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第3章 聖女は依頼をこなす

175話 なんかすっごいあれなやつ

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 次の日の朝、私たちは冒険者ギルドに来ていた。昨日の依頼が終わったのがかなり遅い時間だったので、その報告をする為だ。

 ギルドの中に入ると、結構な盛況ぶりで、多くの冒険者が依頼を受けるために依頼ボードの前に立ち、自分にあった依頼を剥がし受付へ。受付もテキパキと処理をしてはいるがかなり並んでいた。

「流石にこの時間はまだ忙しそうだな」
「そうですね。少し座って待ちますか?」
「そうするか」

 私とフリッツさんは忙しさが収まるまで少し待つことにした。並んでもいいのだけど、冒険者になったのにこういった空気を感じたことがなかったので、少しは味わってみたい。

 メリッサさんの依頼を探さなくてはいけないけど、少し落ち着いてからでもいいとは思う。

 私たちは席に座るが、キリルさんは立ったままだ。私は彼に視線を向ける。

「俺は少し中を見て回る。いいか?」
「はい。分かりました」
「あんまり遠くに行くなよ」
「分かった」

 キリルさんがそう言ってあちこちを歩き回り、どこかに消えたと思ったら直ぐに帰ってきた。

「もういいんですか?」

 こういう時は探求心の強いキリルさんにしては珍しいと思いながら聞く。

「いや、アイツらが俺達に用があるらしい」

 そう言ってキリルさんの指す方向には蒼穹の息吹のミーナさんがこちらに向かって手を振っていた。

 私たちに? と思いつつもそっと手を振り返す。すると、彼女はこっちへおいでという様に手招きする。

「行きましょうか?」
「ああ、何かあるみたいだしな」

 3人でミーナさんの元に向かうと、彼女の顔が嬉しそうに変わる。

「良かった! 受けてくれるのね! こっちに来て!」

 ミーナさんはそう言って足早にギルドの奥の方に入っていく。こっち側は中に会議室があったり、ギルドが時折開いている講習会の会場になっている場所だ。蒼穹の息吹の面々も何か依頼を受けているのだろうか。

「どういうことだ?」
「取りあえず行ってみますか?」
「そうだな」

 私たちはミーナさんの後を追った。


 私たちが到着した先は、ギルドのとある一室だった。

「こっちこっち」

 そう言ってミーナさんは部屋の中に入っていく。

 私たちも続いて中に入ると、そこには蒼穹の息吹の残りのメンバーと受付嬢と同じ格好をした少女が一人、それと厳しい表情をした中年の女性がイスに座っていた。

 彼らは長方形の机で向かい合うように座っている。

 受付嬢はこげ茶色の髪を団子にして後ろで丸めている。

 中年の女性は黒く長い髪を折り畳み、頭の後ろでかんざしで止めていた。彼女の表情はきつく、ちょっと近寄りがたい空気を感じさせた。思いっきり歓迎されていないようだ。

「し、失礼しました」

 私はそう言って扉を閉じようとする。

「待って待って。間違ってないから。手伝って欲しいってだけだから!」

 ミーナさんが扉の間に足を挟んで止めてきた。

「手伝って欲しいですか?」
「何をするんだ?」
「あれ? キリルから聞いてないの? さっき説明したんだけど」

 私とフリッツさんは後ろにいるキリルさんに目を向けると、彼は首を傾げていた。

「俺は『なんかすっごいあれなやつがいるからチョーヤバくて危ない感じがしないこともないから出来れば手伝ってくんない?』というなんと言っていいか分からない言葉を貰っただけだが」

 淡々と言うキリルさんに、部屋の中の空気も寒くなったような気がした。

 カルロさんとエミリーさんが冷たい目でミーナさんを見ている。

「ミーナ。お前、今までの話を聞いていなかったのか?」
「ミーナ。神は貴方をお許しになりませんよ?」
「ちょ、ちょっと待ってよ。大体を訳しただけよ。そ、そんなこと言わなくてもいいじゃない」

 慌てるミーナさんに、ファルさんが援護をする。

「まぁまぁ。そんなことを言わないで、フリッツさん達も中に入ってきて聞いていただけませんか? 我々もここに来て捕まったばかりなんです」
「はぁ」
「分かった」
「ああ」

 私たちは部屋の中に入り、扉を閉める。中に入るとファルさんがイスを譲ってくれた。優しい人だ。

 私が席に着くと、正面に座っている中年の女性が話始める。
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