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第2章 聖女は決別する
148話 一方勇者はその頃⑫
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領主の館から逃げるように宿へ帰ってきた勇者パーティー。彼らの空気は当然のように重い。
「…………」
誰も口を開かずただただ沈黙する。
しかし、そんな沈黙も長くは続かない。
「き……に……く……ぞ」
「?」
ランドが何かを言ったが、小声過ぎて誰も聞き取ることはできなかった。しかし、ここでまた重い沈黙になりたくない。初めて勇者パーティーの気持ちが一つになったのかもしれない。
「どうしたの?」
「何かある?」
「何かあるのか?」
全員がランドの方を向き、そう聞く。
「北に行くぞ」
「北に?」
「ああ」
「なぜ北に行くんだ?」
「クロエを連れ戻す」
ランドは言って顔を上げる。その目は血走っていて、どこかを凝視しているようだった。
「クロエを?」
「もう追放したのに?」
「いけるのか?」
サラとディーナは否定的だが、ルーカスはこの勇者パーティーにクロエが必要だと考えていた。だから、帰ってこれるかと聞く。
「いけるさ。アイツは俺達が追い出す時も声をかけて欲しそうに何度もチラチラと見てきてた。優しく声をかけてやればすぐにコロリと来るだろうさ」
「でも、他の冒険者と一緒にいるって」
「そんな奴よりも勇者パーティーにいる方がいいに決まってるだろう? すぐに分かる」
「そう……かもしれないわね」
「そうさ、それに、いたらいた時には夜の見張りとか料理とか便利だった事はあるだろうが、荷物持ちとかな」
「ああ、アイツの飯の方が美味かった」
そういうルーカスをじっと見るのはサラとディーナだったが、彼はそれに気付いた様子はなかった。
「それで、どうして北に行くのよ」
「あの子はここにいるんじゃないの?」
「商会にいたやつが言うには今は北の護衛依頼に行っているらしい」
「それに追いつこうって訳か」
「ああ、俺達がわざわざ迎えに行ってやるんだ。泣いて喜ぶぞ」
「そうね」
「ええ。ランドの言うことなら間違いないわ」
「ならやることは一つだな」
こうして勇者パーティーは行動を開始する。目的はクロエを連れ戻す。そして、以前の奴隷のように使ってやろうと画策する。それが無駄なことだとも知らずに。
彼らはすぐに旅立ち、北に向かう。
「勇者様達は北に向かってくださるのですか?」
「ん? 北だと何かあるのか?」
ランドは言ってきた門番に聞き返す。彼としてはクロエを連れ返る以上に意味はなく、その為情報も何も集めていない。
「北にはかなりの魔物の群れが出ていると聞きます。そのせいで北の街とも連絡が取れないほどだと」
「なんだそんなことか。俺達を誰だと思ってるんだ? 勇者パーティーだぞ? 多少の魔物の群れなんざ消し飛ばしてやるよ」
「ええ」
「勿論よ」
「ああ」
ランドは自信満々にいうが、それに答える後ろの者達の表情は暗い。先ほどマスティアに向けられた恐怖が残っていたためだ。ランドは驚異的な心の強さから克服していた。
幸いなことに門番はランドしか視界に入っておらず、ランドの自信ありげな態度を見て必ず勝てると確信していた。
「頑張ってください! 応援してます!」
勇者パーティーは北の街を目指して道を行くが、その途中に多くの魔物との戦闘を余儀なくされた。
「糞! どんだけいるんだ!」
ランドは切り捨てたゴブリンの死骸を蹴りつけながら悪態をつく。そして、周囲に敵がいない事を確認してから剣を振って血を振り払う。
「雑魚が、たく。糞うぜえ」
「これは異常な量だぞ。一度帰った方が……」
「てめえは腰抜けかよ! 何度撤退を繰り返すんだ。ビビってんなら一生街にでも籠ってろ!」
「……」
「サッサと進むぞ。クロエに首輪をつけてでも連れて帰る。それであのババアや他の奴も文句は言わねえだろ」
ランドはクロエを仲間にすることで、彼女が作った人脈をさも自分が使えるかのように話す。彼女のものはまるで自分のものとでもいうかのように。
彼らが先に進むと戦闘音が聞える。それも大規模の戦闘のようだ。
何が起きているのか確認のために行くと、冒険者の軍がゴブリンの軍と戦っていた。冒険者達はかなり疲労しているのか、ゴブリンの数が多すぎるのか、押され気味だった。
「どうする?」
「ここは協力する」
「分かった」
「流石ランドね」
「でもクロエはいいの?」
「ああ、この感じならきっと先には進めてねえ。護衛をしながら、あんなゴブリンの軍が出来てる道を通る訳がねえだろ。ならどうするか。奴らに合流してまずはゴブリン共を駆逐する」
「なるほど」
「それに、俺達が奴らを助けりゃカス共でも俺達の言うことを聞くかもしれねえ。クロエが奴らを使ってやるなら俺達もやらねえとなぁ」
「さっすがランド! 頭いいわ!」
「はっ! いいから行くぞ」
ランドの顔は満更でもなさそうだった。
「よし! 行くぞてめえら!」
「ええ!」
「分かったわ!」
「おう!」
勇者パーティーはマスティアに勝てないとはいえ、戦力としては十分以上の力を持っている。その為、彼らが参戦したお陰で冒険者達は勝利することが出来た。
こうして勇者パーティーの協力によって砦の者達は勇者パーティーを讃え、一度砦まで戻ることになった。
「…………」
誰も口を開かずただただ沈黙する。
しかし、そんな沈黙も長くは続かない。
「き……に……く……ぞ」
「?」
ランドが何かを言ったが、小声過ぎて誰も聞き取ることはできなかった。しかし、ここでまた重い沈黙になりたくない。初めて勇者パーティーの気持ちが一つになったのかもしれない。
「どうしたの?」
「何かある?」
「何かあるのか?」
全員がランドの方を向き、そう聞く。
「北に行くぞ」
「北に?」
「ああ」
「なぜ北に行くんだ?」
「クロエを連れ戻す」
ランドは言って顔を上げる。その目は血走っていて、どこかを凝視しているようだった。
「クロエを?」
「もう追放したのに?」
「いけるのか?」
サラとディーナは否定的だが、ルーカスはこの勇者パーティーにクロエが必要だと考えていた。だから、帰ってこれるかと聞く。
「いけるさ。アイツは俺達が追い出す時も声をかけて欲しそうに何度もチラチラと見てきてた。優しく声をかけてやればすぐにコロリと来るだろうさ」
「でも、他の冒険者と一緒にいるって」
「そんな奴よりも勇者パーティーにいる方がいいに決まってるだろう? すぐに分かる」
「そう……かもしれないわね」
「そうさ、それに、いたらいた時には夜の見張りとか料理とか便利だった事はあるだろうが、荷物持ちとかな」
「ああ、アイツの飯の方が美味かった」
そういうルーカスをじっと見るのはサラとディーナだったが、彼はそれに気付いた様子はなかった。
「それで、どうして北に行くのよ」
「あの子はここにいるんじゃないの?」
「商会にいたやつが言うには今は北の護衛依頼に行っているらしい」
「それに追いつこうって訳か」
「ああ、俺達がわざわざ迎えに行ってやるんだ。泣いて喜ぶぞ」
「そうね」
「ええ。ランドの言うことなら間違いないわ」
「ならやることは一つだな」
こうして勇者パーティーは行動を開始する。目的はクロエを連れ戻す。そして、以前の奴隷のように使ってやろうと画策する。それが無駄なことだとも知らずに。
彼らはすぐに旅立ち、北に向かう。
「勇者様達は北に向かってくださるのですか?」
「ん? 北だと何かあるのか?」
ランドは言ってきた門番に聞き返す。彼としてはクロエを連れ返る以上に意味はなく、その為情報も何も集めていない。
「北にはかなりの魔物の群れが出ていると聞きます。そのせいで北の街とも連絡が取れないほどだと」
「なんだそんなことか。俺達を誰だと思ってるんだ? 勇者パーティーだぞ? 多少の魔物の群れなんざ消し飛ばしてやるよ」
「ええ」
「勿論よ」
「ああ」
ランドは自信満々にいうが、それに答える後ろの者達の表情は暗い。先ほどマスティアに向けられた恐怖が残っていたためだ。ランドは驚異的な心の強さから克服していた。
幸いなことに門番はランドしか視界に入っておらず、ランドの自信ありげな態度を見て必ず勝てると確信していた。
「頑張ってください! 応援してます!」
勇者パーティーは北の街を目指して道を行くが、その途中に多くの魔物との戦闘を余儀なくされた。
「糞! どんだけいるんだ!」
ランドは切り捨てたゴブリンの死骸を蹴りつけながら悪態をつく。そして、周囲に敵がいない事を確認してから剣を振って血を振り払う。
「雑魚が、たく。糞うぜえ」
「これは異常な量だぞ。一度帰った方が……」
「てめえは腰抜けかよ! 何度撤退を繰り返すんだ。ビビってんなら一生街にでも籠ってろ!」
「……」
「サッサと進むぞ。クロエに首輪をつけてでも連れて帰る。それであのババアや他の奴も文句は言わねえだろ」
ランドはクロエを仲間にすることで、彼女が作った人脈をさも自分が使えるかのように話す。彼女のものはまるで自分のものとでもいうかのように。
彼らが先に進むと戦闘音が聞える。それも大規模の戦闘のようだ。
何が起きているのか確認のために行くと、冒険者の軍がゴブリンの軍と戦っていた。冒険者達はかなり疲労しているのか、ゴブリンの数が多すぎるのか、押され気味だった。
「どうする?」
「ここは協力する」
「分かった」
「流石ランドね」
「でもクロエはいいの?」
「ああ、この感じならきっと先には進めてねえ。護衛をしながら、あんなゴブリンの軍が出来てる道を通る訳がねえだろ。ならどうするか。奴らに合流してまずはゴブリン共を駆逐する」
「なるほど」
「それに、俺達が奴らを助けりゃカス共でも俺達の言うことを聞くかもしれねえ。クロエが奴らを使ってやるなら俺達もやらねえとなぁ」
「さっすがランド! 頭いいわ!」
「はっ! いいから行くぞ」
ランドの顔は満更でもなさそうだった。
「よし! 行くぞてめえら!」
「ええ!」
「分かったわ!」
「おう!」
勇者パーティーはマスティアに勝てないとはいえ、戦力としては十分以上の力を持っている。その為、彼らが参戦したお陰で冒険者達は勝利することが出来た。
こうして勇者パーティーの協力によって砦の者達は勇者パーティーを讃え、一度砦まで戻ることになった。
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