「タコ野郎!」と学園のダンジョンの底に突き落とされた僕のスキルが覚醒し、《クラーケン》の力が使える様に ~突き落としてきた奴は許さない~

土偶の友

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1章

16話 悪のやること

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 僕たちはダンジョンを歩く。
 警戒しているけれど、ゴブリンは今の所出てくる様子はない。

 その時間を使い、僕はレイラに頼みごとをする。

「ねぇレイラさん」
「さんなんて要らないわ。クトー普通に呼んで」
「分かったレイラ。一つお願いがあるんだ」
「何よ? このあたしのお願いなんて」

 何を要求されるのかは分からないけれど、こんなチャンスは2度とない。
 僕は彼女に向かって頼む。

「どうか僕の妹であるサナの病気を治して欲しい」
「……そんなことだろうと思った。でも残念。それは教会の許可がなければ出来ないのよ」
「そこを何とか……」
「ダメなものはダメよ、教会はかなり厳しいから。護衛の子達がずっと監視していたでしょう?」
「あの子達が……」
「まぁでも、あたしの言うことを何でも聞いてくれたら考えて上げないでもないわ」
「なんでも……」

 一体何をやらされてしまうのだろうか。
 正直頷きたくはないけれど、それでも、サナの為であれば……。

「いいよ。サナの為になるのであれば、僕は何でもするよ」
「……いいの? 酷い事をするかもしれないわよ?」
「サナを治療してくれるのなら安いものだよ。あ、でも、サナに手を出すような事だったら絶対に断るけど」

 僕はそこだけは力強く話す。
 それだけは絶対に譲れない箇所だからだ。

「そんなに妹が大事なの?」
「ああ、僕の命よりも大事だよ。だからお願いします」

 僕は彼女に頭を下げて、本気でお願いする。

「……分かったわよ。その子を連れてあたしと一緒にダンジョンに連れて来ればやって上げてもいいわ」
「ありがとうレイラ!」

 僕は彼女の両手をとって感謝する。
 黒蛇病には効かないかもしれないけれど、やってみなければ分からない。
 治らなくても、もしかしたらサナの治療の手がかりが分かるかもしれないのだ。

「それで一体何の……」
「待った」

 僕がレイラの口に手を当てて閉ざす。

「【タコ化】」

 手をタコにして、近くの壁に触手を当てた。

 何かが恐らくゴブリンが数体歩いて来るような振動を感じ取る。

「ぷは。ちょっと何するのよ」
「ゴブリンが来てるかも。それも数体」
「え? もう出てくるの? 嘘でしょ?」
「ううん。多分来てる」
「っていうか触手ってそういうものなのね……。戦闘は任せるわよ?」

 レイラも意外と切り替えが早いのか、直ぐに察してくれるのは助かる。
 僕はゴブリンが近付いて来る方向に進む。

「うん。スキルの練習もしたいからね」
「……そう」

 レイラが微妙そうな顔をしている。
 どうしたのか、と思う暇もなくゴブリンが現れた。

「ゲギャギャギャギャ」

 ゴブリンが3体、こん棒を持ってこちらに走ってくる。

 僕はレイラの前に走り出て、腕だけをタコにしていたのを全身タコにした。
 大きさは最も大きくして、触手2本でそれぞれのゴブリンのこん棒を持つ腕と首をつかむ。
 余った2本は地面を支えた。
 そしてそのまま力を込めてゴブリン達の首と腕をへし折る。

 ゴギッ!

 鈍い音がしたと思ったらゴブリンたちは力なくダンジョンの床に沈む。
 そのままサラサラと灰になったかと思うと、死体の中に小さな爪ほどの紫の魔石になった。

「これでいいかな」
「中々えげつないやり方ね……」
「そう? 一瞬で殺しているしいいと思ったけど……」
「まぁ……何でもいいから任せるわ」
「分かった」

 それから進みながらも、色々な方法でゴブリンを殺して魔石に変えていく。

 まずは【タコ化】で最小化して、次に【保護色カラーコート】で姿を消す。
 ゴブリン1体しかいないので、僕がどこに行ったのか探している間にゴブリンが口を開けているのでその中に入る。
 うえ、臭い……。

 その臭いを我慢して、体を最大化する。

 パン!

 ゴブリンの体が弾けて飛び散る。
 けれど、その血なども含めて灰になるので体が汚れることはない。

「クトー……貴方……流石にそれは悪のやる事よ?」
「やっぱりそうかな……」

 練習と言うことで一応やってみたけれど、外からの見方はひどいらしい。
 自分でも流石にどうかと思っていたのでももうやらないだろう。

 他にも、小さい姿のままでゴブリンをゆっくりと頭を絞め殺していったり、大きくなってゴブリンを頭から叩き潰したりということをしていく。

「見た目……なんとかならないの……?」
「そんな悪い?」
「かなり……っていうか……そうね。控えめに言って悪にしか見えないわ」
「控えめで……でも、そればっかりはなんとも……」

 こんなスキルだから仕方ない。


 そうやって色々なスキルを実験しながら進み、今夜泊まる場所に辿り着く。
 寝泊りする準備をして、僕の正面に焚火を挟んでレイラが両手で両足を抱え込むように座る。

「にしてもゴブリン多かったね。前に潜った時はこの半分もいなかったけど……」

 グレーデン達と潜った時のことを思いだしながら話す。

「クトーの殺し方に怒ったんじゃない?」
「あるかもしれないから困る」
「ふふ、ま、頼りにしてるからいいけどね」
「どうも」

 ゴブリンで実験しながら倒して回ったせいか、多少の戦闘での信頼は得られたようだった。

「それにしても、こんなにのんびりとした日は久しぶりだわ」
「そうなの?」
「ええ、いつも護衛の子達が……本当にね……。いい子達なんだけれど、あたしに近付いて来る人全員に威嚇いかくするから……」
「ああ……それは大変だね……」

 自分も一度された事があるだけに納得する。

 僕はまだ食事をしていないことを思いだし、スティックのクッキーを彼女に差し出す。

「あ、そうそう。食事はどうせ数日だと思ったからこれでいい?」
「それは?」
「サナが作ってくれたお手製の保存食だよ。この世のどんな料理より美味しいから食べてみて」
「ただの保存食なのに?」

 レイラが軽く笑いながら口に運ぶ。

 僕も口に運んだ。

「美味しい……」
「でしょ?」

 サナの料理は世界一なのだ。

「うん美味しい」
「まだあるから食べていいよ」
「ありがとう……でも、こうして人と食べるのも……やっぱりいいわ」
「それは……」

 レイラは少し寂しそうに飲み込み、話してくれる。

「護衛の子達はね。教会への忠誠心が桁違いに高いのよ。だから、私と一緒にご飯を食べることはしてくれない」
「頼んでも?」
「ええ……決して……彼女たちはしないわ。だから、今、貴方とこうして食べているだけでも楽しい」
「それなら、ここを出てからでも一緒に食べようよ」
「いいの? 護衛の子達に威嚇されるわよ?」
「こうして一緒にいて何もなかったんだから、多少は信じてくれるでしょ」
「ふふ……それも……そうね。でも……楽しそう……。貴方と一緒にここにこれて良かったわ……」

 彼女はそう言いながら眠りについてしまった。

「……サナのご飯は人を安心させるからなぁ」

 僕は、彼女を寝袋に寝かせ、彼女が目を覚ますまでずっと警戒をしていた。
 そのせいで、翌日少し寝不足になってしまった。
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