防御魔法しか使えない聖女はいらないと勇者パーティーを追放されました~そんな私は優しい人と出会って今は幸せです

土偶の友

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第3章 聖女は依頼をこなす

168話 キリルの野望

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 宿に帰り夕食を取る。

「ここのご飯も美味しいですね」

 私はビーフシチューの様な黒いスープをすくって口に入れる。少しの苦みと、奥深い味わいが絶妙にあっていて次を食べたくなる。

「こんな美味しいのは中々ない。いい宿を選べて良かった」

 フリッツさんもこの味が好きなのかお代わりを貰いに行っている。今日は歩き回ったし、結構遅い時間まで依頼をやっていたから疲れているのかもしれない。

「キリルさんも付き合って貰ってありがとうございました」

 彼はゆっくりとスプーンを動かし、咀嚼も何回もして食べている。そして、しっかりと飲み込んでから言葉を話す。

「気にすることはない。こちらの一般人とも普通に話すことが出来ていい収穫だ。あちらの者と大して差はないのだからな」
「あちら……」
「ああ、最大の問題は言葉かもしれん」
「言葉? 今私はキリルさんと普通に話せていると思うんですが」
「それは俺が勉強したからな。俺達の話す言葉とはまるで違うんだ」
「そうだったんですか」
「ああ、そこさえ乗り越えられれば、いがみ合わなくても済むと思うんだがな……」

 彼は人間と魔族が仲良くなれる未来を考えているんだろうか。確かに、そうなったらいいと思う。何十年かおきに勇者と魔王が殺し合い、時には軍を引き連れてお互いの領土を奪い合う。そんなことをしなくてもいいような時が来ればどれだけいいのだろうかと。

 キリルさんはそう言いつつも諦めの籠った目を向けてくる。

「そんなことが起こるとしても、今すぐには無理だろう。100年かそれとも1000年先か……少なくとも俺は生きてはいないだろう」
「キリルさん……」
「何の話だ?」

 フリッツさんが器に山盛りになったシチューと、もう片手には大きな大きなパンを2つ持っている。

「俺の野望の様なものだ」
「野望?」
「ああ、何時か全ての人が手を取り合えるといいなと言う話だ」
「なるほど」

 フリッツさんはそう言って手に持っているパンを咥える。一口で大きなパンを半分くらいまで食べていて、口いっぱいに詰め込まれていた。

 その姿を見て私は吹き出してしまう。

「ぷ」
「ふぉ?」
「いえ、すいません。ちょっと、口一杯に詰め込んでいたので」
「ふふ、そうだな。しんみりするような話だ。今は依頼の達成を喜ぼう」
「あ、すいません。そんなつもりじゃ」
「いや、いいんだ。さっきのもただの世間話。本気にしなくてもいい。さ、飯が冷める前に食べるぞ。フリッツは我慢出来ないみたいだからな」
「ふぁ? ふぁにふぁふぁ?」
「フリッツさんちゃんと食べてから話してください」

 口に物が詰まりすぎていて何を言っているか分からない。

 フリッツさんはしっかりと噛んで食べていたものを飲み込む。

「どうしたんだ?」
「いや、この飯が美味いなっていう話だ」

 キリルさんが強引にでも話を変える。

 私もそれに合わせた。

「そうですよ。この味ってどうやったら出せるんですかね? 私も作ってみたいです」
「おお、作れるなら作って欲しい。これだけ美味しいのを旅の途中で食べれるなんて最高だ」
「そうですねぇ。色々と試しながら作ってみるので、その時には感想をお願いしますね?」
「勿論だ。クロエが作る物なら何でも食べるぞ」
「ありがとうございます」

 そんな話を食べながらする。そして、この日は終わっていく。
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