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第2章 聖女は決別する

150話 私だって言ってやりたい

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 そうなのか、そうだ、そうに違いない。やっぱり勇者は勇者、人々の希望の星になるような存在なのだ。だから、私の思い過ごしで……。

「嘘だな」

 フリッツさんがバッサリと切り捨てる。

「え……」
「何を根拠にそんなことを言うんだ?」
「お前、さっき拾っただけの黒い石と言ったな? 俺は魔力片としか言っていない。それなのに、なぜ魔力片が黒い石だと知っているんだ」
「……それは別れ際に渡したのがそれだけだったからで」
「本当にそうか? そんなわざわざ拾うような石を、クロエが自分で買った鞄まで取り上げるようなお前達が、ただ綺麗で似合うと思ったから渡した。そんな言葉が信じられると思うか? 魔力片と分かっていて渡したんじゃないのか?」
「……」
「それに戦闘について行けないから追い出したといったが、クロエの事を思っていたならダラスでも出来たはずだろ? クロエの事を考えていたのにどうして危険な森で置き去りにする?」
「……」

 ランドは下を向いて黙ってしまう。そんな、やっぱり私のことを……。

 そう思っていると、彼は突然荷物を探し出した。

「ほ、ほら、クロエ、お前の持っていた鞄だ。思い入れがあるだろ? ちゃんと大事に使っていた。これでまた一緒に旅が出来るぞ?」

 ランドが出した鞄はボロボロの布切れの様になっていた。私が使っていた時は多少のほつれもないように大事に使っていたはずだ。それが今ではほつれだらけで、なぜか大きな穴まで開いている。何か溢したのか変色もしていて、どう見ても大事に使われているようには思えない。

 私は、カルラさんに貰った鞄を見る。魔法こそかかっていないけど、使い勝手も良くて、いつも使っている素晴らしい鞄だ。

 それを勇者に見せられて、私の揺れは大きくなる。どうせまた行っても適当に使い捨てにされるだけなんじゃないのか。ランドの持っている鞄の様にボロボロにされるだけなのでは……と。そこまでしなければならないのかと。

「……」
「クロエ、大人になれ、お前は聖女だろう? 世界を救う運命にある。世界がお前を待っているんだ」
「……」

 そうだ、私は私だけで決めては……。

 突如としてキリルさんがランドに向かって言う。

「戯言だ」
「なんだと?」
「今まで勇者が死んで、魔王が勝つことがあったということを知らないのか?」
「だから何だ」
「つまり、勇者が魔王を殺さなくても、世界は終わりを迎えることなんてない。そう言っている」
「!?」
「今まで確かに何度も勇者が魔王を殺すことはあっただろう。だが、そうしなければならない訳ではない。そうではないのか?」
「だが、魔王は倒すべきだと」
「その魔王が何をした。今まで何かしてきたのか?」
「奴らのせいでハブルールが死んだ!」
「え?」

 私を襲ってきた? あのハブルールが?

「クロエ、お前が居なくなってからすぐにだ。何者かに夜襲を受けて首を……一発だった。お前がいれば、お前さえいればハブルールが死ぬことはなかった!」
「そんな……」

 私が絶句していると、キリルさんは言ってくれる。

「それで、どうしてそのハブルールを殺したのが魔王だとわかる? 夜襲なら気付かれずにいたはずだろう? それとも、夜襲されることを分かっててわざと見殺しにしたのか?」
「そんな訳ないだろう! ハブルールとは親友だった!」
「なら何で1人で見張りをさせていたんだ」
「それは……ハブルールなら大丈夫だと思って……」
「貴様の怠慢のせいでそいつは死んだんだ。魔王のせいではない」
「……」

 ランドはそう言われて黙り込んだ。下を向き、何を考えているのか分からない。

 そう思ったら、いきなりこっちを向き直って、吠えた。

「うるさいうるさいうるさい! クロエ! お前がそもそも回復魔法を使えていればちゃんと仲間として扱っていたのに、何で使えない防御魔法しか覚えられないんだ! 回復魔法の使えない聖女なんていたことがないだろうが!」
「……」

 突如として向いた矛先に私が言い返せなくて黙ると、ランドは更に声を上げて言ってくる。

「お前のせいでハブルールは死んだんだ! お前が見張りをやっていれば、ハブルールは生きていた! お前が代わりに死ぬべきだったんだ!」
「やっぱり……そういう風に思っていたんですね」

 勇者は、私の事を大事に思っていなかった。興奮して、彼は思っていることを正直に話してくれた。そうなんだ。そうよね。やっぱり勇者だから聖女の事を思ってくれているなんて……違ったのね。

 私はランドを正面から見据える。もう、迷わない。こんな人たちと一緒にいることなんてしない。

「あ……いや、そうじゃ無くて……」
「じゃあどういうことだったの? 今言ったのは私が死ぬべきだった。そう言ってるじゃない」
「いや、お前がいれば……」

 そう言って何もランドは言えなくなってしまう。

 その様子を見て、私は覚悟を決める。こんな奴に、私は負けないと。

「ランド、代われ」
「ルーカス……」

 ルーカスがランドの代わりに前に出てくる。

「クロエ、俺はお前の実力を買っている。確かに戦闘はからっきしかもしれないが、料理も出来る。荷物も持てる。夜の見張りや何でもお前に任せておけば大丈夫。そんなお前が俺達に必要なんだ」
「私はただの家政婦か何かですか?」
「そんなことはない。お前だけにしか出来ないことだ」
「そう言っていながら、全部私に押し付ける気ですよね? 今までだってそうでしたもんね? 私が夜のほとんどの時間見張りをして、料理も洗い物もテントの準備も荷物持ちも……」

 自分で昔の事を思い出してどうかしていたんじゃないのかと思う。今は皆で均等に別れて見張りをしている。料理は私がするけど、それは私もやっていて楽しいし、フリッツさんに言われてもっと料理をやってみたいと思っているから。洗い物はキリルさんが魔法で綺麗にしてくれるし、テントの準備はほとんどやらないが、焚火とか、旅の準備とかはフリッツさんがやってくれる。

 勇者パーティーとして行かなくていいのなら、私はフリッツさんとキリルさんと一緒に旅をしたい。

「それは……」
「やっぱりそうじゃないですか。家政婦でもシェフでも何でも雇ったらいかがですか?」
「……」

 ルーカスは言い返せないのか黙って下がる。

「次は私ね」

 そう言って出てきたのはディーナだった。正直いい思い出はほとんどない。ランドに少し話しかけようとすると、物凄く不機嫌な顔になって威嚇してくるのだ。それに今まで同じパーティーにいたけど、2人きりで話した事は1度か2度くらいしかなかったはずだ。

「何ですか」
「あなた、私たちが一緒にいてあげるってい言ってるのよ? もうちょっと謙虚な姿勢で受け入れるべきじゃないの?」
「何で上から何ですか? 仲間に対する言葉使いでは無いですよね?」
「貴方にはこれで十分なのよ」
「そんな事を話してくる相手に説得されると思います? スタイルに気を取られて頭足りていないんじゃないですか?」
「な!」

 そういってディーナが固まる。そこに、今度はサラが出てきた。

「下がりなさいディーナ。あなたでは出来ないわ」
「うるさいデブ」
「な!」

 サラはそう言って足を止めて動かなくなった。

「くくく、クロエ、それくらいにしてやれ」

 フリッツさんが言ってくるので振り向くとその顔は笑っている。

 でも、私だって色々言いたいことがあった。というか、好き勝手に言われて、私だって思ってることがあるんだって言ってやりたい!

「これでも言葉を選んでるんですよ? 私だってもっと……」
「お前ら、いい加減にしろよ」
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