防御魔法しか使えない聖女はいらないと勇者パーティーを追放されました~そんな私は優しい人と出会って今は幸せです

土偶の友

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第3章 聖女は依頼をこなす

170話 クロになれ

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「さ、次の服を着てください。これを持って中に。さぁさぁさぁ」
「わ、分かった。分かったから背中を押すな」

 フリッツさんが再び試着室に入っていき、キリルさんも入っていく。

 それを見送った私にメリッサさんが話しかけてくる。

「クロエさん。フリッツさんやキリルさんに着て欲しい服などはありますか? 聞けば貴方があのお2人を連れてきてくれたとか、是非とも貴方の意見を聞かせて頂きたいです」
「本当ですか? では私は……」

 そこで、私は考えられる限りの提案をメリッサさんに伝える。

「とまあ一応はこんな所でしょうか?」
「わ、分かりました。つ、伝えておきますね? ただ、全部叶うとは限らないのでお願いします」
「はい。よろしくお願いします」

 私は5分程要望を伝えると、メリッサさんはそそくさとどこかに行ってしまう。きっと私の考えに感銘を受けたに違いない。

 そして、丁度フリッツさん達が着替え終わったのか試着室から出てくる。

「きゃー! いいわよ! これもいい!」
「もっと、もっと色んな姿を見せて!」

 フリッツさんとキリルさんはかなりラフな格好になっていた。

 いつもはしっかりとした冒険者装備だったのだけど、今回はTシャツにラフな短パン。といった感じ。ただし、体の至る所にアクセサリーをつけている。ペンダントや、腕輪、指輪、アンクレットまでつけていて、ちょっとお調子者というか、遊んでいそうだなという印象を受ける。

 でも、はっきりと言えるのは、これはこれでいい!

「いいわ! もっと気だるげな感じで!」
「こっちにはそれでも不意に見せる優しさを是非!」

 ここの人達も受け入れてくれているらしい。

 それからはずっとフリッツさんとキリルさんはここの人達の着せ替え人形になっていた。

 私もそれを一緒に楽しんでいると、後ろからメリッサさんに袖を引っ張られる。

「クロエさんクロエさん」
「メリッサさん。どうしました?」
「一応色々と手直しをしたので、一度見て頂けませんか?」
「分かりました」

 私はフリッツさんとキリルさんを囲む輪から抜け出してメリッサさんの後を追う。

「こんな感じなんですが、どうでしょうか?」

 メリッサさんはどうだろうかとフリッツさんとキリルさんが着る用の衣装を見せてくる。

「最高です! 控えめに言って最高です! 完璧以上の言葉があったらここで使いたいです!」
「そ、そうですか。分かりました。ではお渡ししてきますね」
「はい! お願いします」

 メリッサさんはそう言って頷くとフリッツさん着替えを渡すために行く。しかし、それから幾ら待ってもフリッツさんとキリルさんが出てくることはなかった。

 どうしたのだろうか。まさかサイズが間違っていたとか? そんな。これが楽しみでこの依頼を受けたといっても……。いや、そんなことはないことはない。かもしれない……。

 そんな心配をしていると、誰かに袖を引かれた。

「はい?」

 振り向くとそこにはメリッサさんが申し訳なさそうな顔をしてどこかを横の方を見て居た。

「どうしました? サイズがちょっと間違えて着られなくなったとかですか?」
「い、いえ、流石にそれは大丈夫です。ただ、フリッツさんがこれを着るように提案したやつを呼んで来いと……」
「なるほど。なら仕方ありません。行きましょう」

 私はメリッサさんに連れていかれた先は、フリッツさんの試着室だった。

「中へどうぞ。クロエさんだけということです」
「分かりました。失礼します」

 私は靴を脱いで中に上がり込む。

 中にはさっき着ていた服を着たまま可愛らしい衣装を持ったフリッツさんがいた。彼は後ろを向いているので表情は見えない。

「フリッツさん。どうしました?」
「どうしたもこうしたもない。どうなって……」
「どうしました?」

 フリッツさんがこちらを振り向き、動きが止まる。ただ視線だけは物凄い速さで上下に動いている。

「……」
「……」
「フリッツさん?」
「は! い、いや、その……に、似合っている」
「え?」

 私は不思議に持って自分の姿を見返す。私はいつものシスター服ではなく、メイド服を着ていたのだ。しかも、シスター服は丈が足首まであるが、今回は短いので素足も出ている。

 そのことに気が付くと顔が熱を持ったように熱くなるのを感じた。

「あ……。これは……その……。試着で着させられたと言いますか……」
「帝国風のメイド服だろう? いいと思う……ぞ?」
「あ、ありがとうございます」
「……」
「……」

 私は恥ずかしさで俯く。だけど、ここから逃げるようなことはしない。直ぐ傍にはリフちゃんへの夢が待っているのだ。

「それで……どうしたんですか?」

 このままだとリフちゃんが見れないと思い、私は話を切り出す。

「あ、ああ。その、俺はこの女物の服を着るように提案した奴を呼んでもらったつもりだったが……。それでクロエがくるとはな……」
「きっと似合います! だからお願いします!」
「そうは言ってもな」
「そこを何とか! ここの人達は服に関して最高の技術とセンスを持った人達です! その人達がきっとフリッツさんに、いえ、リフちゃんに似合うと手直しをしてくださったんです! だから問題ありません! それに、これは依頼なんです! 男ものだろうが女ものだろうがフリッツさんには問題なく着る必要があると思うんです! お願いします! 仲間としてこの依頼は失敗したくないんです!」
「クロエがこんなにしゃべっているのは初めてだ……」
「フリッツさん!」
「な、なんだ」
「何とかお願いします! キリルさんも既に着替えていることでしょう! 仲間として、是非着替えてください!」

 私は心からのお願いをフリッツさんに向ける。この時の祈りはケルベロスと戦った時と同じかそれ以上かもしれない。

 そんな私の真摯な思いが届いたのか、フリッツさんが首を縦に振る。

「クロエ、分かった」
「フリッツさん! 流石です! フリッツさんならやってくれると思っていました! それでは私は外に……」
「待て」

 私はそう言い残して外に行こうとすると、フリッツさんに手を掴まれる。私は恐る恐る振り返ってフリッツさんを見る。

「ど、どうしたんですかフリッツさん。外には皆さんが待っているんですから、手を放してください。私は外で待っていますから」
「さっきクロエは言ったよな? 俺達は仲間だって」
「え、ええ」

 なんだろう。嫌な予感しかしない。フリッツさんから圧力のような物を感じているのも理由かもしれない。

 フリッツさんの笑顔が恐ろしい。

「なら、労苦は仲間でも分け合わなければならないよな?」
「そ、そうかもしれませんね?」
「ああ、そうだ。だから、俺が女装するんだ。クロエももう一度クロになれ」
「そんな、いきなり過ぎますよ。そんな準備出来て居る訳ないじゃないですか」
「出来ていますよ」

 カーテンの向こう側からメリッサさんの声が聞える。

「え?」
「準備は出来ています。クロエさんが着る男性用の衣装ですよね? 問題ありません。今すぐにでも着ることは可能でございます」
「そ、そんな……」
「さ、クロエ、という訳だ。俺は少し時間がかかるみたいだからな。先に他の奴らに見せてきてくれ」

 なんとか回避することはできないのか。でも、ここで頷かないとフリッツさんは手を放してくれそうにないし……。あ、そうか、頷いて、着替えに行く途中で逃げればいいのか。そうか、そうに違いない。このメイド服のまま行くのは少しいや、かなり恥ずかしいけど、このままよりはきっとマシのはずだ。

 …………やっぱりリフちゃんはみたいな。男装くらいいいか。

「分かりました。着ます」

 色々考えた末に少し位ならいいかと思って頷く。

「メリッサさん。クロエを逃がさないでくれよ?」
「勿論です。うへへ」
「逃げませんよ」

 少しは考えたけど。
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