「タコ野郎!」と学園のダンジョンの底に突き落とされた僕のスキルが覚醒し、《クラーケン》の力が使える様に ~突き落としてきた奴は許さない~

土偶の友

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1章

1話 タコ野郎

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本日3話、明日3話、その次も3話投稿します。
それ以降は毎日更新予定です。

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「サナ、ここがこれからサナが通うルインドワーズ高等学園だぞ」
「凄いよクトーお兄ちゃん。こんなに立派な場所だなんて……」

 僕は、妹であるサナの車いすを押しながらルインドワーズ高等学園を案内する。
 僕はこの春から2年生になり、サナは1年生として入学したばかりだ。

 その為、僕が大事な大事な命よりも大事で美しく素晴らしいサナを案内しているのだ。
 サナに悪い虫がつくのを防ぐ為にも、僕がサナを守らなければならない。

「おはようございます。クトー君」
「あ、おはようございます。ローバー先生」

 仲のいい先生とすれ違うたびに挨拶をしては進む。

 しかし、僕がサナと仲良く学園を案内していると、ひそひそと遠回しに陰口を言ってくる連中が現れる。

「おいおい、あそこのタコ野郎。車いすなんて押してるぞ」
「タコ野郎ならタコ壺で1人寂しく勉強してろよな。がり勉ダコが」
「学園から追放されないのが不思議だな。人ですらないタコが」

 その声はわざと僕とサナにも聞こえるように言っているのだろう。
 でも、僕は気にしない。
 この学園には貴族と平民がいる。
 とすれば、どちらからともなく憎しみ合うような事も平然と起きる。
 貴族が平民にひどいことをしても、何も言われないことすらあるのだ。

 だから、ここで僕が突っかかってもきっといいことにならない。
 それに、色々と言ってきているのはグレーデン。
 次期公爵としてかなり好きにやっているという話を聞く。
 関わらない方がいい。
 平民は皆そうしている。

「兄さん……」
「サナ。気にしないで。僕が【タコ化】とかって言うよくわからないスキルをもらっているせいもあるんだし……」

 スキルとは1人1つ。
 神から与えられる贈り物と言われている。

 ただ、本当にどうしてこんなよくわからないスキルを神が僕に与えたのか理解できない。
 勿論、もらえるスキルを選択出来るということはほとんどないのだけれど、こんな誰も聞いた事もないような分からないスキルを与えるのはやめて欲しい。

 最初こそ、スキルの新たな可能性と言われたけれど最初だけ。
 伝説にうたわれるクラーケン等になれれば良かったのだけれど、僕がなれるのはただのタコ。
 他の《火魔法》や《剣術》のスキルをもらっていた方が役に立つ。

 そんなことはおいておいて、僕の事を心配そうに見てくるサナは可愛らしく美しい。最高だ。

「おーい。クトー!」
「ん? ウィリアム。どうかしたのか?」

 僕の名前を呼んで走ってくるのは友人のウィリアム。僕と同じ平民で、妹を愛する大事な同士だ。
 成績は僕と一緒で上位を競う仲でもある。
 カールした栗毛を持つ優しい雰囲気の青年だ。

「2年生になったらダンジョンに入るの知ってるか?」
「勿論、《初心の迷宮》だろう?」
「そう。一緒に行かないかな? と思って」
「いいよ。というかこっちからお願いしたい位だよ」
「分かった。他のメンバーはこっちで決めておいていいか?」
「いいの? 助かるよ」
「それじゃあまたな」
「ああ」

 ウィリアムはそれだけ言って去っていった。

「兄さん……本当に学園に友達がいたのね……」
「いたよ。そんなに心配しなくても」
「だって、ずっと勉強ばっかりって聞いていたから……」
「いいんだよ。それがやりたいことだから」

 そんなことを話しながら、僕たちは学園の案内を終えた。

******

 ダンジョン探索の日。

「ウィリアム……これはどういうつもり?」
「いやぁ……本当は他の人を誘っていたんだけど……。組めるのが彼らしかいないって……」

 ウィリアムが申し訳なさそうに言って、僕に紹介したのはグレーデンとその取り巻き2人だった。

 彼らはいつも僕の姿を見るたびに「タコ野郎」と見下してくる。
 見るたびに言うのでそう言わないといけない呪いでも食らっているのかと思った程だ。

 そんな奴らが僕と一緒にダンジョン探索? ふざけているのだろうか。
 魔物は大した量は出ないと言っても、数日間は潜ることになるのだ。
 こんな奴らとなんて真っ平ごめんだ。

「平民の分際で上から目線でよく言うな? 文句を言いたいのはこちらなのだぞ?」
「そうだ。グレーデン様が仕方なく貴様らと組んでやる。と言っているのだ。ありがたく頭を下げるべきだろう」
「これだから平民は……」

 3人が好き放題に言ってくる。

「それなら休めば良かったじゃないですか。いつもの様に」
「貴様、グレーデン様がまるでサボっている様な言い方だな?」
「違うんですか?」
「違うに決まっている。グレーデン様は出る必要のない授業には出ておられないだけだ。グレーデン様が受けるには相応しい授業というものがあるんだ」
「そんなことも分からないとは。これだから平民のタコは……」
「……」

 これ以上は会話を続けても無駄だと思って口を閉じる。
 開いていてもいいことは何もない。
 代わりにウィリアムが口を開く。

「そ、それじゃあ行きますか」
「本気?」
「あ、ああ。授業は出ないとな……クトーもサボるつもりはないだろう?」
「……まぁないけど」

 メリットがあるので、授業は出来るだけいい成績で通りたい。
 そのためには、ここでサボるという選択肢はない。
 それに、こいつらから逃げた。という事はしたくなかった。

「なら行こう」
「分かった」

 僕たちは5人で行くことになった。


 最初の1日は特に問題なく進んだ。
 いや、グレーデン達が事あるごとに嫌味を言ってくるのが問題なかったかと言われると怪しいとは思うけれど……。

 それでも、キャンプの設営もやったし、見張りもやってくれていたようだ。
 魔物との戦闘もグレーデンではないが取り巻きがやり、道案内はウィリアムがやってくれた。

「【ファイアボール】! へへ、俺の【火魔法】のスキルは違うなぁ! どこかのタコと違って」
「【斬撃】! 全くだ。おれの【剣術】スキルも中々のキレ味だろう? ま、タコ野郎には無理だろうけど」

 特に珍しくもないスキルでゴブリンを倒し、やたら煽ってくる2人。

 僕は面倒なので無視を続ける。

 ここは《初心の迷宮》。ダンジョンに慣れる為の場所でしかないので、罠も危険な物はなく、魔物もゴブリンが1,2体同時に出てくる位。
 隠れて何かするという事もない。
 本当にダンジョンになれる為の場所だ。

 そんな道を進んでいると、ウィリアムが突然ゴールへの道を変える。
 今回のルートは入り口から最奥に入ってそこで証明の魔道具を使い、戻ってくるもの。
 ダンジョン攻略と言いつつ、数日間のキャンプといったものだ。

「ねぇ、どこに行くの? 正規の道はこっちじゃない?」
「……」

 僕は不思議に思って聞くと、彼は振り返らずに黙っている。
 一体どうしたのか。

 ウィリアムの代わりにグレーデンが答える。

「そっちの方に近道があることが最近出回ったんだよ。いいからいかせろよ。なぁ? ウィリアム?」
「そ、そうだよ。こっちの方が近道なんだ。クトーも早く戻りたいだろう?」
「まぁ……それなら……」

 確かに、僕はそこまで友人がいる訳ではないから聞いた事もない。
 けれど、ウィリアムが僕に言ってくれていないのが少しショックではあった。

 道なりに行くと、少し険しい道に変わってくる。
 今までは普通のレンガの道だったのに、今では階段を降りたり、縦穴を降りたりする様な道になっていた。

 おかしい。
 途中に進入禁止の札があったけれど、全員にこっちの方が近いから。
 というので押し切られてしまった。

 更に数時間歩くと、見たこともないような大穴が目の前に拡がっていた。

 直径10ⅿはあるだろうか。
 底は暗くてどこまであるか分からない程だ。
 《初心の迷宮》にこんな場所があるなんて聞いたこともない。
 けれど、目の前に拡がっているのは確かにあるようだった。

「ここからどうするんだ? こんなの、絶対に降りられないだろ?」

 僕は下を少しだけ覗き込みながら振り返る。

 グレーデン達はニヤニヤして笑っていて、ウィリアムだけは震える唇を嚙みながら堪えていた。

「ウィリアム?」

 僕が声をかけるけれど、彼はそこから動かずに拳を握りしめている。

「ウィリアム? 分かってるよな?」
「?」

 僕ではなくグレーデンがウィリアムの名前を呼ぶ。

 グレーデンは更に続ける。

「なぁウィリアム。お前……このタコやろうが学園から追放されるの……見てみたいよな?」
「はぁ!?」

 何故か分からずにグレーデンを見ても、さっきと同じ表情で笑っているだけ。
 ウィリアムは感情が抜け落ちた様な表情で僕を見ている。

 嫌な予感がした。

「ウィリアム?」
「……」

 ウィリアムはゆっくりと僕の方に歩いてくる。
 ただ、僕を真っすぐに見つめて。

 その迫力に気圧されるけれど、後ろは大穴。
 落ちたら帰って来ることは出来ない。
 どうしようかと思っていると、ウィリアムが突然抱きついてきた。

「ウィリアム?」
「【痺れ動きを止めよパラライズウェイブ】」
「ぐぅ!」

 ウィリアムがいきなりスキルを使用し、僕の体を麻痺まひさせる。そして、

「ごめん。クトー」

 ウィリアムは、僕と一緒に大穴に落ちた。

 彼の後ろでは、グレーデンが見たこともないくらいに笑っている。

「クトーお前は学園から追放だ。ああ、ついでに、お前の妹でもおもちゃにしてやろうかな」

 グレーデンの笑い声に、聞き捨てならない言葉が混じっていた。
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