上 下
31 / 100
1章

31話 レイラとアルセラのスキル

しおりを挟む
「あたしのスキルを使うのよ」
「へ……スキル? 回復するのか……? 誰に……?」

 グレーデンが間抜けのような顔で頭に? を浮かべているけれど、それは僕も同じかもしれない。

 というか、そもそもレイラがスキルを使っているところを見ていない。
 回復系統のスキルではあると思うけれど、彼女はずっと回復魔法で回復していた。

「まぁ、あたしはスキルを使う準備に入る。アルセラ、説明は任せたわよ」
「畏まりました」

 レイラはそれだけ言うと目を閉じて集中し始め、胸の前に杖を掲げて詠唱を始める。

「花の宴、木の演奏。際限なく続くこの世に果てはない。海は踊り空は泣く世界は全てが時の上に……」
「詠唱!?」

 詠唱は普通魔法を放つ時に使う物で、スキルで使われることはほとんどない。
 一応あるにはあるが、地形を変えるような大規模な物や、世界の法則を捻じ曲げる時のスキルだけだ。

 だが、レイラはその詠唱をし続けている。
 それもとんでもなく長い。

 そのことの説明はアルセラがし始めてくれた。

「レイラ様のスキルが秘されている理由は2つ。その回復スキルがとてつもなく、場合によっては死すらも覆す可能性を秘めていること」
「!」
「そしてもう一つは、その代償の重さだ」
「代償?」
「レイラ様はスキル発動するごとに寿命をスキルに奪われるのだ」
「スキルに……寿命が?」

 グレーデンが驚いていた。
 僕も彼女の話が信じられず、驚いて聞くしかない。

「ああ、それほどのスキルということだ」
「それで……聖女に……」

 グレーデンがそう言うとアルセラはキッと睨む。
 そして、ハッキリと言い切る。

「違う。違うのだ。当然、そのスキルのお陰であることは否定しない。だが、レイラ様がすごいのはそのスキルを、人を救う為であれば躊躇ためらいなく使う事なのだ」
「ためらいなく……? 寿命が短くなるのに?」
「そうだ。それが自分の寿命を短くする。そう言われた時はショックを受けていたけれど、それでも、彼女はスキルを使うことを止めようとはしなかった」

 じゃあ今も彼女は使っているのだろうか?
 僕が思ったことは、グレーデンも思ったらしい。

「では今も実は?」

 アルセラは首を振る。

「使っていない。教会が……いや、私が止めているからだ」
「お前が?」
「ああ、そろそろ発動する。見せよう。我がスキル。【全ては貴方の為にわが身をサクリファイスフォウユー】」

 アルセラがスキルを使った途端、彼女とレイラが一瞬光る。

 彼女は自信に満ちた表情でグレーデンを見た。

「私のスキルは……私が決めた対象の傷、後遺症こういしょう、スキルや魔法によるデメリット等を全て私が肩代わりするというもの。レイラ様が減らす寿命も全て私が受ける。そうすることによって、レイラ様はスキルを勝手に使うことは無くなったのだ。私の為に、私が寿命を減らさないという事の為に!」

 アルセラはむしろ誇りであるかのように笑う。

「これが私の……レイラ様に対する忠誠である!」

 その瞬間。レイラの詠唱が完了する。

「流浪の月は荒野を歌う。全ては戻りて秩序を為せ。【時空因果の遡行クロノス・クロック】」

 次の瞬間、僕の周囲全ての時間が止まった。

 これは……?

「ん……? これは……この力は!? だから消しておくべきだと言ったのだ! この力は……この力は!」

 スキルが何か言っているけれど、僕はただただこの流れに任せるだけだ。
 ただ、周囲が青黒くなり、さっき見ていた光景に戻って行く。

 グレーデンは先ほどの位置に逆再生するかの様に後ろ歩きで、その後はレイラ達が僕に向かって叫んでいる。
 それから直ぐに水が何事もなかったかのように引いていき、レイラ達は触手から逃げ回る。

 ここまで見せられれば、僕にも何が起こっているか分かる。

(時が……戻っている?)
「そうだ……これは時間遡行のスキル。く……貴様……いつか……後悔……する……ぞ」

 そう言って僕の体は僕の元に戻ってくる。

 気が付くと、僕は先ほどの場所にスキルを解放する前の状態で立っていた。
 さっき見た光景と違って水はこの場に残ったままだけれど、水浸しにしていた存在が居なくなったのか、水は徐々に減っていく。

「これが……レイラ様の……スキルだ……」

 近くにいたアルセラはそのまま地面に倒れる。

 バシャン!

 アルセラは水に受け止められるけれど、直ぐに水が引いて溺れる様なことはなかった。

「アルセラ!」

 僕はアルセラに向かって駆け出す。
 そして、彼女を助け起こすと、回復魔法をかける。

「『癒やせヒール』」

 彼女に効くのかは分からないけれど、それでも、やらないよりはマシだ。

「あたしも……やるわ」

 レイラもかなり疲れて苦しそうだけれど、それでも、アルセラの事が心配なのか回復魔法を放つ。

「『聖なる祈りよ届けハイヒール』」
「大丈夫? レイラも休まないと」
「大丈夫よ。このスキルのデメリットは全てアルセラが受けてくれた……。魔力が残り少ないから……ちょっと厳しいけど……。ああ……でも、ごめんなさい……貴方の……妹も……助けにいけないわ……」
「レイラ!」

 レイラはそう僕に言って、全ての魔力を使い切ったのかアルセラの側に座り込む。

「この程度じゃ……死にはしないわよ」
「レイラ……」

 僕はほっとして、彼女の側にしゃがみ込む。
 彼女は苦しそうな表情をしているけれど、無事なようだ。
 良かった。本当に良かった。

 僕がどうするべきか考えていると、笑い声が聞こえた。

「あはははははははははは!」
「!」
「!?」

 側にいるグレーデンもそちらの方を向く。
 そこには、全身ボロボロのローバーがいた。

「うーん。どうしてか分かりませんがいいですねぇ! 私がどうしてここまでボロボロになっているのか分かりませんが……でも、今が絶好の好機であることは分かります! さぁグレーデン君! その3人を捕まえて行きますよ! 今ならまだ仲間が近くの森に潜んでいます! 合図も既に送りました! さぁ!」

 仲間……だって……。
 確かにさっきの戦いで〈選ばれし者ギフターズ〉(仮)とか言う組織に属しているって……。 まずい。それに、グレーデンまでもまた敵になると……。

「……」

 しかし、グレーデンは動かずに、じっと下を俯いているだけだった。

「グレーデン君!? 一体どうしたと言うのですか!? 貴方が復讐したがっていたあのクトー君ですよ!? あれだけ痛めつけて同じ目に合わせてやりたい! そう言っていたではありませんか!」
「……」

 グレーデンはそれでも何も言わない。

「よろしい。では、君たちの首を即座に刎ねて……」
「無理」
「はえ?」

 いつの間にかローバーの後ろに真っ白な仮面をつけた水色の髪の少女が立っていた。

 そして、ローバーがそれ以上何かを言う前に、彼の意識を狩り取った。

 敵ではないと思うけれど、新たな人の出現に僕は警戒感を強める。

「誰!?」
「学園長の使い」
「学園長の?」

 彼女はこくりと首を縦に動かす。
 そして、指を指した。

「あっち」
「?」

 彼女は森の中を指しているけれど、その先に何があるのだろうか。

 僕は何のことか分からずに首を傾げるけれど、彼女はそれ以上何も言わない。
 助け舟を出してくれたのはグレーデンだった。

「その方向にこいつのアジトがある。そこにてめーの妹もいるんだろうよ」
「分かった」

 僕はサナを助け出すために向かおうとするけれど、直ぐに思いとどまって足を止める。

 レイラはもう一歩も動けず、アルセラに至っては意識すらない。

 そんな2人を置いて行けるのか。
 薄情……サナの為であればそう言われるのは別にどうでもいい。
 けれど、僕の為に助けに来てくれた2人に対して、そんな仕打ちをすることは僕は出来なかった。

 でも、レイラが僕の背中を押してくれる。

「何……止まってるのよ……。さっさと助けに行きなさい。あたし達は大丈夫……だから……」
「でも……」
「いいから! 大丈夫だって言っているでしょう?」

 レイラは俯いた顔を少しだけこちらに向け、鋭い視線を放っている。

 僕は少しだけ止まり、彼女に背を向けた。

「ごめん……ありがとう」
「3回は奢りなさいよ……」
「任せて」

 僕は、サナを助けるために走った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?

サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに―― ※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...