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第2章 聖女は決別する

147話 一方勇者はその頃⑪

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「うお!?」
「なになになになに!?」
「やだやだやだやだ!!」
「これは……!?」

 勇者パーティーは突如巻き起こった魔力の嵐に驚きを隠せない。そして、何が起きるのかと武器に手をかける者までいた。

 領主とその後ろにいる騎士は頭を抱えている。もう知らないと些事を投げたようだった。

 老婆はスッとソファから立ち上がり真っすぐランド達を見つめていた。

「どうしたんだい? この程度は挨拶みたいなものだろう? 勇者パーティーはSランク判定されるからねぇ。お前達も相応しい実力を備えているんだろう? 見せてごらんよ。こんなおいぼれでも多少は戦えるからね。ほら。そんなへっぴり腰をしていないでかかってきな」
「お前は……何者だ」
「何者? ただのババアさ。勇者パーティーなんだろう? かかっておいでよ。まさか、ただのババアに怖気づいた訳じゃあるまい?」
「そんな魔力を出せる人がただの人な訳ないじゃない!」

 サラが顔を真っ青にしながら叫ぶ。

「何を言う。そこの勇者が自ら言っていたじゃないか。勇者は間違えることがないと。ほれかかってきてもいいよ? それとも、こちらから行こうかね?」

「!?」

 その時、勇者パーティーは各々が殺される姿を幻視をした。

なぜその様になったのかは分からない。しかし、勝てない。彼らは皆一様に本能が白旗を上げていた。

「やめてやめてやめてやめてやめて」

 特に魔法使いで魔力の扱いには敏感であるサラは床を黄色く濡らしながら蹲っている。そしてただ命乞いを懇願することしかできない。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 ディーナも付与術師として魔力をそれなりに上手く扱うので、サラほどではないが関わりたくないと言うことしかできない。当然足は言うことを聞かず、座り込むだけだ。

「この緊張感……化け物……」

 ルーカスが一番マシだったのかもしれない。彼は傭兵として長年戦場で戦ってきた。老婆ほどの圧力は感じたことがなかったが、近い圧力は感じたことがあった。それによってサラやディーナほど無様な姿を晒さずにすんだのだ。

「な、なんだてめえは! やんのか! やってやんよおらあ!」

 吠えるランドの足は小鹿の様に震えている。彼はそうやって吠えることでしか自身を保つことが出来ず、自身が震えていることにも気付けていない。

「ほう、多少の口は利けるようだね? さぁ、実力の差って奴を教えてやろうじゃないか」

 老婆がそう言った瞬間彼女の魔力が形を為して勇者パーティーを襲う。

「お待ちください!」
「何だい。いい所だったのに」

 領主が間一髪、そう言葉を発さなければどうなっていたのか。それは老婆以外には分からなかった。

 ただ、勇者パーティーの誰もが動くことが出来ない。老婆から放たれ、形を作った魔力は土の槍へと変じ、勇者パーティーを絶対に逃がさないと囲んでいる。もし少しでも動くようなら深い傷を残すほどの物だった。

「そんなことを言って、少しは教え込もうとしていたのでは?」
「……そんなことはないさね」

 老婆がふん。と鼻を鳴らすと、勇者パーティーを囲んでいた土の槍は一瞬にして消え去る。

「お前……、いや、貴方は何者だ」

 いち早く我に返ったルーカスはそう問いただす。これだけのことが出来る者など人間ではほとんどいないだろう。それほどに圧倒的な実力を誇っていた。

「まだ分からんとはね……」

 老婆は頭が痛いとばかりにソファに座り込みため息をつく。

 その様子を見ていた領主が代わりに引き継いだ。

「この方は、先代の勇者パーティーの魔法使いマスティア様だ。そんなことも知らずにいるとは。本当に勇者パーティーなのか?」
「マス……ティア……?」
「マスティア様!?」

 勇者パーティーの中で唯一その名前を知っていたのはサラだった。狂ったように泣き続けていた彼女だが、その名前を聞いて何か思い当たる節があったらしい。

「知っているのか?」
「マスティア様は私が卒業した学院で過去最高の成績で卒業した最も名高い人よ……」
「また懐かしい事を出してくるね。学院か、あんな小さな箱庭トップで卒業したことなんて大して価値はないよ。それよりも私にとって最も価値のあることは勇者パーティーとして共に魔王を討ったこと。その方が学院を100回卒業するよりも価値のある事さね」

 老婆はそう言って黙る。

「あの、私たちはどうしたら……」
「自分で考えな。誰が必要で誰が必要じゃないのか。多少の頭は良いいんだろ?」
「はい……」
「そ、そんな奴が何でこんなところに……」

 ランドはそれでも敵対する気持ちを変えることはできない。それが、彼にとっての正しさだったから。

「アンタには関係無いよ。それよりも話の邪魔だ。サッサと失せな」
「くっ!」
「ひぃ!」
「いやぁ!」
「逃げた訳じゃねえからな!」

 老婆からまたしても魔力が溢れる気配を見せると、勇者パーティーの誰もが脱兎のごとく走り出した。勝てないなら逃げる。

 もう一度あのようなことをされては堪らない。もうあんな気持ちを味わいたくない。そんな気持ちで一杯だった。

 だらしない勇者パーティーの背中を見て、老婆は嘆息する。

「はぁ、今回は本当にダメだろうねぇ」
「やはりですか」
「ああ、聖女が、クロエがギリギリ持たせていたんだろうが……あの様子じゃ時期に終わるね」
「だからですか」
「どうかしたのかい?」
「ええ、いえ、はい。あそこが対処に動いているそうですよ」
「あそこ? あーあそこか。なるほどね。それならもしかしたら可能性は出てくるか」
「ええ、生きて帰ってくるかは分かりませんが」
「どうなるだろうね」

 そうしてその場に沈黙が訪れる。

 そして、領主は1つ気になっていた事を聞く。

「それで、クロエという少女は大丈夫なのですか?」
「アンタまで何を心配しているんだい」
「いえ、マスティア様の言うことなら大丈夫だとは思うのですが、それでも何をやっているのかと思いまして……」
「ただ勇者像を掃除してもらっただけだよ。それと、ケルベロスを狩りにも行ってくれたね」
「あの……。では素晴らしい者ではありませんか」
「そうだよ。聖女は代々自分を殺し過ぎるきらいがあるからね……あの子はちゃんと自分を出せてるといいんだが……」

 マスティアはそう言って窓から空を眺める。

「クロエさんは大丈夫ですよ。とてもいい相方がいましたから」

 今度は唐突に領主の後ろに控えていた隊長が話す。

 それを聞いたマスティアも軽く笑う。

「ふふ、そうかもしれないね。あの子なら。きっと大丈夫さ」
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