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第3章 聖女は依頼をこなす
171話 クロ再び
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私はフリッツさんの試着室から出て、自分の試着室に帰る。
「それでは失礼しますね」
中に入ると、メリッサさんも一緒に入ってきて、服を渡してくる。
「こちらを着てください」
「はい」
その服を見ると、それは召使の様な服装、フリッツさん達が最初に着ていた奴の小さい感じの物だった。
私は服を脱ごうとするけど、メリッサさんは出て行こうとしない。
「あの、着替えたいんですが……」
「ああ、男装をしっかりするには晒しをきちんと巻いたりしなければなりません。ですので、私が補助につかせて頂きます」
「自分で言うのは嫌なんですが、晒しは必要ないと思うんです」
サラやディーナの物が少しでも私にあればと思わなくもない。
メリッサさんは力強く首を横に振る。
「そんなことはありません。必要です。なので、ちゃんとやらせていただきます。そう言ったことをきちんとやる所から衣服は始まるのです」
「そ、そうですか」
メリッサさんは鼻息を荒くして立っている。その立ち姿っぷりから絶対に引かないという強い意思を感じたので、諦めて着替えることにした。
「あ、そこはもう少しきつくしてください」
「え、でもこれ以上は」
「こうです。こうすると締まって綺麗に見えるんです」
「はぅ……く、苦しいです」
「これくらいは問題ありません。直ぐに慣れますから」
メリッサさんの補助は厳しく。少し苦しい。けれど、私が映った鏡を見ると、思いのほか悪くないんじゃないのかと思う。
立ち姿はどことなくあどけない。そして肩幅が狭いからか華奢な印象を与える。でも、メリッサさんのメイクによって男の子の様な、女の子のような中世的ないでたちになり、男の子と言われてもギリギリ納得出来そうだ。
「わ、これ私ですか?」
「とっても様になっていますよ。もしも私が貴族だったら襲わずには……いえ、とても可愛がることでしょう」
「それって同じ意味のような気が……」
「ああ、あの人もこれくらい堂々としてくれればきっと……」
「ど、堂々としていますかね?」
気になって聞いてしまう。
「はい。これ以上にないくらいばっちりですよ。それよりも、さ、外に出てください」
「わ、分かりました」
私は言われるままに外に出る。そこにはさっき居なかった10人程の人達が私を囲んでいた。
「わ」
「いいですわ! いいですわね!」
「こっちに視線をくださる? ちょっと物憂げな感じで、貴族様にいつもは目をかけてもらって夜な夜な可愛がって貰っているけど、でもあんまり好きじゃなかった。だけど、それを続けていくうちに嫌じゃなくなって来た。そんな時に新しい召使が入ってきて、貴族様のお気に入りがそっちに行き始めててちょっと寂しいような嬉しいような。そして、違った貴族様が貴方を狙っていて、言い寄られるので困る! そんな感じの表情を是非!」
「ええ……」
すっごく細かい設定で一体どうすればいいのか。今の人は小説でも書いた方がいいのでは? と思わなくもない。でも、これも依頼なんだから、出来る限りでもいいからやってみよう。
「こ、こうですか……?」
貴族様に可愛がってもらったことがないので何とも言えないけど、イメージでやってみる。
「いいわ! その調子よ! もっと、もっと深い悲しみと、でも受け入れる訳にはいかないという表情を出して!」
「む、難しい」
要望に答えるために何とか表情を作ろうとするけど、中々上手く行かない。何でだ。
それでも依頼だからと、必死で引くつく表情を押さえて何とか取り繕った。
「そうよ! そう! その耐えている様な憂いているような絶妙な狭間の表現が見たかったのよ!」
「新しい扉が開けそうよ! もっと、もっと新しい表情を見せて頂戴!」
(この人達すごいなぁ……)
私は1人そんなことを思いながらフリッツさんとキリルさんを待った。
それから10分程して、そろそろ許して貰えないか謝ろうか考えていた時に、フリッツさん達の方から歓声が聞える。
「何てこと! そんなパターンもいけるのね!」
「これは盲点だったわ! 確かにスラリと背が高いイケメン! でも、ガタイが物凄くがっつりとしている訳ではない! つまり、女性ものを着ても似合う! 似合うわ!」
「今行きます!」
私はいても立ってもいられず、周囲の人達の間を縫って駆け出した。
「ああ! 何処に行くの!」
「待って! まだ取ってもらいたいポーズが!」
「大丈夫よ」
「「メリッサさん!」」
「あの子は他の子達と絡みに行ったのよ。私たちをより楽しま……私たちの服製作の参考にする為に」
「なるほど!」
「そんな意図が!」
「私たちも行くわよ」
「「はい!」」
私は一緒に絡みたい訳ではないけど、それでもフリッツさん達の勇姿? を見ることが出来るのならそんな風に思われようと構わない。私にはやらなければならないことがある!
私は周囲の人を少しずつ潜り込んで、最前線に出る。そして、絶景を目にする。
「それでは失礼しますね」
中に入ると、メリッサさんも一緒に入ってきて、服を渡してくる。
「こちらを着てください」
「はい」
その服を見ると、それは召使の様な服装、フリッツさん達が最初に着ていた奴の小さい感じの物だった。
私は服を脱ごうとするけど、メリッサさんは出て行こうとしない。
「あの、着替えたいんですが……」
「ああ、男装をしっかりするには晒しをきちんと巻いたりしなければなりません。ですので、私が補助につかせて頂きます」
「自分で言うのは嫌なんですが、晒しは必要ないと思うんです」
サラやディーナの物が少しでも私にあればと思わなくもない。
メリッサさんは力強く首を横に振る。
「そんなことはありません。必要です。なので、ちゃんとやらせていただきます。そう言ったことをきちんとやる所から衣服は始まるのです」
「そ、そうですか」
メリッサさんは鼻息を荒くして立っている。その立ち姿っぷりから絶対に引かないという強い意思を感じたので、諦めて着替えることにした。
「あ、そこはもう少しきつくしてください」
「え、でもこれ以上は」
「こうです。こうすると締まって綺麗に見えるんです」
「はぅ……く、苦しいです」
「これくらいは問題ありません。直ぐに慣れますから」
メリッサさんの補助は厳しく。少し苦しい。けれど、私が映った鏡を見ると、思いのほか悪くないんじゃないのかと思う。
立ち姿はどことなくあどけない。そして肩幅が狭いからか華奢な印象を与える。でも、メリッサさんのメイクによって男の子の様な、女の子のような中世的ないでたちになり、男の子と言われてもギリギリ納得出来そうだ。
「わ、これ私ですか?」
「とっても様になっていますよ。もしも私が貴族だったら襲わずには……いえ、とても可愛がることでしょう」
「それって同じ意味のような気が……」
「ああ、あの人もこれくらい堂々としてくれればきっと……」
「ど、堂々としていますかね?」
気になって聞いてしまう。
「はい。これ以上にないくらいばっちりですよ。それよりも、さ、外に出てください」
「わ、分かりました」
私は言われるままに外に出る。そこにはさっき居なかった10人程の人達が私を囲んでいた。
「わ」
「いいですわ! いいですわね!」
「こっちに視線をくださる? ちょっと物憂げな感じで、貴族様にいつもは目をかけてもらって夜な夜な可愛がって貰っているけど、でもあんまり好きじゃなかった。だけど、それを続けていくうちに嫌じゃなくなって来た。そんな時に新しい召使が入ってきて、貴族様のお気に入りがそっちに行き始めててちょっと寂しいような嬉しいような。そして、違った貴族様が貴方を狙っていて、言い寄られるので困る! そんな感じの表情を是非!」
「ええ……」
すっごく細かい設定で一体どうすればいいのか。今の人は小説でも書いた方がいいのでは? と思わなくもない。でも、これも依頼なんだから、出来る限りでもいいからやってみよう。
「こ、こうですか……?」
貴族様に可愛がってもらったことがないので何とも言えないけど、イメージでやってみる。
「いいわ! その調子よ! もっと、もっと深い悲しみと、でも受け入れる訳にはいかないという表情を出して!」
「む、難しい」
要望に答えるために何とか表情を作ろうとするけど、中々上手く行かない。何でだ。
それでも依頼だからと、必死で引くつく表情を押さえて何とか取り繕った。
「そうよ! そう! その耐えている様な憂いているような絶妙な狭間の表現が見たかったのよ!」
「新しい扉が開けそうよ! もっと、もっと新しい表情を見せて頂戴!」
(この人達すごいなぁ……)
私は1人そんなことを思いながらフリッツさんとキリルさんを待った。
それから10分程して、そろそろ許して貰えないか謝ろうか考えていた時に、フリッツさん達の方から歓声が聞える。
「何てこと! そんなパターンもいけるのね!」
「これは盲点だったわ! 確かにスラリと背が高いイケメン! でも、ガタイが物凄くがっつりとしている訳ではない! つまり、女性ものを着ても似合う! 似合うわ!」
「今行きます!」
私はいても立ってもいられず、周囲の人達の間を縫って駆け出した。
「ああ! 何処に行くの!」
「待って! まだ取ってもらいたいポーズが!」
「大丈夫よ」
「「メリッサさん!」」
「あの子は他の子達と絡みに行ったのよ。私たちをより楽しま……私たちの服製作の参考にする為に」
「なるほど!」
「そんな意図が!」
「私たちも行くわよ」
「「はい!」」
私は一緒に絡みたい訳ではないけど、それでもフリッツさん達の勇姿? を見ることが出来るのならそんな風に思われようと構わない。私にはやらなければならないことがある!
私は周囲の人を少しずつ潜り込んで、最前線に出る。そして、絶景を目にする。
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