だったんでしょうか?」
「わからん。そもそも言葉を喋ることも稀な者だからの。リャーチェと言うが……」
「あの黒い服装の方ですか?」
「そうじゃ。何とかならんかの?」

 僕に聞いて来るけれど、それはどうしようも……。

「流石に話したこともないので……」
「まぁ……そうじゃよなぁ……。すまんのう。上手くいかずに頭を悩ませておるんじゃ」

 学園長はどうしたもんかのう、とつぶやきながら考えている。

 そんな姿の彼を見て、僕は口を開く。

「そこまでやらせたいことなんですか?」
「まぁ……のう……。これでも一応学園を運営しておる身。生徒たちに生のAランク冒険者の力を見せて欲しい所なんじゃよ」
「うーん。僕も少し考えてみましょうか?」
「……いや、それはよい。それもあくまで出来れば……という程度でしかないからの。それよりも、スキルの練習……と言いたいが」
「はい」
「禁書庫に行ったな? どうしてじゃ?」
「!?」

 彼がじっと僕の目を見つめ、嘘は一切許さない。
 そんな目を僕に向けてくる。

 でも、僕もそれに負けるわけにはいかない。
 というよりも、何も悪い事はしていないのだ。

「サナの為です」
「……」

 僕はじっと彼に向かって見つめ返す。

 すると、学園長は諦めたようにため息を吐いた。

「はぁ……黒蛇病の事についてかの?」
「そうです。どうせバレていると思うので話しますが……。フェリスにもしかしたらその可能性がある……と」
「はぁ……。本当に……全く……」
「どうして教えて下さらなかったのですか? 僕が……僕がサナの為に治療をしたい。そう言っていたのをご存じですよね?」

 僕は今度は逆に彼に詰め寄って行く。

 学園長はゆっくりと口を開いた。

「言わなくて当然じゃろう。ないからじゃよ」
「……ない?」
「ああ、ない。禁書庫に眠る蔵書には黒蛇病を治療する書物は一切存在しない。だから話さなかった」
「そんな……本当……ですか?」
「嘘をついても仕方なかろう。それに、禁書庫は危険じゃ。試練に失敗したらどうあがいても命を奪われる。そんな場所を案内すると思うか?」
「それは……」
「ワシもお主の気持ちを尊重してやりたい所じゃが……かと言って出来ることと出来ない事がある。分かって欲しい」

 そう言って彼は僕に頭を下げる。

 でも、僕は納得できなかった。

「それなら……あの組織は……〈黒神ブラック〉「『静寂よサイレンス』」

 僕があの名前を言う前に、学園長が魔法を唱えた。

 この魔法は、一定の範囲内での会話を外にれないようにするもの。

 学園長は恐ろしいまでの圧力をかけながら口を開く。

「クトー。その名を出すでない。どこで誰が聞いているかも分からぬ」
「でも、この組織がサナに黒蛇病を!」
「……そうかもしれぬ。が、その組織と関わってはならぬ」
「どうしてですか!」
「当然、死しか選択肢がないからじゃ」
「そんな……」

 では、僕は……自分が死ぬか、サナが死ぬのを見守るしかないと言うことだろうか?

「出来ません。僕は……僕はサナを見殺しになんて出来ない!」

 学園長は悲しみの籠った目で僕を見つめてくる。

「クトー。貴様がどう思った所で変わることはない。奴らの全容は掴めておらんのだ。規模、本部、人員、その他全てが謎なのだ。ワシですらその関係者がこの学園にいるのかどうかすらわからん。もう既に入り込まれているかもしれないのじゃ」
「でも……」
「禁書庫にもその組織の存在を知らせる本しかない。なぜか分かるか?」
「?」
「調べる前に消されるからじゃ」
「……」
「お主だけではない。その周りの者も消されるかもしれない」
「……」
「だからその組織から黒蛇病を治療する可能性を考えることは止めるといい。今はスキルを伸ばすのじゃ。そのスキルが関係しているかもしれないのじゃろう?」
「……はい。分かりました」

 僕は彼に説得される形でこの件は幕を閉じた。
 僕が死ぬかもしれないなら、僕は構わずに進んだだろう。

 でも、レイラや……アルセラ、フェリスも巻き込むとなると、僕にはその選択肢はとれなかった。

「じゃがな」
「?」
「もし……もしもじゃ。お主がクラーケンの力を自在に使いこなすことが出来るようになったら……」
「なったら?」
「〈黒神の祝福ブラックブレス〉を滅ぼせる様になるかもしれん。ということじゃ」
「!」

 学園長は、僕にいいからスキルを極めて、〈黒神の祝福ブラックブレス〉に対抗出来るようにしろ、ということらしい。
 そうか。僕がスキルを極めれば、そうすれば、サナを助けられるかもしれない。
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