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第3章 聖女は依頼をこなす
187話 ルノーとメリッサ
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私たちがギルドに戻ると、そこには『狂気の刃』とギルドマスターに受付嬢、そしてメリッサさんがいた。
メリッサさん? 何で? と思う間もなく、ルノーさんが叫んで走り出す。
「メリッサ!」
「ルノー! 貴方! どうしてここに!?」
ルノーさんは彼女に近づいていくが、5歩は離れた所で立ち止まる。ルノーさんはメリッサさんに近づくのを怖がっているようだった。
その証拠に、彼はメリッサさんに近づいたはいいがうなだれている。
「メリッサ……」
「ルノーどうして来てくれないの? 行っても返事をしてくれないし……」
「ごめん……。僕は……僕は……メリッサに相応しくないと思ってしまったんだ」
「どうして……? 一緒に暮そうって言ってくれたじゃない! そう言ってくれたのに……それから会ってくれなくて……話も出来なくて……」
「僕は、僕は自信が持てなかったんだ。長いこと劇団でやってきた。でも、主役を任されることもなくて、稼ぎも少なくて……それで君を守っていけるなんて思わなかった。それでも、君といたい。そう思ったのは確かで、これからもそうだと思う。いや、そうなんだ。でも、君の稼ぎに頼っていているのが許せなかった」
「そんな! 大丈夫だって! ルノーならきっとなれるって言ったじゃない! 私は信じてる! だからルノーももっと自分を信じて!」
「うん。あの時もそう言ってくれたよね。僕はそれが嬉しかった。君がいてくれるって分かって、君に支えられているって分かって……。そして、怖くなった」
「怖くなった……?」
「うん。僕は怖くなったんだ。そうやって君にずっと甘えてるんじゃないか。ずっと君の側に入れれば、それで満足してしまうんじゃないのかって」
「そんな……」
メリッサさんが信じられないと言うように首を振っている。
「そう思ったんだ。だから、少し距離を置くことにした。だけど、それでも君は僕の中にいて、かけがえのない人で……。忘れられなかった」
「ルノー……」
「それで僕もやってやろう。そう思ってた時に、パインが逃げ出した。悲しかったよ。どうして一緒に居てくれないんだって怨んだことすらあった。そこで、協力してくれたのがこのクロエさん達だ」
え? ここで呼ばれるの?
内心ドキドキしながらもメリッサさんに頭を下げる。
「ど、どうも」
「クロエさん……」
「そう、この方達がパインを見つけてくれて……。そしたらマルゴーと子供まで作っていて……」
「そんな」
「本当だよ。ね? パイン」
「くぅーん」
「それで、僕も覚悟が決まったんだ。パインの家族が増えることも君と一緒に暮すっていうことへの覚悟も」
「ルノー……!」
メリッサさんは口に手を当てて何かを堪えている。
「昨日が次の公演の主役発表だったんだ。それで、僕が選ばれた。これで君と堂々と会えると思っていたところにまたしてもクロエさん達が来てくれたんだ」
「クロエさん……」
いやいやいやいやいやいやいや。私たちはマルゴーが逃げたから追いかけて行っただけですが? ……とは言えない空気なのは分かる。フリッツさんもキリルさんも黙って聞いている。
私はニコリと返すだけに留める。それ以上は表情が崩れそうだったから。
「メリッサ。もう一度言わせてくれ、僕と一緒に住もう、いや、結婚してくれ!」
「……! 喜んで!」
「メリッサ!」
「ルノー!」
2人は抱きしめ合い、愛を確かめ合う。2人の頬には涙が流れているが、その顔は幸せで満ちていた。
暫くそうしたかと思うと、2人はそっと離れ、私の方に向かってくる。
「クロエさん。ありがとう。貴方が居なければ、僕達はどうなっていたか……。メリッサとはそのまま別れていたかもしれないし、パインはお医者さんに連れていけなくて死んでいたかもしれない。マルゴーもパインを失っていたかもしれない。クロエさん。貴方は私たちにとっての聖女だ!」
「ありがとうございます。聖女様……!」
「はい。2人が幸せでありますように」
私は声が震えるのを必死で押さえながら何とか聖女の様に2人の幸せを祈る。いや、まぁ聖女なんだけども。
「メリッサ。一回家に帰ろう? またメリッサの手料理が食べたい」
「もう、私にもルノー貴方の朗読、ううん。御芝居を見せて。私は貴方の御芝居を見て居るだけで幸せだわ」
2人は手を繋ぎ、仲良く帰っていく。その周囲にはパインとマルゴーがしっかりとついてきていた。
メリッサさん? 何で? と思う間もなく、ルノーさんが叫んで走り出す。
「メリッサ!」
「ルノー! 貴方! どうしてここに!?」
ルノーさんは彼女に近づいていくが、5歩は離れた所で立ち止まる。ルノーさんはメリッサさんに近づくのを怖がっているようだった。
その証拠に、彼はメリッサさんに近づいたはいいがうなだれている。
「メリッサ……」
「ルノーどうして来てくれないの? 行っても返事をしてくれないし……」
「ごめん……。僕は……僕は……メリッサに相応しくないと思ってしまったんだ」
「どうして……? 一緒に暮そうって言ってくれたじゃない! そう言ってくれたのに……それから会ってくれなくて……話も出来なくて……」
「僕は、僕は自信が持てなかったんだ。長いこと劇団でやってきた。でも、主役を任されることもなくて、稼ぎも少なくて……それで君を守っていけるなんて思わなかった。それでも、君といたい。そう思ったのは確かで、これからもそうだと思う。いや、そうなんだ。でも、君の稼ぎに頼っていているのが許せなかった」
「そんな! 大丈夫だって! ルノーならきっとなれるって言ったじゃない! 私は信じてる! だからルノーももっと自分を信じて!」
「うん。あの時もそう言ってくれたよね。僕はそれが嬉しかった。君がいてくれるって分かって、君に支えられているって分かって……。そして、怖くなった」
「怖くなった……?」
「うん。僕は怖くなったんだ。そうやって君にずっと甘えてるんじゃないか。ずっと君の側に入れれば、それで満足してしまうんじゃないのかって」
「そんな……」
メリッサさんが信じられないと言うように首を振っている。
「そう思ったんだ。だから、少し距離を置くことにした。だけど、それでも君は僕の中にいて、かけがえのない人で……。忘れられなかった」
「ルノー……」
「それで僕もやってやろう。そう思ってた時に、パインが逃げ出した。悲しかったよ。どうして一緒に居てくれないんだって怨んだことすらあった。そこで、協力してくれたのがこのクロエさん達だ」
え? ここで呼ばれるの?
内心ドキドキしながらもメリッサさんに頭を下げる。
「ど、どうも」
「クロエさん……」
「そう、この方達がパインを見つけてくれて……。そしたらマルゴーと子供まで作っていて……」
「そんな」
「本当だよ。ね? パイン」
「くぅーん」
「それで、僕も覚悟が決まったんだ。パインの家族が増えることも君と一緒に暮すっていうことへの覚悟も」
「ルノー……!」
メリッサさんは口に手を当てて何かを堪えている。
「昨日が次の公演の主役発表だったんだ。それで、僕が選ばれた。これで君と堂々と会えると思っていたところにまたしてもクロエさん達が来てくれたんだ」
「クロエさん……」
いやいやいやいやいやいやいや。私たちはマルゴーが逃げたから追いかけて行っただけですが? ……とは言えない空気なのは分かる。フリッツさんもキリルさんも黙って聞いている。
私はニコリと返すだけに留める。それ以上は表情が崩れそうだったから。
「メリッサ。もう一度言わせてくれ、僕と一緒に住もう、いや、結婚してくれ!」
「……! 喜んで!」
「メリッサ!」
「ルノー!」
2人は抱きしめ合い、愛を確かめ合う。2人の頬には涙が流れているが、その顔は幸せで満ちていた。
暫くそうしたかと思うと、2人はそっと離れ、私の方に向かってくる。
「クロエさん。ありがとう。貴方が居なければ、僕達はどうなっていたか……。メリッサとはそのまま別れていたかもしれないし、パインはお医者さんに連れていけなくて死んでいたかもしれない。マルゴーもパインを失っていたかもしれない。クロエさん。貴方は私たちにとっての聖女だ!」
「ありがとうございます。聖女様……!」
「はい。2人が幸せでありますように」
私は声が震えるのを必死で押さえながら何とか聖女の様に2人の幸せを祈る。いや、まぁ聖女なんだけども。
「メリッサ。一回家に帰ろう? またメリッサの手料理が食べたい」
「もう、私にもルノー貴方の朗読、ううん。御芝居を見せて。私は貴方の御芝居を見て居るだけで幸せだわ」
2人は手を繋ぎ、仲良く帰っていく。その周囲にはパインとマルゴーがしっかりとついてきていた。
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